【門田隆将】私たちは「新・階級闘争」を克服できるのか

【門田隆将】私たちは「新・階級闘争」を克服できるのか

 全体主義との戦いがいよいよ佳境に入ってきた。拳を振り上げながらも、どこか中国に及び腰な「バイデン─菅」という日米両首脳の会談を見ても、そのことを感じる人は少なくないだろう。

 私たちは、異論を差し挟めない全体主義との戦いの只中にいることを自覚する必要がある。そして自由主義陣営が劣勢であることも知らなければならない。日常のニュースはそのことを感じさせるものばかりだ。

 森喜朗元首相の発言が〝切り貼り〟され、全く正反対の内容にされて〝集団リンチ〟の中、五輪組織委会長の座を追われたこと。あるいは、五輪はアスリートのために存在するはずなのに、そして海外からの観客をストップしてやることまで決めたのに、それでもスポーツと全く無縁な人たちによって中止圧力が強まっていること。さらには、白人警官に膝で首を押さえつけられて亡くなったJ・フロイド事件以降、差別を糾弾する声が社会を席捲していること…これらは全体主義と自由主義との戦いに由来しているのである。

 なかでも、私はマスコミとSNSが果たす役割に注目している。東北新社に勤めている菅首相の子息や、接待を受けた元総務省の女性内閣広報官へのメディアとSNSの糾弾・袋叩きは凄まじかった。「寛容」という言葉を失った日本社会の有様を表わす騒動だ。かつての日本人からは考えられないような罵声の数々に〝何か〟がおかしい、と感じる人は多いだろう。
 4月13日、菅義偉首相が福島第一原発の処理水を基準値以下に希釈して「海洋放出する」と発表した際のマスコミ・SNSの異常な反応もそうだった。

 WHOの飲料水トリチウム基準の6分の1以下にするほか、さまざまな数値を基準値以下に希釈して放出するという〝どこの国でもやっていること〟を日本のマスコミは許さない。真っ先にNHKが海外に向けて「radioactive water(汚染水)」という言葉を使って印象報道をおこない、朝日は〈処理水の放出 納得と信頼欠けたまま〉(4月14日付社説)、毎日も〈原発処理水の海洋放出 福島の不信残したままだ〉(同日付社説)と記した。これらの糾弾報道を受けて、韓国は「あらゆる対抗措置をとる」と国際海洋法裁判所への提訴を示唆し、中国も「日本はあらゆる疑義や反対を顧みなかった」と非難を展開した。日本海に面する韓国の月城原発は液体で年間17兆ベクレル、気体は119兆ベクレルもトリチウムを放出している。中国の大亜湾原発も南シナ海に年間42兆ベクレルも放出している。それでも反発したのは、日本からの発信がそれほど危機意識を喚起させるものだったからだ。

 IAEA(国際原子力機関)は「安全性や環境への影響の評価に基づき、世界で日常的に行われている」、米国も「日本は透明性を保ち、世界的な安全基準に合致した手法を採用した」とコメントしたが、時すでに遅し。世界中に誤った認識が広がってしまったのだ。

 私は、IAEAの専門家の来日を要請し、「海洋放出は妥当」との見解を先にもらって、彼らと共に記者会見して海洋放出を発表するなどの工夫が必要だったと思う。しかし、マスコミ戦略が決定的に欠けている菅政権に多くを望むのは酷だろう。問題はマスコミの側にある。なぜ彼らはここまで〝事実に拠らず〟日本を貶め、日本を窮地に追い込みたいのだろうか。

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門田さんが「新・階級闘争」を語る動画はコチラ!
 私は日本人としてそのことがわからない。しかし、この現象が世界中で起こっていることにも注目したい。反政府勢力が人権団体や左翼団体と手を結び、マスコミやSNSを利用して活動を展開しているのだ。ついには、盤石だったトランプ氏の再選が前述のJ・フロイド事件以降のBLMやアンティファ等の左翼運動から勢いを失っていったのは周知の通りだ。フランスでは反政府団体とイスラム左翼が結びつき、言論封殺が行なわれ、社会に危機感が高まっている。

 私はこのほどWACから『新・階級闘争論~暴走するメディア・SNS~』を上梓した。これらの現象が、全体主義の台頭による新しい階級闘争に起因することを分析したものだ。いま私たちは、性別、収入、学歴、人種、性的指向、職業、価値観…等々、人間の持っているあらゆる「差異」を強調して創り上げられた本来は存在しない「階級」「階層」による〝新・階級闘争〟の中にいる。たとえ小さく些細なものでも、そこにある「差異」を強調することによって〝差別の被害者〟を生み出し、それに対する「不満」を利用して、本来はあり得ない階級闘争が創出されているのだ。

 その中で異論を許さない全体主義が確実に私たちを追い詰めつつある。自由vs独裁の戦いに負けるわけにはいかないことを、あらためて心に銘記したい。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)、『オウム死刑囚 魂の遍歴』(PHP)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は、『新・階級闘争論』(WAC)。

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