太陽光義務付けで負担が増えるのは一般国民【杉山大志】

国の審議会では見送られた太陽光発電パネルの新築住宅への設置義務付けが、東京都で検討されている。資料を見ると、150万円のPVシステムを買っても15年で元が取れるという。だがこれは、立派な家を新築できるお金持ちな建築主にとっての話。じつは、そのうち100万円は、電気料金を払う一般国民の負担によるものだ。太陽光で発電される電気の価値は50万円しかない。ますます一般国民を苦しめる一方となる義務化は避けるべきだ。

10年で元が取れる?

「元が取れる」と宣伝されることがある太陽光発電だが、本当だろうか。本稿では、そのカラクリについて検討しよう。

 東京都企画政策部会は、以下の試算を示している。10年で元が取れる、と書いている。

図1
 国土交通省の検討会では、以下の試算がある。
 PVだけなら15年で、蓄電池付きなら25年で元が取れる、としている。

図2
 だが、ここにはトリックがある。

 立派な新築住宅を買える建築主、つまりお金持ちは元が取れるようになっている。

 しかし、それを支えるのは、その他大勢の一般国民だ。説明しよう。 

 経済産業省の資料だと、発電コストは以下のように試算されている。

図3

一般国民が100万円を負担する

 電気は欲しいときにスイッチを入れて使えるからこそ価値があるのだ。太陽光発電は太陽が照った時しか発電しないので、このコストは「押し売り価格」となり、原子力や火力発電は欲しいときに使えるので「買いたい価格」なのである。つまり、同じ条件での比較になっていないのだ。

 そして、太陽光発電の設備を建設しても、太陽が照っていない時のためには火力発電の設備はやはり必要だから、太陽光発電は必然的に二重投資になる。

 そうすると、太陽光発電の価値は、せいぜい火力発電の燃料を焚き減らすぐらいしかない。

 図3をみると、石炭火力とLNG火力の燃料費は平均してだいたい5円程度だ。これが太陽光発電のお陰で実際に日本国民が受ける恩恵となる。

 国道交通省の試算(図2)だと、PVシステムを利用する建築主は、キロワットアワー当たりで、
①自家消費分の削減で24.76円
②売電分で10年間は21円
③その後は8円を受け取ること
 になっている。

 これと5円との差は、ことごとく国民全体の負担になる。順に19.76円、16円、3円だ。

 これを15年間で合計すると幾らになるか? 下表のように計算すると、なんと、112万円!

表1
 すると、150万円の太陽光パネルを購入すると、建築主は15年で元が取れることになっているが、じつは電気の価値はわずか46万円しかなく、一般国民の負担は112万円にも上ることになる。

「東京に家を買える人が、一般国民から100万円以上を受け取って太陽光発電を付け、元を取る」というのが、「太陽光発電義務化」の正体だ。

 なお以上に加えて、送電線も補強しなければならないし、大量に導入すると、太陽が照った時に一斉に発電して、余った電気は捨てることになる。このときは事業用のメガソーラーの電気を捨てることになるだろう。また火力発電は太陽の気まぐれに合わせてオンオフを繰り返すことになって、傷(いた)みやすくなるし、発電効率も下がる。これらの費用負担も、結局はみな一般国民が負担する。

深刻な人権問題を抱えている太陽光パネル

杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『脱炭素は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『15歳からの地球温暖化』(扶桑社)、『地球温暖化のファクトフルネス』『脱炭素のファクトフルネス』(共にアマゾン他)等。