眞子さまの「複雑性PTSD」は国民のせい?―反皇室プロガンダに利用される懸念【橋本琴絵の愛国旋律㊹】

眞子内親王と小室圭氏の結婚が発表されるのに合わせて、眞子様が「複雑性PTSD」と診断されていることも明らかにされた。しかし、「複雑性PTSD」とは非常に重篤な症状で、時に正常な判断能力を失わせる可能性すらあるのである。「複雑性PTSD」診断の問題点と、その症状が反皇室プロパガンダに利用される危険性について述べる。

橋本琴絵:精神障害の政治利用――眞子さまの「複雑性PTSD」は国民のせい?

暗に皇室を危惧する国民世論を批判

 令和3年10月、秋篠宮眞子内親王殿下と小室圭さんの結婚と渡米が発表された。日本国内メディアに負けず劣らず、海外メディアもこの御結婚について報道している。

 たとえば米ワシントンポスト(9月26日付)では「ハリー王子とメーガン妃についてご存じですか? 今回は、日本をお騒がせ中の眞子さまと圭さまをご紹介します」と題して記事を配信し、英デイリーメール(9月25日付)は「天皇の姪が反逆者となって結婚発表。130万ドルの結婚費用を辞退して法科大学院生の婚約者を巡る議論。日本国の伝統に照らして前例のない脱却に成功」などと、英国王室の騒動に比定する形でゴシップ扱いをしている。日本の皇室がゴシップ扱いされ、このように海外大衆の嘲笑と耳目を集めたのは建国以来、初めてのことではないだろうか。

 その論調は「伝統に照らして結婚に反対された2人が自由の国で愛を育む」というものである。米ニューヨークタイムズ(10月1日付)が発信した記事では、「昭和天皇の末娘島津貴子氏は銀行員の夫に随行してワシントンDCで生活されたときを振り返り"日本に住んでいたより幸せでした"と語っている」と60年近く前の朝日新聞記事を引用して報道した。

 これらの状況を俯瞰すると、海外メディアは「ゴシップ扱い」と「眞子内親王殿下の米国生活を何らかの形でジャパンバッシングに利用できないか探っている」ように感じる。前者だけであればそれほどの反日効果はないが、後者に利用された場合は、これまでのどの反日運動よりも峻烈なものとなることが予想される。なぜならば、眞子内親王殿下は「天皇の姪」であり、「皇位継承権者の娘」であり「皇室の内部事情」を御存知であられるからだ。

 あらかじめ読者諸君に申し上げたいことは、本稿は眞子内親王殿下が「そうされる」と断定しているものではない。ただ、「悪意ある者に利用された場合どうするのか」という警告として読んでいただきたく思う。

 まず問題視すべきは、10月1日に精神科医の秋山剛氏が眞子内親王殿下を「複雑性PTSD」と診断された旨を発表し、かつその発症原因が「言葉の暴力」にあると述べ、暗に今般の御結婚に反対したマスコミや国民世論を批判したことである。筆者には、これに対して率直に「そうなのか」と納得できない理由がある。なぜなら、この「複雑性PTSD」および「PTSD」はこれまでの社会で数多く政治的利用をされてきたからだ。その経緯や事例を3点紹介し、今後の対策と傾向の一助にしていただきたく思う。

問われる診断理由の妥当性

 第1に、≪精神障害≫の定義についてである。現在、精神障害の定義は二種類ある。WHOの策定した「ICD-11」とアメリカ精神医学会が発行する「DSM5」である。現在の人類社会の精神医療は、我が国を含めてこの二種類の診断基準書を併用するか、どちらか片方を使っている。

 そこで、この二つの基準書に照らして「複雑性PTSD」を見てみると、アメリカの精神医学の方では「誹謗中傷で複雑性PTSDを発症した」などということは医学上、絶対的に認めていない。一方、WHOでは「逃れることが不可能な状況下での脅迫または恐怖を経験し続けること」と定義しており、恐怖の具体例として「奴隷化、性奴隷化、実父などによる近親相姦」などを挙げている。よって、アメリカの基準では絶対的に認められなくても、WHOの基準に照らせば、「誹謗中傷」も「逃れることができない脅迫または恐怖」に該当する可能性がある、というのが今回の診断理由であると思われる。

 しかし、精神科医の和田秀樹氏は『AERA』(10月1日付)で次のように説明する。

 「直前まで公務をされていたことを踏まえると、『適応障害』のほうが近いと思います。複雑性PTSDは虐待を受けてきたような人が、仕事も就けず、性格も安定しないなどの症状が出るほど深刻なものです。皇室にいることで一般人では言われないようなことを多く言われる状況に適応できていないということのほうが、症状として近いのではないでしょうか。複雑性PTSDは虐待レベルのひどいときに起こるものです。悪口を言われた程度でそう診断されるのには疑問です。診断した医師の"勇み足"のようにも見えます。(誹謗中傷がなくなることで)症状が良くなるのであれば、やはり適応障害というのがより適切な診断と思います。複雑性PTSDは本当に気の毒なほど虐待を受けてきた人が多い。簡単に治るものではないです」(一部要約 太字は筆者)

 たとえば、医師は貫通銃創を診断できるが、どの種類の銃から発射された弾丸による受傷なのか診断することはできない。にもかかわらず、今回「発症を起こした事情」を医師が特定して発表し、他の精神科医からも疑義が述べられているということだ。

「複雑性PTSD」は非常に深刻な症状であることが分かる―

「PTSD」と「複雑性PTSD」は違う

 2つ目は、「複雑性PTSD」が持つその重篤性だ。そのことを知るため、一つの裁判例を紹介したい。

 原告女性(提訴時23歳)が、産婦人科の医師である祖父によって小学校6年から婚約者ができて原家族から救出された19歳になるまでのおよそ7年間、自宅の浴室などで継続的に強姦されたことによってPTSDを発症したとして損害賠償請求をした事案につき、東京地裁は請求を認容して約6000万円の損害賠償請求(内容は今後20年間の労働能力喪失に対する損害など)を認めた事案がある(東京地平成17年10月14判決。判例時報1929号62頁)。

 この事案の女性が発症したPTSDとは、眞子内親王殿下から診断された複雑性PTSDよりも「軽い症状」だと医学的に定義されている(ただし、複雑性PTSDが診断基準としてWHOが認めたのは2018年)。

 もともと、PTSDとは1980年にアメリカ精神医学会が認めたことから世界的に知られた。その背景にあった社会事情とは、ベトナム戦争に従軍した兵士が帰国後に精神症状をあらわしたため、脳の画像診断を含めた医学研究がすすめられたためだ。ベトナム戦争は、それまでの戦争とは異なり「ゲリラ戦」が戦闘の主体であった。敵が軍服を着ていないため戦闘員と非戦闘員の区別がつかず、民間人だと思っていたら背後から撃たれる事案が多発、結果として米兵のあいだには「絶え間ない恐怖」が生じたことで発症したとされる。

ベトナム戦争がきっかけとなり、PTSDが注目された
 PTSDと複雑性PTSDの違いは、骨折と複雑骨折に似ている。小指の骨を折っても大腿骨を負っても「骨折」であるが、全身を複雑骨折すると回復が不可能に近くなり、またリハビリ期間も大幅に伸びる。

 つまり、「死の認識(致死的恐怖)」が一過性であればPTSDとなり、死の恐怖が連続してかつ「逃れられない状況」であれば、複雑性PTSDとなる。

 具体的には、ひとつの戦闘行為や事故であれば「一過性」であるが、捕虜となって収容所に送られ、そこで反復的に拷問や強姦を受けた場合であれば、恐怖の頻度が異なるという話である。また、戦争ではなくても「家庭内」でもこの病気が起こる。成人女性であれば家庭内で暴力を受けても逃亡することができるが、幼児であれば物理的に逃亡が不可能となる。また、成人であっても地下室に手鎖をつけられて監禁すれば逃亡ができない。そうした状況下で起きるのが「複雑性PTSD」であると一般に理解されている。

 ここでいう「死の恐怖」も、客観的であって主観的なものではない。たとえば、ゴキブリが台所に出た時に多くの女性は悲鳴を上げると思うが、それは「死の恐怖」ではない。ゴキブリ1匹の存在は人間に対して致死的な経験をさせることが物理的に不可能だからだ。したがって、もしこれで「致死的認識」をしたのならば、それは別の病の範疇である。

 もちろん、「皇族」という立場を踏まえれば、1952年に起きたいわゆる皇居前メーデー事件のように「天皇と皇族の全員処刑」を主張する群衆が怒声をあげ続けていた光景を目にすれば「致死的恐怖」を覚えられても当然であると思われるが、少なくとも眞子内親王殿下に対する誹謗中傷を俯瞰しても、そこに「死の恐怖」が含まれているとは思えない。

 スタンフォード大学医学部精神科のMarylène Cloitre氏(米退役軍人省PTSD治療センター)は、複雑性PTSDを次のように説明している。

 「継続した自己像の否定、自分はまったくの無価値であるという認識の永続化、人間関係そのものの忌避などの特徴がある。ただし、これらの症状は境界性パーソナリティー障害の患者も示す。しかし、境界性パーソナリティー障害はこの自己否定の認識が永続化せず、浮き沈みがある。つまり、ある時は元気である時は具合が悪い。よって、この二つは似た症状を出すが鑑別できる」

 以上の点から、複雑性PTSDとは世論が考えているよりも極めて重篤な疾病であり、多くの場合において患者は意思能力を喪失しているということだ。

 つまり、複雑性PTSDなのであれば、眞子様が現在示されている「一時金の辞退の意思」や「婚姻の意思」が、真正のご本人ご意思なのか、そもそもキチンご判断できたのかについて疑義を挟む余地が多いに生じる。そもそも、客観的に見て、そのような状態の女性を親元から離れさせて外国に送り出してよいのだろうか、といった疑問を持つことが至極常識的であろう。

反皇室プロパガンダ「準備」の可能性

 第3に説明したいことは、「複雑性PTSD」を理由に思わぬ診断や鑑定がなされる危険性がある、という点だ。その点を現在米国で行われている複雑性PTSDの治療法から説明したい。

 複雑性PTSDの概念を創設したのは精神科医でありフェミニストのジュディス・ハーマンである。彼女は1992年に『心的外傷と回復』という論文にて、複雑性PTSDとPTSDは同列視できないことを、下記の通り論じた。

 「心的外傷(トラウマ)とは、受傷したときの様子を健忘してしまう。つまり、監禁された状態で近親相姦の被害を女性が受けても、加害者の犯罪行為が「軽微」であれば被害者がその記憶に基づいて刑事告訴することができるが、重度であればあるほど被害者は記憶を失ってしまうため、犯罪を法廷で証言する能力も喪失する。こうした視点が従来のPTSD治療には欠けているのである」

 この理屈に基づきハーマンらはPTSDの治療法として「催眠療法」というものを開発した。女性を催眠状態にすることで「隠された記憶」を掘り起こすというものである。そして、何が起きたのか。多くの女性が「近親相姦被害」を主張し、自分を育ててくれた実父や叔父や祖父を全米各地で大規模に提訴し始めたのである。

 もちろん、被害が実際に発生したものであった事案もあったが、「まったく身に覚えのない近親相姦」でかつて娘だった女性から提訴される男性たちがあふれる結果となった。このような結果に対して「記憶は新しく捏造できる」という批判をエリザベス・ロフタス博士(カルフォルニア大学アーバイン)が展開し、「虚偽記憶」が司法の場で多く証拠とされてきたことを批判しているが、今でも「性被害者たちの証言」がつくられていることを止めることはできていない。

 つまり何を心配しているかといううと、眞子親王が一般人となられ米国に暮らし、「複雑性PTSD」の治療を受けた場合、上記のような「催眠療法」や、その治療に伴って精神に強く影響する薬物の投与等を受けたりする可能性があるのではないか、ということだ。

 その場合、もし治療にあたる精神医学の専門家が反日の目的をもっていれば、皇室を貶めるような思わぬ鑑定書が作成されないとも限らないであろう。皇族だからといって薬物や催眠に対する耐性があるとは言えないのである。

 いくら何でも心配しすぎだ、と考える方もいらっしゃるかもしれないが、「複雑性PTSD」が社会的にそのように運用・利用されてきた事実自体は否定できない。筆者は国を思う気持ちに杞憂という楽観は許されないと考えるので、あえてこのような事案を引き合いに出させていただいた。

反皇室プロパガンダに利用されるな!
 したがって、日本政府はこの「複雑性PTSD」という疑義の容れる診断が、「アメリカ」という日本政府の施政権の及ばない地域でどのように今後運用されるのか、あらかじめ備えなければならないことを本稿は強く主張する。

 また、強い違和感を覚えさせる「複雑性PTSD」認定自体に、隠された意図や反皇室プロパガンダの「準備」の危険性はないのだろうか。特に、皇族の「職業選択の自由」や「参政権の自由」は絶対的に否定してきた人々が、「結婚の自由」だけは認めろと叫ぶ様子には強い違和感を覚えさせる。その狙いは何なのか。

 この国を愛する人々こそが、お二人とその周辺の動静に注視しなければならない理由はそこにある。
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。日本会議会員。
2021年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。