中国人の“爆抜きツアー”

 2022年10月11日から、外国人旅行者の入国制限が緩和され、個人旅行も解禁された。3月1日からは、中国からの渡航者に対する水際対策も緩和されている。さっそく有名な観光地では、「安い円」を追い風に、海外からの爆買いツアーが復活しているのだが、同時に、日本の風俗嬢を買いまくる〝爆抜きツアー〟も復活の兆しを見せている。

 日本への入国希望者の上位5カ国は、韓国、タイ、米国、マレーシア、豪州。どの国の通貨も、日本円に比べればまだ値崩れしておらず、買い物を兼ねて日本へ旅行にやってくる。台湾や香港、インドネシアから来た外国人旅行者も「日本は安い」と口にしている。外国人にとっては家電や果物だけでなく、風俗サービスも割安となっているのだ。
 2013年、第2次安倍政権のアベノミクスに乗じて株で儲けた男たちが、吉原の高級ソープに続々と現れるようになった。同時に、中国人観光客も増加し、富裕層の訪日が増え、吉原で遊ぶ中国人が激増した。開業したばかりのスカイツリーの展望台のてっぺんから吉原の街を眺め、「夜はあそこでお楽しみ」とガイドが指すと、中国人男性客がどっと歓声を上げるという話もあった。彼らの間では、「吉原は最高級のサービスを受けられる場所」と、ブランドになっていた。

 当時、こういったソープ業界の盛況ぶりは“泡ノミクス”と呼ばれていた。「アベノミクス」ならぬ「アワノミクス」で、全国のソープランドは静かに沸いていたのである。これも故安倍晋三元総理の隠れた功績だろう。ほとんど表には出なかったが、安倍元総理は風俗業界に多大なる恩恵(おんけい)をもたらしていたのだ。
gettyimages (13237)

日本の風俗店に、海外からの観光客が再び押し寄せているという(画像はイメージ)

外国人に買われる日本人女性

 中国における旧正月の春節には、多くの観光客が訪日し、そのうちの10人に2、3人は風俗店に行っていた。春節以外にも、中国の連休のときには、デリヘル(派遣型のファッションヘルス)に中国人客が押し寄せていた。もちろん、中国人だけでなく、ヨーロッパ系の客もいた。客全体に占める外国人の割合は一割ぐらいだが、日本人の若い客が来なくなり、経営的に厳しかった店としては、ケチらずにカネを店に落とす外国人客に歓迎の意を示していた。

 近頃、“爆抜き”で話題になっているのがタイの男性だ。昨年の『週刊ポスト』(11月4日号)の記事によると、見るからに富裕層という格好をした数人組が、都内の高級デリヘルで豪遊しているという。コロナ禍の前に、タイの大金持ちが都心のデリヘルに遊びにきたという噂を聞いたことがあるが、最近は一般の人が裕福になり、日本の風俗で遊んでいる。

 30年前、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた日本人は東南アジア観光に行き、「安い」「安い」と連呼しながらタイやフィリピンの風俗で遊んでいた。しかし、時代は変わった。現在は、タイやフィリピン、インドネシアの一般男性が日本に来て、日本の女性を買っているのである。

性病を撒き散らしている

 外国人風俗客に起因する性病のまん延も懸念されている。
 2022年に、統計を取り始めてから過去最高の感染者数を記録した梅毒も、「外国人、とくに中国人の風俗利用が原因ではないか」という声がある。外国人OKの女の子ばかりが性病に罹(かか)るので、外国人客は原則ゴムフェラにしたところ、性病になる子はほとんどいなくなったという店もある。

 世界を見渡しても、不特定多数の客にゴムなしサービスを提供している性風俗があるのは、日本くらい。さらに、入浴や消毒すらしないまま、フェラチオを行う「即尺(そくしゃく)」をウリにする店まである。日本の風俗店の多くがウリにする生サービスだが、自らを苦しめている側面もある。

 中国の風俗はゴムフェラが鉄則であり、キスもしないのが基本。こうしたなか、生サービスが基本の日本の風俗にハマる中国人も少なくない。
 また、「外国人はやっかいな性病を持っていそう」という漠然としたイメージがある。店側としては、外国人を大っぴらに受け入れると、日本人客が離れるというジレンマがある。

 これまで鎖国同然の状態にあった日本の風俗は今、グローバリゼーションへの対応を迫られている。昔は、ハリウッド俳優や大リーガーなどの著名人が主な外国人の客層だったが、近年は普通の旅行者がグンと増えている。コロナ禍が終息した後に訪れるであろう、さらなる外国人客たちの“爆抜きツアー”への対策を、今から練っておきたいところだ。
gettyimages (13239)

外国人風俗客に起因する性病のまん延も懸念される(画像はイメージ)

中国人は日本人女性が大好き

 なぜ外国人は日本の風俗店に通うのか──。外国人の目に、日本の女性が魅力的なのは昔から変わらない。素直で従順、サービス精神に富んだ日本人女性は“大和撫子”として、外国人男性に気に入られてきた。風俗嬢も同様である。

 特に日本人女性は中国人のお気に入りだ。中国にもソープ(浴室で女性従業員が男性客に対して性的なサービスを行う性風俗店)はあるが、日本とは内容が異なる。潜望鏡やスケベ椅子(座ったまま男性の陰部を洗うことができる椅子)で奉仕はするが、女の子は客を喜ばせようとしないため、どうしても表面的なサービスになってしまう。共産主義国の中国では、日本と違い「お客様は神様」という考えがない。「カネを払って物を買う人より、物を売る人の方が偉い」という考え方が一般的である。

 一方、日本では風俗嬢がどんな客にも“恋人を迎える気持ち”で応対する。遊んでいる間に汚れたパンツや靴下を洗濯しておいたり、自腹で買った煙草やジュースを無料で差し出したり、髪の毛をシャンプーで洗ったりしてくれる。精神的な満足度が全く違うのだ。
 日本のAV女優が中国で絶大な人気があるのは有名である。アダルトコンテンツに対して規制が厳しい中国では、国内でのAVの所持や鑑賞が表向きは禁止されている。当然、中国でAVは製作されておらず、違法ダウンロードや海賊版DVDを入手するのが一般的になっている。中国人男性は、世界で最も人気と言われる日本製のAVをこっそりとオカズにし、日本人女性とエッチなことがしたいと、常日頃から思っているのだ。そして〝爆買い〟と同時に〝爆抜き〟をするべく、日本の風俗を利用しに来ているのである。

 2020年の東京オリンピック開催に向けてインバウンド消費が増していた2013年ごろから、コロナ禍が始まる前の2019年の年明けまで、中国人団体観光客を中心に全国の風俗店で外国人の客が急増した。店の女の子に話を聞くと、「気前よくチップをくれる人や、プレイが終わると長居せずに帰る人が多い」ということだった。「外国人、特に白人は優しい人が多い」「基本的にロングコースで遊んでくれるので一回で多く稼げるのがありがたい」「日本人より一緒に過ごす時間を大切にしてくれる」という好意的な声もあった。
 最近の外国人客は、ネットで日本の風俗を予習しているケースも少なくない。デリヘルや手コキなど、日本特有の非本番風俗を自分で調べてから来るので、「なぜセックスできないんだ!」といったトラブルは減っている。ガイドもそのあたりのことはしっかり説明しており、店側としては受け入れるメリットの方が大きい。

 その一方で、行儀の悪い外国人客も多い。「写真と実物が違うからカネを払わない」とクレームをつける客は結構いる。風俗店では、写真が修正され、別人のようになっていることがままあるが、プライドの高い彼らにとっては、「バカにされ、ダマされた」と悪意に解釈してしまうのだ。
 また、日本語が分からないケースが多く、コミュニケーションが取れずにトラブルに発展することも少なくない。隠し撮りや部屋の中の物色、プレイの範囲を超えた暴行などで、「注意をしても悪びれない」という声も聞かれる。「特に中国人の素行の悪さは際立っている」と、外国人客を広く受け入れている店で言われている。ヘルスやデリヘルなど本番NGの店で、当たり前のように本番を迫ることもあり、依然として外国人へのサービス提供に抵抗を示す風俗嬢は少なくない。
gettyimages (13240)

サービス精神に富んだ日本人風俗嬢の人気が高い(画像はイメージ)

言葉が通じない

 今、世界はウクライナ戦争の影響で、インフレ傾向にある。日本も例外ではなく、さまざまな業界で値上げが起きている。
 しかし、風俗業界は別だ。世の中の動きと逆行して値下げをしているのである。風俗は消費者にとって必需品ではなく、あくまで嗜好(しこう)品。少しでも値段を上げようものなら、たちまち客が離れてしまう。だから安売り競争をせざるを得ないのだ。
 そうなると、風俗嬢にとってカネ払いのいい外国人客は価値のある存在になり、今後は外国人客をより受け入れていくと見込まれる。ところが、クリアすべき課題が多いのも事実である。その最たるものが、言葉の問題だ。

 日本のAVをよく観ているためか、中国人を中心に、外国人は顔射(顔に精液をかけること)をしたがるケースが多い。女の子によってはオプションでも顔射NGの子がおり、その際は「ノー、ノー」と言って拒絶している。
 中国人でも、最初から横柄で乱暴な人は多くはないが、プレイになると荒っぽくなるケースがある。胸を揉んだり、イラマチオ(女性の喉の奥までペニスを突っ込むプレイ)をさせたりする力が強く、「強すぎる、痛い」と言ってもなかなか通じず、女の子が困っている。「外人はやたらクンニ(女性器を舐めるプレイ)に時間をかける人が多い」という女の子もいる。店側もそんな女の子の意見を反映して、「日本語を話せる人と一緒に来た外国人はOKだが、日本語の話せない単独外国人客はお断り」とするところも少なくない。都内のデリヘルだけでなく、吉原のソープにもこういった店がある。

 女の子の中には「同じアジア系の中国人は平気だけど、黒人は見た目が怖くてダメ」「外国人は荒っぽい人が多いから完全NG」という子もいる。

風俗業界のグローバル化

 かつて日本の風俗店では、トラブルを避けるため、基本的に外国人客を受け入れていなかった。訪日客が増加した今も、店によっては女の子を守るため、「外国人客お断り」にしているところが、まだまだある。だが、増え続けるカネ払いのいい外国人を、みすみす見逃すのは、商機を逸することになる。
 今の日本は不景気で、日本人男性の草食化もあり、多数の風俗店が外国人客を受け入れている。積極的に受け入れている店では、売り上げが3割増になったという話も聞く。今後、需要はさらに増えるので、対応する店が増加していくことが見込まれる。外国人客は、もはや収入源として無視できない存在なのだ。

 実際、外国人向けの風俗情報サイトは増えている。日本の風俗を紹介する中国語版海外風俗情報ポータルサイトに広告を打つ吉原のソープも登場している。各サイトに掲載している店舗は吉原全体で数十店舗に及ぶ。今後、その数はさらに増える勢いだ。伝統的で保守的な村社会であり、国際化に腰の重かった吉原も、巨大な海外マネーの獲得に火花を散らしている。
 また、外国人客を専門とする風俗店も登場している。コロナ禍の前までは、川崎・南町と東京・吉原に『パラダイス』という外国人客専用ソープがあり、大変な繁盛ぶりだった。ホームページは基本的に英語表記で、実物指名ができるのが外国人にはありがたかった。現在は外国人客の専門店は主にデリヘルとなっている。

 外国人OKな女の子を積極的に採用する店も増えている。また、英語や中国語ができるスタッフは引っ張りだこで、基本給を3割から5割増しにしている店もある。
 高級デリヘルの中には、中国語の他、英語、韓国語、タイ語に対応している店もある。また、「外国人客を門前払いしたのは昔の話。海外のクレジットカードに対応し、英語や中国語のホームページをつくらないと生き残れない」というデリヘル経営者の声もある。ソープの中には、「外国人OK」と明示せず、その客の人種に対応できる女の子が出勤しているときだけ案内しているという店もある。すべての人種に対応できる態勢になっていなければ、店として「外国人可」とは言えないからだ。

 最近都内にオープンした某デリヘル店は、ホームページに「外国人対応可能」と明記している。「外国人のお客様の場合は、基本コース料金に1万円のサービス料が加算されます」と、日本語、英語、中国語で記している。このように外国人客からは通常料金プラス1万円をもらい、女の子に追加手当てを支払っている店もある。そうでもしないと、外国人OKの女の子を確保できないからだ。取材時によく聞くのは、「外国人が相手だと、プラス5000円もらえるの」という女の子の声である。
 世知辛い世の中だが、景気の悪い日本人よりも、カネ払いのいい外国人を重視する店は、さらに増えていきそうだ。
生駒 明(いこま あきら)
1973年、愛知県生まれ。新潟大学人文学部卒業。風俗ジャーナリスト。ペンネームはイコマ師匠。『俺の旅』シリーズの編集長。15年9カ月続いた風俗情報誌『俺の旅』が、2019年4月に成人雑誌規制により休刊すると同時に、『俺の旅』の商標権を持って独立。現在はフリーの編集記者として活動中。書店売りのムック本、さまざまな雑誌•新聞•サイトの記事、自らのツイッターなどで『俺の旅』を継続している。著書に『フーゾクの現代史』(清談社Publico)がある。ツイッターアカウントは@ikomashisyo。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く