【山口敬之】「ゼロコロナ」立憲民主党の矛盾【山口敬之の深堀世界の真相㉕】

首都圏で発令されていた緊急事態宣言が、3月21日に解除されることとなった。その判断に対して立憲民主党枝野代表は反対を表明し、「第4波が生じれば内閣総辞職では済まない」とまで述べた。しかし、立憲民主党が主張を続ける「ゼロコロナ」を本気で達成するためには、緊急事態における私権の制限と、必然的に伴う「憲法改正」がマストの議論のはず。それを避け続ける同党は本気で「ゼロコロナ」を実現させる気があるのか――。

【山口敬之】「ゼロコロナ」立憲民主党の矛盾

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 立憲民主党の枝野幸男代表は18日、「東京や埼玉ではすでにリバウンドが始まっていると言わざるを得ない状況。この状況で解除をすると感染者が急増する可能性が高い」と述べ、「解除は時期尚早であり反対せざるを得ない」と述べた。

 そして「十分に感染が収まらないまま解除を強行して第4波が生じたら、内閣総辞職では済まない大きな政治責任が生じる」と発言した。

 これは菅義偉首相が18日、首都圏4都県に出している緊急事態宣言を21日までとする方針を示した事に関連して行われた質疑で飛び出した発言だ。

 今回の緊急事態宣言が、感染者数の抑止という意味ではほとんどと言っていいほど効果を上げなかったことは、これまでの連載で繰り返し示した。

 効果の薄い政策の代償として、多くの飲食店が閉店に追い込まれ、経済は深刻なダメージを受け続けている。国と東京都が事前に示した解除基準を全てクリアした今、なおも宣言延長を主張するのは、狂気の沙汰だ。

 そして、今回もう1つ明らかになったのが、立憲民主党という政党の根本的論理破綻だ。

解明されていない「拡大要因」

 これまで日本では、3回の感染拡大が観測されている

 ①第1波のピーク:昨年4月上旬
 ②第2波のピーク:昨年8月上旬
 ③第3波のピーク:今年1月上旬

 第1波は、中国・武漢などから持ち込まれたウイルスによる初めての感染拡大だ。
 
 昨年1月には中国人を始めとする266万人の外国人が来日。1月27日に中国が海外団体旅行を禁止し、政府が水際対策として、感染源となった中国・武漢市を含む湖北省からの「入国拒否」を表明したのが1月31日。

 逆に言えば、1月一杯は爆発的感染拡大が始まっていた武漢などから、少なくとも数千~数万人単位の感染者が無検査で来日したと見られている。

 ウイルスの大量流入や国民の行動変容の結果が、感染者数として観測されるのはおおよそ2週間後ということは、専門家の統一見解だから、本来なら遅くとも2月の初頭には日本国内での感染拡大が観測されていたはずだ。しかし、実際に第1波が始まったのは3月下旬。このタイムラグの仕組みは誰も解明できていない。

 そして、昨年4月7日には初めての緊急事態宣言が首都圏と大阪福岡など7都府県に出され、4月16日に全国に拡大された。

 緊急事態宣言下では、不要不急の外出自粛ご強く要請され、学校も全国一斉休校となった。デパートや商店の閉鎖、イベントの自粛なども、一部の例外を除いて徹底された。

 その後の感染収束で、緊急事態宣言は首都圏、関西圏など8都道府県以外の39県で5月14日に解除。5月25日までに全ての緊急事態宣言が解除された。

 これにより全国で学校が再開され、会社や商店も一斉に営業を再開し、国民も自粛から解き放たれ、少しずつ外出機会を増やした。宣言解除で、5月中旬以降全国規模で「経済活動の活動再開」という行動変容が起きたことは間違いがない。

 もし立憲民主党のいう通り、「緊急事態宣言の解除」という政策変更が、感染拡大を直接的に引き起こすのであれば、昨年6月初頭から中旬にかけて感染拡大の兆候が観測されていたはずだ。

 ところが、6月は感染者数は低いまま推移し、感染拡大の兆候が確認できたのは7月に入ってからだった。

 これらの「ファクト」が明確に示しているのは、「緊急事態宣言の解除」と「感染拡大」の関係性は証明されていないということだ。

拡大要因はいまだに解明されていない
※写真は閑散とする日本の空港

「ゼロコロナ」3つの誤り

 世界的にも「感染拡大がなぜ始まり」「なぜ収束するのか」という答えは出ていない。

 感染拡大は、ロックダウンなど強制力を伴う措置を出している国でも始まるし、昨年夏のスウェーデンのように、政府がほとんど抑止措置を取らなかった地域でも自然に収束した。

 「感染拡大」「感染収束」が人智を超えた現象であるにもかかわらず「第4波が来たら内閣総辞職」というのは、天下の暴論だ。

 立憲民主党は感染を完全収束させた上でその後の生活再建を目指す「ゼロコロナ」戦略という立場を取っている。「まず徹底した感染防止策で感染を抑止してから、通常に近い生活や経済活動に戻す」という。

 この主張は、3つの意味で根本的に間違っている。

① 定義不能な「完全収束」
 感染の完全収束とは、何を意味するのか。日本全国での新規感染者ゼロを目指すというのであれば、本当にそんな事が出来るのか。そもそも未知のウイルスの完全収束とは、「集団免疫の獲得」以外にない。定義もできない、あいまいな「完全収束」を謳っていること自体が、詐欺のようなものである。

② 「完全収束」後、第4波は絶対に来ないと言えるのか
 さしもの立憲民主党も「完全収束後」は外国人の入国も認めるだろう。それならば、PCR検査には誤差(偽陰性)が付き物なのだから、空港で変異株の流入を完全に止めることは不可能だ。それでも、「第4波が絶対に来ない」と言い切れるのか。
 第4波を起こさないことが「政治の責任」という論理が、そもそも破綻しているのだ。

③ どういう手段で「完全収束」させるというのか
 現在の緊急事態宣言が感染抑止の効果を十分に挙げていないことは立憲民主党も認めている。それならば、今よりも踏み込んだ措置が取れるよう、政府に権限を与えない限り、「国民の行動制限による完全収束」など見込めるはずもない。

 特に③を掘り下げていくと立憲民主党という政党の根本的論理破綻に行き着く。

本気であれば避けれない「強制措置」

 欧米各国では、昨年来感染拡大に対して、私権制限を含む「徹底した措置」をとった。これは各国の憲法が政府に緊急事態における強制措置の発布を保障しているからだ。

 例えばイタリアでは昨年2月23日、
 
 ・感染地域から域外への移動禁止
 ・商業活動の停止

 など、北部を対象に罰則を伴う措置を断行した。さらに3月10日には緊急事態宣言を全土に拡大し、

 ・移動制限
 ・全ての公立・私立学校の強制休校
 ・飲食店の夜間営業停止
 ・食料品店や薬局を除く全ての商業活動の強制休止
 
 に踏み切った。
 同国の強制措置の根拠となったのが、2018年に拡充された「災害防護法典」だ。
 
 イタリア共和国憲法は国家の非常事態において、法律と同等の効力を有する緊急法律命令を、法律制定の手続きを省いて制定する権利を首相に与えている。

 この規定を使ってコンテ首相(当時)は次々と「緊急法律命令」を発布、未知のウイルスの感染急拡大に様々な強制措置を打ち出した。例えば3月17日の緊急法律命令では、感染を知りながら自宅隔離令に反して外出した場合、最長12年の懲役を科すことができるようになった。

 もちろん憲法の規定で緊急事態に「抑止力」「強制力」をリーダーを付与しているのは、イタリアだけではない。欧米各国はもちろん、中国、台湾、韓国、東南アジア、中東、アフリカの各国で、「強制力を伴う緊急事態法制」の整備されていない国は皆無といっていい。

ロックダウンが可能なのは「法制」があるからこそ

「口だけ」批判はもう不要だ

 しかし、日本の憲法には緊急事態条項がないため、政府は強い措置は一切取れなかった。「ロックダウン」や「営業やイベントの即時中止命令」は私権制限であり、集会の自由を謳った憲法21条などに抵触するからだ。

 立憲民主党が「徹底した措置」による感染抑止を主張するなら、少なくとも欧米並みの私権制限は不可欠だ。ところが、立憲民主党は強制措置に必要な憲法改正論議には一切踏み込まない。国民の生命と財産を守る決意がない証拠だ。

 今回のコロナ禍は、パンデミック対応のためには憲法改正が不可避であることをはっきりと示した。にもかかわらず、「次の未知のウイルス」に備えた抜本的議論は全く進んでいない。

 野党のみならず与党議員も含めて、今パンデミック対策の抜本的な法整備に正面から取り組まない国会議員は、国民の生命を危険に晒(さら)す政治家失格の烙印(らくいん)を押されてもやむを得まい。

山口 敬之(やまぐち のりゆき)
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)がある