安倍政権の迷走が続いている。コロナによって安倍晋三首相が〝当事者能力〟をまるで失っているかのようなのだ。4月16日、首相はコロナ対策として、国民1人あたり10万円の現金を一律給付するため令和2年度補正予算案を組み替える方向で検討するよう麻生太郎財務相に指示した。世論を見極めた公明党の山口那津男代表が官邸を訪れ、一律10万円給付を決断するよう求めてから、たった1日しか経っていない。

「2人はあらかじめ示し合わせていたのではないか」

 政治部記者からそんな声さえ上がった突然の変更劇だった。官邸詰め記者によれば、

「4月7日に公表された政府の緊急経済対策があまりに評判が悪かったのです。国民の願いは消費減税と現金給付。昨年10月に8%から10%に消費税が上がって一気に景気は冷え込みました。GDPの年率換算が10月~12月期で前年比マイナス7.1%に落ち込んでしまったんですからね。そこへコロナ。人の動きが規制され、経済活動も止まって、もはや誰の目にもリーマンショックどころではないことがわかっているのに108兆円の史上最大の経済対策と謳いながら、実際の〝真水〟部分はたった16兆円。消費減税もなければ、現金給付30万円も住民税非課税世帯という全体の4分の1にしか渡らないお粗末なものだとわかってきた。国民の怒りを読んだ山口代表が突然首相のアポをとってやってきてパフォーマンスをおこなったわけです」

 後述するように安倍首相は1月からコロナ対策に失敗し、当事者能力を失っている。昨年5月に首相は「リーマンショック級が来なければ消費税を上げる」と言明している。それ以上のショックが来た以上は消費税を2年の時限立法で5%に戻すか、全品軽減税率を適用させるかに国民の期待は集まっていた。だが、

「財務省の強硬な反対でそれも叶わず、ならば〝それ以外〟で史上最大の経済対策を打つ、と麻生大臣と財務官僚に〝抵抗〟したわけです。しかし、それも中身は真水16兆円というショボいもので、国民の評判は最悪。支持率も落ちて首相には憤懣が溜まっていたわけです」(同)

 山口氏と事前に打ち合わせをしていたか否かは別にして、国民一人10万円給付に首相は「傾いていた」のである。しかし、最高権力者でありながら、なぜここまで首相は財務省に頭が上がらないのか。

「別に財務官僚だけじゃありませんよ。総理はもう霞が関官僚の言いなりです」

 そう明かすのは、自民党のさる中堅議員である。

 「菅原一秀さんや河井克行・案里夫妻の問題など、〝菅案件〟のスキャンダルが連続して、総理と菅官房長官との間に大きな溝ができてしまった。そのため総理は第一次安倍政権の秘書官時代から仕える今井尚哉・現補佐官、北村滋・現国家安全保障局長など、官僚の側近にしか耳を貸さない。彼らの話ばかり聞いているから国民の声などまるで反映されません。結果的に官僚の掌で踊るだけになってしまっているわけです」

 1月24日から自民党本部最大の901号室では、コロナの対策会議が断続的に開かれ、衆参の議員たちが延々議論を闘わせた。そして今回の緊急経済対策でも、消費減税と一律現金給付を求めて激論が交わされた。しかし、これら激しい突き上げは、官邸への提言にほとんど生かされることはなかったのである。そもそもコロナ対策は最初から失敗している、と同議員は続ける。

 「経済対策は財務省が主役ですが、最初から厚労省が大失敗していますからね。武漢という1,000万都市がロックアウトされる事態に、現地からは生々しい映像を含め、市民の命がけの情報がSNSで多数発信されていました。これは大変だ、と誰もが考えるのに、厚労省は人から人への感染はまだ確認されていません、過剰に心配する必要はありません、と言い続けた。武漢封鎖3日後の1月26日にも厚労省はホームページで〝心配は必要なし、手洗いとうがいを〟と国民に広報したんです。私たちから見たら〝啞然〟ですよ。早く中国全土からの入国を禁止せよ、という党の大半を占めた意見を厚労省と安倍総理は無視したんです。結局、1月に中国から史上最多の92万人の訪日客が押し掛け、日本では無症状感染者が蔓延してしまった。官僚の言いなりだったからです。われわれ党の人間の〝現場の声〟になぜ耳を傾けてくれないのか、理解できません」

 後手、後手にまわる対策。史上最長の政権が陥った〝官僚病〟に、日本が沈没しかかっている。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第十九回山本七平賞を受賞。最新刊は、『新聞という病』(産経セレクト)。

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