【横田由美子】自見英子参議院議員に聞く~コロナ対応で感...

【横田由美子】自見英子参議院議員に聞く~コロナ対応で感じた政府広報の課題と今後~

課題は「リスクコミュニケーション」

 ネット上の誹謗中傷や根拠のない噂について深く考えるようになったのは、自殺した木村花さんの事件がきっかけです。ダイヤモンドプリンセス号でも実態と乖離した話がひとり歩きしましたが、これは、政府側の広報の問題も大きかった。乗客とのコミュニケーション方法が上手くとれていればもっと違ったのではないかと反省しています。

 例えば、ソフトバンク社から2000台の携帯電話をクルーズ船の客室への情報ツールとして寄付してもらい、LINEを使用して健康相談やお薬の相談、手指衛星などの動画提供を行いました。しかし、いま思えばZOOMのような機能を使って、相互交流の意見交換も出来たのではないかと思います。また、専門の広報官を置くことで、国民の皆様に随時、状況説明することもできたはずです。日本の行政全体に言えることですが、大臣の発信力に頼るだけではなく、組織としての広報を国民の安心のためにやる必要がある場合、個別の省庁では限界があると感じていました。
 
 今後の政府全体の取り組みとして、防衛省の取り組みは大変参考になります。防衛省は厚労省の何倍も広報に時間と予算をかけています。記録班もいます。やはり自衛隊を所管していることで、常に国民に対する説明責任を果たそうという強い意志があるため、広報のレベルが非常に高いのだと感心しました。公におけるPRは、前進させていく必要があります。

政治家の私生活はPR要素か?

 一方、政治家個人としては、課題を感じることの方が多いです。

 木村さんのようなケースではないですが、過去に根拠のない報道による噂に晒されたことがあります。個人としての倫理観に照らし合わせて、何ら恥じることはないのでこれ以上申しませんが、マスコミのあり方やネット上の世論の形成については、大変関心を持っています。

私は、4年前に政治家である公人という立場になりました。それまでは、ひとりの勤務医として過ごしていて、FB(フェイスブック)のアカウントも持っていませんでした。しかし、出馬にあたり政策をPRするためにも広報が重要と考え、自分自身のサイトを作り、FBでも発信するようになりました。

 多くの方の支えがあって政治家になることが出来ましたが、公にさらされるようになって、とても「怖い」と感じることもありました。それまでは、独身か否か、子どもがいるのか、どこに住んでいるかを検索されることもなかったけれど、公人になり、人々の興味に晒され、私生活も含めて調べられるようになりました。

 私は、職域代表、そして医療政策を行う人間として国会に送っていただいている立場です。国会議員は、全員が地域や職域の「専門職」、プロフェッショナルです。政治家としての「仕事」はいくらでも評価してもらいたいけれど、「私生活」の部分は関係ないと思っています。


 日本の民主主義が未熟だと感じるのは、あまりに公人の私生活に興味を持ちすぎることです。政治家は政治家という職業人で、個人の生活を公に晒す必要は全くないと思っています。一方、芸能人の方の中にも、大変苦しんでいる人がいるはずです。芸能人だからといって、私生活を披露する必要はないし、彼らの人格が傷つくことはあってはならないと思うからです。

ネット一辺倒の危険性

 民主主義は、クリティカルシンキング(注:批判的思考=感情や主観に流されず物事を判断しようとする志向プロセス)に基づくはずです。多面的な意見を採り入れて、受け取る側が自分で吟味していく。しかし、それとは逆の方向が助長されているのが、残念ながら一部のマスコミで起きているのが現状ではないかと思います。

 私は、毎日、新聞を5紙読んでいますが、新聞は大変に勉強になります。読み比べることでひとつのテーマに対して、多角的に検証することができるからです。ネットの場合は、自分が検索するワードに沿って、画面が出てきますし、検索をしなくても興味がある分野や自分の好みに沿った記事を推奨されます。大変に便利なのですが、クリティカルシンキングという意味では、考えが偏ってしまう懸念もあることに注意を払う必要があるでしょう。

 ネット上で他者の人格を傷つけるような書き込みをする人たちは、人を傷つける言葉を、おそらくは面と向かっては言えないのに、安易に書くのだと思います。今はそれが常態化しているけれど、そろそろネットメディアも成熟してくる時期なので、書き込む人たちの態様も変わってくるのではないかと考えています。

 コロナ差別の問題は、すでに政府の新型コロナウィルス感染症対策分科会「偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループ」でもテーマに上がっていますし、新型コロナウィルスに感染した議員が中心となり、「新型コロナウィルス感染症関連差別解消法案」(仮称)の議員立法が議論されています。各自治体でも様々に取り組んでおり、差別につながるような書き込みをした場合には、訴訟の材料にするための保存に力を入れている県や、削除するお手伝いをする県もあります。

 日本はIT後進国と言われて久しいですが、IT後進国だからといって、悲観することはありません。後進の利という言葉があります。先人に学び、現実的なタイムスケジュールをもって、課題の整理をしていけば、日本がIT先進国として、世界をリードすることも可能になるはずです。

 厚労省でも7月にはHPの感染状況は既にオープンデータ化しております。GMIS(新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム)という全病院・都道府県・厚労省をクラウドで結び、救急外来の状況などをデイリーで把握できるようにしたサイトや、HERSYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)という新型コロナウィルス感染症の個人情報を含むワンクラウドのシステムも今回構築いたしました。いずれのサイトもアクセス数も高く、有効に活用いただいています。このように、私が注力している医療政策もIT政策とは強く関係する分野ですので、日本がこの分野でも力強く羽ばたけるよう、一議員として引き続き努めてまいります。
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自見 英子(じみ はなこ)-参議院議員
1976年長崎県生まれ。
小児科医を経て、参議院議員選挙比例区(全国区)より当選。
2019年、安倍内閣の元で厚生労働大臣政務官。
日本医師連盟参与。自由民主党。
聞き手:横田由美子(よこた・ゆみこ) 
埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。

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