横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

政権批判ばっかりの中川俊男会長
via youtube
 8月22日、全国の新型コロナウィルス重症者数は1891人と、10日連続で過去最多を更新した。東京では、医療機関や宿泊施設のベッドが埋まり、重症患者でも入院することができずに救急車でたらい回しにされるという事例が頻発している。

 一方、若者を中心に我慢の限界や自粛疲れを訴える声が出ており、新橋の飲み屋界隈では、ビールや酎ハイなどを堂々と飲んでいる顧客の姿が目立つようになった。銀座や赤坂では、闇営業の「クラブ」が当たり前になっている。こうした事態を受け、政府分科会の尾見茂会長は、コロナ対応を「災害医療」と捉え、国や自治体が強いリーダーシップの下で、医療機関や地元医師会などの協力を求めるよう要請した。

 有事の今、本来なら、日本医師会が中心となり、国や地方自治体と伴走しなければならないが、中川俊男現会長率いる日医は機能不全に陥っている。尾見会長の提言は、菅政権が強いリーダーシップを発揮しなければ、医療崩壊はより悪化し、国民の生命が危険にさらされるレベルになると、日医を見切った形だ。

「政権批判」だけの日本医師会

 新型コロナ第5波の到来は、数ヶ月前から専門家や有識者の間で予想されていた。とはいえ、ここまで爆発的に感染が広がるとは予想していなかったのだろう。

この間、日医は、「ワクチンが足りない」ことで政権批判を繰り返してはいたが、それ以外に目立った行動はしていない。

 重症者を減らすには、新規感染者を抑える以外なく、有効策がワクチン接種しかないのは衆知の事実だ。第5波に2〜30代のワクチン接種が間に合わなかったのは、ワクチン不足解消を日医が積極的に行わず、また効率的な接種もできなかったからだ。

 日本は、ワクチンの確保については当初の予定よりも2ヶ月ほど遅れたものの、接種に関して「オリンピック開催国」ということが好材料となり、比較的早くスタートできた。つまり、効率的なスケジュールを組んでいれば、今頃は20代の学生にも接種が進んでいて、医療供給体制が逼迫する事態には陥ってなかっただろう。
横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

最前線の医師は必死なのだ―
 現場の最前線に立つ医師たちは、身を粉にして患者に向き合っているが、自分たちの力では限界があると、無力感に苛まされている。怒りの矛先は、当然、執行部に向く。 

 大学病院と連携して、コロナ患者の対応をしている中堅クリニック(東京・新宿区)の院長は、医師会に300万円も払って入会したのにと憤りを隠さない。

 「中川会長に実行力がないのは仕方ないが、説明責任ぐらいは果たしてほしい。ワクチン接種で医師が協力金を得て儲けているという話がメディアを通して流布された時、うちには、『国民の税金で儲けやがって』という苦情の電話が殺到した。ワクチンを打ちたくても打てていない人たちです。中川さんは、なぜ接種が遅れているのか、在庫不足も含めて丁寧に国民に向けて説明するべきだった。僕たちは、診療の合間に時間と人手をやりくりしてワクチンを打って、なんとかまわしている。負担額は協力金の比ではない。医師会長なんだから、もっと現場や患者の視点でものをみてほしい」

強引すぎた「個別接種」の推進

 中川会長の医師会内部での支持率は下がる一方だが、決定的に下げたのが、ワクチンの「個別接種」を強引に推し進めたことだ。

 医師会幹部は次のように経緯を説明する。

 「ワクチン接種の最強の推進力は〝かかりつけ医の個別接種〟という考え方に会長が固執して、河野太郎ワクチン接種推進担当相に直談判に行った。河野さんは、ワクチン接種を推進することが仕事ですが、単に接種が進めばいいというわけではない。日医総研を活用して現場の実態を調査・分析することを同時にやらなければ、また新たに強力な変異株が出た時、対応できないのにしていない」

 日医総研のトップは中川現会長だが、実質トップの副所長は会長の傀儡医師が抜擢され、実態は、「寿司デート」が報じられたM女史が動かしていると言っても過言ではない。機能不全になるのは当然の帰結だ。
 結果、ワクチン不足の中、個別接種が優先された。東京や大阪などの大都市圏では、大規模接種会場が設営されても、集団接種を行う方法やインフラ設備のノウハウがなかったため、キャンセルが相次ぎ、在庫をダメにした上、最終的には自衛隊に丸投げされるという異常事態に突入していった。

 事前の準備不足がたたり、初期の頃は、集団接種会場で、誤って生理食塩水(点滴用)を打つといったミスが出た。現場では、「(生理食塩水を)誰に打ったのかわからない」とパニックになり、身体に悪いものではないが、生理食塩水を誤って打たれた人は、調査の間、「自分は1回目のワクチンを打った」と思って生活していたという。笑い話ではすまされない。

 大都市圏での混乱は、以後も継続し、病床に加え医療事務も逼迫している上に、ワクチンの打ち手が圧倒的に足りない。

 地方である程度落ち着いている地域の医師会から、「高齢者のPCR検査の数を増やしたい」と提言が出たが、何ら回答がないという。

 週末はすべて大規模接種会場に出向き、ワクチン接種を行っている30代の医師が、「駅や公園に接種会場を設営して簡単に集団接種できる方法を構築することはできないか」 という提言を行ったが、こちらも無回答のまま。

 「医師会上層部は何をしているのか。ワクチン接種を進める案を政府の分科会や国会議員への根回しをするのが仕事ではないのか」 と、不信感を募らせていた。
横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

海外のように迅速な大規模会場設営が必要ではなかったか―
 日医幹部は疲労でいっぱいの様子で、こう説明する。

 「駅や公園に設営するという案が仮にいいとなっても、政界だけでなく、財界とも話をし、まとめる力のある会長でなければ難しい。中川氏では無理でしょう。彼は優秀だけどすぐ頭に血がのぼって、批判的なことを言われると交渉が決裂する。胆力がないんです。彼が『かかりつけ医』と頑迷に主張し、協力金を得ることに固執したのは、来年の選挙に備えて、地方票を取り込みたいからですよ。地方の田舎の医師には東京がどんなことになっているかわかりませんから、『中川さんよく吠えて、頑張っとるな』と考えている医師すらいる。実際、医療過疎の地域では、ワクチン接種は、かかりつけ医がやった方がスムーズに進んだんです」

 医療過疎の地域では、人口が少ないこともあり、寝たきりの高齢患者の家にかかりつけ医が出向いていける個別接種の方がむしろ効率がよかった。実際に、65歳以上の高齢者でワクチンを2回接種した人の全国的な状況を、VRS(=ワクチン接種記録システム)データでみると、8〜9割となっている。

 つまり、個別接種の段階は終わり、集団接種を中心にしたインフラ構築を急がなければいけない段階にきているのだ、会長はそうした時流を見ていないと、前述の幹部は肩を落とす。

診療報酬引き下げなら中川会長は崖っぷちに

 中川会長の抱える懸念材料はそれだけではない。年末に控える診療報酬改定で、診療報酬本体の引き下げはもはややむを得ないだろうというのだ。

 「日医と財務省の関係は未だかつてないほど最悪です。コロナ関係での予算は惜しまれていないからこそ、本体の引き下げがやりやすい事態となっている。国民は医療費の実態なんてわからないから、協力金貰っているんだから、本体では我慢しろ、俺たちはもっと大変なんだ、という感覚になっていますから」

 と、診療報酬を議論する中央社会保険医療協議会関係者からも嘆きの声が伝わってくる始末だ。

 仮に、診療報酬本体が引き下げられたら、中川会長引責辞任の声が高まり、来年の任期満了まで務めることすら危ういのではないかという。

 「都市部の幹部は中川氏を見放しつつあります。中川会長誕生の絵を描いたのは尾崎治夫東京都医師会長ですが、名ばかり学生運動の中川さんより、真性左翼として現場で戦った尾崎さんの方が実行力も調整力もあるだろうと、思想の善し悪しは脇に置かれ、中川さんの後継として尾崎株が急上昇しています。器の大きさでも尾崎氏の方が上ですし、小池百合子都知事や都職員とも良好な関係を築いているだけでなく、各区で差がありますが、企業の力を借りて集団接種が進んでいる。トップが尾崎さんだからできていることです」
 と、都医師会の幹部は言う。

 東京都という小さな国に匹敵する規模でこれだけの仕事ができるのだから、国レベルになっても、尾崎都会長ならうまく差配できるだろうと、日に日に待望論が強まっている。

 実際、昨年、第1次から3次の補正予算では、「医療の供給体制の確保」という名目で約1.5兆円の予算がついていた。ところがこの予算は数千億程度しか使われていない。もし病院に配布していれば、ベッドを増やし、コロナ専用病床をつくるといったことが出来ていたのではないだろうか。
横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

尾崎治夫・都医師会会長待望論?
via youtube

有効なはずの施策が無駄になる=ハーシス導入の例

 いま、東京では、個々の病院同士が独自に話し合い、A病院に重症患者を集中させ(コロナ専用病床)、軽症患者はB病院に転院させていくという現象が起きている。病院や医師の負担は増すが、せっかく予算をつけたのに、厚労省が仕事をサボって執行しないので、自分たちでやるしかない、という空気が産まれつつある。そして、「有事に強い会長」を望む声は大きい。

 ハーシス(新型コロナウィルス感染書情報把握・管理支援システム)事件が、そうした空気を後押しする。

 ハーシスは、感染者の状況を電子的に入力、一元的に管理し、医療機関・保健所・都道府県の関係者間で共有するシステムで、患者数の増加や居所の多様化、広域調整にも備えたシステムと表向き謳っているが、システムは、詰めが甘く手を入れないと使い物にならないというのは医師たちの悩みのひとつである。
 日医関係者は次のように明かす。

 「本来、日医総研と厚労省との間でシステムを構築する話になっていたのです。しかし、日医総研は、会長お気に入りのM女史が牛耳っていて話が滞り、なぜか大手広告代理店にハーシスの案件がいってしまった。どうしてここに広告屋が出てくるのか。皆驚きましたよ。その会社は、持続化給付金でもそうでしたが、コロナ禍に乗じて、国策事業にクビを突っ込み中抜きすることに血道を注いでいます。日医がもっとしっかりしていれば・・」

 と、怒りを隠さない。

 その上、ハーシスの管轄が各地域の保健所になっていたため、中川会長は、「なぜ保健所なんかが統括するんだ」 

 と後になって怒り、協力を拒否したため、ハーシスは置物と化してしまったのだ。

 菅政権の支持率は、3割を切り過去最低を更新した(8月10日、NHK)。支持率を浮上させるためには、早急に感染症対策を行う医療提供体制を整備して人流を戻し、経済政策を次々と打っていく必要がある。ハーシスを機能拡張させれば、不可能ではない政策は少なくないのだ。

日本医師会の「構造改革」が必要だ

 だが、今の中川執行部では、政府と協力して医療供給体制を構築することは難しいだろう。

 デルタ株に対するワクチンの有効性が、ファイザー製よりもモデルナ製が有効という研究結果が明らかになり、医療界にも政界にも激震がはしった

 筆者はモデルナを2回打ったが、3回目もモデルナでなくてはいけないのか、ファイザーではダメなのか、国産ワクチンができればそれを打ってもいいのか----という疑問が当然でてくる。それすら明らかになっていないのに、VRSの問題のひとつである、

 「市区町村ごとに異なる方法で、接種情報を管理している」という点も見過ごされたままだ。

 自治体によっては、紙で管理していて、災害などで、管理データが失われる恐れもある。

 このようなシステム上の難題もひとつひとつ解いて、感染症対策を行うには、強いリーダーシップを持つ新会長の誕生を待たなければいけないのだろうか。だが、その前に解散総選挙がやってくる。
横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

横田由美子:コロナ禍克服には日本医師会の「構造改革」が必要

医師会の「無策」で悪夢の政権交代が再び?
 現状では、電子のワクチンパスポートを発行して人流を戻し、復興経済政策を次々と打つこと可能とはとても思えない。だがそれができなければ、きたる総選挙ではかつての政権交代の悪夢が甦る危険性が高い。今、政権交代となれば、さらなる医療の混乱が起きることは間違いないのだが。国民はそこまで政党と医師会との関係性については知らないであろう。むしろ逼迫した日常と政権に嫌気がさして、新規に一層させたいと考えるのではないか。

 こうした要因をつくったのは、日医なのだから、総選挙の結果次第では、会長選挙の行い方を見直すべきだ。これまでの会長選挙では、実弾(カネ)が飛び交い、怪しげな怪文書を飛ばす専門の業者が暗躍したが、コロナ禍を通して医療がより公的なものとなった以上、こうした行為は許されないのだと、警察が摘発できるように、法律を設置するか、会長選挙の方法を変更すべきである。

 中川会長には、現況をまねいた原因は昨年の強引な会長選挙出馬にあるのだということをよくよく考えていただき、反省を望みたい。
横田由美子(よこた ゆみこ) 
埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く