電気自動車(EV)の導入が最も進んでいる国、ノルウェー。
だがこの背景を探ると、その強引さが目立つ。石油には重い税を掛ける一方で、電気自動車は税の減免を受けている。EVは駐車料金や高速料金も割引されており、バスレーンの利用などの優遇措置も手厚い。
そして、このような大盤振る舞いがなぜ可能かというと、北海油田の石油・ガスの輸出から潤沢な収入が得られるからだ。現状では、EVは実力で普及しているのではなく、政策的に強引に導入されているに過ぎない。ノルウェーを見て同じようなことがすぐ日本でもできると思うのは早計である。
だがこの背景を探ると、その強引さが目立つ。石油には重い税を掛ける一方で、電気自動車は税の減免を受けている。EVは駐車料金や高速料金も割引されており、バスレーンの利用などの優遇措置も手厚い。
そして、このような大盤振る舞いがなぜ可能かというと、北海油田の石油・ガスの輸出から潤沢な収入が得られるからだ。現状では、EVは実力で普及しているのではなく、政策的に強引に導入されているに過ぎない。ノルウェーを見て同じようなことがすぐ日本でもできると思うのは早計である。
手厚い支援策でEVが普及するノルウェー
ノルウェーでEVの導入が進んでいる。フォルクスワーゲン・ゴルフを例にとると、新車販売のほとんどがEV(下図のZero emission)となっている。
via elbil.no
こんなに導入が進んでいる理由としては、高い環境意識とか、もともとノルウェーでは地形的に自動車の移動は狭い都市域の中が主だったといった事情も指摘されているが、何より大きいのは強力な推進策だ。
電気自動車はあらゆる税を減免されており、車体価格がディーゼル自動車よりも安くなっている(図2)。
電気自動車はあらゆる税を減免されており、車体価格がディーゼル自動車よりも安くなっている(図2)。
via elbil.no
ガソリン・ディーゼルの燃費の方はというと、産油国であるにもかかわらず、極めて高い税を課せられているためにガソリン価格は世界で3番目に高くなっている。ディーゼル価格もやはり世界で3番目に高い。
優遇策はこれに止まらない。
まず、図2にもあるように減免税があり、
* 購入・輸入時の税金がかからない(1990年~)
* 購入時の25%の付加価値税を免除(2001年~)
* 道路税(1996年~2021年)の免除。2021年から軽減税率。2022年からは全額課税
これに加えて、至れり尽くせりの優遇策がある。
* 有料道路やフェリーの料金が無料(1997- 2017)、フェリー料金は定価の50%以下(2018年~)
* 有料道路の料金は最大で定価の50%(2019年)
* 市営駐車場の無料化(1999年~2017年)、 駐車場料金の上限を定価の50%以下(2018年~)
* バスレーンの利用が可能(2005年~)
* 社用車税を50%減税(2000年~2018年)。軽減率を40%(2018年~)、2022年からは20%に引き下げ
* リースにかかる25%の付加価値税を免除(2015年)
* 電気ワゴン車に変更する際の石油ワゴン車の廃車に対する補償(2018年)
優遇策はこれに止まらない。
まず、図2にもあるように減免税があり、
* 購入・輸入時の税金がかからない(1990年~)
* 購入時の25%の付加価値税を免除(2001年~)
* 道路税(1996年~2021年)の免除。2021年から軽減税率。2022年からは全額課税
これに加えて、至れり尽くせりの優遇策がある。
* 有料道路やフェリーの料金が無料(1997- 2017)、フェリー料金は定価の50%以下(2018年~)
* 有料道路の料金は最大で定価の50%(2019年)
* 市営駐車場の無料化(1999年~2017年)、 駐車場料金の上限を定価の50%以下(2018年~)
* バスレーンの利用が可能(2005年~)
* 社用車税を50%減税(2000年~2018年)。軽減率を40%(2018年~)、2022年からは20%に引き下げ
* リースにかかる25%の付加価値税を免除(2015年)
* 電気ワゴン車に変更する際の石油ワゴン車の廃車に対する補償(2018年)
潤沢な石油収入が大盤振る舞いを可能に
近年、一部ではさすがに優遇措置を弱めてはいるものの、以上に見てきたような大盤振る舞いが続いている。なぜこんなことができるのか。その原資はどこから来るかといえば、北海油田からの収益があるからである。
※参考記事
ノルウェーの石油・ガス等の生産量は日量400万バレルに達している(図3)。日量400万バレルと言えば日本の石油消費量とほぼ同じである。
※参考記事
ノルウェーの石油・ガス等の生産量は日量400万バレルに達している(図3)。日量400万バレルと言えば日本の石油消費量とほぼ同じである。
via www.npd.no
ノルウェーはこの石油・ガスを輸出して、莫大な利益を上げている。輸出金額の実に半分以上が石油・ガス(Crude Peroleum, Petroem Gas, Refined Petroleum)の輸出である(図4)。
via oec.world
さらに直近の2021年最終4半期には、石油・ガス価格の高騰を受けて、ノルウェーの石油・ガスの輸出額は1カ月あたり115億米ドルに達した。これは、前年同期の約3倍にあたる。かりにこのペースが続くなら年間あたり1380億米ドルだから約15兆円分もの輸出になる。
ところで、素朴な疑問として、石油・ガスの生産で収入を得て、それでEVを導入するというのは、いったいCO2を増やしているのか、減らしているのか?
ある試算では、「EV導入によって1トンのCO2を減らす」ための原資を稼ぐのに必要な石油・ガス輸出によって、45~73トンものCO2排出を引き起こしているという。
これでは、EV導入によってかえってCO2を何十倍も発生させていることになる。
現状では、EVは実力で普及しているのではなく、莫大な費用をかけて、政策的に強引に導入されているに過ぎない。ノルウェーを見て同じようなEV普及がすぐ日本でもできると思うのは早計であるし、それを目指すならば相当な経済負担が生じることになる。バッテリーなどに相当な技術進歩がない限り、まだEVの本格的普及は先の話のようだ。
ところで、素朴な疑問として、石油・ガスの生産で収入を得て、それでEVを導入するというのは、いったいCO2を増やしているのか、減らしているのか?
ある試算では、「EV導入によって1トンのCO2を減らす」ための原資を稼ぐのに必要な石油・ガス輸出によって、45~73トンものCO2排出を引き起こしているという。
これでは、EV導入によってかえってCO2を何十倍も発生させていることになる。
現状では、EVは実力で普及しているのではなく、莫大な費用をかけて、政策的に強引に導入されているに過ぎない。ノルウェーを見て同じようなEV普及がすぐ日本でもできると思うのは早計であるし、それを目指すならば相当な経済負担が生じることになる。バッテリーなどに相当な技術進歩がない限り、まだEVの本格的普及は先の話のようだ。
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『脱炭素は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『15歳からの地球温暖化』(扶桑社)、『地球温暖化のファクトフルネス』『脱炭素のファクトフルネス』(共にアマゾン他)等。
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『脱炭素は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『15歳からの地球温暖化』(扶桑社)、『地球温暖化のファクトフルネス』『脱炭素のファクトフルネス』(共にアマゾン他)等。