小学館騒動の衝撃【兵頭新児】

エプスタイン事件以上――とまでは言えなくとも、それに近い衝撃的な性加害事件の露見で、小学館が騒動の渦中にある。ウェブアプリ「マンガワン」で連載していた漫画家が女子高校生に考えられないおぞましいプレイを強要し、それ以降も漫画の連載を継続中だったという前代未聞の事件で、SNSは女性たちの怒りの声で溢れている。 確かに擁護しがたい事件ではあるものの、果たして怒りに任せた意見ばかりでいいものか――。

小学館騒動の衝撃

出版業界全体を巻き込む問題

 小学館が大変な騒ぎに巻き込まれています。
 発端は同社のウェブコミック配信アプリ「マンガワン」で『堕天作戦』を連載していた漫画家、山本章一氏が逮捕され、略式起訴・罰金刑の刑事罰を受けたこと。山本氏は私立高校で講師も務めており、在学中に同氏から性被害を受けたとする20代の女性が損害賠償を求めた訴訟を起こし、札幌地裁に1100万円の支払いを命じられたのです。
「弁護士ドットコム」の記事から引用してみましょう。

〈判決によると、当時15歳だった女性は、男性が担当する授業をきっかけに話すようになった。男性は女性を車で自宅まで送るようになり、車内でキスをしたり、身体を触ったりすることがあった〉

〈女性が16歳になると、男性は校外で会うよう誘い、ホテルで性行為に及んだ。その後も関係は続き、男性は父親のようにふるまいながら、「おしおき」などと称して性行為を求めた〉

〈さらに、女性に自分の排泄物を食べさせたり、身体に「奴隷」と落書きして撮影する行為もあったという〉

 何ぶん最後の下りが衝撃的で、被害者女性は同氏との関係により重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)や解離性同一性障害を引き起こしたと診断されましたが、それも道理という感じです。
 山本氏は「マンガワン」での作品の連載を中止したのですが、さほど間も置かずに名義を変え、別作品の原作者として連載を再開。そのことが先日露見して、大炎上を起こしてしまったのです。

「マンガワン」からは過去の名作も多数配信されていたのですが、『うる星やつら』『めぞん一刻』で有名な高橋留美子氏をはじめとした漫画家が同サービスからの作品の引き上げを表明するなど、出版業界全体を巻き込む問題となりました。

 確かに許しがたい事件ではありますし、眉を顰(ひそ)めざるを得ない、あまりにもえげつない、炎上して当たり前の案件ではあります。
 例えばフェミニストの藤井セイラ氏は問題の『堕天作戦』の劇中で悪役が少女を性的に虐待し、主人公がそれに憤るという場面があることを指摘し、以下のように言います。

〈このセリフで主人公がブチギレるのですから、この漫画の作者(加害者)は、ロリコンやペドフィリアを実行することは人倫にもとる、搾取(さくしゅ)である、魂を傷つける罪だと頭ではわかっているのです。
(中略)
 性犯罪者は世間一般的な倫理観は理解はしているのですが、「俺だけはOK」「自分のやっていることは別だ」もしくは「自分だけは破っても許されるのだ」と考えています〉


 なるほどなるほど、山本氏は身勝手でダブルスタンダードを平然と押し通す人間だ、ということですね。
 SNSを見ればフェミニストと思しい人たちの怒声の大合唱です。
 ちょっとXから、タグを頼りにいくつか抜粋してみましょう(ただし、改行箇所などはいじった部分もあります)。

〈#山本章一 をこの世から追放しよう
2度とどの世界でも平気なツラして
生きていけないように。
このゴミはそれだけの事をやった〉


〈判決文の画像投稿を読んだが、吐き気がした。
ただ、「HENTAI」が海外で通用する日本人男性の多くの変態は、山本を「性奴隷がいて羨ましい」と見るのだろうな〉


〈#堕天作戦 の糞ペド野郎の山本章一が行った口に出すのも辛くなる15歳教え子に対する鬼畜の所業とか、 #BMSG のSKY-HIこと日高が当時15歳の少女に行った深夜自宅個人レッスンを考えると尚更、鹿乃つのさん31歳のこの発言腹立たしいな
 グルーミングって言葉を軽々しく使うな何歳だよてめぇ成人してんだろ〉


〈私も自分の娘があの「小学館の変態漫画家  #山本章一」みたいな行為をされたら絶対に許さない。
自分が刑務所に入ろうと変態鬼畜クズ野郎を痛めつけてぶち殺す〉


 いずれも怒髪天を衝くといった感じで、またそれも無理もないところではあります。

二つの見方

 ただ、反論もいくつか見られました。
 ここでまとめるとするならば、それは以下の2つに絞られそうです。

1.「しかし、犯罪者だって食っていかなければならない。犯罪者は漫画を描いてはならぬのか」
2.「そもそも両者の関係自体が合意だったのでは」

 さて、これらにはどれほどの理があるか、まず1.から見ていきましょう。
 ここ数年、とにもかくにも性犯罪に対して(法の際限のない厳格化もありますが、それ以上に)大衆の潔癖症的な怒りが止まらなくなっています。大物芸能人が幾人もまともな裁判も経ずに、マスコミの魔女裁判でキャンセルされてきたのは、記憶に新しいところです。

 しかし性犯罪自体は基本的に減っており、過度な恐れはむしろマスコミに踊らされている(否、読者受けがいいことに踊らされ、マスコミが必死で性犯罪を報道するようになっている)結果ではないかといったことは、以前もお伝えしたところです
 SNSでは「性犯罪者は死刑にしろ、最低でも無期懲役にしろ」といった放言が乱れ飛んでいますが、それが現実を顧(かえり)みない、ただその場限りの怒りを爆発させているだけの暴論であることは自明です。そう考えると「漫画を描くな(出版社も起用するな)」もまた、やはり同様に暴論なのではないでしょうか。

 いえ、「被害者の気持ちを考えるならば、加害者が表現者として表の世界に出てくることが許せないのだ」といった考えもあるでしょう。しかし今回、山本氏はペンネームを変えて活動を再開しています。そこを卑劣だと難じる声も聞こえますが、被害者のことを考えるならばむしろ、リークすべきではなかったでしょう。

 同氏が仮に工場労働者であったなら、「復帰するな」などと言われていたとは考えがたく、ここには「犯罪者がキラキラした業界で生きる」ことに対する嫌悪があると想像できます。それも心情として理解はできるのですが、芸能人しかり漫画家しかり、「スター」的存在だったのはテレビや漫画週刊誌というメディアが極めて強大な影響力を持っていた時代の話で、「マンガワン」にしても誰もが知るメディアとは言い難く、(ましてや教師と兼業であった山本氏が)市井(しせい)の、目立たない一般的な職業とどう違うのか、線引きしにくいわけです。

 さて、2.はいかがでしょう。
 仮に1.についてご賛同いただけた方でも、この点には眉を顰められたかもしれません。
 しかし弁護士JPニュースには以下のように報じられているのです。

〈 一方、被告の男は、一連の行為は「真剣な交際関係のもと、原告の同意を得て行われたものだ」と主張〉

〈ホテル以外にも水族館や美術館、祭りなどに2人で出かけたことがあること、最初にホテルへ向かった際もAさんが周囲に助けを求めなかったことなどを根拠に挙げ、「原告の権利や法律上保護された利益を侵害していない」と反論した〉

 こうなると、事件のイメージも少々変わってくるのではないでしょうか。
 もちろん、山本氏側の言い分が正しい保証はありません。札幌地裁の守山裁判長は同氏が「自らが優位に立つ関係を形成し、性的要求に応じさせていた」と断じており、それが正鵠(せいこく)を射た判断かもしれません。

 しかし今回、やはり排泄物についてなど衝撃的な話題に目を奪われてしまいますが、「合意でSMプレイをしていたが、関係が決裂して、M側があれは性加害だったとして相手を訴えた」といったケースを想定してみるとどうでしょうか。本件がそうだというわけではないのですが、現代の男性は、一度訴えられると合意の形成の有無について、極めて立証しにくい状況におかれているのです。

 SMプレイだって安全性を確保し、両者合意だったとなれば、それは悪いことではないはずです。衝撃的で嫌悪感を催させる性行為と言い出せば、同性愛含め多くの変態趣味が「悪いこと」にされてしまいかねません。いったん、この「排泄物」「身体に落書き」という衝撃的なトピックスについて、冷静になってみるべきでしょう。

 実際問題として両者は数年に渡る交際を続けていました。『週刊文春』の伝えるところによれば被害者女性は高校生当時、山本氏が親に対して働きかけ、「私を家族から孤立させるように仕向け」たと語っています。正直、これはどういう状況なのかいまいち想像しにくいものの、同氏は女性の親の信を得ており、要するに二人の交際は家族公認だったと考えるのが普通ではないでしょうか。
 むろん、山本氏が狡猾(こうかつ)に立ち回って親の歓心を買い、彼女の心理を支配していたとの解釈も成り立ちますが、そうでない可能性もあるのでは……とぼくなどは、つい思ってしまいます。

ヒステリックな反応はどうか

 あるいは、また反論が考えられるでしょう。

 上で藤井氏が本件を「ロリコンやペドフィリアを実行すること」と評し、またSNSで「ペド野郎」などといった罵倒が並んだことをご紹介しました。つまり「百歩譲って大人同士の関係ならばいいが、これは大人が子供を性的に搾取したという事件だぞ」というわけです。
 しかし性関係のあった当時、被害者女性は16歳。「ロリコン」とは言えても、13歳以下の小児を対象とする「ペドファイル」には当たりません。

 日本を含む多くの国では「性交同意年齢」という概念があります。これには「子供にはセックスについての知識や判断力がない」という認識が前提されており、性関係を持った者は仮に「合意」を取りつけたのだと主張したところで「不同意性交」だと判断されると法で定められているのです。しかしこの「性交同意年齢」、2023年より16歳未満とされるようになりましたが、当時は13歳未満と定められており、要するに女性が子供だったことを根拠に批判するのはちょっと違うのです(ただし、いわゆる「淫行条例」というものがあるため、実際にはこれに引っかかる可能性が大です。しかし仮に山本氏の主張する「真剣な交際」が「真」であったとするならば、これも該当しなくなるのです)。

 ぼくも「性交同意年齢」は絶対に13歳未満に設定すべきだと考えているわけではありません。高校生とのセックスをことさらに称揚したいとも思わないのですが、本件に憤(いきどお)る論調は、こうした論点を雑に混同していると言わざるを得ないのです。

 先の「弁護士ドットコム」の記事では最後に被害者女性の言葉として「子どもは何もわからないのですから、手を出してはダメだとわかってほしいです」と書かれていますが(正直、なんだか政治的意図を感じさせる発言です)、当時の彼女は法的には子供ではなかったのだ、と考えることもできるわけです。

 繰り返すように、ぼくは山本氏が無罪であるとか、この女性は嘘をついているのだとか言いたいわけではありません。
 いずれにせよ同氏は性的行為を強要したことに対しての民事訴訟で1100万円の賠償が命じられていますし、また児童ポルノ禁止法違反により30万円の罰金を支払わされてもいます(ただこれは、逆に言えば本件が不同意性交等罪に問われたわけではないということでもあります。もちろん、そのことが「強制性がなかった」との証明になるわけでもないのですが)。

 ただ、ぼくが上に挙げた二点、これらはどちらかと言えば従来、リベラル寄りの意見だったものです。本来、彼ら彼女らは若年層の自己決定権、またヘンタイとされるセクシュアリティ、そもそもセックス全般の自由を擁護する立場だったはずです。
 ぼくも上の排泄物などについての箇所は、ちょっと意識的にある種、LGBT的な「ヘンタイを差別するな」とでもいった論調に寄せた言い方をしています。確かに高校生との性交渉、ましてやあまりに変態的な行為をすることが好ましいかとなると、いささか疑問です。
 とは言え、以前からも書かせていただいているように、近年のフェミ的、ポリコレ的な性についての厳格さはやはり、おかしいとしか思えません。

 かつて(言うならフェミ以前)のリベラルが正しかったかとなると大いに疑問ですが、フェミ以降のリベラルはもはや全体主義と同義になってしまっています。それは同時に、問題のある人物をキャンセルするだけして、後は考えないという傾向にもつながっていましょう。
 本件は全体的に極めておぞましい事件ではあるものの、そのおぞましさにとらわれヒステリックな反応に終始することは望ましくありません。エプスタイン事件同様、もうちょっとだけ冷静に事態を静観することも、重要なのではないでしょうか。

付記

 ――アンチフェミ論客として有名な小山晃弘氏も、noteで近い所見の記事を発表されていました。それによると本件の被害者女性のものと見てほぼ間違いないXアカウントがかつて存在し、その記述を信じるならば彼女は統合失調症を患っているとのことで、そうなるとPTSD(心的外傷後ストレス障害)や解離性同一性障害も、山本氏との性行為だけが原因なのか……といった疑問が呈されています。

付記2

 また掲載前にいろいろと新たな情報が入って来ました。
 まずは被害者女性、及び弁護士による声明が発表されたこと
 被害者女性は本件で小学館や漫画家が攻撃されていることについて本意ではなく、心を痛めていると述べ(勘繰るならSNSなどの炎上を諫〈いさ〉める意図も感じられ)、非常に誠実だと感じるのですが、その一方で被告が漫画連載を再開する場合には犯罪についてを読者に開示してほしいと望んでおり、正直それはなぜなんだろうという疑問を覚えます(だってそこにこだわったがため、示談も成立に至らなかったのですから)。

 一方、弁護士は以下のように述べています。

〈性的行為そのものは学校から物理的に離れた場所で行われたとしても、学校内で構築された先生と生徒という強固な上下関係が無くなるはずはなく、原告には拒絶することができませんでした〉

 正直、あまり納得できない論法です。しかしフェミニストは性犯罪の責を会社組織や自治体に負わせたいと考える傾向にあり、ここにも政治的意図があるのでは……と思わずにおれません。

 もう一つ、本件では被害者女性が解離性同一性障害を煩(わずら)っているとされていますが、やはりアンチフェミ論客として有名なヒトシンカ氏のnoteで、この症状は「幼い頃の凄惨な児童性虐待などのような、小児期の極限的トラウマ体験でしかほぼ発症しない」ものであるとの指摘されています
 小山氏の挙げたアカウントでは女性が親による虐待を受けており、さらに中学生時代に統合失調症を発症していたとのことで、こうなるといよいよ山本氏に原因を還元することが、疑問に思えてくるのです。
兵頭 新児(ひょうどう しんじ)
本来はオタク系ライター。
フェミニズム、ジェンダー、非モテ問題について考えるうち、女性ジェンダーが男性にもたらす災いとして「女災」という概念を提唱、2009年に『ぼくたちの女災社会』を上梓。
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