【谷本真由美】「日本が見習うべき欧州」の惨状

【谷本真由美】「日本が見習うべき欧州」の惨状

 新型コロナが世界を騒がせるようになって1年近くになる。欧州の現状は日本に比べてはるかに酷い。私が暮らすイギリスに至っては死者は約9万人で、日本の20倍以上だ。依然として、自宅で幼いわが子を抱えて怯える日々が続く。この1年で筆者の体重は10キロ以上減った。

 昨年のイギリスにおける死者数の合計は、過去5年間の平均をもとにした年間死者数予測を8万5千人近く上回り、超過率は驚きの14%。第二次大戦以来、最大の超過死亡数を記録した。
 
 イギリスに限ったことではない。『ウォール・ストリート・ジャーナル』が世界59カ国・地域のデータを分析したところ、死者総数は平年の水準を12%以上も上回っているという。
 
 日本はどうか──。
 
 厚生労働省の推計によれば、2020年上半期の日本の超過死亡数は約7,500人と、過去3年を下回っている。2019~19年の上半期の超過死亡数は2万人前後なので、驚くべき減少数といえる。コロナ感染者が増える一方でインフルエンザによる死者が減っているため、トータルの死者数は減っているのだ。

 統計上の死者数はごまかせない。日本はコロナ対応で驚くべき実績を残している。

 しかし、日本のテレビ・新聞は「日本のコロナ対応は間違っている」などと繰り返し報じている。マスコミには大変な怒りを覚えてならない。彼らはなぜ実情を伝えないのか。

 1月11日、日本に住む父が亡くなった。激務の末に倒れ、脳挫傷から認知症を発症し、10年以上に及ぶ介護の末の死だった。父は高度成長期に自動車会社で小型ディーゼルエンジンの開発に没頭し、戦後日本の発展を支えてきた。任俠映画と帝国海軍、117クーペをこよなく愛し、バンカラで愉快な性格だった。彼の世代の自動車技術者にとって欧州は憧れの地。私の海外行きを支援してくれたのも父だった。

 しかし、最後のお別れも葬儀への出席も叶わなかった。依然として感染者の増加が止まらず、さらに変異種が発生したイギリスから出国することができなかったからだ。

 通夜に参列できなかった代わりに、父のことをツイッターに投稿した。出席者が母と弟の二人だけの葬儀はスマホで中継され、ネット上の見ず知らずのフォロワーたちに弔ってもらった。物理を学んでいた父は現在、ネットの電子空間を無数の電気信号となって漂っている。新しもの好きだった彼にはピッタリだったのかもしれないが、僧侶はそんな〝新しい弔い方〟を絶賛してくれた。

 日本の病院や介護施設のスタッフは、日々弱っていく父を最期までケアしてくれた。その仕事ぶりは恐ろしく丁寧かつきめ細かいもので、感染症対策にも力を入れていた。結果、父はコロナ感染を免れた。
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日本の医療サービスは丁寧できめ細かい
 コロナ禍以前、イギリスをはじめ欧州の人々は食事の前に手を洗うことすらしなかった。マスクは〝東洋の奇妙な慣習〟と嘲笑され、パンデミック直前の昨年3月にマスクをつけて子供の送り迎えをしたり街を歩いたりしていると、差別的な視線を向けられることもあった。

 イギリスをはじめ、欧州の医療機関は日本のような心のこもった対応とは無縁だ。むしろ、コロナに感染した老人たちを介護施設に平然と送り返し、莫大な数の死者を出している。

 介護人も多くが感染しているが、その多くが有色人種や外国籍であるためイギリス人は気にも留めない。自分勝手なイギリス人が外出自粛のルールを破って街に出ても誰も注意しない。自己中心的な人たちのせいで、私は父の最期を看取ることすら叶わなかった。

 私はアメリカ、イタリア、イギリスで就労経験があり、現地の医療機関を利用してきた。一昨年はイギリスで要介護となった義父を看取ったが、現地の公衆衛生の酷さや病院の対応の粗さは身をもって体験している。コロナ禍で地獄絵図と化した欧州の惨状を眺めても、「案の定」という感想しか出てこない。
 
 これが、日本のマスコミが報じる「欧州では医療崩壊が起きていない」「日本が見習うべき欧州」の実態である。

 日本のマスコミは連日のように欧州のコロナ対応を絶賛する。それどころか、嬉々として日本人の〝民度の低さ〟を憂える。何より許せないのは、欧州の実態を告発する人々に「右翼」「保守派」のレッテルを貼っていることだ。
谷本 真由美(たにもと まゆみ)
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて 国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、 国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国で就労経験がある。ツイッター上では「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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