【朝香 豊】ミャンマー・軍事クーデターの背後に中国の影

【朝香 豊】ミャンマー・軍事クーデターの背後に中国の影

クーデターの真相

 ミャンマーでは軍事クーデターが発生してから1カ月半以上になるが、この間に軍の銃撃によって命を落としたミャンマー国民は200名を超える事態となった。クーデターに反対する人たちが連絡を取るのに利用するSNSが遮断されるなどの情報統制も強まっている。

 このクーデターの背後に中国がいるのは明らかである。クーデターが勃発するわずか20日ほど前に、中国の王毅外相がミャンマーを訪問し、今回のクーデターの中心に位置するミン・アウン・フライン司令官と長時間の会談を行ったことはよく知られている。外務大臣が訪問国の軍の司令官と会談すること自体が異例のことだが、この場においてクーデター計画についてかなり突っ込んだ話し合いが持たれたのは確実だろう。ミャンマーは歴史的にも中国の影響力が圧倒的に強く、中国の承認なしにクーデターが起こせるはずもない。

 実際、中国はこのクーデターを「クーデター」とは認定せずに「内閣大改造」という扱いにし、軍に対する批判を避けた。国連の安全保障理事会でこのクーデターに対する非難決議を上げようとしたところ、中国はこれにも徹底した抵抗を行った。イギリスが作成した声明草案からクーデターを非難する文言は消され、単に「深い懸念」を表明するものにさせられ、実質的には国連安全保障理事会はミャンマー情勢に対して無力さをさらけ出している。

アメリカの強硬姿勢

 さて、軍事クーデター勃発後に軍はミャンマーにおける国際線の航空路線を禁止した。にもかかわらず、中国の昆明とミャンマーのヤンゴンとの間で夜間に飛行機が飛んでいることが確認されている。こうした航空機は一晩に5便ほど飛んでいるのだが、国際航空規則に違反して、飛行状況を伝える無線通信機を作動させていない。こうした素性を隠した飛行機の発着があることもまた、中国がクーデターを行ったミャンマー軍と密接な関係があることを示している。

 この事実が発覚したら、中国側は海産物を輸送しているだけだというバレバレの言い訳をしたが、飛行機による輸送が行われていたのは、インターネット情報のコントロールを行うIT技術者や人民解放軍兵士とか武器弾薬ではないかと見られている。

 アメリカのバイデン政権は2月11日にミャンマー国軍の幹部や関連企業に、米国内の資産凍結や米企業との取引禁止などの制裁を発動し、3月10日にはその範囲を幾分拡大した。だが、肝心の黒幕である中国に対する制裁は全く発動していないし、非難もしていない。ブリンケン国務長官はミャンマー国軍に対し、民主的に選ばれた政府に権限を返上し、デモ参加者への暴力をやめ、不当に拘束した政治家などを解放するよう主張してはいるが、それは口先だけのことであり、事態を根本的に変革する気は毛頭ないと見るべきだ。

 このミャンマーのケースは、バイデン政権の対中姿勢がどのようなものであるかを如実に表しているように思う。一見すると中国に対して極めて強く出ているように見えるが、本質的に
は中国と対決する気はないのだ。
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ブリンケン国務長官(左)をはじめ、バイデン政権の対中強硬発言は本心なのか

日本こそ声を上げよ

 香港での選挙制度の抜本的な改悪に対応して、新たに24人と「重要な取引」を行った外国金融機関を制裁対象にできるとの制裁を発動したことにはなっているが、これらの24人は以前から米国内の資産凍結などの制裁対象に指定されていた人物であることを忘れてはならない。

 つまり、この24人が外国金融機関ともはや「重要な取引」などしているはずもなく、実質的には中国には全く痛くも痒くもないものであった。中国側はバイデン政権が口先では激しいことを言いながら、実質的には中国の行為を黙認していることを理解しているだろう。

「ミャンマーのクーデターの黒幕は中国なのだから、中国を厳しく制裁すべきだ」という声を誰かが上げなければならないわけだが、アメリカがやらないのであれば、日本がやるべきではないのか。中国政府から日本企業への嫌がらせが増えることを懸念して躊躇しているのだろうが、中国経済が崩れかけている中では日本企業には早々に中国からの撤退を促すべきなのであり、むしろこうしたやり方を奇貨として活用すべきだと考える。

 中国政府による日本企業への露骨なイジメが発生すれば、それは欧米企業の対中姿勢の見直しにもつながり、対中包囲網の強化にもつながる。さらに言えば、中国の経済崩壊を加速させることにもつながる。日本がきちんと声を上げれば、中国に対してビクビクしているASEAN諸国を大きく励ますことにもなる。グローバルリーダーとしての日本の存在感を大きくし、中国以外で日本企業が商売をするのを却って助けることになるだろう。

 こうして見れば、日本の受ける損害が意外と小さく、むしろメリットが大きいことがわかる。菅政権が勇気を出して一歩踏み出すことを期待したい。
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朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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