毛沢東の"唯一無二の後継者"を演出した習近平
演説は美辞麗句に装飾されてはいるが、そのエッセンスは毛沢東の後継者は自分だと宣言する事に特化した、単純かつ自己中心的なものだった。
退屈な演説よりも興味深かったのが、習近平氏の出立ちだった。李克強以下居並ぶ他の指導者がスーツにネクタイという装いの中、自分だけは灰色の人民服で登場したのだ。
習近平の灰色の人民服を見て私が反射的に思い出したのが、昨年10月10日に平壌で行われた、朝鮮労働党創建75周年記念式典での、金正恩の装いだ。
この連載の第3回目で詳述した通り、この時の薄いグレーのスーツに濃いグレーのネクタイという金正恩の装いは、祖父であり建国の父と呼ばれる金日成の「完全コピー」だった。
米朝関係の改善に執念を燃やしていた金日成が、アメリカの元大統領であり、当時の米朝交渉の最大のキーマン、カーター特使を平壌に迎えたのが、このグレーの装いだったのだ。
「独裁の正統な後継を誇示する」という狂気。中国と北朝鮮の「最高指導者」の身を包んだ灰色の装いに、共産主義国家の異常性を再確認せずにはいられなかった。
毛沢東主義が浸透するアメリカ
先月10日、ワシントンDCに隣接するヴァージニア州の教育委員会での中国移民の女性の発言が、全米の注目を浴びた。
「アメリカの学校で行われているのは、毛沢東の文化大革命と瓜二つの、分断政策だ」
証言したのは6歳の時に、文化大革命最中の中国を脱出してアメリカに逃げてきたシ・ヴァンフリート(Xi Van Fleet) さんだ。彼女の息子が通っていたヴァージニア州の学校を始め、全米各地で取り入れられている教育カリキュラム「批判的人種理論」(CRT=Critical Race Theory)は、社会を分断し、憎悪を蔓延させ、数千万人を死に追いやった文化大革命の現代版だと指摘、即時撤廃を求めたのだ。
この発想は、「白人はその他人種への歴史的搾取への償いが必要」という論理に発展し、昨年大統領選挙最中のアメリカを蹂躙したBLM運動(ブラック・ライブス・マター=黒人の命を尊重しろ)の理論的背景となった。
シさんは、CRTは「論理構成」「分断の手法」「人権擁護委員という密告システム」まで、文化大革命と全く同じだと指摘。形を変えて現代に蘇った毛沢東思想であり、即座に撤廃すべきだと、強く求めた。
シさんが文化大革命当時の悲惨な中国社会の生き証人であるという事もあり、その説得力のあるスピーチは多くの人の心を打った。一つの州の中のカウンティ(郡)の教育委員会での発言にも関わらず、フォックスニュースなど保守系メディアが全米に放送して議論を呼んだ。
対岸の火事ではない日本の「毛沢東主義」
シさんの指摘に従えば、日本における「LGBTの権利増進」「選択的夫婦別姓」「ジェンダーフリー」「女系女性天皇論」は、日本版CRTの入り口であり、「現代版文化大革命」「ネオ・マオイズム(新毛沢東主義)」という事になる。
実際、「女性蔑視発言」「LGBT差別」とみなされる発言がことさらに取り上げられて、血祭りに挙げられる事案が続発している事も、日本版CRTの第一ステージと見るべきだろう。
絶対に忘れてはならないのは、毛沢東は大躍進政策と文化大革命で4千万人の自国民を死に追いやった、世界史上類を見ない残虐な独裁者だという事だ。
その毛沢東の後継者であろうとする習近平が隣国の最高指導者として君臨し、日本にもアメリカにも現代版毛沢東主義が忍び寄っている。私達は、こうした事態を把握し、十分な警戒をしているだろうか。