今なぜ? 日本医師会・会長選挙
中川 俊男 現・日本医師会副会長
via youtube
よりによってコロナ禍の最中に、4000万円をかけて権力闘争を行っている組織がある。それが、なんと全国47都道府県に約17万人の会員を有する日本医師会の会長選だ。
東京・新宿区で開業している院長のひとりは目の前にシールドを貼った自分の診察室で、嘆く。
「我々、現場の医師は、日々、命がけで診察に当たっている。うちは、200人近いスタッフを抱えている。彼ら、彼女らの命と生活を守りながら、地域の人々の命と健康をも守るのが使命だ。こんな重要な時期に、選挙を行い、会長交代のドタバタ劇を起こすなんてあり得ない。オリンピックでさえ延長になったのだから、特例でも作って、会長選の時期を1年後に変更したって良かった。執行部は何をしていたのか。今、最も重要なのは、コロナ禍を一丸となって乗り切ることだろう」
すでに『週刊新潮』でも明らかにされているが、6月27日に行われるこの日本医師会の会長選が問題なのだ。
現在の横倉義武日本医師会会長(第19代)は4期で引退する意向を固めていたが、このコロナ禍での会長交代という混乱を避けるため、周囲の説得もあり改めて続投を決意。
しかし、そこに「待った」をかけたのが、現副会長である中川俊男氏である。中川氏が名乗りを上げることで結果的に6月27日に選挙は行われることとなり、コロナ対応で大変な思いをしている医師たちなどお構いなしだ。
中川陣営は、出馬表明後には、この非常時にかかわらず、ぞろぞろと大勢の医師会幹部を最もクラスターの危険性の高い東京に呼び寄せて記者会見を開くという、浅はかな行動をとり、記者らの怒りを喚起した。仮に彼らが、感染源を地元に持ち帰ったらどう責任をとるつもりなのか。逆に、地方から、感染源が首都に持ち込まれていた可能性だってある。
かろうじて終息の方向に向かいつつあるコロナウィルスだが、病院や介護施設などで、多数の感染者が出たというニュースは、最近になっても頻繁に目にする。医療関係者だからこそ、配慮すべきということだ。当たり前であろう。
また、中川氏に関しては、仮に会長に当選した場合に多くの「不安」もささやかれている。
中川氏は札幌医大出身の叩き上げで、日本医師会においても常任理事2期、副会長5期と14年間にわたり役員を務めてきた。しかし、その評判は対外的にも、対内的にも決して芳しいとはいえない。
医師会内では上へは良い顔をするものの、下には独裁的であることでつとに知られ、長年医師会を取材している全国紙記者によれば、
「中川氏は自説は言い出したら絶対にひくことがなく、医師会内だけでなく、重要な交渉相手である霞が関の官僚だろうが、政治家相手だろうが構わず徹底的にやりこめる。だから嫌われているのです」
とのこと。
対内的な姿勢はともかく、官僚や政治家相手の強硬姿勢は「頼もしい」と感じる医療関係者もいるようだが、実はその点が一番大きな懸案点である、と先の記者は語る。
「実は、中川氏の会長当選を最も待ち望んでいるのは、財務省なんです。なぜなら、彼はその性格から政治家や官僚に対する信頼が全くない。なので、医師にとって最も大切な診療報酬改定で大幅なマイナス改定を行っても、中川氏の政治力ではそれをストップする力は全くないからです。一部の医師は中川氏の強硬姿勢はプラスに働くと考えているようですが、信頼関係が大きいこの世界では、そううまくはいきません」
実際、診療報酬の削減を望む財務省関係者はこのように述べる。
「横倉さんさえいなければ、日医に気を遣うことなく、医療費を削減できる」
2年に1回改訂が行われる診療報酬の改定は、横倉会長時代は小幅ながらすべてプラス改定であった。しかし、先のような事情から、中川会長が誕生すれば一転マイナスとなることは十分に考えられるであろう。
加えて、頭を抱えるのは厚生労働省だ。
今回のコロナ対応だけでなく、厚労省と医師会は常に緊密な連携を求められる。しかし、中川氏はその高圧的な姿勢から厚労官僚にも評判が悪いため、中川会長がもし誕生すれば今後厚労省は日本医師会は相手にしなくなる。
そのような事態になれば、困るのは官僚や医師のみならず、医療・治療を必要とする一般国民ではないだろうか。
しかし、中川氏は、政治家に「現場を見ろ」と喧嘩を売るなど、中川氏同様の過激派として知られる東京都医師会長の尾崎治夫氏のバックアップを取り付け、着々と当選に向けての布石を打っている。
中川氏の評判にもかかわらず、東京都医師会という大票田が中川氏陣営についたのは、「(一旦引退を表明した)横倉会長には今回は義がない」とのことだが、そのほかにも様々な思惑があるようだ。
しかし、いずれにせよそこには医療界の将来に対する真摯な思いがあるとは言い難い。
選挙の結果は6月27日の投票を待つしかないが、この困難の時期に日本の医療政策が混乱に向かわないよう国民の健康第一の姿勢で、医師としての矜持(きょうじ)を忘れないでいただきたい。
東京・新宿区で開業している院長のひとりは目の前にシールドを貼った自分の診察室で、嘆く。
「我々、現場の医師は、日々、命がけで診察に当たっている。うちは、200人近いスタッフを抱えている。彼ら、彼女らの命と生活を守りながら、地域の人々の命と健康をも守るのが使命だ。こんな重要な時期に、選挙を行い、会長交代のドタバタ劇を起こすなんてあり得ない。オリンピックでさえ延長になったのだから、特例でも作って、会長選の時期を1年後に変更したって良かった。執行部は何をしていたのか。今、最も重要なのは、コロナ禍を一丸となって乗り切ることだろう」
すでに『週刊新潮』でも明らかにされているが、6月27日に行われるこの日本医師会の会長選が問題なのだ。
現在の横倉義武日本医師会会長(第19代)は4期で引退する意向を固めていたが、このコロナ禍での会長交代という混乱を避けるため、周囲の説得もあり改めて続投を決意。
しかし、そこに「待った」をかけたのが、現副会長である中川俊男氏である。中川氏が名乗りを上げることで結果的に6月27日に選挙は行われることとなり、コロナ対応で大変な思いをしている医師たちなどお構いなしだ。
中川陣営は、出馬表明後には、この非常時にかかわらず、ぞろぞろと大勢の医師会幹部を最もクラスターの危険性の高い東京に呼び寄せて記者会見を開くという、浅はかな行動をとり、記者らの怒りを喚起した。仮に彼らが、感染源を地元に持ち帰ったらどう責任をとるつもりなのか。逆に、地方から、感染源が首都に持ち込まれていた可能性だってある。
かろうじて終息の方向に向かいつつあるコロナウィルスだが、病院や介護施設などで、多数の感染者が出たというニュースは、最近になっても頻繁に目にする。医療関係者だからこそ、配慮すべきということだ。当たり前であろう。
また、中川氏に関しては、仮に会長に当選した場合に多くの「不安」もささやかれている。
中川氏は札幌医大出身の叩き上げで、日本医師会においても常任理事2期、副会長5期と14年間にわたり役員を務めてきた。しかし、その評判は対外的にも、対内的にも決して芳しいとはいえない。
医師会内では上へは良い顔をするものの、下には独裁的であることでつとに知られ、長年医師会を取材している全国紙記者によれば、
「中川氏は自説は言い出したら絶対にひくことがなく、医師会内だけでなく、重要な交渉相手である霞が関の官僚だろうが、政治家相手だろうが構わず徹底的にやりこめる。だから嫌われているのです」
とのこと。
対内的な姿勢はともかく、官僚や政治家相手の強硬姿勢は「頼もしい」と感じる医療関係者もいるようだが、実はその点が一番大きな懸案点である、と先の記者は語る。
「実は、中川氏の会長当選を最も待ち望んでいるのは、財務省なんです。なぜなら、彼はその性格から政治家や官僚に対する信頼が全くない。なので、医師にとって最も大切な診療報酬改定で大幅なマイナス改定を行っても、中川氏の政治力ではそれをストップする力は全くないからです。一部の医師は中川氏の強硬姿勢はプラスに働くと考えているようですが、信頼関係が大きいこの世界では、そううまくはいきません」
実際、診療報酬の削減を望む財務省関係者はこのように述べる。
「横倉さんさえいなければ、日医に気を遣うことなく、医療費を削減できる」
2年に1回改訂が行われる診療報酬の改定は、横倉会長時代は小幅ながらすべてプラス改定であった。しかし、先のような事情から、中川会長が誕生すれば一転マイナスとなることは十分に考えられるであろう。
加えて、頭を抱えるのは厚生労働省だ。
今回のコロナ対応だけでなく、厚労省と医師会は常に緊密な連携を求められる。しかし、中川氏はその高圧的な姿勢から厚労官僚にも評判が悪いため、中川会長がもし誕生すれば今後厚労省は日本医師会は相手にしなくなる。
そのような事態になれば、困るのは官僚や医師のみならず、医療・治療を必要とする一般国民ではないだろうか。
しかし、中川氏は、政治家に「現場を見ろ」と喧嘩を売るなど、中川氏同様の過激派として知られる東京都医師会長の尾崎治夫氏のバックアップを取り付け、着々と当選に向けての布石を打っている。
中川氏の評判にもかかわらず、東京都医師会という大票田が中川氏陣営についたのは、「(一旦引退を表明した)横倉会長には今回は義がない」とのことだが、そのほかにも様々な思惑があるようだ。
しかし、いずれにせよそこには医療界の将来に対する真摯な思いがあるとは言い難い。
選挙の結果は6月27日の投票を待つしかないが、この困難の時期に日本の医療政策が混乱に向かわないよう国民の健康第一の姿勢で、医師としての矜持(きょうじ)を忘れないでいただきたい。
横田由美子(よこた ゆみこ)
埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。
埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。