EVは本当に環境に優しいのか

 EVは環境に優しいという触れ込みで推進されている。だがこれはどこまで本当だろうか。

 EVはICE(ガソリンおよびディーゼル自動車などの内燃機関自動車)に比べると、排気ガスを出さず、騒音も少ないのは本当だ。この点は間違いはない。ただしアスファルトの上をタイヤで走るので粉塵を出すとか、重量が重ければ振動があるといった点はICEと何ら変わらない。
杉山大志:電気自動車は本命なのか、技術の歴史から考える...

杉山大志:電気自動車は本命なのか、技術の歴史から考える≪後編≫

EVは果たして「本命」なのか??
★CO2排出面

 EVのCO2が少ないかどうかは電気を何で造るかによる。いま脱炭素ブームで、欧州や日本では将来は電気のCO2はゼロになるという前提のもと、EVの方がCO2が少ないとされている。

 けれども、本当に電気のCO2がゼロになるかは、だいぶ疑わしい。原子力はどこの国も政治的に反対する人々がいて、一本調子で推進が進む訳ではない。

 太陽光発電と風力発電はまだコストも高いし、太陽任せ、風任せで出力は不安定であるという根本的な問題が解決していないので、導入量には限界がある。

 バイオエネルギーによる発電は、利用する土地の造成のために生態系が破壊されるなどの理由で、かなり批判されるようになってきた。

 結局のところ、発電のかなりの割合は天然ガス火力や石炭火力で賄われ続けるのではないか。ならば、バッテリー製造時のエネルギー消費が多いEVのICEやHEVに対する優位性は揺らぐことになる。中国のように石炭火力がまだ主力の国でバッテリーを生産するならば、EVの方がライフサイクルで見てCO2が多いということもありうる。
杉山大志:電気自動車は本命なのか、技術の歴史から考える...

杉山大志:電気自動車は本命なのか、技術の歴史から考える≪後編≫

EV用の発電が石炭火力で賄われるのであれば、むしろCO2排出が増える恐れすらある―
★原料面

 レアアースやレアメタルなどの希少金属の投入が多いという点ではEVの方がICEよりも環境負荷が大きい。

 EVはモーターにネオジムなどのレアアースを使い、バッテリーにコバルトなどのレアメタルを使うものが多い。レアアース、レアメタルとも、中国企業によって採掘・精錬されているものが多く、水質汚染などの環境問題を世界各地で引き起こしている。

 特にコバルトは世界の半分がコンゴで産出されて、児童労働との関係が疑われている(アムネスティ・インターナショナル報告)。 

 今後、中国依存、環境影響、人権侵害などで何らかの問題のあるとされる原料は、他の原料で代替したり国産化するなどの方法で調達方法が改善されてゆくは思うが、大きなモーターとバッテリーが必要だということ、そのために多くの原料投入が必要だというのは、ICEと比較したときのEVの宿命であり、覆りそうにない。

 またEVのためには発電所や送電線も建設しなければならない。

 EVはICEに比べて「脱物質」などではない。むしろその逆で原料の投入は多い。この点はよく見過ごされている。

 もしEVに投入する原料が重大な問題を抱えたとき、EVが環境に優しいという議論は崩壊してしまう。上述したように、希少金属の供給を中国に依存しているなど、くすぶっている火種は現に存在する。

 かつてドイツが国を挙げて推進したクリーンディーゼルが、排ガス規制での不正問題の発覚であっけなく衰退に向かっているように、EVもあっさりブームの終焉を迎えてしまうかもしれない。

 環境問題について特に注意が必要なのは、「何が環境に優しいか」ということはその時々の政治に翻弄されるために、毀誉褒貶が激しいことだ。

 いまは脱炭素ブームでCO2が最も重要視されている。けれどもあと30年でCO2をゼロにするという極端な対策を正当化するほどの確たる科学的知見は実際のところ全く存在しない。

 これに対して、希少金属の採掘や精錬による排水公害は現実に起きているし、中国企業に依存していることは、いつでも国際政治における重要問題に浮上するリスクがある。
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杉山大志:電気自動車は本命なのか、技術の歴史から考える≪後編≫

希少金属の採掘や精錬による排水公害は現実に起きている

EVの未来を占う

 以上を踏まえて、EVの今後を占ってみよう。

 欧州を中心に、先進国でのEV優遇は当面続くだろう。けれども、普及がある程度進み、またその費用が嵩むにつれ、EVを特別扱いすることは難しくなる。

 政府が支援を止めたとき、何がおきるか。考えられるシナリオは以下の通りだ。

 ①  [公式シナリオ]:EVの性能は十分に向上しており、実力で普及を続ける-こうあって欲しいけれども、予断はできない。その場合、別の3つの脱線パターンが考えられる。

 ② [コンコルド・シナリオ]:実力不足でICEやHV等には勝てず、コンコルドのように伸び悩み、事故などを契機に、やがて退潮するかもしれない。

 ③ [クリーンディーゼル・シナリオ]:EV固有の環境問題やスキャンダルが噴出し、クリーンディーゼルのようにあえなく挫折して、衰退に向かうかもしれない。

 ④ [LPGシナリオ]:一定程度の普及には成功するが、今日のタクシー用のLPG(プロパンガス)自動車やバス用のLNG(液化天然ガス)自動車のように、宅配や公用等のごく一定のセグメントに留まり、ICE、HV、PEHV等と棲み分けるのかもしれない。この場合、国によってもこの棲み分けのパターンは異なることになる。

 ではこの脱線パターンになったとき、先進諸国が掲げている2030年前後の導入目標はどうなるのか?  

 単に見直されるだけなのだろう。

 米国では1970年に自動車排ガスを規制するマスキー法が導入され、厳しい排ガス規制スケジュールが発表された。だが米国企業が達成できないとなると、スケジュールは見直された(マスキー法について)。

 海外の諸国が目標を掲げたからといって、その通りになるとは全然限らないことは歴史が教えている。

 日本は欧州諸国の「公式シナリオ」に願掛けをするのではなく、上記のような、複数の将来シナリオを想定し、ロバストな戦略を練る必要がある。

 各社それぞれ戦略・戦術があるのは当然で、中にはEVに特化する会社もあってよい。

 だが日本という国としては、自国の強みでもあるICEやHVを軽々に捨て去るべきではないだろう。技術の歴史はそう教えている。
杉山 大志(すぎやま たいし/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。産経新聞・『正論』レギュラー寄稿者。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『地球温暖化のファクトフルネス』(アマゾン他)等。

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