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橋本幹彦氏

航空宇宙自衛隊――改編を実力に変える

 この夏、日本の安全保障をめぐる2つの重要な法律が公布されました。7月3日には航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊」に改編する法律が、6月3日には国家情報会議と国家情報局を設ける国家情報会議設置法が公布されました。いずれも国民民主党として賛成した改革です。

 航空宇宙自衛隊への改編では、任務が「空」から「空及び宇宙」に広げられ、宇宙作戦集団も新設されます。国家情報会議設置法も、政府全体の情報活動の重点設定、関係機関の連携、重要案件の総合分析・評価、情報提供を制度化しました。いずれも必要な第一歩です。ただし、法律と組織図ができただけで能力整備が完了するわけではありません。必要なのは、任務遂行の基本原則であるドクトリン、人材制度、失敗から学べる組織文化、そして民主的統制です。

 自衛隊は、情報収集、ミサイル警戒、通信、測位などで、人工衛星とその運用を支える地上設備などを含む宇宙システムを活用しています。民間社会でも、衛星通信、衛星測位、気象観測などに宇宙システムが利用されています。こうした機能を安定して利用できる環境を守ることは、国防だけでなく、国民生活を守ることにもつながります。

 2019年9月、安倍晋三総理(当時)は「いわば、航空宇宙自衛隊への進化も、もはや夢物語ではありません」と述べました。それから約7年を経て、ようやく改編を定める法律が成立しました。しかし、組織の中身を整える作業は、なおこれからです。
 政府は「宇宙安全保障構想」や「宇宙領域防衛指針」を整備してきました。しかし、上位の政策文書があることと、現場の判断を支えるドクトリンがあることは同じではありません。ドクトリンとは、細部まで行動を縛る手引きではなく、情勢が変化したときに、隊員が共通の前提に立って判断するための基本原則です。任務、脅威認識、部隊運用、教育訓練、法的・倫理的な制約を一本の筋で結びます。

 具体的な作戦要領や能力の細部まで公表できないのは当然です。しかし、国民に示すべき基本原則と、隊員が共有すべき任務遂行上の指針、秘密保全が必要な作戦文書は、区別して整備すべきです。航空宇宙自衛隊が何を担うのかを国民に説明するとともに、隊員には、文民統制、法令遵守、政治的中立など、任務遂行の原則と職業倫理を明確に示すことが重要です。 

装備を動かす人と後方支援

 この問題意識は、賛成6党派で共同提案した附帯決議にも盛り込まれ、私は提出者を代表して趣旨を説明しました。附帯決議は、航空宇宙自衛隊の在り方、作戦原則、組織運営・部隊運用の考え方、隊員の心構えを定める指針を整備し、共有・改訂するよう政府に求めるものです。

 また、ドクトリンを生きたものにするには、防衛大学校、防衛研究所、各自衛隊の幹部学校など、知的基盤の強化が欠かせません。戦史と現場の教訓を検証し、異論を排除せず、前提を疑う。選抜された専門人材については、大学院進学、大学や民間研究機関との交流、語学・地域研究、サイバー、宇宙、人工知能などの高度教育を本務として評価し、その後の配置、昇任、研究成果の活用まで一体で設計すべきです。

 同時に、装備を実際の任務で使える状態に保つ後方支援を軽視してはなりません。私は航空自衛隊で航空機整備に携わりました。当時、可動状態にない同型機から使用可能な部品を取り外し、別の機体に転用する「共食い整備」が行われることもありました。緊急時の手法として一律に否定されるものではありませんが、部品不足によってこれが常態化すれば、整備員の負担が増え、部隊の可動性が損なわれます。弾薬、燃料、部品、修理能力、ソフトウェア更新、教育訓練、勤務環境まで含め、装備の取得から退役までに必要な費用と人員を見通す必要があります。

 人材制度の改革は、現役自衛官だけの問題ではありません。2026年3月末の充足率は、予備自衛官67.4%、即応予備自衛官47.7%、予備自衛官補75.7%です。名簿上の人数を満たすことではなく、サイバー、医療、法務、語学、物流、インフラ復旧など、どの任務を担ってもらうのかを先に定め、訓練と勤務先支援を設計すべきです。

国会は専門知を受け止められるか

 安全保障組織を民主的に統制するには、統制する側の政治家にも能力が必要です。
 2025年2月、私は衆議院予算委員会で、陸上自衛隊教育訓練研究本部長、海上・航空自衛隊の幹部学校長など、現役自衛官を政府参考人として招くよう求めました。しかし、安住淳予算委員長(当時)は、従来の慣例と文民統制を理由に出席を認めませんでした。現役自衛官に国会で説明させない慣行を、将来も維持することは妥当なのでしょうか。なお、現役自衛官による戦後の答弁先例はあります。1958年10月23日の参議院内閣委員会では、航空幕僚長と航空総隊司令が答弁しています。現役自衛官の国会答弁を一律に禁ずる明文規定はありません。

 文民統制とは、軍事に対する政治の優先を確保し、国民から負託を受けた政治家が最終決定と責任を担う原則です。現役自衛官の国会での説明機会を一律に閉ざすことが、文民統制なのではありません。政治家が防衛・部隊運用上の専門家から率直な助言を受け、その内容を検証し、採否と結果について責任を負うことこそ、本来の文民統制です。

 同時に、率直で党派性に左右されない専門的議論の場を整える必要があります。政策判断の説明責任は大臣が負い、現役自衛官は専門的な事実と評価の説明に徹する。政治的中立を守り、秘密事項については公開の委員会と秘密会を使い分け、記録の保存、機密指定の見直し、支障がなくなった後の公開に関するルールを設ける。高級幹部の出席は、定期的な報告・質疑や重要法案の審査など、必要な場面に限定する。令和8年度当初予算の防衛関係費が9兆円規模に達した今こそ、国会が現場の専門知に直接触れられる制度が必要です。

 自衛隊法第76条は、防衛出動について国会の事前承認を原則とし、特に緊急の必要がある場合には、事後に承認を求める仕組みを定めています。その国会が、平時から自衛隊の能力、運用、教育、補給の実態を把握できなければ、責任ある判断はできません。

国家情報局――強い司令塔と異論を残す制度

 外交・安全保障政策を審議する既存の国家安全保障会議とは別に、新たな国家情報会議は、政府の情報活動の重点、関係機関の連携、重要案件の総合分析・評価などを扱います。その事務を担うのが国家情報局です。
 国家情報局は、内閣情報調査室を発展的に改組するものです。関係省庁から多様な専門知を集められることは強みですが、短期の人事異動や省庁別の人事管理の下で、専門性、情報源との関係、組織としての記憶を継承できるかが問われます。政府全体の情報要求と優先順位を明確にし、収集、分析、評価、政策への提供・活用、結果の検証を1つのサイクルとして回す必要があります。評価とは、情報源の信頼性、内容の確度、相反する情報、未解明点を示し、どこまで政策判断の根拠にできるかを見極める作業です。

 国家情報局には、国・地域、言語、科学技術、経済、軍事、サイバーなどの専門職を中長期に育成するキャリア制度が必要です。国家情報局長も特定省庁の指定席にせず、経験、能力、人格を基準に選ぶべきです。法律上、局長は国家情報局の局務を掌理しますが、関係情報機関を直接指揮する権限が当然に与えられているわけではありません。政府全体の情報要求を整理し、その優先順位を定め、収集の重複と空白を点検し、必要な改善を関係機関に求める権限と責任を明確にする必要があります。
 同時に、司令塔への過度な集中も避けなければなりません。複数機関による競合分析、少数意見、分析の確度、修正履歴を残し、1人の局長や1つの機関の誤った前提や判断が政府全体に広がらない仕組みが必要です。

 インテリジェンスは政策を支えるためにありますが、政策に都合のよい結論をつくるためであってはなりません。政策部門は、党派的利益のために政敵を調べさせたり、選挙に有利な情報収集を命じたり、分析を書き換えさせたりしてはなりません。他方、外国勢力による選挙介入、違法な資金供与、サイバー攻撃、偽情報工作の把握は正当な安全保障上の任務です。両者を、目的、対象、承認手続によって明確に区別し、情報要求・分析修正の記録、閲覧ログの保存、少数意見の併記、内部通報者の保護を制度化すべきです。

 民主的統制は、国会への定期報告だけを意味しません。内閣による指揮監督、国会による立法・予算審議・監視、独立した第三者による検証、司法的統制、国民への説明責任を組み合わせ、情報機関を民主主義の枠内に置くことです。今後、個人の権利を制約する新たな情報収集権限を設ける場合には、独立監察、国会による監視、司法の関与、被害救済を同時に整えなければなりません。国家情報会議設置法の附帯決議が求める中長期方策の公表、国会への説明、議事記録の保存、人物本位の局長選任も、形式的な報告で終わらせてはなりません。公開できる年次報告と、国会が秘密を扱いながら常設的に監視できる体制を両立させるべきです。

 私が提出者となった国民民主党の「インテリジェンスに係る態勢の整備の推進に関する法律案」、通称「インテリジェンス法案」について、私はこれまで、その制度思想を「国民の自由と人権の尊重」「国家の存立と主権の防衛」「インテリジェンス関係者の保護」という3本柱で説明してきました。

 スパイ行為等に対する必要な罰則整備は重要です。しかし、罰則だけでは不十分です。外国影響力の透明化制度では、国籍や単なる資金受領ではなく、外国政府等の指示・統制の下で、その代理として政策形成や世論に働きかける一定の活動を対象とすべきです。資金の出所は、その代理関係を判断する要素の1つです。正当な外交、研究、報道、法律業務、国際交流、表現・結社の自由を守るため、対象行為、届出手続、不服申立て、適用除外も明確にしなければなりません。

失敗から学び、最前線の人を守る

 情報組織は、失敗を完全になくすことはできません。英国では、2004年のバトラー報告がイラクの大量破壊兵器をめぐる情報の収集・評価と利用を、2016年のチルコット報告が開戦判断、軍事計画、戦後対応までを検証しました。失敗を隠さず、記録を残し、独立した検証を制度改革につなげる姿勢に学ぶべきです。  

 日本でも、拉致問題について、事件当時にどの機関がどの情報を保有し、どう共有、分析、評価、活用したのかを、被害者の帰国実現や情報源の保護に支障を来さない範囲で歴史的に検証する必要があります。
 大川原化工機事件は、国家情報局そのものの事件ではありません。しかし、経済安全保障分野で専門知をどう取り入れ、捜査や情報評価への異論をどう扱うかという点で、インテリジェンス改革にも通じる教訓を残しました。違法とされた逮捕や一部の取調べ等を踏まえ、専門的知見、組織内の異論、指揮監督、事後検証が機能したのかを具体的に検証し、制度と組織文化を改めなければなりません。

 インテリジェンス改革では、職員と協力者を守る視点も欠かせません。職員には、身分保障、危険に見合う処遇、家族支援、心理的ケア、任務後の配置が必要です。協力者には、本人と家族の安全、身元の秘匿、緊急退避、必要な場合の生活再建を保障しなければなりません。公開情報、通信・電波情報、画像情報、人的情報は補完関係にあり、特定の手法に偏って不必要な危険を負わせるべきではありません。また、職員が外国情報機関によるものと疑われる接触を早期に申告したこと自体を、不利益取扱いの理由としてはなりません。故意の秘匿や不正な情報提供は、接触を受けた事実と分けて評価すべきです。

 顕彰は、処遇、安全、家族支援の代わりにはなりません。その上で、表に出せない献身を国が記憶する仕組みも必要です。米中央情報局(CIA)本部のメモリアル・ウォールには、国に奉仕する中で亡くなった職員を表す星が刻まれています。「ブック・オブ・オナー」には公表可能な氏名が記され、身元を明らかにできない殉職者は星だけで示されます。日本でも、秘密を守ることと、働く人を忘れないことを両立させなければなりません。

制度を動かすのは人

 ここまで述べてきた改革の根底には、私自身の原点があります。私が政治を志したのは、高校3年生の6月でした。高校時代、私は奨学金を受けながら通学していました。4人兄弟の家庭で、高校の非常勤講師だった父がその仕事から得る収入は、月によって3万円程度にとどまることもありました。

 人を育てる仕事が、これほど不安定でよいのか。努力する人を支える制度の弱さと、自分には何も変えられないという無力感が、私が18歳で政治を志した原点です。
 その後、自衛隊と民間での経験を通じ、制度や組織を実際に動かすのは人だと学びました。人を消耗品にせず、その専門性と献身に制度として報いる。その考えは、自衛隊とインテリジェンス組織の改革にも通じています。

 航空宇宙自衛隊への改編と国家情報局の創設は、いずれも重要な第一歩です。しかし、改革は法律の公布で終わるものではありません。ドクトリン、人材、組織文化、民主的統制という中身を整える。異論を述べる専門家を生かし、失敗を検証し、現場で静かに責務を果たす人々を守る。2つの改革を実際の能力に変えるため、引き続き取り組んでいきます。
橋本幹彦(はしもと みきひこ)
1995年、千葉県生まれ。県立千葉高校を経て、防衛大学校公共政策学科(62期)卒業。航空自衛隊で航空機整備に携わり、3等空尉で退官。民間企業勤務などを経て、2024年10月の第50回衆議院議員総選挙に埼玉13区から国民民主党公認で出馬し、初当選。現在2期目。

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