「デジタル人民元」策動の狙い

 現在、中国はデジタル人民元発行を強力に推し進めている。これは国際決済手段として人民元を浸透させたいということにある。

 中国はアフリカ諸国や一帯一路参加国においては、デジタル人民元の流通は比較的容易だと考えていると思われる。アリババやテンセントといった中国のeコマースをこうした国々に普及させ、ここでの決済がデジタル人民元だとすれば、その普及に拍車がかかることになる。
 人民元が、「資本取引の自由化がなされていない」という重大な欠陥が足を引っ張るという見方も有力だが、そもそも世界の大半の国では、中国との輸出入が最も大きなシェアを握っていることを過小評価すべきではないだろう。
 それらの国々では決済通貨をドル一辺倒にしておく必要はないのだ。

 世界には近くに金融機関がないようなところはたくさんあり、金融機関を介せずに資金のやり取りを求めるニーズは潜在的に高い。こういうところでは価値の安定したデジタル通貨のニーズがもともと高いので、デジタル人民元の登場が歓迎される可能性も大きい。

 ただ中国は、日本・韓国を含む東アジア諸国においては人民元単独で攻めてもなかなか難しいと考えているからか、今年の全国政治協商会議において、人民元、日本円、韓国ウォン、香港ドルの4通貨をバスケットにした広域デジタル通貨計画も提起してきた。
 これは一応「民間主導」という建前にはなっているが、中国人民銀行の主導・監督が前提とされており、中国政府が実質的には支配的な立場に立つことには変わりはない。

 中国がデジタル人民元の普及を急いでいるのは、アメリカが中国を国際的な経済から切り離そうとしていることが大きい。中国はこのアメリカの戦略に対抗するための独自の経済圏をつくり上げようとしているわけだ。広域デジタル通貨の場合には通貨バスケット(※)なので、為替変動リスクが小さくなるというメリットを打ち出し、日中韓FTA交渉を前進させるのにも役立てたい意向のようだ。

※通貨バスケット制:、為替レートを複数の外貨と連動させる制度。複数の通貨で構成されているため、特定の通貨が急激に変動しても影響が緩和され、為替相場が安定しやすいという特徴がある。

 現在国際決済は国際銀行間通信協会(SWIFT)のネットワークを通じて行われているが、ここを経由する米ドルの情報を、アメリカ政府は積極的に活用している。例えば、北朝鮮がどの国からどのような取引で米ドルを手に入れているかを探ることができ、違法な取引を見つけたら、これに制裁を科すことができる。取引に関わっていた金融機関も制裁できることから、極めて強力だ。中国がこの米ドルのくびきから逃れたいというのは、ある意味当然だろう。

日本はこう対抗せよ!

 さて、この状況で日本はどう対応すべきか。

 経団連などは中国政府の意向を汲んで、こうした流れに乗るように日本政府に働きかけを行っていくだろうが、アメリカが国際経済から中国の切り離しを進めている以上、西側陣営としてこの中国の構想に乗るわけには当然いかないはずだ。デジタル人民元にせよ、4通貨バスケットの広域デジタル通貨にせよ、中国がその情報を掴み、自らの覇権のために極めて恣意的な運用を行うことは避けられないからだ。

 中国はSWIFTに代わるCIPSと呼ばれる人民元の国際銀行間決済システムを稼働させており、ブロックチェーン技術にインテリジェンス(諜報)機能まで組み込んだ技術まで開発していると言われている。アメリカとは脅威のレベルが違う。

 デジタル通貨への流れは不可避である以上、デジタル円についても早急に取り組むべきだ。
 あらゆる支払いがスマホとマイナンバーカードがあれば全て済むとしたら、非常に便利だ。コロナの定額給付金についても、デジタル円が実現していれば、瞬時に全て解決していた話でもある。

 その際に考えたいポイントが2つある。

 1つは、主流の考えに反して、日銀がデジタル通貨を発行するのではなく、政府がデジタル通貨を発行することを考えるべきではないかということである。
 日銀に取引データが集まり、そのデータ管理を日銀が行うとしても、日銀にはそもそもメリットがないだろう。データ管理は政府が行ったほうが自然だ。デジタル取引が当然だということになると、確定申告のために毎年膨大な労力をかける必要もなくなる。蓄積されたデータで自動的に作成されるようになることも可能だ。源泉徴収されて支払われているはずの社会保険料が実際には納付されておらず、年金を受け取る段階でトラブルが生じるといった事態も防ぐことができる。

 さらに、政府通貨としてデジタル円を発行するなら、返済を求められる負債扱いにはならず、「財政規律」とやらを気にする必要も薄れる。インフレ目標の設定によって発行額の上限を事前に毎年度定める仕組みを作れば、悪性インフレになるような過剰発行は防ぐことができるはずだ。

 もう1つは、アメリカの米ドル覇権に対する配慮だ。アメリカは表面的にはデジタル米ドルに対して冷めた姿勢を示しているが、「ドルが世界の基軸通貨としての地位を失った場合の影響の評価」を研究する研究員を募集するなど、デジタル通貨社会の到来で米ドル覇権が揺らぐことを本音では恐れていると言えるだろう。

 日本がデジタル通貨を発行するのは、あくまでも国内の利便性の向上やデジタル人民元への対抗処置という意味付けで考えるべきで、アメリカの特権を横から掠め取るような位置づけはしていない姿勢を見せたほうがいいと思う。

 デジタル円とデジタル米ドルの自由交換を求めるのは、確かにデジタル円の利便性向上には大きな役割を果たすが、それでは円が米ドルと変わらない位置を占めることになり、米ドルの覇権的な地位を脅かすことになる。対中的な戦略が最優先される中では、こうした戦略は敢えて採用しないほうがいいのではないかと私は思う。
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朝香 豊(アサカ ユタカ)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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