『女帝 小池百合子』と迫る都知事選

 これで再選は確実だろうと思った。6月18日告示7月5日投開票の東京都知事選を前に、いま話題の『女帝 小池百合子』(石井妙子著/文藝春秋)を読んだ感想だ。

 小池百合子という人は、常に表舞台で脚光を浴びたい人だ。理由は、単に目立ちたいからではない。そうでなければ存在自体が打ちはててしまうからだ。
 たとえば2009年の衆議院選で民主党(当時)の江端貴子に東京10区で負けた時、小池は「次に勝つまで髪の毛を切らない」と宣言した。自ら「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)ヘアー」と名付けたものの、伸びた前髪をカチューシャで止め、おでこを出した小池百合子はまったく冴えなかった。「政界渡り鳥」と揶揄(やゆ)されるほどその美貌と女性であることを武器として有力者を渡り歩いてきた人が、ただの「年齢相応のオバサン」に見えたのだ。

 しかし、小池は2012年の衆議院選で江端の復活当選を許さないほど圧勝し、晴れ晴れと“断髪式”を敢行した。三原じゅん子参議院議員らが次々と鋏を入れた後、スタイリッシュなショートカットに髪を仕上げて、“小池百合子”を再生させたのは地元の美容師ではなく、キャスター時代から行きつけの銀座の美容院の経営者。小池のこだわりを垣間見ることができた。
 だが、小池の期待とは裏腹に、第2次安倍政権では不遇をかこつことになる。

 安倍晋三首相は高市早苗を政調会長、野田聖子を総務会長に抜擢(ばってき)し、稲田朋美と森まさこを初入閣させた。2014年の内閣改造では、小渕優子、松島みどり、有村治子、山谷えり子を登用している。それ以降も、上川陽子を法務大臣、丸川珠代を環境大臣、島尻安尹子を沖北対策等担当大臣に任命。しかし小池にお声がかかることはなかったのだ。
 そんな小池にとって2016年の都知事選出馬は、政治生命をかけた大勝負だったに違いない。しかも、こうしたイチかバチかの勝負には、小池は滅法強いのだ。

 たとえば、2005年の郵政民営化選挙では、「刺客第1号」として兵庫6区から東京10区に移っている。この時の小池は表向きは「小泉改革を助けるため」と自ら刺客を買って出たことになっていたが、実は地元の選挙が危なかったという事情がある。すでに宝塚市内の事務所は秘書もいない状態で、新聞の購読すら止められていたのだ。
 このまま兵庫6区で戦っても苦戦は必至。ならば新しい選挙区に移った方がましと考えたのだろう。「刺客」なら選挙費用は党本部が負担してくれるという算段もあったに違いない。そして小池は見事に当選する。

 では都知事としての2期目はどうか。まず1期目で成し遂げたものはほとんどない。豊洲移転問題はいたずらに混乱させただけで、目玉公約としたラッシュ緩和も実現されていない。そんな時に沸き起こったのがコロナ禍だ。

「ロックダウン」「トリアージ」など横文字を得意げに使うところは昭和臭が鼻につくが、露出の機会が増えた小池はまさに水を得た魚で、「都知事選を前にコロナ禍太りした」と揶揄されるほどだった。
 実際に小池を脅かすような候補は不在で、小池支持に反対している自民党東京都連も独自候補を立てられない様子だ。

 そしてこのたびの“暴露本”の発売だが、小池の学歴詐称疑惑は以前からもちあがっていたもので、カイロ大学が小池の在籍を明確に否定しない限り、法的な責任を問われることはないだろう。そもそも新間正次の「明治大学中退」や古賀潤一郎の「ペッパーダイン大学卒業」が虚偽である証明は容易だが、アラブ社会はそうはいかない。そうしたアラブ社会の特異性が自分を救うということを、誰よりも理解し、利用しているのが小池だろう。すなわち本が話題になればなるほど、小池の知名度が上がり再選される可能性が高まるということだ。

 そういう意味で小池百合子は誰もがおののく「怪物」ではない。むしろ、正体をつかまえようとしてもするりと抜けてつかみどころのない「妖怪」といえるのではないか。(敬称略)
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安積 明子(あづみ あきこ):ジャーナリスト
兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。
1994年、国会議員政策担当秘書資格試験合格。参議院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動を開始。夕刊フジ、Yahoo!ニュースなど多くの媒体で精力的に記事を執筆している。

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