どこからも取材に来ない……

 暇空茜氏とColaboについては以前も書かせていただきました。
 詳しくは過去の記事に当たっていただきたいのですが、若年被害女性等の支援を行っていると自称する一般社団法人Colaboが、公金による不当な支援を受けているのではないかという疑惑があり、YouTuberの暇空氏がこの数年、身銭を切ってそれを追及し続けているのです。

 そんな中、3月26日に暇空氏勝利の報が届きました。
 もっともそれはColaboではなく、東京都相手に、なのですが……。
 同氏はColaboが都に提出した書類の開示請求を、毎月行っていました。というのも、Colabo側の弁護団が会見を行った際、その一人である太田啓子弁護士が「暇空氏は古い(間違った)書類を根拠にデマを流している」と主張していたためです。

 ところが彼女の言う「新しい書類」というのは会見の前日あたりに提出されたもので、暇空氏が数日で入手できるはずもなく、太田弁護士は暇空氏がデマを流したのだというデマを流していたわけです。それ以降、暇空氏はならばと常に最新の書類を請求していたのですが、2023年5月の書類は不開示とされてしまったのです

 暇空氏がそれは不当だと国家賠償請求訴訟し、見事勝訴を勝ち取ったわけです。何せ小池百合子都知事は情報公開を進めるとして、「『のり弁』から『日の丸弁当』へ」と謳(うた)っていたのですから、これでは公約違反……いえ、実はその公約自体、公式ページからしれっと削除されているらしいのですが……

 この国家賠償請求訴訟というものはまず、普通は棄却されて当然、訴えても9割は敗訴すると言われているそうで、今回の勝利は快挙と称するべきものです。もっとも都も控訴してくることが予想されますが、まずは1勝したことは、喜ばしいことには違いがありません。
 しかしながらこの驚くべきニュースについて、どこも報じていないようです。
 ご当人も「どこからも取材に来ない」とぼやくとともに、本年1月の『東京新聞』では「砂川事件」(1957年、東京都砂川町〈現立川市〉の米軍基地に侵入した学生が逮捕、起訴された事件)の被告らが国に損害賠償を求め、棄却された件をとりあげています。負けてすら記事になるのに、なぜ勝った俺の下へは誰も取材に来ない、というわけです。

 確かにグーグルで「国家賠償請求訴訟」というワードでニュース検索しても、暇空氏について報じているのはせいぜい「ガジェット通信」。大手メディアはどこもスルーのご様子です。テレビメディアなども基本、黙殺のご様子(東京MXではとりあげたようですが……)。ぼくも『朝日』『毎日』『読売』『産経』の4紙を26日夕刊から29日夕刊まで(『産経』は夕刊がないので朝刊のみ)調べてみましたが、報じていませんでした。

 都の違法行為を、市井の一個人が暴いた……大ニュースであり、また考えれば左派の人こそが大喜びで飛びつくべき案件だと思うのですが、一体どうしたことでしょう。
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暇空茜氏「【速報】国家賠償請求訴訟で東京都に勝訴しました!!!解説」(3月26日配信)

脅迫者のカゲ

 暇空氏と言えばもう一つ、実は2月に同氏の手記、『ネトゲ戦記』が発売されています。これは氏がネトゲ(ネットゲーム)の制作に携わっていた当時、トラブルに巻き込まれ、裁判で勝訴した経緯を綴ったもの(つまりColaboなどとは直接の関係はないもの)です。

 話題の書とあって、アニメグッズショップ「アニメイト」でもポップを作るなどして大々的に売り出そうとしていました。ところが、2月16日、出版を直前にして急遽、取り扱いの中止がアナウンスされたのです。
 しかし同日、暇空氏はアニメイトに脅迫をした者がいるという情報をリークしました。

《本日この後、アニメイトよりネトゲ戦記の予約打ち切り、店頭販売中止の予告が出るそうです
 理由は口止めされてますが、俺の責任で言います。この発言の件で罰を受ける人がいるなら俺の責任です。弁護団もなるくんもKADOKAWAもアニメイトも関係ありません。
 理由はアニメイトに、暇空茜の本を販売するなら京アニ事件を起こしてやるとの脅迫が届いたからだそうです》


「京アニ事件を起こしてやる」というのは当然、2019年に発生した、京都アニメーション放火殺人事件のようなテロを起こしてやるぞ、との意味でしょう。いくらなんでも70人の死傷者を出した(さらに言えば、アニメイト相手にオタクのトラウマを刺激するような)悲惨な事件を引き合いに、そんな脅迫を加えてくるとは非道い話で、暇空氏もYouTubeでも非常に憤っていました

 一方同日には、同氏が書類送検されたとのニュースが報じられました(「暇空茜」名乗る自称ユーチューバーを書類送検 Colaboの名誉毀損容疑など)。
 Colabo疑惑を追及する、同氏のやり方が不当だとの内容です。『毎日新聞デジタル』では(目下は削除済みですが)イメージ画像としてパトカーを使うなど、いかにも暇空氏が悪者であるかのようなイメージ操作がなされています。しかし書類送検とは、そんなにも大ごとなのでしょうか?
 同じ『毎日新聞デジタル』の伊藤詩織氏書類送検の報から引用しましょう(笑)。

《「弁護士ドットコムニュース」の記事では、名誉毀損の訴えの概要に触れた上で、「警察は“原則”として、捜査した事件はすべて送致(送検)しなければならない」との解説を加えているが、ヤフーのコメント欄には「読者の誤解を招く。犯罪容疑があるように読めてしまう」「書類送検の意味については最後に付け加えた書き方はフェアではない。検察庁の処分が出るまで待つべきケースだ」と批判的な意見が複数みられた。
(中略)
 名誉毀損事件に詳しい滝口徹弁護士(東京弁護士会)は「そもそも告訴が受理された時点で、事件が検察に送付されることは決まっているので、書類送検されたというだけで、ニュース性はないのではないか」と指摘している》

「伊藤詩織さんが『虚偽告訴』『名誉毀損』?『書類送検』報道を考える」
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「アニメイト」で、2月16日、『ネトゲ戦記』出版を直前に、急遽、取り扱いの中止がアナウンスされた

悪意に満ちた「報じられない方」

 つまり、書類送検というのは弁護士が告訴をすればなされる当たり前の手続きで、また勝訴の見込みがなくても、告訴そのものはやろうと思えば容易にできることであるのは言うまでもありません。伊藤氏の際はそこを正しく指摘している『毎日』が、暇空氏の時にはおどろおどろしい報道をする。『毎日』自身が自らの振る舞いを悪辣なネガティブキャンペーンと明かしてしまっている形です(*)。

 そもそも暇空氏の書類送検があったのは、2023年1月のこと。それ以上の話に進展していないというのは、同氏のやり方に違法性がなかったということでもあります。それを1年以上経った今、思い出したように報道される意味がさっぱりわからないのです。

 いえ、ネットの中には、これはアニメイト脅迫の件と連動していたのではないか……と推測する向きもあります。2月16日に「暇空氏が書類送検」→「氏の著作がアニメイトで取り扱い中止」といった流れが報じられれば、同氏のイメージダウンにつながるというわけです。もちろん想像の域を出ないものの、では偶然の一致なのかとなるとそれも疑問で、何か裏の意図があったのでは、と考えたくもなります。

 もちろん、一番許せないのは脅迫を行った人物であり、また続報もないので、その正体も判然とはしません。ただ、仮にこの犯人がColaboなりマスコミなりとつながりがないとしても、いずれにせよ報じられ方、ないし「報じられない方」があまりにも恣意性と悪意に満ちたものであることは間違いがありません。

 以前お伝えした通り『あの子もトランスジェンダーになった』も悪辣(あくらつ)なキャンセルに遭っています。KADOKAWA版は刊行中止の憂き目に遭い、産経新聞出版が『トランスジェンダーになりたい少女たち』のタイトルで刊行を決定しましたが、それに対しても脅迫メールが舞い込んだと伝えられます。

 これはまた、松本人志氏の件についてもしかりです。『文春』の名誉毀損に対する第1回口頭弁論において、松本氏側の弁護士は記事にある(松本氏から被害を受けたとされる)女性の氏名などの特定を求めたと伝えられますが、確かに相手を特定できないのでは潔白の証明が難しいのは当たり前です。前回記事でぼくが書いた推測が、現実のものになったわけですね。
 
ところがこれについて、「こんな事例は初めて」と弁護士が呆れて見せている記事が目立ちました。こうした記事は、本年より開始された性犯罪などにおける原告の匿名化の動きと連動しているのではと思われてなりません。これは性犯罪で訴えられても誰が自分を訴えたのかわからないという、仮に潔白でも、否、潔白であれば余計にそれが証明しづらくなるというメチャクチャな制度です(もっとも、松本氏の訴訟自体は『文春』を被告にしているので、その制度と直接に関係のあるモノではありませんが)。

 上の記事はそうした制度が「当たり前の、正当なもの」という価値観を前提している人間によって書かれたものだ、と言わざるを得ません。そしてそんな価値観は同時に、「女性が訴えたら、男性は刑に服するべきだ。女性が嘘をついたり思い違いをすることなど、万が一にも、絶対にあり得ないのだ」との強い信念を持っていないことには、抱きようがないものです。


(*) 前回前々回と松本人志氏についてデタラメなバッシングを続けるパオロ・マッツァリーノ氏の記事について批判しました。ところがこの粗悪な記事のソースになっているのが舞田敏彦氏の、これも粗雑な記事であり、さらにそのソースになっているのが伊藤氏の著作なのです。もちろん、本件だけで伊藤氏の主張の是非について云々することはできませんが、バズっているのが非常にバイアスのかかった記事である、ということは言えましょう。
 もう一つ、パオロ氏はまたブログで同件に関する記事を書いていたのですが、最初から松本氏の有罪を前提してただ観念的に女性の味方を気取るだけのもの。ぼくへの反論も基本(彼の持ち出した「性犯罪被害で裁判にまでこぎつけるのは2%くらい」という決定的な間違いについての、全く弁明になっていない弁明を除くと)ありませんでした。

日本もキャンセルカルチャーの波が

 暇空氏のニュースの異常な「スルー」と「ミスリードによるネガティブキャンペーン」。
 トランスジェンダー批判の本の「キャンセル」。
 そして、松本人志氏報道や批評に共通する、「冤罪(えんざい)」に対する異常な軽視。

 これら一連の流れから見えてくるのは、マスコミも行政も一体となって、フェミニズムなどポリコレに反する者をキャンセルしていこうとする、あるいは自分たちの意に沿わぬ者をポリコレによってキャンセルしていこうとする傾向です。

 近年、こうしたジェンダー、セクシュアリティ、人種、民族、障害などの特定のアイデンティティを根拠とした政治運動が活発であることは、今までもお伝えしてきた通りです。こうした運動は「アイデンティティポリティクス」と呼ばれるのですが、これは言い換えれば「女は/トランスは/黒人は/障害者は」いついかなる場合も絶対に正しく、その主張に異を唱えることは断じて許されない、その要求は全てを無批判に通さねばならない、という考え方です。

 本当に、ここ数年で世界が急激な変化を遂げ、こうしたアイデンティティポリティクスに反する言論は一切許されない社会が到来しつつあることを実感します。あまりにも流れが急速で過激であるために、暇空氏が体現するようにそれに対する拒否反応が目立ち始めたことは好ましいのですが、それにしても同氏が戦えるのはもとから資産があったからで、ほかにも相手のスラップ訴訟や情報の拡散力に対してなす術(すべ)なく、口を閉ざさざるを得ない状況に追い込まれている多くの者が潜在していることが想像できるわけです。

 正直、状況は楽観を許しませんが、例えばパオロ・マッツァリーノ氏の記事を見てもわかるように、これら「アイデンティティポリティクス推し」の人々の論理はいよいよデタラメに、本当にシッチャカメッチャカなものになりつつあります。
 
 最初から正当性がないのだから当たり前なのですが、となればぼくたちもそこに少しでも疑問を持ち、「ツッコミ」を入れていくべきでしょう。そうすることで、「おかしい」という意識を持つ者を、わずかずつでも増やしていくことができるのではないでしょうか。
兵頭 新児(ひょうどう しんじ)
本来はオタク系ライター。
フェミニズム、ジェンダー、非モテ問題について考えるうち、女性ジェンダーが男性にもたらす災いとして「女災」という概念を提唱、2009年に『ぼくたちの女災社会』を上梓。
ブログ『兵頭新児の女災対策的随想』を運営中。

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