gettyimages (11715)

バイデン政権を猛烈に批判したポンペオ元国務長官

バイデン大統領の失敗

 日本では米国政治というと民主党側の話ばかりが報道されるが、米国の半分は共和党だ。以前、マルコ・ルビオやテッド・クルーズらの大物議員が、バイデン政権の脱炭素政策がウクライナ戦争を招いたと批判していることを紹介した。

 今回は、米国共和党の重鎮マイク・ポンペオ元国務長官が、「ウクライナでの戦争は、なぜ世界が米国のエネルギー優越を必要とするかを示している」(フォックスニュース、2022年3月30日)と題した論文を抄訳しよう。

・バイデン大統領の失敗の中心は、彼の政権がアメリカのエネルギー産業に敵対していること。
・重要なことは、同盟国がロシアのエネルギーに依存しないようにすることだった。 米国は、パイプライン「ノルドストリーム2」の完成を制裁して阻止する一方、米国のエネルギーの独立性と優位性を確立することで、世界で最もクリーンな化石燃料を安価かつ効率的にパートナーに輸送することができた。
・ エネルギーの優位性は米国に大きな力を与え、外交努力に不可欠な手段であった。
・バイデン政権は、欧州大陸がロシアからの供給を完全に断ち切った場合、欧州のエネルギー需要を満たすために不可欠な米国のエネルギー優越戦略を棄損(きそん)してしまった。   
・バイデン大統領がトランプ政権のエネルギー優越戦略を放棄したことで、ウラジーミル・プーチンは欧州で即座に力を持ち、影響力を持つようになった。 ロシアの石油、天然ガス、石炭の流れは、プーチンの周りを潤し、国内の権力を強固にする一方で、消費国、特にドイツに対して直接的な影響力を与え、ついには戦争への準備資金を調達せしめた。   
・バイデン大統領の政権は、気候変動について叫ぶ進歩的な活動家に後押しされ、初日からアメリカの石油、天然ガス、石炭、原子力を敵視してきた。 もし、これらの経済の重要な部門を妨げるような政策が実施されていなければ、米国も欧州も戦略的にはるかに有利な立場にあり、プーチンのウクライナでの違法な戦争を抑止できたかもしれないのである。
・国内ではインフレとエネルギー価格の高騰がすべてのアメリカ人を苦しめている。 肥料や燃料の高騰はアメリカの農家を荒廃させ、ガソリンスタンドでの給油コストの上昇はアメリカの家庭に対する文字通りの増税である。エネルギー産業を活性化させれば、こうした負担はすぐに軽減される。それはまさにトランプ政権が実施したことだから、十分に実現可能なはずだ。
・アメリカ人がクリーンエネルギーに関心を持っていることは理解しており、だからこそ、人類のための電力という新しい国策の重要な要素として、自然エネルギーや原子力を支持し続ける必要がある。他方で、アメリカの石油と天然ガスは、短期的にも、長期的にも答えとなるものだ。 
・バイデン大統領は、キーストーンXLパイプラインの中止命令を直ちに撤回し、米国のエネルギー優越の再確立に政権を委ねるべきである。 そのような政策は、国内と海外の両方の課題を安定させるために大きな役割を果たす。
・バイデン政権の歪んだ現実観は、アメリカ経済や安全保障ではなく、気候変動を最優先事項としており、これは悲しいかな変わりそうもない。国務長官ではなく気候変動担当のジョン・ケリー氏が、高官として初めてロシアと中国の両国を公式訪問したことは、そのことを物語っている。 気候変動が他の何よりも最優先事項であることを示すことで、バイデン政権は弱さを示し続けることになる。
・私たちは、米国のエネルギーの力を解き放たなければならない。液化天然ガスやクリーンコールなどのクリーンエネルギーを、欧州やインド太平洋地域の同盟国へ輸出する努力を倍加させなければならない。
・もしバイデン大統領がこれを実行する気がなく、現在ホワイトハウスの政策を失敗させている一点集中型の気候変動活動家の言うのみを聞き、国を率いる気がないのであれば、我々は彼の政権を共和党の洞察力によって方向転換させるべきである。次の中間選挙で我々が大勝し、彼の環境に固執したエネルギー政策を覆し、アメリカのエネルギー優越を取り戻すことによってである。  

敵を圧倒し、つけ入る隙を与えない

 この論文のキーワードはエネルギー優越(energy dominance)である。単なるエネルギー自立(energy independence)ではない。豊富な供給力によって、敵を圧倒し、つけ入る隙を与えないということだ。

 さて、この11月に米国では中間選挙が控えており、現状では共和党が議会を制する勢いである。また次期大統領選挙も迫っている。気候変動対策一本やりだった民主党バイデン政権に代わって、米国は「エネルギー優越」を掲げる政策に移行していく可能性が高いのではなかろうか。

 日本も原子力発電を再稼働し、安定供給に優れた石炭火力発電を活用し、アジアの自由主義諸国の原子力・化石燃料事業を支援することで、米国と共にエネルギー優越を目指し、中露に対抗すべきではなかろうか。
YouTube (11716)

エネルギー政策失政続きのバイデン大統領
via YouTube
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『脱炭素は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『15歳からの地球温暖化』(扶桑社)、『地球温暖化のファクトフルネス』『脱炭素のファクトフルネス』(共にアマゾン他)等。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く