河野太郎氏の反原発原理主義は"エネルギーテロ"だ【奈良林 直】

いよいよクライマックスを迎える自民党総裁選。各メディアでは変わらず河野太郎氏の優位が伝えられているが、国民や自民党の方々は、河野氏の「エネルギー政策」がいかに日本の未来にとって危険なものであるかを理解しているのだろうか。当人は総裁選に向けて持論を「緩和」しているようだが、週刊誌にも出たオンライン会議の「恫喝」の様子からは従来の考えをすんなり転換するとはとても思えない。河野氏のエネルギー施策の危険性を改めて問う!

奈良林直:河野太郎氏の反原発原理主義は"エネルギーテロ"だ

河野大臣:エネ庁「恫喝」を分析する

 筆者は2030年までの地球温暖化ガス46%削減方針が、エネルギー基本計画を「画餅」に貶めた直接的な原因だと思っている。そんな中、『週刊文春』(9月9日号)にトンデモないスクープ記事が掲載された。

 《8月24日、霞ヶ関のオンライン会議。「行政機関として責任を持って対応するという点で(再エネの比率を)36から38%程度の原案のままにさせていただきたい」と懇願するのに対し、河野太郎ワクチン担当大臣が「程度ではなくて以上にしろ。日本語がわかるヤツ出せ」》

 と河野氏が恫喝している旨の記事だ。もちろんパワハラ的な姿勢も問題なのだが、むしろその内容の方が大きな問題を孕んでいると言える。すなわち、河野氏が反原発原理主義者であることを示すとともに、再エネ原理主義者として、我が国の電力エネルギーを脆弱にして、大停電を発生させる「エネルギーテロ」を仕掛けているのに等しいと思われるからだ。以下、その理由について述べたい。
【1】再エネの変動をバックアップする火力発電所の待機運転を促す容量市場について

 エネ庁:容量市場について凍結をする、あるいはその文章を全部削除しろというのは大変恐縮でございますが、私どもとしては受け入れることができません。

 河野大臣:じゃあ、こっちは受け入れられない!はい、次。

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 容量市場とは、電力不足に備えて、電力不足を回避するための火力発電所などの供給力を確保する仕組みである。再エネが増えた時に大停電を発生させないためのもので、原子力に限らず発電所建設には長いリードタイムを要するため、長期の投資回収を予見しやすくして投資を促す仕組みとして必要であり、既にイギリス、フランス、アメリカで実績のある制度である。

容量市場の仕組み

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 これを否定する河野太郎氏は、電力の需給バランスを確保して停電を防ぐという極めて重要な対策を否定しているのだから、我が国の基幹エネルギーである電力を極めて脆弱にするということに等しい。
 
 停電だらけになるとどうなるか。チェルノブイリ原発事故後のウクライナでは、停電が頻発して、製鉄工場が操業不能となり、ついで中国にスクラップとして売られた空母を建造できる高い技術を誇った造船業も壊滅した。人々は職を失い、飢え死やアル中による自殺など、死者もその数は数万人に達した。そのようなウクライナの惨状のみならず、現在再エネ比率が増えた国や都市で大停電が発生しているケースが多いのだ。
【2】原子力について「必要な規模を持続的に活用」を修文(削除)しろと要求

 エネ庁:それからですね、原子力全体についてでございます。これについては特に18ページをご覧下さい。18ページは必要な規模を持続的に活用というところ、これを修文いただいておりますけども、これについての修文は梶山大臣ともご相談しましたが、応じられないということでございます。

 河野大臣:はい、じゃあこっちも応じられない。はい、次。
 2050年までに実質的な二酸化炭素の排出をゼロにするカーボンニュートラル(CN)を達成するには、原子力発電所を必要な規模で持続的に活用する以外の解決方法はない。

 気象に依って電気出力が変動する再エネで100%電力を賄うことは、技術的にも経済的にも成立の見込みが立っておらず、世界にも存在しない。仮に再エネを主電源化するにしても補完電源が一定の割合で必要なのは、現実の政策としては自明である。

 エネルギーは複数の供給源を組み合わせてリスクヘッジを行い、セキュリティを確保すべきものであって、これは米国でも送電系統で結ばれた西欧諸国でも取られている戦略である。このようなことは経済産業省は調べ尽くしているのだから梶山経済産業大臣が認める訳がない。河野太郎氏が首相になれば、全く実現性の無い「再エネ優先政策」が強引に進められることになり、我が国は大停電を繰り返し、経済破綻しかねない。

各国の発電電力量に占める割合

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【3】再エネの比率目標(従来が22~24%だったものを36~38%に上げたが、さらに38%以上にしろと要求)

 エネ庁:行政機関として責任を持って対応するという点で原案のままにさせていただきたい

 河野大臣:いやいや、行政機関じゃなく政府がやるんだ、閣議決定だから

 エネ庁:あの、原案をですね、

 河野大臣:閣議が狂言じゃないんだったら、日本語では、36から38%以上というのが日本語だろ

 エネ庁:えっとですね、政策的な裏付けを積み上げてですね

 河野大臣:だから36から38以上だろ

 エネ庁:いや、積み上げて36から38程度

 河野大臣:積み上げて36から38になるんだったら、以上は36から38を含むじゃないか。日本語わかるやつ出せよ、じゃあ!

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 まず「日本語」の問題について述べると、河野太郎氏が主張する36~38%以上は、「日本語」の常識として36~38%の範囲を「程度」としているのに対し、38%以上と書くべきであろう。これは河野太郎氏が38%以上の再エネ比率の上乗せを強引に要求しているのであって、「算数」の常識として、38%以上は、38%未満を含まないのである。

第6次エネルギー基本計画の再エネ比率の増加

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 ではその38%以上という要求は妥当なのか。日本でしばしば「見習え」と言われるドイツは、再エネ比率が40%を超えつつある。しかし、1kWhの電気を得るのに排出する二酸化炭素の質量を排出係数(CO2-g/kWh)と言うが、ドイツは現在472gで、我が国の570gと大差が無いのである。以下の図に示すように、この排出係数の上位は、水力発電と原子力発電の国ばかりである。河野太郎氏が、いくら再エネ優先で38%以上にしろと言っても、40%以上のドイツでさえ、CO2がほとんど減っていない排出係数劣等国なのだから、無理なのだ。

ドイツのエネルギー構成

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Co2排出係数ラインキング

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【4】再エネの課題を全部削除しろ。原発への核ミサイル攻撃どうすんだい!

 河野大臣:はい、だめ、次、はい次。それからなんかいらねえけどさ、日本が再エネいれるのに不利だ。みてえな記載がいっぱいあっただろ、あれ全部おとしたんだろうな

 エネ庁:日本が置かれた自然状況につきましては15ページ,17ページのところですけども、これは事実関係を書いたものでございますので・・えーと。

 河野大臣:じゃあ、北朝鮮のミサイル攻撃に無防備だと原子力は。日本は核燃料、使用済み燃料を捨てる場所も狭くてありませんと、全部書けよ!!
  <中略>

 河野大臣:使用済み核燃料が危ねえのは、もう自明の理じゃねえか、おめえ、北朝鮮がミサイル撃ってきたらどうすんだい、テロリストの攻撃受けたらどうすんだい、今の原発。

 エネ庁:ええ、あの・・

 河野大臣:そんな恣意的な記載を認めるわけねえだろうが!! いい加減にしろよ!!
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 ココだけ読むと、日本に対する核攻撃の危険性を防ぐための意図とも読めるが、そもそも、河野防衛大臣(当時)がイージスアショアを配備させなかったことで、北朝鮮の核ミサイルの核攻撃を迎撃ミサイルで防ぐのを困難にしており、発言と実際の行動が矛盾している。

 いわゆる「原発への核ミサイル攻撃の脅し」は、原発反対派の常套句で、彼の頭の中は反原発派と全く同一であることがうかがえる。田中俊一原子力規制委員庁でさえ、核ミサイルはピンポイントの原発狙うより大都市の上空で爆発させた方がよほど被害が大きいと国会で野党の質問に回答している。イージスアショアを防衛大臣として独断で潰しておいて、「おめえ、北朝鮮がミサイル撃ってきたらどうすんだい!」と恫喝しているのは、むしろ反原発原理主義者(タリバン)であることの証左でもある。

米国のロッキード・マーティン社のテスト施設内にあるSPY-1レーダを備えたイージスアショアの上部構造(本体は地下)
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 原子力発電所からのエネルギー供給は気象にも左右されない、もっとも安定したエネルギー源である。そして、これを守るためには「再処理施設を運転させない」のではなく、むしろ敵基地無力化とイージスアショアの迎撃ミサイルの配備が必須である。

 なお、各原発には特定重大事故対処施設が地下のバンカーに設置され、航空機テロに対して備えをしているが、国家基本問題研究所ではさらに洋上に風車やワイヤフェンスの航空機・ミサイル対策を提案している。ミサイルがワイヤフェンスにぶつかれば、ミサイルはそこで爆発するか起爆装置が破壊されるので、原発本体への直撃は防止できるのだ。
 
 再処理施設を運転させないと、使用済み燃料の減容は不可能になり、使用済み燃料をキャスクという金属容器に入れてそのまま埋設する「直接処分」となって、埋める場所が4倍必要になる。だから再処理工場の運転は必須なのだ。
 直接処分では、10万年の埋設処分が必要で、万一キャスクが損傷した場合は、回収を要求する動きもある。再処理施設で、高レベル廃棄物を分離してガラスに溶かしてステンレス容器に流し込んで固化したガラス固化体は、数千年の保管に短縮され、直接処分の4分の1の容積の処分場で済む。国土が狭い我が国に再処理施設は必須なのだ。

核燃料サイクル3つのメリット

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 更にGE日立エネルギー社が開発した小型高速炉(PRISM:プリズム)を使えば、プルトニウムを消費しながら高レベル廃棄物の保管期間を300年に短縮できる。

PRISM原子炉

有害度が高い高レベル廃棄物を高速炉で燃焼させ、半減期が短く、有害度が低い元素に変えることにより、保管期間を約300年に大幅に短縮できる。このことはすでに米国の試験で実証されており、現在、米国のGE日立エネルギー社がPRISMという小型モジュール炉(SMR)を提案している。
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 河野太郎氏が総裁選候補の記者会見の公約は「ぬくもり」とのことだが、正直この「恫喝」からはそのようなぬくもりは微塵も感じる事が出来ない。

 この公開された一連の会話からうかがえるのは、内容も「エネルギー亡国の道」を恣意的に進めることになる点と、自らと意見を異にするものを「恫喝」により上から押さえつけようとする危険な姿勢だ。もし河野太郎総理が実現してしまえば、アフガニスタンのタリバン政権のように、専制横暴政治が始まってしまうと懸念してしまう。

 逆に、中国メディアが「河野総裁」への歓迎姿勢を掲げていることからわかるように、中国共産党からは拍手喝采されるであろう。今話題になっている日本端子の問題のみならず、河野氏が自民党総裁になったら、自民党の本丸は中国共産党の手に落ちる…というのは決して過剰な危機感ではないはずだ。

 河野氏が、外務大臣としてイージスアショアの配備を独断でやめ、日本を中国や北朝鮮からの核ミサイル攻撃に丸腰にしたことも、中国共産党の習氏への忖度としか思えない。迎撃ミサイルのブースターの燃料の筒の落下の心配と、我が国の何百万、何千万の国民の命を守るのと一体どっちが大事なのか?

 「使用済み核燃料が危ねえのは、もう自明の理じゃねえか、おめえ、北朝鮮がミサイル撃ってきたらどうすんだい、テロリストの攻撃受けたらどうすんだい、今の原発。」という恫喝の言葉は、そのまま河野太郎氏にお返ししたい。

 「イージスアショアの迎撃ミサイル配備をやめさせたのは、おめえだ。北朝鮮がミサイル撃ってきたらどうすんだい。敵基地攻撃を昭和の発想と片付けたけど、迎撃できなくしたから必要なのだ。どうすんだい。」と。

国家基本問題研究所「自民党総裁選候補四氏に問う。国を守る覚悟を示せ」

 下の写真は、9月19日の産経新聞、日経新聞、読売新聞にに掲載された国基研の「自民党総裁候補四氏に問う 国を守る覚悟を示せ」と題した意見広告である。

国家基本問題研究所の意見広告

 広告の5.に注目していただきたい。
 ≪原発再稼働を容認するか。使用済み核燃料再処理をやめると使用済み燃料の行き場が無くなる。目先を変えた原発廃止論ではないのか。≫

 河野氏の二枚舌の魂胆を見破るのはこの設問だ。再処理ができなければ、ガラス固化体の地層処分も白紙にされてしまう。完成直前の六カ所の再処理施設や、寿都町・神恵内村のご努力も破壊されてしまう。

 他の設問も、河野太郎氏の政策を聞く限り、皆、「否定」だ。一方で、設問が全て「はい」が高市早苗氏。総裁選に向けた妥協の産物か、多少は持論を「緩和」しているようだが、実際は反原発原理主義者であることも、河野太郎氏の今回の恫喝音声で、全てばれてしまった。

 すなわち、河野太郎氏はやはり反原発原理主義者、再エネ原理主義者であり、我が国の産業を支える安定電力エネルギーの破壊者なのだ。再エネを40%以上に増やしても、補完する火力発電を減らしてしまうと、もはやCO2を減らしながら電力系統を安定化するには、将来にわたって原子力発電を使わざるを得ない。その点を無視して河野氏の持論を推進することになれば、日本は第二のウクライナどころか、いずれは中国共産党の傘下になることもあり得るであろう。そのような未来を迎えることがないよう、目先の選挙対策だけでない投票を自民党の皆様にはお願いしたい。
奈良林 直 (ならばやし ただし)
1952年、東京都生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学修士課程修了。東芝に入社し原子力の安全性に関する研究に携わる。91年、工学博士。同社原子力技術研究所主査、電力・産業システム技術開発センター主幹を経て、2005年、北海道大学大学院工学研究科助教授に就任。16年から名誉教授。2018年4月より東京工業大学特任教授。2018年1月、国際原子力機関(IAEA)、米国原子力規制委員会(NRC)などの専門家が参加する世界職業被曝情報システムの北米シンポジウムで『この1年に世界で最も傑出した教授賞』を受賞。