イギリス国民が「ポルノ」で騒然【谷本真由美:WiLL HEADLINE】

英国議会でウクライナ情勢とその影響について真剣に議論がなされているなか、なんとスマホで「ポルノ」を見ている議員がいたことが発覚した。この「事件」をきっかけにイギリス議会では様々なセクハラ行為が横行していることの告発が相次ぎ、大きな騒ぎとなっている。そもそも欧米で「セクハラ」に対する姿勢が厳しいのは、その「セクハラ」が頻発しているからで…。日本のイメージとは異なる英国のセクハラ事情とは。(月刊『WiLL』2022年7月号初出)

【谷本真由美】イギリス国民が「ポルノ」で騒然

不信任投票は否決されたものの、苦難続きのボリス・ジョンソン英国首相
 イギリスでは相変わらず、ウクライナ情勢が大変な関心を集めている。戦後最悪のインフレによって、生活が苦しくなっている人が増えているのだ。

 とくに光熱費の高騰は大変で、昨年の倍以上の価格になるという見通しもある。イギリスは寒冷地なので暖房が必須だが、このままでは冬季に暖房をつけることができず、体調を崩す人や死亡する人も出てくる可能性がある。

 イギリス政府はウクライナ情勢をめぐり、ロシアに強気な態度で臨んでいる。ジョンソン首相がウクライナの首都キーウを訪問した4月には、ジョンソン政権の支持率は上がった。

 しかし、いま政権の信頼性を揺るがす「事件」が起きている。保守党の議員が、 議会の審議中にスマホでポルノを見ていたのだ。「犯人」は保守党のニール・パリッシュ下院議員。この事件が注目を集めた理由の一つとして、彼の選挙区がデボンというイギリス南西部の農業地帯であることが挙げられる。

【谷本真由美】イギリス国民が「ポルノ」で騒然

ポルノを見ていたパリッシュ議員
 この地域は、美しい海岸線と田舎の風景が有名で、「クリームティー」という名物がある。イギリスの伝統的な焼き菓子であるスコーンに、クロテッドクリームという生クリームを低温で煮詰めて濃厚にしたものと、果肉たっぷりのジャムをつける。それと一緒に、美しい茶器でイングリッシュティーを楽しむのである。

 ティータイムは緑豊かな牧草地と美しい海岸を眺めながらゆったりと過ごす。イギリスの上品さを絵に描いたような土地なのである。

 イギリス国教会の価値観を色濃く残している地域でもあり、日本人が想像する進歩的でリベラルな欧州のイメージとは正反対だ。同性婚に反対する人も多く、 婚前交渉や女性が男性よりお金を稼ぐことに反対するような人も少なくない。

 そんな地域出身の保守系議員が、ウクライナ情勢をめぐって欧州の未来がどうなるかを真剣に議論するなか、スマホでポルノを見ていた──。イギリス国民は、そのギャップに驚いたのである。
 さらに驚くべきは、イギリス議会の女性議員たちが、こんなことは氷山の一角であり、他の議員はポルノの視聴よりもっと酷いことを国会でやっていると告発し始めたことだ。

 例えば、執務室内に女性を連れ込んでいる、女性議員の体を触ったり婚外交渉を要求したりしている……要するに「セクハラ」である。

 これまで、こうした「セクハラ」が国会内で大々的に問題視されたことはほとんどない。あまりにも日常的で数が多いので、いちいち事件にするのもバカらしいからだ。そんなことに構っていられるほど暇ではない。

 とはいえ、政治家の「下半身スキャンダル」はたびたび国民の関心事となる。

 コロナ対策でジョンソン首相の右腕を務めたマット・ハンコック議員は、自らのオフィスで大学時代からの女友達と不倫行為に勤しんでいたところを監視カメラに撮影され、タブロイド紙「ザ・サン」にすっぱ抜かれてしまった。

 コロナ対策で要職に就いていた議員がそんなことを行うなんて、しかも感染対策が最も厳しい時期だったにもかかわらず、職場で思い切り「濃厚接触」している……ハンコック議員の事件に、イギリス国民はショックを受けた。

【谷本真由美】イギリス国民が「ポルノ」で騒然

コロナ下にもかかわらず、職場で「濃厚接触」のハンコック議員
 日本には、ここまで堂々と破廉恥な行為をしでかす政治家はいない。不倫するにしてもホテルか、せいぜい議員宿舎だろう。国会内や議員会館で事に及ぶ議員などいない。警備員や事務員、清掃員にばれてしまう。

 欧州で最も先進的なはずのイギリスといえど、政治家たちが日常的に不倫やセクハラを楽しんでいる。日本人の「欧州幻想」をぶち壊すようだが、これが現実なのだ。

 欧州の人々は男女問わず、日本人に比べて道徳やモラルの意識が欠けている場合が多い。セクハラや不倫もかなり多い。長時間労働が当たり前の日本人とは異なり、欧州人は定時で仕事を終わらせる。余った時間とエネルギーを性に費やしているのかもしれない。

 これは実際に現地で働いたことがある日本人女性ならよくわかる。他方で、短期出張や在外研究など、一時的に滞在するだけの日本人男性にはわかりづらい。彼らはセクハラの対象ではないからだ。

 このような実情があるからこそ、欧州ではセクハラや性差別をめぐるルールづくりに熱心なのだ。いわば「反動」ともいえる。
谷本 真由美(たにもと まゆみ)
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて 国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、 国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国で就労経験がある。ツイッター上では「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。