谷本真由美:英国・「ゲス不倫」で露呈した政治家の民度

谷本真由美:英国・「ゲス不倫」で露呈した政治家の民度

辞任に追い込まれたマット・ハンコック保健相
 マット・ハンコック保健相の「ゲス汚職ダブル不倫」がイギリスを賑わせている。6月下旬、ハンコック氏が庁舎内で側近の愛人女性とキスをする写真が報じられ、辞任に追い込まれた。

 ハンコック氏には、オックスフォード大学時代の同級生で医師の奥さんと、3人の子供がいる。家族にコロナ感染させてしまうリスクも考えずに、愛人とこのような行為に及んでいた。

 しかも、愛人は大学時代の友人であり、地元のラジオ局で一緒に働いていたバイト仲間でもあった。奥さんと愛人は顔見知りである。今回のスキャンダルがイギリス国民、とくに既婚女性の大きな怒りを買うのは当然といえる。

 日本では、「海外の政治家はちゃんと仕事さえしていれば、プライベートを批判されることはない」などと言われる。だが、それは大きな間違いだ。不貞を働く政治家は、時に日本以上に激しいバッシングにさらされる。

 この愛人はイタリア系で、製薬会社の幹部で医師の娘として生まれ、オックスフォード大学卒業後に金融業界で働き、ファッションビジネスで財をなした夫と結婚。3人の子供を授かり、何不自由なく裕福な生活を送っている。つまり、既婚者同士のダブル不倫にほかならない。

 結婚生活の傍ら、彼女は圧力団体の幹部としても活動している。政治家としては、もっとも近づいてはならない人間である。にもかかわらず、ロビイストであることを知っていたうえで、ハンコック氏はこの女性を政府のアドバイザーとして正式に雇用し、報酬を税金から支払っている。いま疑問視されているのは、ファッションや金融の世界でビジネスをしていた彼女が、なぜ感染症対策のアドバイザーに選ばれたかということだ。

 驚くべきことに、愛人の親類が経営する会社は、政府のコロナ関係の入札に成功している。それだけではない。大臣の弟が経営する医療系の会社も、コロナ関係のプロジェクトを請け負って莫大な利益を得たが、ハンコック氏はこの会社の株主である。つまり、愛人を政府のアドバイザーにしただけではなく、自分の地位を悪用して、身内の会社が儲かるように配慮していたのだ。

 実にわかりやすい汚職に手を染めていた大臣を、イギリスの政界はそれほど非難しなかった。それどころか、 首相のボリス・ジョンソンは「彼は大変な功績を残した」などと手紙に書いて国民に発表した。「功績」というのがダブル不倫のことなのか、 汚職のことなのかは不明だが、お仲間の悪事を擁護する政治家の姿にドン引きしている国民が多い。
谷本真由美:英国・「ゲス不倫」で露呈した政治家の民度

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ジョンソン首相は手紙でハンコック氏を擁護
 イギリスに限らず、欧州の政治というのはコネや仲間内の助け合いで回っている。庶民の生活なんてどうでもいいというのが本音なのである。

 イギリスではパンデミック当初、政治家が科学者の意見に耳を貸さず、マスク着用を完全に否定し、香港、台湾、日本など東アジアで蓄積されていたデータを検証しなかった。その理由が、今になってよくわかる。コロナ禍はイギリスのエリートにとって、自分たちの懐を温めるためのイベントに過ぎないのだ。

 ハンコック氏は昨年3月、感染者が収容された病院を訪れたが、マスクをしていなかった。スーツ姿でコロナに汚染されている地域に行き、 ソーシャルディスタンスを無視してテレビ出演したり、関係者と面会したりしたこともあった。自分だけは大丈夫だ、科学者の意見など聞く必要はないという傲慢で自己中心的な政治家のせいで、イギリスでは13万人が犠牲となった。

 日本では、このような海外の政治の酷い実態がほとんど報道されない。もちろん、日本の政治家や官僚も完璧ではないが、それでもイギリスに比べれば極めて真面目に仕事をしている。

 安倍前首相は、国民にマスクを配布し、自らもマスクを着用した姿で国民に防疫を訴え、十万円を配布してくれた。にもかかわらず、マスコミに粗探しをされて「コロナ対応がなっていない!」とバッシングを受けた。菅首相も同じようなものである。

 日本人は国内の報道だけを鵜呑みにせず、 海外の惨状をよく見たうえで自国の政治家を〝相対評価〟してほしい。他国に比べたら日本は断然マシだとわかるはずだ。
谷本 真由美(たにもと まゆみ)
1975五年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて 国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、 国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国で就労経験がある。ツイッター上では「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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