朝香豊:習近平「不動産切捨て」路線で中国バブルは崩壊間近

朝香豊:習近平「不動産切捨て」路線で中国バブルは崩壊間近

「借り換え不可」「預金凍結」「住宅販売停止」でピンチ⁉

 中国のバブル崩壊はいよいよ本当に起きそうな状況になってきた。この象徴的な動きが中国一の不動産ディベロッパーである「恒大集団」をめぐる環境変化に表れている。

 恒大集団は膨大な債務の返済期限が近づくと、これを借り換えることで破綻を免れてきた。だがここに来て恒大集団の破綻もやむなしとの空気が醸成され、今後の借り換えを認めない動きを銀行側が示していることが報道されるようになった。7月1日に行われた中国共産党創建100周年の記念式典が終わったことが1つの節目になっているようである。

 こうしたなか、広発銀行の宜興支店は恒大集団の1億3200万元(約22億円)の銀行預金を凍結するように求める動きに出た。そして同支店のある江蘇省の中級人民法院(下級裁判所)は、これを認める判決を7月7日に下した。恒大集団が同支店から借りている資金の返済ができなくなることを予想して、広発銀行は銀行内にある恒大集団の預金を動かせないようにすることを認められたというわけである。ちなみに広発銀行は広東省を中心とする銀行で、同じく広東省を基盤にしてきた恒大集団とは深い関係がある。

 この判決に不服な恒大集団は、逆に広発銀行を提訴した。広発銀行からのローンの返済期限は2022年3月27日で、まだ半年以上先になる。これを凍結されてキャッシュフローとして使えないのでは、恒大集団としてはたまったものではない。広発銀行はやりすぎだ、というわけである。

 実際、広発銀行と同様の処置を他の銀行も次々とやり始めたら、恒大集団のキャッシュフローは完全に止まることになる。それでは事業ができなくなるとの反発があるのは、ある意味では当然だろう。そもそも恒大集団が資金調達として重用しているドル債は、優先返済を前提とするシニア債として発行されており、銀行の預金の差し押さえがドル債の返済よりも優先する事態は、本来あってはならないことだ。

 その後、恒大集団と広発銀行は両社間で起こった問題は適切に解決したとの発表をしたが、どのような解決を行ったのかの具体的な中身は実はさっぱりわからない。つまり、肝心の預金凍結の扱いがどうなったのかは不明のままなのである。

 7月14日には、湖南省邵陽市の住宅当局が恒大集団による預託口座(顧客からの資金を預かるための口座)の扱いが適切でないとして、中国恒大の2カ所の開発地の住宅販売の停止に踏み切ってもいる。ただし、この処置はすぐに解除された。

 そして7月21日、香港を代表する巨大銀行であるHSBCとスタンダード・チャータードが、恒大集団が香港で手掛けている2件の住宅開発プロジェクトに関連した新規融資(住宅ローン)を停止したことが明らかになった。香港で新しく開発される住宅団地2件について、購入者が申し込むローンの取り扱いをこれらの銀行が取りやめたというのである。すでに申し込みを受け付けたローンについても、ローンが下りるかどうかわからない状態にされ、購入希望者がこれらのプロジェクトのマンション物件をローンで購入することができないようにされたわけだ。そして中国銀行、恒生銀行、東亜銀行も同様の処置をとったということも報じられた。

 これをそのまま解釈すれば、恒大集団が新たなキャッシュを獲得するのは厳しく制限されることになる。恒大集団にとって、これが大きな逆風であるのは間違いない。その後、HSBCと中国銀行は香港金融管理局の要請に応じて、住宅ローン停止を再び考え直しているとの報道もあるが、これもまた、実際どうなったのかは明確にはなっていない。

 恒大集団の倒産が秒読みだから、購入者に不測の事態が生じて大きな損害が生まれるのを中国政府が恐れているのだろうと、普通であれば考えるだろう。だが、実際の様相はかなり異なる。
朝香豊:習近平「不動産切捨て」路線で中国バブルは崩壊間近

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「借り換え不可」「預金凍結」「住宅販売停止」の三重苦に苦しむ恒大集団
※写真はイメージ

中国経済の健全化を図る「習近平の誤算」

 恒大集団は同業の金茂集団と万科集団に保有資産の一部の売却をするなどして、負債の圧縮に必死に取り組んできた。その結果、今年上半期の契約累計売上高は3567億9000万元(約6兆円)と、過去最高に達した。同社の負債はブルームバーグによると昨年末段階で3000億ドル(約33兆円)だとされていて、日本国内ではこの数字ばかりが報道されているが、これとは違う報道も実はある。有利子負債は昨年の最高で8700億元(約15兆円)あったのが、現在は5700億元(約10兆円)レベルにまで下がったというのだ。純負債比率は100%を下回る水準まで改善し、中国政府が求める3つの水準のうち1つについては目標を達成したという。これをもとに恒大集団は株主に対する特別配当を検討していて、これについては7月27日の取締役会で発表するとされている。

 このように、恒大集団は財務内容の改善のために必死に動いているのに、なぜか次々と厳しい締め付け策が発表されているようなのである。しかも恒大集団が破綻したら、その経済的な影響はとても無視できない巨大なものになることがわかっていながらだ。そうかと思えば、そうした締め付け策が発表された後には、それを緩めるかのような揺り戻しの動きも生じている。このような流れが何度も繰り返されている形になっている。これをどう解釈すればよいだろうか。

 私には、あまりにもあからさまな動きは避けながらも、習近平政府が恒大集団を意図的に追い詰めている流れに見える。すなわち、不動産経済の象徴ともいえる恒大集団を潰すことで、不動産価格の上昇期待を中国国民から完全になくさせることを、習近平は考えているのではないかと思うのだ。

 習近平は国家発展のために本来向けられるべき資金が不動産に回るという不健全な状態を終わりにし、資金が不動産以外の実業に回っていくことが正しいあり方だと考えている。だからバブルを崩壊させれば、経済は健全化すると思い込んでいる。ところが、現実にはバブルの崩壊は資産価格の下落を発生させ、企業も個人も資産が少ないのに負債が膨大にある状態に陥る。これによって自己資本が消失する事態になり、却って実業に向ける資金が枯渇することになる。この仕組みを習近平は実はよくわかっていないと思われる。

習近平路線で経営に苦しむ不動産企業は他にも……

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狙ってやっているのか、経済の仕組みがイマイチわかってないのか…
 また、習近平は地方政府がインフラ投資などの資金源としてきた融資平台(地方政府が母体となった関連会社)の隠れ債務の増加を問題視し、それを可能にする融資を厳禁にした。融資平台に対する地方政府の暗黙の保証が完全になくなり、必要なお金を賄う融資も受けられなくなれば、融資平台はデフォルト(債務不履行)するしかないが、習近平はそれでも構わないと思っているようだ。

 中国財政省はバブルの抑制を口実とした固定資産税の試験導入の方針を5月に示した。これまで上海と重慶には建物だけを対象とした固定資産税はあったが、今回は土地使用権も対象とした本格的なものだとされている。深圳市などで試験導入された後に、順次対象地域を広げていく方針である。

 さらに7月22日に韓正副首相は不動産市場を短期的な景気刺激策として活用することはないと述べた。また韓正副首相は、地方政府は不動産開発業者の資金調達について銀行融資を含めて厳しく管理し、土地の価格設定メカニズムを改善すべきだとも述べた。実際、中国では政府の打ち出した厳しい不動産投資の総量規制で、中古住宅ローンの貸し付け業務を停止する銀行が相次いでいる。新築住宅ローンの受け入れも停止しているところも出てきている。

 習近平が不動産バブルを潰す政策に踏み込むなかで、経営環境が厳しくなっている中国の不動産企業は恒大集団だけではない。6月には華夏幸福が635億元(約1兆800億円)のデフォルトに陥った。華夏幸福は年内に2000億元(約3兆4000億円)の債務返済が求められるとされる。また7月に入って、四川省の新興不動産企業「藍光集団」も9億元(150億円)のデフォルトを起こした。藍光集団は延滞債務の総額が670億元(1兆1000億円)に達しているとしている。そして、泰禾集団も返済できなかった延滞債務の残高が445億元(約7500億円)に達したが、年末までに返済期限が到来する債務はまだ319億元(約5400億円)ある。

 2021年に入ってから7月24日までの段階で、中国全土でなんと750社の不動産会社が破産申請を行っている。A株(中国国内で中国人投資家だけが買える株式)上場の不動産会社のうち今期の業績予想を公表している企業の約45%が、赤字決算予想を発表しているほどなのだ。

 習近平路線のもと、中国のバブル崩壊はいよいよ本格段階に入ってきたといえるだろう。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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