谷本真由美:欧州では小学校で戦争を徹底的に教える

谷本真由美:欧州では小学校で戦争を徹底的に教える

 イギリスをはじめ欧州諸国は、テレビの報道を見ると、もはや戦時体制だ。連日、ロシアによるウクライナ侵略が報じられている。

 イギリスの場合、通常はお得な割引情報や高齢者の不倫の悩み、やせて見える洋服の選び方、息子が借金を返済しない、夫がスワッピングを要求するので困るといった視聴者の悩みに応える朝のワイドショー(イギリスではチャットショーと呼ばれ、日本のワイドショーとは色合いが違う)でさえ、朝からずっとウクライナのことだ。

 テレビだけではない。イギリスで最も売れている大衆紙「The Sun」の二面には、いつもはセクシーな美女の写真が掲載されているが、すべて戦場レポートが取って代わった。ムチムチの美女の代わりに、クラスター爆弾の詳しい解説が掲載されている。

 まさに非常事態なのだ。

 大衆紙であっても異様に詳細な兵器解説が掲載されたり、やたらと緻密な戦略図がカラーで載るところは、やはりイギリスである。ここまで「戦時モード」に入っているということは、事態が相当緊迫しているのであろう。
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普段はゴシップネタが多い「The Sun」
 というのも、ウクライナはイギリス含め、欧州西側諸国からするととても距離が近いからである。日本人には、なかなか理解できない感覚ではないだろうか。

 例えば、ウクライナとポーランドの国境にある街からワルシャワまで、車で5時間ほどの距離である。北部にある国境沿いの街からドイツのドレスデンまでも8時間ほど。欧州は陸路でつながっているので、他の国まで車やバスで移動したり、列車を乗り継いで移動することが容易だ。

 航空機であれば時間はもっと短くなる。欧州域内ならウクライナまで2~4時間ほど。しかも激安航空会社を使えば数千円から2万円ぐらいで移動可能だから、東京から沖縄に行くよりも安い。

 日本の地理に置き換えたら、より理解できるのではないか。たとえば、新潟や松本、広島などが弾道ミサイルで連日破壊され、東京を目指し、100万人単位の避難民が移動してくる。しかも陸路移動が可能なため、戦車や装甲車が東京に迫りつつある……という感覚なのだ。

 欧州西側諸国はウクライナに対して武器を提供しているため、NATOは攻撃に参加できない。武器供与は実質的にロシアに対する宣戦布告とみられている。核攻撃の可能性もあるから、欧州の人々は戦線の拡大を恐れている。

 さらに欧州の人々は日本と異なり、学校でスターリングラードの戦い(第二次大戦下、1942年11月から翌年1月にかけてソ連軍が、ドイツ軍に突入されたスターリングラード〈現ボルゴグラード〉を包囲奪回した戦い)について詳しく学ぶ。日本のように戦争は悲惨だとただ単に教えるのではなく、どうしたら市街戦で生き延びることができるのか、戦闘で勝利するコツは何か、などといった視点から教えるのである。
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戦争により荒廃したスターリングラード市街
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 そのため、市街戦の悲惨さや戦線拡大の恐怖について子供の頃から十分知識として得ているので、戦争に対する恐怖の意識が違うのだ。

 このような教育からも欧州の冷徹な現実主義を垣間見ることができるが、今回のウクライナ侵略のような有事が発生すると、欧州の教育はあながち間違っていないことがわかる。

 多民族が共存する欧州では、戦争があることが通常の状態であり、平和は恒久的ではないことをよく認識しているのだ。

 その一方で日本のメディアには、欧州のような緊迫感がまったく感じられない。まるで他人事のように、ウクライナ危機を報じている。ワイドショーを見ると、ど素人のタレントや専門外の人間が登場して的外れなことを口にし、「戦争は悪」と感情論を繰り返す。

 イギリスや欧州大陸のテレビに登場するのは現役の軍人や軍事アナリスト、戦場ジャーナリストなど専門家のみ。実に対照的だ。

 日本は地政学的に見ると、ロシアや中国、北朝鮮に囲まれており、実は欧州北部の国々よりも、はるかに戦争のリスクが高いのだ。

 そのような現実認識を日本のメディアが報じるとは到底思えない。そこで本誌を含めた独立系メディアや、アメリカや欧州の専門家の発信する情報には敏感になるべきだ。

 その際にどうしても必要になるのは英語である。有事に備える意味で英語の学習も推奨したい。



谷本 真由美(たにもと まゆみ)
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて 国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、 国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国で就労経験がある。ツイッター上では「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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この記事へのコメント

もう 2022/4/21 06:04

折角現実的な話をしているのに、最後の結論が意味不明
有事に備える為にはより現実的で実践的な知識と情報が必要なのはわかる
それらを得る為に英語を習得?
それは日本の言論界?にいる筆者の存在意義の放棄ではにのか?
個人の情報リテラシーの必要性は、ネットが普及し情報の量が圧倒的に増え自分で選択しなければ溺れてしまう状況になったり、マスコミの情報が日々偏向し先鋭化の上で信頼性が著しく落ちていることからも、今までも散々言われてきている
ただその際の対応は、個人としてはトータルでの情報リテラシーであり、そこで「英語に」とはならない
英語の発信も玉石混交なのは同じであり、むしろ発信の周辺情報や背景などが分らない分騙される危険は高い
はっきり言ってそのレベルの負担を日々の生活に忙しい多くの普通の人に求めるほうが間違っている
必要な情報を迅速に分かり易くなるべく公正に伝えるのが、マスコミというかメディアの使命であり存在意義ではないのか?
現状日本のマスコミが役に立たない事は全く否定しないが、そこはどちらかと言えばその中にいる貴方方が改革すべきことだと思う
日本は高等教育まで日本語で受けられると言われるくらい、日本語ベースでの情報の土台はしっかりとあり、また平均的な知識・教育のレベルは高い国だ
その利点を生かし続ける為にも、その一端はマスコミが担うべきではないかと思う
まぁ正直今のキー局とか大新聞は全部潰れていいとは思っている、その時の混乱より今のまま存在する方が遥かに害が大きいとは思っている

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