人口統計のおかしさ
1月17日、中国政府は2021年のGDP速報値とともに、人口統計も発表した。
GDP速報値のおかしさについては、すでにWiLL増刊号でも解説しているので、ここでは人口統計のおかしさについて触れてみたい。
まずは公式発表と、それに基づいた世間一般の解説から始めてみよう。
最近発表された人口統計では、2021年の出生数は1062万人ということになっている。2020年の出生数の発表数値が1200万人だったから、これからさらに12%ほど少なくなったということになる。合計特殊出生率は1.1~1.2程度にまで低下し、はじめて日本の水準(1.3)よりも低くなったとされる。
1062万人という出生数は、1949年の中華人民共和国建国以来の最小で、「大躍進」政策の大失敗で全国的に大量の餓死者が出現した1961年の1187万人をも下回るものだ。
それでも中国本土の人口は辛うじて約48万人(0.034%)増え、14億1260万人となったという。
2017年の国家計画では、人口がピークを迎えるのは2030年頃とされていたが、これが大幅に前倒しになったのではないかとも見られている。人口問題の専門家である何亜福氏は昨年、2022年頃に人口減少の開始が始まるとの予測を発表した。人民日報などの中国共産党に極めて近いメディアも、人口減少が近く始まるとする記事を載せるようになっている。
だが、国家統計局の寧吉喆局長は、こうした見方を一応否定している。夫婦1組につき3人まで子どもを持つことを認める政策の効果が徐々に発揮するようになり、今後数年は年間で1000万人ほどの出生数が続き、中国の人口は14億人前後で推移し続けると見ている。
GDP速報値のおかしさについては、すでにWiLL増刊号でも解説しているので、ここでは人口統計のおかしさについて触れてみたい。
まずは公式発表と、それに基づいた世間一般の解説から始めてみよう。
最近発表された人口統計では、2021年の出生数は1062万人ということになっている。2020年の出生数の発表数値が1200万人だったから、これからさらに12%ほど少なくなったということになる。合計特殊出生率は1.1~1.2程度にまで低下し、はじめて日本の水準(1.3)よりも低くなったとされる。
1062万人という出生数は、1949年の中華人民共和国建国以来の最小で、「大躍進」政策の大失敗で全国的に大量の餓死者が出現した1961年の1187万人をも下回るものだ。
それでも中国本土の人口は辛うじて約48万人(0.034%)増え、14億1260万人となったという。
2017年の国家計画では、人口がピークを迎えるのは2030年頃とされていたが、これが大幅に前倒しになったのではないかとも見られている。人口問題の専門家である何亜福氏は昨年、2022年頃に人口減少の開始が始まるとの予測を発表した。人民日報などの中国共産党に極めて近いメディアも、人口減少が近く始まるとする記事を載せるようになっている。
だが、国家統計局の寧吉喆局長は、こうした見方を一応否定している。夫婦1組につき3人まで子どもを持つことを認める政策の効果が徐々に発揮するようになり、今後数年は年間で1000万人ほどの出生数が続き、中国の人口は14億人前後で推移し続けると見ている。
BCGワクチンの接種から見えるギモン
さて、ここで私が感じているこの統計のおかしさについて述べてみたい。
中国では出生後24時間以内にBCGワクチンの接種が義務付けられている。
2009年の公式の出生数は1383万人であるが、同年に使用されたBCGワクチンの本数は1138万本であった。単純計算ではBCGワクチン1本あたり1.2人の新生児に使われていることになる。
ワクチンの本数と新生児の数の微妙な差はなんだろうと思うだろうが、ここには以下のような事情が介在すると一応説明されている。
BCGワクチン1本には0.5ml分が入っているが、1人当たりに必要なのは0.1mlである。このため理論上はワクチン1本で5人の新生児に対応することができるが、実際にはロスが発生するので最大3人までである。
このワクチンは開封後30分以内に使用しなければならない規則になっているから、大抵1人につき1本となる。だが、大病院ではワクチン1本から2~3人の子供に接種する場合もあるので、全国平均で見るとBCGワクチン1本あたり1.2人ということになるそうだ。
ちなみに、2010年に使用されたBCGワクチンの本数は1154万本であったのに対して、出生数は1384万人であり、やはり1本あたり1.2人程度である。
ところが、中国で使用されるBCGワクチンの本数は、その後どんどん減っていっているのである。2015年には890万本となり、1000万本を切った。2018年には620万本、2019年には573万本、2020年には537万本となった。
ここから2020年の実際の出生数は537万×1.2であると計算すると、644万人程度であるということになり、公式統計の1200万人のおおよそ半分(54%弱)であったというのが、実際の数字ではないかとの推測が成り立つ。
中国では出生後24時間以内にBCGワクチンの接種が義務付けられている。
2009年の公式の出生数は1383万人であるが、同年に使用されたBCGワクチンの本数は1138万本であった。単純計算ではBCGワクチン1本あたり1.2人の新生児に使われていることになる。
ワクチンの本数と新生児の数の微妙な差はなんだろうと思うだろうが、ここには以下のような事情が介在すると一応説明されている。
BCGワクチン1本には0.5ml分が入っているが、1人当たりに必要なのは0.1mlである。このため理論上はワクチン1本で5人の新生児に対応することができるが、実際にはロスが発生するので最大3人までである。
このワクチンは開封後30分以内に使用しなければならない規則になっているから、大抵1人につき1本となる。だが、大病院ではワクチン1本から2~3人の子供に接種する場合もあるので、全国平均で見るとBCGワクチン1本あたり1.2人ということになるそうだ。
ちなみに、2010年に使用されたBCGワクチンの本数は1154万本であったのに対して、出生数は1384万人であり、やはり1本あたり1.2人程度である。
ところが、中国で使用されるBCGワクチンの本数は、その後どんどん減っていっているのである。2015年には890万本となり、1000万本を切った。2018年には620万本、2019年には573万本、2020年には537万本となった。
ここから2020年の実際の出生数は537万×1.2であると計算すると、644万人程度であるということになり、公式統計の1200万人のおおよそ半分(54%弱)であったというのが、実際の数字ではないかとの推測が成り立つ。
一人っ子政策の弊害
中国の統計偽装は最近始まったことではないのは間違いないが、習近平体制になってからは明らかにレベルが変わった。この件については拙著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)を見てもらいたい。
公式統計の1062万人が間違っていて、実数は530万~540万人ではないかと言えば、「さすがにそこまでひどくはないのでは」と思われる方もいるだろう。
だが、私は実際の数字はこの数字よりもさらに小さいかもしれないとさえ思っている。
実は私は一人っ子政策を採用している中国で合計特殊出生率が、これまで日本より上だったということが本当にあり得るのか、との疑念をずっと抱いていた。そんな中で近藤大介氏の『未来の中国年表』(講談社現代新書)を読んだら、この疑問に答えてくれる話に出会った。
この本の中には、近藤氏が知人の中国人一家と一緒にレストランに行った時に、レストランの店員さんがこの一家の2人目の赤ちゃんをとても嬉しそうに面倒を見てくれたことが出てくる。店員さんは2人目の子供というのを生まれて初めて見たと言っていて、それを聞いた近藤氏も数多く知り合ってきた中国人の中では初めてであることに気付いたことが書かれていた。
このエピソードを通じて、中国では一人っ子政策が極めてしっかりと行われていたことがわかる。兄弟のいる人がいないということになるからである。
一人っ子政策が貫徹しているのであれば、そもそも中国で合計特殊出生率が1を上回ることすらありえない話だ。一生独身の人もいれば、結婚しても子供ができない人、子供をつくらない人もいるからだ。
公式統計の1062万人が間違っていて、実数は530万~540万人ではないかと言えば、「さすがにそこまでひどくはないのでは」と思われる方もいるだろう。
だが、私は実際の数字はこの数字よりもさらに小さいかもしれないとさえ思っている。
実は私は一人っ子政策を採用している中国で合計特殊出生率が、これまで日本より上だったということが本当にあり得るのか、との疑念をずっと抱いていた。そんな中で近藤大介氏の『未来の中国年表』(講談社現代新書)を読んだら、この疑問に答えてくれる話に出会った。
この本の中には、近藤氏が知人の中国人一家と一緒にレストランに行った時に、レストランの店員さんがこの一家の2人目の赤ちゃんをとても嬉しそうに面倒を見てくれたことが出てくる。店員さんは2人目の子供というのを生まれて初めて見たと言っていて、それを聞いた近藤氏も数多く知り合ってきた中国人の中では初めてであることに気付いたことが書かれていた。
このエピソードを通じて、中国では一人っ子政策が極めてしっかりと行われていたことがわかる。兄弟のいる人がいないということになるからである。
一人っ子政策が貫徹しているのであれば、そもそも中国で合計特殊出生率が1を上回ることすらありえない話だ。一生独身の人もいれば、結婚しても子供ができない人、子供をつくらない人もいるからだ。
近藤大介『未来の中国年表 超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書))
日本の合計特殊出生率すら上回らない
合計特殊出生率が1.3である日本において、兄弟がいる家庭は実は全然珍しくない。生涯独身を通す人が増えている中では、子供を持つ人たちの中では、むしろ一人っ子の方が少ないくらいである。この現実と照らして中国を考えた場合に、中国がこれまで合計特殊出生率で日本を上回ってきたということは、どう考えてもあり得ないだろう。
私は2009年に使用されたBCGワクチンの本数は1138万本で、出生数は1383万人だと書いた。だが、この1383万人も日本以上の合計特殊出生率でないと成立しないことからすると、随分おかしな数字になる。
「BCGワクチンの本数」×1.2が「出生数」になるというのがそもそも間違いで、「BCGワクチンの本数」=「出生数」だと見た方がいいのではないか。いや現実には「BCGワクチンの本数」よりも「出生数」の方が小さいのではないか。期限切れで廃棄処分にするワクチンもあるだろうからだ。
2021年のBCGワクチンの本数はまだわからないが、仮に公式の出生率の変化と同じで2020年より12%落ちたとすれば、472万本程度ということになる。とすれば、出生数は上限でも472万人だということになる。実際には450万人もいないというのが実際なのかもしれない。
私は2009年に使用されたBCGワクチンの本数は1138万本で、出生数は1383万人だと書いた。だが、この1383万人も日本以上の合計特殊出生率でないと成立しないことからすると、随分おかしな数字になる。
「BCGワクチンの本数」×1.2が「出生数」になるというのがそもそも間違いで、「BCGワクチンの本数」=「出生数」だと見た方がいいのではないか。いや現実には「BCGワクチンの本数」よりも「出生数」の方が小さいのではないか。期限切れで廃棄処分にするワクチンもあるだろうからだ。
2021年のBCGワクチンの本数はまだわからないが、仮に公式の出生率の変化と同じで2020年より12%落ちたとすれば、472万本程度ということになる。とすれば、出生数は上限でも472万人だということになる。実際には450万人もいないというのが実際なのかもしれない。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。