電気自動車は本命なのか、技術の歴史から考える≪前編≫【杉山大志】

EUが2035年にガソリン車の販売を禁止—というニュースが世界を駆け巡ったように、「ガソリン自動車やハイブリッド自動車はもう古い、これからは電気自動車(EV)だ、欧州はすでに先行していて、日本は遅れている」――こんな意見をよくメディアで見かける。しかし、電気自動車は本当に未来の本命技術だと断言できるのだろうか。技術の歴史から例を引いて、電気自動車の将来を2回に分けて占います。

杉山大志:電気自動車は本当に「未来の本命技術」なのか≪前編≫

電気自動車(EV)普及の現状

 まずEV普及の現状についてみてみよう。

 欧州を初めとして先進諸国は2030年から2040年ごろにかけてガソリンおよびディーゼル自動車などの内燃機関自動車(ICE)の禁止や、電動化xEV(電気自動車EV、ハイブリッド自動車HV、プラグインハイブリッド自動車PHEV)の普及を進めると宣言している。

 欧州ではEVのシェアがここ1、2年で急速に増してきた。新車販売に占める台数はノルウェーの50%超を筆頭に、ドイツでは10%程度、英仏では7%程度になってきた(下記表:EVsmart記事より)。

欧州でのEVシェア

 シェアが増加した背景には手厚い政府の補助がある。すなわち、欧州諸国では軒並み50万円から100万円以上の補助金が出されている。充電も無料であったり極めて安価になったりしている。バス専用レーンの利用や、駐車場の優先利用が認められている。ICEが払っている諸々の税金を免除されていることも大きい。ノルウェーではガソリンは高額の課税のため1リットルで300円もするという。

 次にEVの「用途」について。果たして現状の乗用車と同様に使われているのだろうか。

 EVで売れているのは市場の両極端であり、テスラのような500万円から1000万円以上の超高級車が一方にあり、他方ではミニカーのような車がある。ミニカーのような車は、2台目の車として、近所の買い物に使われたりするものだ(PRESIDENT Online掲載:山崎 明氏記事)。

 すなわち、今のところEVは普通の乗用車を代替するには至っていないようだ。これは値段が高いこと、充電が不便な事などによる。

性能面の検証=今後向上するのか

 EVの性能面が向上するか否かは、バッテリーの性能が向上するかどうか次第だ。今後、バッテリーの性能が格段に向上し、安価で、充電容量が大きくて、急速充電が可能で、しかも安全になれば、ICEやHVに勝つ日が来る可能性はある。

 過去を振り返ると、良い技術が出来れば古い技術は駆逐されてきた。帆船は蒸気船に駆逐され、蒸気船はディーゼル汽船に取って変わられた。性能が格段に違ったからだ。
 だが、実はいつもこうなるとは限らないのだ。

 かつて飛行機の未来は超音速機であると誰もが信じていた。各国は技術開発に凌ぎを削り、やがて英仏共同開発の超音速旅客機コンコルドが就航した。

 しかし、超音速機の価格はいつまでも下がらなかった。やがて、墜落事故を契機に、コンコルドは就航を止めてしまった。

 勝ち残ったのはボーイング747だ。これは50年も前の1970年に就航したが、未だに現役である。10時間や12時間も座り続けて移動するという骨の折れることを、毎年何百万人もの人が続けている。この停滞ぶりを予言した人はまずいなかった。

 結局、音速の壁を超えることは技術的に難しいままだったのだ。

杉山大志:電気自動車は本当に「未来の本命技術」なのか≪前編≫

現在は退役してしまったコンコルド
via wikipedia
 その例に倣うと、バッテリーがICEの壁を超えるのも難しいかもしれない。

 なぜなら、期待がかかる全固体電池などの新しいバッテリー技術がどこまで成功するかは今のところ何とも言えないからだ。過度の楽観に対しては厳しい意見もある (参考:EV Smart Blog 雨堤 徹氏記事)。

 いま先進国と中国ではEV導入のために莫大な政府支援がなされている。だがEVのシェアが増してくれば、いつまでもこれを続けてゆく訳にはいかない。政府が支援を止めたとき、EVはICEと互角に戦えるのだろうか。予断は出来ない。


~後編ではEVが本当に環境に優しいかなどについて検証してゆきます~
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『地球温暖化のファクトフルネス』(アマゾン他)等。