致命傷か、挽回のチャンスか

 久しぶりの文春砲に、永田町は激震した。緊急事態宣言で全国が自粛を強いられている最中に、黒川弘務東京高検検事長が記者たちと2度も「賭け麻雀」に興じていたと報じたのだ。筆者がこれを聞いた時、これは安倍政権にとって致命傷になるに違いないと思った。
 2月8日に定年を迎えるはずだった黒川氏は、1月31日の閣議決定で任期を半年延長された。前例のない措置に野党は「政治介入だ」と強く批判し、有力検察OBも「黒川氏は辞職すべき」との声明を出した。

 実際に安倍内閣は芳しいとはいえない。NHKが5月15日から17日にかけて行った世論調査によると、内閣支持率は前月比マイナス2ポイントの37%で、不支持率は前月比プラス7ポイントの45%。主な理由は新型コロナウイルス感染症だろう。
 感染拡大について「不安がある」との回答は、84%にものぼっている。検察官の定年延長を可能とする検察庁法改正についても、「賛成」が17%に対して「反対」は62%を占めた。さらに渦中にいた黒川氏が賭け麻雀していたとなると、世論はいっそう安倍政権に厳しくなるはずだ。

 しかし、よくよく考えると、これは安倍政権にとって挽回のチャンスかもしれないと思った。
 黒川氏が辞職した上でなんらかの政治的責任を果たせば、それ以上批判することは不可能だ。これらを掲載号発売日(5月21日)の前日までにやってしまえば、文春砲のインパクトも弱めることができる。実際には黒川氏の辞意が伝わったのは掲載号の早刷りが出た20日の夜で、翌21日夕方には森まさこ法務大臣が官邸に赴いて黒川氏の辞意と訓告処分にしたことを報告した。

 週刊文春は5月17日と18日に黒川氏に直接取材をかけており、法務省にも報告が入っていたはず。だが検察ナンバーツーが賭け麻雀をしていた事実について、法務省が下した「訓告」は「懲罰」に入らないものだった。人事院事務総長発の「懲戒処分の指針」によれば、公務員が「賭博」を行った場合は「減給」または「戒告」とし、「常習賭博」なら「停職」になる。
 しかも同指針によれば、具体的な処分量定の決定にあたり「非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき」や「非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき」には、「標準例に揚げる処分の種類より重いものとすることが考えられる」としているため、「戒告」より軽くなることはあり得ない。

 検察ナンバーツーの地位にあった黒川氏は、「免職」も十分にあり得るのだ。しかも「訓告」の報告とともに森大臣は安倍首相に「進退伺」を出して強く遺留されたというが、森大臣にははじめから辞める気がなかったのではないか。というのも、安倍首相が森大臣を罷免すれば、自らの責任を森大臣に押し付けたことになるからだ。むしろ森大臣が一身で責任を負う覚悟をもって辞表を官邸に置いてくれば、内閣として政治的責任を果たしたことになったはずだ。

 これについては「閣僚辞任は政権への影響が大きい」とする意見もあるが、黒川氏の人事について森大臣は国会できちんと説明しきれなかったという責任がある。さらにいえば、この件で自ら引責辞任することは、森大臣の経歴の傷にはらない。誰も責任を取らない方が、政権にとってまずくなる。
 コロナ禍という非常時と野党の低支持率によって安倍政権は支えられているが、自民党内部からこの機に乗じようとする勢力がふつふつと沸き上がっている。いまや永田町の際たる関心事は「ポスト安倍」だが、黒川氏の賭け麻雀事件が与えたインパクトは、そうした動きを加速しつつある。
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安積 明子(あづみ あきこ):ジャーナリスト
兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。
1994年、国会議員政策担当秘書資格試験合格。参議院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動を開始。夕刊フジ、Yahoo!ニュースなど多くの媒体で精力的に記事を執筆している。

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