【朝香 豊】軍門に下った戦犯企業――「中国制裁」に動く...

【朝香 豊】軍門に下った戦犯企業――「中国制裁」に動く欧米との協調を

中国に迎合したアシックス

 ウイグルでの人権弾圧に関連して、M&HやNIKEなどが新疆綿の取り扱いをやめたことで、中国国内でボイコット運動の対象にされた。持続可能な綿花栽培を促進するためのNGOのBCI(ベター・コットン・イニシアティブ)が昨年10月に新疆綿に対する認可証の発行を停止したことで、BCIに参加しているメーカーは軒並みボイコットされ、日本のユニクロもその対象とされた。

 こうした中、日本の靴メーカーのアシックスは上記したようなメーカーと真逆の動きを見せた。アシックスはBCIからの離脱を決め、アシックスの中国法人は「中国に対する一切の中傷やデマに反対する」との声明を出した。この声明では新疆綿を含む中国からの原材料の購入を引き続き行うとしただけでなく、台湾は中国の一部分とする「一つの中国原則を堅持」し、「中国の領土と主権を断固として守る」ことに賛同した。声明は日本の本社の了解のもとで出されたものだが、とするとアシックス本社は尖閣諸島に対する中国の領有権の主張にも賛同したことになる。アシックスはこの問題の重大性をまったく考えず、中国でのボイコットをただただ恐れ、中国政府に迎合する態度に走ってしまったのだろう。
※編集部注 アシックス本社は、このコメントが中国法人が「許可を受けずに出したもの」であると否定した、という報道も(3月31日)
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売るためには何でもアリか?
 バツの悪いことに、アシックスは2020東京オリンピック・パラリンピックのゴールドパートナーでもある。しかもスポーツ用品部門唯一のゴールドパートナーであり、東京オリンピック・パラリンピックの象徴的な存在ともなっている。アシックスがここでの対応を間違えると、東京オリンピック・パラリンピックの倫理性が問われる事態になりかねない。そして、それはアシックスの国際的なイメージダウンに直結し、多額のスポンサー料を支払いながらブランド力を大きく落とすリスクまで考える必要がある。

 ウイグルの人権状況をめぐる問題では、日本政府も「深刻な懸念」を表明したものの、G7加盟国の中で唯一中国への制裁に参加しなかった。これも恐らく東京オリンピック・パラリンピックの開催成功を考え、中国の反発を恐れてのことだろう。だが、このような八方美人的な態度が却って国際社会から不信感を持たれることになることを日本政府も理解すべきだ。

 中国側がウイグルでの人権弾圧の問題で過剰反応を示した結果として、2022年の冬季オリンピックの開催地を北京から変更しようとする動きは今後ますます強まることになる。ここに至っては、中国のご機嫌も取りつつ、東京オリンピック・パラリンピックの栄誉ある実施も行いたいというのは極めて難しくなった。この全体構図が日本政府もアシックスも読めていないように思う。ここまで来たら、アシックスはBCIに再参加して中国からボイコットされる道を選び、日本政府も他のG7諸国と歩調を合わせて中国に対する制裁に動くべきではないのか。

日本が進むべき方向性

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中国でのオリンピック開催にNO!
 この結果として中国が東京オリンピックのボイコットに動けば、却って来年の冬季オリンピックの北京からの開催地変更の動きがスムーズになる。これはこの問題の対応に苦慮している国際オリンピック委員会にしても、内心では却ってありがたいということになるだろう。

 しかも中国は現在まだアメリカの制裁下に置かれているイランとの間で経済関係や外交関係の強化をうたった25カ年の協力協定に署名した。これは中国がイラン産石油を大量に購入する代わりに、イランは中国の一帯一路構想に完全に参加し、通信・港湾開発・鉄道・エネルギーなどさまざまな分野への中国の投資を歓迎することになる。そして実際に中国のイランからの原油の輸入は、アメリカの許容条件を完全に無視する形ですでに大幅に増えているのである。

 この動きにアメリカのバイデン政権はどう動くことになるのだろうか。バイデン政権としてはオバマ政権下で達成されたイランの核合意に完全復帰して、そのもとでイランに対する制裁を解除する路線を思い描いていたはずだ。イランとの取引が問題ない状態になってからであれば、中国がイランから大量の石油を買おうが、イランとどんな協定を結ぼうが、問題視しないですますこともできた。だがまだトランプ政権下で課された制裁が有効である状態で、この制裁を公然と破る動きに中国側が出たことを、バイデン政権が黙認することは非常に難しい。バイデン政権がこれにより対中制裁に動くとすれば、中国もこれに対抗せざるを得ないことになる。

 そもそも中国が関わる問題はウイグルだけでなく、香港、南モンゴル、チベット、台湾、南シナ海、尖閣列島、ミャンマーと多岐にわたり、このどれにしても習近平も西側陣営も妥協ができない。中国の非道な行いに対して西側諸国が敏感になってしまった中では、西側陣営と中国は並立することが難しい状況に陥り、この中でどちらか一方を選ばざるを得ない段階に入ってきた。

 麻生太郎副総理・財務相は麻生派の総会で、西側諸国との摩擦が増えている中国に向かう姿勢に関して、「米ソ冷戦の時は欧州だったフロントラインは、米中の場合はアジア、ジャパンだ」「その覚悟がなければ政治家として対応を間違える」と述べた。この麻生氏の示している方向性こそが日本が進むべき方向性であることを、日本政府もアシックスもまたその他の日本企業にしても、しっかり理解しなければならないといえるだろう。
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朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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