「本当にバイデン大統領になってしまうんでしょうか」──台湾の多くの友人・知人から、嘆きのような問い合わせが相次いでいる。それはかつてないほどの危機感と切実さである。
なかには「この4年で台湾はなくなるかもしれない」という極端なものまである。いや、後述するようにそれすら大袈裟ではない状況が生まれつつある。
しかし、日本の地上波では、「トランプは早く敗北宣言を」「これ以上ごねることは許されない」「もう勝負はついている」……等々、連日、そんなコメントが流れている。この人たちはいつになっても国際情勢の現実などわからないし、自分自身、さらに子や孫の〝命の危機〟にさえ気づかないだろうと私には感じる。
バイデン氏が史上最多の「7,818万票」という〝あり得ない数字〟を獲得(11月18日時点)し、大統領選に勝利したことになっている。あの初の黒人大統領誕生となったオバマ氏勝利の熱狂選挙での獲得票「6,948万票」を900万票も上回ったのだ。
しかし、投票が終わると二重投票や死者による投票、監視人が排除されたのちの疑惑の集計など、各州でさまざまな告発が相次いだ。なかでも集計システム・ドミニオンへの疑惑が噴出し、トランプ氏自身が「270万もの私の票が削除された」と告発し、ワシントンDCでは「選挙を盗むな」との数十万のトランプ支持者の大規模デモがおこなわれた。
だが、冒頭の台湾人の嘆きは、そんな不正がおこなわれたか否かには関係ない。少々、刺激的な言い方を許していただけるなら〝中国に買収された一家〟の関わった問題にほかならない。いま世界最大の中国ウォッチャーである台湾の人々、特に知識階層では、「トランプ─安倍時代」から「バイデン─習近平時代」への歴史的転換への懸念が囁かれているのだ。
「トランプ─安倍」については説明を要すまい。4年前、大統領選当選直後にニューヨークのトランプタワーを訪ね、トランプ氏を見事に取り込んだ安倍氏の手腕に世界は驚嘆した。国際社会で〝猛獣遣い〟の異名をとる安倍氏はその評判どおりの実力を発揮し、歴史的な日米蜜月時代を築いた。その信頼関係は、「トランプ説得にはシンゾーに頼むのが1番」という逸話まで生むほどだった。実際に国際会議の場では「シンゾーがいいなら、それでいい」というトランプ氏の言葉が何度も飛び出した。首脳間の信頼を元に日米が国際社会をリードした歴史的な時代だった。だが、仮にバイデン政権が誕生すれば、それは「バイデン─習近平時代」への突入を意味する。では、台湾の中国ウォッチャーたちが何を嘆き、恐れているかを紹介しよう。
バイデン一家と習近平氏との蜜月関係は驚くべきものだ。バイデン氏は習近平氏がまだ副主席だった2011年8月に訪中し、5日間にわたって北京、そして四川省への旅行で習氏と濃厚な時間を過ごしている。習氏はつきっきりでバイデン氏をもてなし、四川省でも案内人を務めている。当時、中国メディアに紹介された互いに腕をまくり上げてシャツ姿で笑う両者の笑顔は、まさに〝親友同士〟である。
そして関係は半年後の2012年2月、さらに深まる。習近平氏が夫人を伴って訪米すると、今度はバイデン夫妻が一切の面倒を見たのだ。副大統領自ら空港まで出迎える異例の厚遇で、晩餐会にも招待し、米西海岸を夫婦同伴で案内。華人社会にも飛び込む大サービスまで見せて蜜月をアピールしたのである。
そして極めつけが2013年12月のバイデン氏の訪中だ。エアフォース2で訪中した氏は10日間も北京に滞在。そこには次男のハンター氏が同行しており、さまざまな〝商談〟がおこなわれた。訪中から帰国したハンター氏は投資会社を設立。その会社には10億ドル(注=日本円でおよそ1,000億円)という目も眩む額の資金が中国から投入されたのである。
大統領選の討論会でトランプ氏はこのことを指摘。ハンター氏は「取締役を退任する」と発表したものの、実行に移されたかは定かでない。習氏とバイデン家が〝通常の関係〟ではないことがご理解いただけただろうか。これらの事実は台湾の知識層には広く知られていることである。それが「世界は〝トランプ─安倍時代〟から〝バイデン─習近平時代〟へと移行する」との予測となって浸透しているのだ。
台湾も、もちろん尖閣も、アメリカが動かなければ〝風前の灯〟だ。冒頭の台湾人の嘆きは正にそこにある。東アジアにとって極めて危険なバイデン家──この政権誕生を大歓迎し、トランプ氏を貶める日本のメディアを見ていると、私には溜息しか出てこない。
なかには「この4年で台湾はなくなるかもしれない」という極端なものまである。いや、後述するようにそれすら大袈裟ではない状況が生まれつつある。
しかし、日本の地上波では、「トランプは早く敗北宣言を」「これ以上ごねることは許されない」「もう勝負はついている」……等々、連日、そんなコメントが流れている。この人たちはいつになっても国際情勢の現実などわからないし、自分自身、さらに子や孫の〝命の危機〟にさえ気づかないだろうと私には感じる。
バイデン氏が史上最多の「7,818万票」という〝あり得ない数字〟を獲得(11月18日時点)し、大統領選に勝利したことになっている。あの初の黒人大統領誕生となったオバマ氏勝利の熱狂選挙での獲得票「6,948万票」を900万票も上回ったのだ。
しかし、投票が終わると二重投票や死者による投票、監視人が排除されたのちの疑惑の集計など、各州でさまざまな告発が相次いだ。なかでも集計システム・ドミニオンへの疑惑が噴出し、トランプ氏自身が「270万もの私の票が削除された」と告発し、ワシントンDCでは「選挙を盗むな」との数十万のトランプ支持者の大規模デモがおこなわれた。
だが、冒頭の台湾人の嘆きは、そんな不正がおこなわれたか否かには関係ない。少々、刺激的な言い方を許していただけるなら〝中国に買収された一家〟の関わった問題にほかならない。いま世界最大の中国ウォッチャーである台湾の人々、特に知識階層では、「トランプ─安倍時代」から「バイデン─習近平時代」への歴史的転換への懸念が囁かれているのだ。
「トランプ─安倍」については説明を要すまい。4年前、大統領選当選直後にニューヨークのトランプタワーを訪ね、トランプ氏を見事に取り込んだ安倍氏の手腕に世界は驚嘆した。国際社会で〝猛獣遣い〟の異名をとる安倍氏はその評判どおりの実力を発揮し、歴史的な日米蜜月時代を築いた。その信頼関係は、「トランプ説得にはシンゾーに頼むのが1番」という逸話まで生むほどだった。実際に国際会議の場では「シンゾーがいいなら、それでいい」というトランプ氏の言葉が何度も飛び出した。首脳間の信頼を元に日米が国際社会をリードした歴史的な時代だった。だが、仮にバイデン政権が誕生すれば、それは「バイデン─習近平時代」への突入を意味する。では、台湾の中国ウォッチャーたちが何を嘆き、恐れているかを紹介しよう。
バイデン一家と習近平氏との蜜月関係は驚くべきものだ。バイデン氏は習近平氏がまだ副主席だった2011年8月に訪中し、5日間にわたって北京、そして四川省への旅行で習氏と濃厚な時間を過ごしている。習氏はつきっきりでバイデン氏をもてなし、四川省でも案内人を務めている。当時、中国メディアに紹介された互いに腕をまくり上げてシャツ姿で笑う両者の笑顔は、まさに〝親友同士〟である。
そして関係は半年後の2012年2月、さらに深まる。習近平氏が夫人を伴って訪米すると、今度はバイデン夫妻が一切の面倒を見たのだ。副大統領自ら空港まで出迎える異例の厚遇で、晩餐会にも招待し、米西海岸を夫婦同伴で案内。華人社会にも飛び込む大サービスまで見せて蜜月をアピールしたのである。
そして極めつけが2013年12月のバイデン氏の訪中だ。エアフォース2で訪中した氏は10日間も北京に滞在。そこには次男のハンター氏が同行しており、さまざまな〝商談〟がおこなわれた。訪中から帰国したハンター氏は投資会社を設立。その会社には10億ドル(注=日本円でおよそ1,000億円)という目も眩む額の資金が中国から投入されたのである。
大統領選の討論会でトランプ氏はこのことを指摘。ハンター氏は「取締役を退任する」と発表したものの、実行に移されたかは定かでない。習氏とバイデン家が〝通常の関係〟ではないことがご理解いただけただろうか。これらの事実は台湾の知識層には広く知られていることである。それが「世界は〝トランプ─安倍時代〟から〝バイデン─習近平時代〟へと移行する」との予測となって浸透しているのだ。
台湾も、もちろん尖閣も、アメリカが動かなければ〝風前の灯〟だ。冒頭の台湾人の嘆きは正にそこにある。東アジアにとって極めて危険なバイデン家──この政権誕生を大歓迎し、トランプ氏を貶める日本のメディアを見ていると、私には溜息しか出てこない。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は、『新聞という病』(産経セレクト)。
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は、『新聞という病』(産経セレクト)。