【朝香 豊】習近平独裁強化の裏で激しさを増す「暗闘」(朝香豊の日本再興原論㊷)

中国の全国人民代表大会(全人代)の期間中、上海総合指数は全人代開催初日の3月4日から、終了前日の10日まで毎日連続で下落を続けた。このことは異例で、習近平のメンツを大いに潰すこととなった。果たしてこのことは何を意味するのか。一見独裁が強化されているように見える習近平政権と、その裏にある暗闘に迫る――。

【朝香 豊】習近平独裁強化の裏で激しさを増す「暗闘」

検索できなくなった「株式市場」

 中国の全国人民代表大会(全人代)の期間中に、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」で「株式市場」を意味する「股市」という語が突然検索できなくなったことが話題となった。全人代の開催期間中は株価の下落はありえないとこれまでは信じられていたのに、今年はこれが全く当てはまらなかった。上海総合指数は全人代開催初日の3月4日から、終了前日の10日まで毎日連続で下落を続けたのである。2月の最高値からすると、時価総額で100兆円を超える金額が吹っ飛んだことになる。これは習近平のメンツを大いに潰す事態であり、習近平体制に対する批判ではないかと見られたりもしているのだが、こうした噂を消すために「股市」の検索ができなくなったのではないかと推測されている。

 全人代のような重大な政治イベントがある時には「国家隊」と呼ばれる機関投資家のグループが買い支えに入るのが通例とされている。今回の全人代開催中も、株価が急落した場面では「国家隊」の出動はあったとされているが、もう一方で中国の機関投資家の大量の売りも確認されている。これは表面的な動きと違って、反習近平派が勢いを増している証拠ではないかという見方も出ている。
 今回の全人代では「全国人民代表大会組織法」が「改正」され、全人代の閉会期間中に年間を通じて活動する全人代常務委員会が、国務院(内閣)の人員構成を変えられるようになった。これまでは年に1回しか開かれない全人代の期間中に、国務院総理の指名によって決せられていただけの国務院内部の人事が、習近平の意向を受けた全人代常務委員会によっていつでも変更可能だということになったのである。新法の3条には「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導により」という文言が追加され、習近平の権力はより強化された形だ。全人代の常務委員会の委員長は習近平に非常に近い関係にある栗戦書であることにも着目しておくべきだろう。

習近平の独裁強化?激しさを増す権力闘争

 この動きは明らかに李克強首相の権限の縮小を意味する。李克強が決めて全人代で一旦承認されれば、その後は外部から手を入れられることのなかった国務院の人事について、習近平が気に入らなければいつでも動かせるように変更したわけだからだ。李克強がこのことを面白いと感じるわけがない。

 李克強は全人代の政府活動報告において、「大規模な貧困回帰が発生しないようにする」との文面を「大規模な貧困脱却が発生しないようにする」と、真逆の意味合いになるような読み間違えをしたが、これは習近平に対する嫌味ではないかと言われている。すなわち、習近平が自分の手柄として打ち出している貧困脱却が本当はうまく行っていないことを、暗に示したというわけである。「それでも習近平が中国経済を崩壊させる」の中でも書いたように、習近平と李克強との対立は前々から激しいものがあったが、この人事変更によって自分に敵対的な李克強の権限を習近平はさらに縮小させ、自分の権力を強化したというわけである。

2人の間には「ソーシャルディスタンス」以上の距離が?
 但し、この人事変更によって追い落としが図られたのは李克強だけではない。むしろ追い落としの本命は胡春華副首相だと考えられている。胡春華は16歳で北京大学に入学した秀才であるばかりでなく、実務の面でも極めて有能であることは皆が認めるところであり、ポスト習近平の筆頭候補だと目されている。個人独裁を生涯続けたい習近平にとって、胡春華は目の上のたんこぶになっているのだ。

 習近平による反習近平派に対する締め付けは極めて強い。アントフィナンシャルの上場中止は、江沢民派の財務強化を阻止する動きとして考えることもできる。アントには江沢民の孫の江志成が大量に投資していることがわかっており、こうした勢力を儲けさせないように習近平が動いたと見られるからだ。中国共産党は2月に「腐敗」に焦点を当てた10項目の禁止事項を発表したが、これまた江沢民派のさらなる追い落としのためではないかと見られている。

 このように見ていくと、圧倒的な権力を背景に習近平がますますその権力を強化しているように感じる。だが、これによって従来の権限や利権を奪われている側からすれば、内心では習近平に不愉快な感情を抱いているのは間違いない。こうした勢力が面従腹背によって密かに習近平を裏切る動きをしており、その一つの表れが全人代期間中の株価の下落ではないかとも見られている。習近平派の中から反習近平派に鞍替えする動きもかなり出ているとの見方もある。

 表面的には習近平独裁がますます強固になっている中で、その背後では反習近平派が協力関係を築きつつある。そして彼らが習近平の追い落としのために、その「失政」を演出しようと動いているとすれば、中国経済の崩壊はさらに見えやすくなることになるだろう。

朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

【最終通告】ただちに「中国崩壊」から逃げろ!【WiLL増刊号#452】

朝香さん出演の『WiLL増刊号』はコチラ!