【門田隆将】異論を許さない全体主義の恐怖【事件の現場から】

誰しもが「民主主義のお手本」と思っていた米国で全体主義の嵐が吹き荒れている。11月の大統領選以降、議会やメディア、そしてSNSまでもがトランプとその支持者を「当然に排除」仕様とした動きは恐るべきものだ。この流れの裏には何があり、そして〈平和ボケ〉日本はどのように対処してゆけば良いのか――。(『WiLL』2021年3月号初出)

【門田隆将】異論を許さない全体主義の恐怖

 11月3日の米大統領選以降の日々は、「全体主義が勝利するとはこういうことなのか」という壮大な歴史ドラマを観ているかのようだった。

 前号でお伝えした連邦最高裁の使命放棄は、アメリカの民主主義終焉に「司法が加担した」という事例として長く米国史の汚点となるだろう。あれほどの証拠や宣誓証言で浮き彫りになった不正選挙が不問に付された時点で、米民主主義は瀕死の状態に陥った。

 民主主義の根幹が「公正」である以上、それに疑念が呈されれば、真相究明を放置しては「次」には進めないからだ。2年後の中間選挙、また4年後の大統領選でも、同様に不正が罷り通り2度と公正な選挙は行われないかもしれないのである。

 しかし、1月6日の連邦議事堂侵入事件以降の出来事は、それをも霞ませるほど見るに耐えないものだった。アメリカが全体主義にここまで侵蝕されているかを嫌でも思い知らされたのだ。

 あってはならない女性1人を含む5人の死者が出た事件である。だが侵入にあたっては、アンティファやBLMなど左翼過激派集団が関わっていたとの告発がSNSを通じて相次いだ。実際に女性死亡現場でアンティファ活動家が一部始終を撮影しており、のちに逮捕されたことも明らかになった。

 そこで巻き起こった「トランプが暴動を煽った」という一種のヒステリー状態は、自由主義社会ではあり得ないほど異様なものだった。当日、トランプ氏はホワイトハウス前に集まった大群衆に対して演説をおこなっている。およそ70分に及んだスピーチで、トランプ氏は1度も群衆を煽ってはいない。

 「皆さんは、その声を平和的、かつ愛国的に聴かせるために、連邦議事堂へと行進するのです(I know that everyone here will soon be marching over to the Capitol building to peacefully and patriotically make your voices heard)」

 トランプ氏は、わざわざここで〝peacefully〟という言葉を使い、人々に呼びかけている。だが、9割が民主党支持という偏った米マスコミはその部分を一切、報じなかった。その上で3週間以上前にツイッターでトランプ氏が呟いた〝wild〟という言葉を用いて「暴動を煽った」との印象を創り上げるのである。

 勢いづいた民主党の行動は凄まじかった。いきなりナンシー・ペロシ下院議長を中心に、「弾劾だ!」「トランプを大統領から引きずり下ろせ!」との運動が起こり、実際に下院では弾劾決議がおこなわれた。もちろん「暴動を煽動した」という事実確認もなければ、弁護の機会も与えられず、公聴会も開かれない上でのことである。中国の文化大革命もかくや、と思われる強硬な行動に民主党支持者は熱狂した。

 「存在自体が気に入らない」「弾劾してやれ」「証拠?人が死んだんだ。そんなもの関係ない」と言いたいに違いない。異論を差し挟めない全体主義の狂気がワシントンDCを覆った。当のペロシ氏は、「錯乱した大統領はかつてないほど危険な状態にあり、我々は国や民主主義に対する偏向した攻撃から国民を守るためにあらゆる措置を講じなければならない」そう言って解任と弾劾の必要性を強調した。錯乱しているのはどちらなのか、常識ある大人なら誰もが首を傾げただろう。

 だが驚くべきことはさらに続く。ツイッター社は「今後も暴動を煽る恐れがある」との理由をつけ、トランプ氏のツイッターアカウントを永久停止にした。ヒステリー状態は、ニューヨーク市がトランプ氏の会社に契約解除を通告したり、映画界では、トランプ氏が出ている映画『ホーム・アローン2』から登場場面をカットしようという動きまで出た。写真からトロツキーや林彪の姿を消したソ連や中国と全く同じだ。私は抗弁する機会もなく殺された文革の犠牲者、劉少奇国家主席を思い浮かべた。まさか自由と民主主義のアメリカでこんなことが起きるとは信じられなかった。

停止されたトランプ氏のツイッター
 だが真に懸念されるのは「これから」である。まだ胡錦濤主席の下、習近平氏が国家副主席だった2011年8月から始まるバイデン氏(当時、副大統領)との親密関係、さらには息子・ハンター氏を通じてぶち込まれた巨額の中国マネー……これらが今後、アメリカの政策にどんな影響を与えるか、ということだ。

 習近平とバイデンの関係は、台湾への電撃侵略を生むのか。そして苛烈になる一方のチベット、ウイグル、香港への人権弾圧、さらに尖閣から始まる日本侵略はどうなるのか。悪夢の4年間は今からなのだ。平和ボケ日本人に果たして「覚悟」は生まれるのだろうか。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は、古森義久氏との共著『米中"文明の衝突" 崖っ淵に立つ日本の決断』(PHP研究所)。