男系男子の大切さ

竹内 女性天皇、女系天皇について、百地先生からいろいろご教示をいただいています。

百地 いえ、こちらこそ。竹内さんの研究は大変興味深いです。

竹内 甘利明議員がフジテレビの報道番組(2019年11月24日放送)で「男系を中心に順位をつけて、最終的な選択肢としては女系も容認すべきだ」という発言をし、物議を醸しました。
 安倍総理の側近と言われる甘利議員の発言ですから、ひっくり返るほど驚いたんです。女性天皇が産んだ子が男女を問わず、次の天皇になったら、女系天皇。ここで系列が女性天皇の夫の家に変わるわけですから、最終的手段ですらない。絶対にあってはならないことです。

百地 二階俊博幹事長も記者会見(2019年11月26日)で、女性天皇と女系天皇についての見解を問われ「男女平等、民主主義の社会なので、それを念頭に入れて問題を考えていけば、おのずから結論は出るだろうと思っている」と発言した。
 この問題について、竹内さんは、産経新聞「正論」欄(2019年12月6日付)で男系の必要性を執筆されていましたね。

竹内 ええ。天皇は男系を連綿とつないできました。それは科学的に見ると、男しか持たない性染色体Yを、ほぼそのままの形で継承してきたことを意味します。よく間違えられますが、Y遺伝子なるものは存在しません。遺伝子は染色体上に存在するからです。そして性染色体は男で「XY」、女で「XX」という状態です。息子は父からYを譲り受ける都合上、父のXは受け継がず、Xは母由来のものを受け継ぐ。
 ここで重要なのは、性染色体のXと常染色体(性に関係なく持っている染色体)は対となり、相方がある染色体なので、生殖細胞ができる際に「交差」という現象が起きます。途中に切れ目が入り、中身を一部交換します。この交差によって世代を経るに従い、遺伝子がそのまま継承されることが少なくなる。Xや常染色体は、次第に薄まっていくのです。ところがYについては交差が起きず、父から息子へ、そのまた息子へといった男系で継承している限り、まったく薄まることがありません。極端なことを言えば神武天皇のY染色体を、そして歴代の天皇のY染色体を、天皇陛下や秋篠宮親王殿下、悠仁親王殿下に受け継がれているのです。

百地 科学的見地から見ても、男系をつないできたことのすごさがわかります。

竹内 ところが『週刊文春』(2019年5月30日号)で、生物学が専門の福岡伸一氏は、皇統が男系でつないできたこと(Y染色体が受け継がれてきたこと)を認めつつ、Y以外の全ゲノムが大事であるとし、「男系・女系の区別は無意味である」と結論づけています。そんなことはまったくありません。

百地 竹内さんの指摘で重要な点は「科学的説明などまったくなかった時代に、先人たちは直感的に見抜いてしまった。あらゆる手段を講じ、男系による皇統の継承を護った。この事実が重要で、その歴史を今になって我々が放棄することなど、あってはならない」──これですよね。

竹内 はい。その当時はY染色体という科学的根拠など解明されていないし、理解できるはずもありません。にもかかわらず──なぜかわからないけれども、男系の大切さを感じて護り続けてきたのです。

「結果的」にすぎないのか

百地 竹内さんのお話は至極納得できます。一方で、本郷和人氏(東京大学教授)が奇妙な見解を示していました。『文春オンライン』(12月5日付)で「〝愛子天皇〟は是か非か」というタイトルでインタビューに答えたものです。

竹内 私も読んで「あれ?」と思いました。本郷さんは「天皇家は『男系男子』の血筋を意識して守ってきたのではなく、結果としてこうなったにすぎないと考えます。長い歴史の流れで言えば、天皇家という家を繁栄させることが大切で、高貴な血をつなぐという考えは二の次でした」と述べています。

百地 びっくりしますよね。さらに本郷さんは古代貴族社会の婚姻が「招婿婚」(女性が嫁に来るのではなく、女性の家へ男性が婿として通う)なのだから、子どもが生まれれば、女性の家で育てられるとし、続けて「摂関政治の藤原氏が娘を皇室に嫁がせ、生まれた子が天皇になると外戚として権力を振るった背景には、この婚姻の形があります。つまり、女系でつながっていたのです」と結論づけていますが、どうでしょうか。婚姻の形態と皇位の継承の在り方は、果たして直接関係があるのか。専門外ですが、私は別の話ではないかと思います。

竹内 今まで男系の皇統断絶の危機は4回あったそうですね。

百地 まずは武烈天皇(第25代)から継体天皇(第26代)までは10親等離れています。系図を200年間もさかのぼり、北陸の三国にいた応神天皇の5世の孫である継体天皇を探し出し、大伴金村(おおとものかなむら)が迎えにいったのです。ここまで必死になって探しているわけですから、男系を意識していないなんてあり得るでしょうか。

竹内 系図を一所懸命たどった末のことですから。

百地 次の危機を見ると、称徳天皇(第48代)から光仁天皇(第49代)までで八親等離れており130年、3回目が称光天皇(第101代)から後花園天皇(第102代)までが、同じく八親等で100年さかのぼっています。最後に江戸後期の後桃園天皇(第118代)から光格天皇(第119代)までは7親等離れており、70年さかのぼっています。

竹内 それと南北朝時代には、持明院統と大覚寺統の間で、10数代にわたって皇位が交互に継承されていますよね。

百地 これほど大きな危機を乗り越えながら、男系の皇位を継承してきています。そういった意味で、本郷氏のように「結果的に男系だった」と結論づけるのはいかがなものか。それにヨーロッパやアジア、中東など世界の王朝や名家を見ると、どこも共通して父方、つまり男系の名前でもって王朝名や家名を名乗っています。

竹内 文化人類学的に見ても母系社会は、とても少ないのです。南太平洋やアマゾンの奥地のような辺境にいる民族くらい。
 私の考えですが、父系社会をつくっていると、男性同士は血縁関係があるので、他の集団や民族と戦う際、より結束力を高めることができる。だから、父系社会を形成してきたか、結果的に父系社会が残ってきたのではないでしょうか。母系社会の場合、いざ戦争となると、お婿さん連合という血縁関係のない男性同士で団結しなければならない。これでは結束力が高まりません。

百地 女系天皇や女性宮家の問題も同じことです。お婿さんが外から次々と皇室へ入ってくることになる。女性皇族が結婚しても皇籍を離脱せず、そのまま皇族として残り宮家を名乗る──それはなら良いのではないかと結論づけられるのですが、そんな単純な話ではありません。

憲法違反ではないか

竹内 具体的な例をあげると、小室圭さんのような素性のよくわからない民間人男性が皇室にどんどん入ってきてしまう恐れがある。

百地 現代における蘇我氏が登場するかもしれません。「プライムニュース」(BSフジ)でこの話をしたら、司会の反町理さんが「わかりました!」と言っていたのは印象的でした。

竹内 蘇我氏は娘を天皇の后とし、その生まれた子を天皇にさせて外戚の地位を得て権勢をふるいました。そんな存在を現代に復活させてはいけません。

百地 皇室の2000年の歴史をもう一度、しっかりと振り返るべきです。蘇我氏以外にも、藤原氏がいたし、道鏡や平氏、徳川氏などが、さまざまな思惑を持って皇室に近づいてきました。

竹内 彼らの男子を皇室に入れていたら、どうなっていたでしょうか。

百地 それこそ大変なことになったと思います。

竹内 でも、それを男性差別だと言う声もありますけど。

百地 そういう側面もありますが、そんな簡単な話ではありません。皇統を論ずるにあたって大切なのは、男女平等とか差別といった今様の価値観に惑わされてはならないことです。皇室にとって一番大切なのは宮中祭祀です。天照大御神と歴代天皇をお祀りし、国家と国民の安寧を祈ることが基本です。そこに外部の人間が次々と入り込んでしまったら、皇室の先祖が誰なのかさえアヤフヤになってしまいます。

竹内 心を込めて祈ることなんてできませんね。

百地 日本民族が統合されてきたのも、皇室の存在があってのことです。天皇は古代から中世、近世、近代……と、日本国民の統合の象徴であり続けてきたのです。その皇室がバラバラになってしまったら、国民統合の象徴どころか、対立・分裂を引き起こすことになる。

竹内 国の存亡にかかわります。それと、女性天皇が誕生した場合、かつては生涯独身を貫くなど子を産まないのが常識でしたが、今は人権の問題から、そうはいきません。そうすると、迎える婿様が一体どの国の人間かを見極めることも重要です。新しい天皇の血に別の国の人間の血が混じっているとなったら、どう思いますか。

百地 平成24年、女性宮家に関するヒアリングがあったとき、櫻井よしこさんと一緒に出席しました。そのときも同じ話が出ましたが、中国や韓国あたりが策謀してイケメン男子を近づけて、皇室に入り込むなんてことも考えておかないと(笑)。

竹内 彼らはそういう策謀に長けています。最初は日本人のフリをしつつ近づいてくる。途中で正体を明かし、「どうだ、日本は我が国のものだ」と。あるいはもっと範囲を広げ、愛子内親王殿下のお相手がコーカソイドやニグロイドだったら、どうするんでしょう。人種差別という問題ではありません。皇統を論じているのですから。

百地 皇族が結婚するお相手は、昔は男女関係なく天皇のご許可が必要でしたが、今はそれもなくなりました。ですが、男子の結婚に関しては皇室会議を経て決められます。

竹内 それが一つの歯止めにはなります。

百地 しかし、女性の方々の場合、今の制度では、そのような過程を経ません。事実上、天皇陛下のお許しを経てのご結婚だと思いますが。

竹内 女性天皇が誕生するとなったら、そのあたりのルールづくりも重要です。

百地 憲法を見ると、男系(父系)を念頭に考えられています。現行憲法第2条では「皇位は、世襲のものであ〔る〕」と定められているだけですが、皇室典範第1条には「皇統に属する男系の男子」と明記しています。
 他方、憲法制定以来、政府見解も憲法第2条の「世襲」は「男系」ないし「男系重視」を意味するで一貫しています。憲法制定時の内閣法制局「想定問答」では「皇統は男系により統一することが適当であ〔り〕、少なくとも、女系ということは皇位の世襲の観念の中には含まれていない」とまで言っています。制憲議会でも「世襲」の意味について、金森徳次郎憲法担当大臣(当時)は「本質的には現行の憲法〈明治憲法〉と異なるところはない」と答えていました(昭和21年)。

竹内 そうすると、女性天皇、女系天皇は憲法違反ということですか。

百地 男系維持の努力もしないで、女系を認めてしまうのは憲法違反だと思います。女性天皇、女系天皇を認めることになったら皇室典範は改正せざるを得ませんし、ご結婚相手も皇室会議を経て決められることになるでしょう。しかし、両性の合意が優先される結婚は大変デリケートな問題ですから、そう簡単にことが運ぶとも思えません。

旧宮家の方々の心構え

竹内 旧宮家を復帰させるという案は、どのように考えておられますか。1947年、GHQの意向もあり、11宮家51人が皇籍を離脱されました。伏見、閑院、久邇、山階、北白川、梨本、賀陽、東伏見、朝香、竹田、東久邇の各家です。

百地 歴史的に見ると、旧伏見宮家は、600年の歴史があります。

竹内 まさに名家中の名家です。

百地 そこから先の11宮家に分かれていきました。しかもお互いに養子を取り合ったりしてきました。ちなみに、伏見宮家は北朝の崇光天皇の第一皇子栄仁親王から始まりますが、血縁的には次第に皇室と離れていきますから、生まれた時の身分は「王」です。しかし、常にその時々の天皇の養子(猶子)として「親王」に任じられました。それが世襲親王制です。

竹内 皇位継承権を持っていらっしゃる。

百地 この方法が600年にわたって続いてきました。しかも、現行憲法下でも、旧宮家の方々は、実際に皇族として5カ月間は皇位継承権を持っていました。具体的に言うと、昭和22年5月3日、日本国憲法が施行されましたが、同じく皇室典範も施行されました。そして、その年の10月14日までは皇族でいらっしゃったのです。

竹内 いつでも天皇になれる立場にあった。

百地 旧宮家の方々は今でも血縁上、近い関係にあります。天皇陛下と東久邇家の当主はいとこ関係であり、男子のお孫さんも4名から6名います。上皇陛下の場合は、久邇家の当主の邦昭氏がいとこで、男子のお孫さんが1人います。

竹内 血縁的には、とても近い存在ですね。

百地 賀陽家にも男子のお子さんが2人いますし、竹田家にもお1人います。しかも東久邇家や竹田家には、お孫さんがどんどん生まれてもおかしくない年齢の方が沢山います。

竹内 離脱してから70年もたっているので、旧宮家の方々はすっかり庶民になっていると言われますが、そんなことはないですよね。「旧宮家である」という心構えを常にお持ちだし、婚姻も慎重に良家を選ばれている。いつ復帰しても構わないというお覚悟を持っていらっしゃるのではないでしょうか。

百地 そういう方は何人もいらっしゃいます。平成17年、小泉内閣のとき、「皇室典範に関する有識者会議」が開かれ、女性天皇、女系天皇を容認する流れが生まれました。それと同時に、旧宮家の方々の間でも「男系とは何か」が活発に議論されるようになったと聞きます。三笠宮家の寛仁親王も「男系を護るべきだ」と。

竹内 ヒゲの殿下もですか。

百地 正直に言って、私自身も、あの有識者会議で議論されるまでは、男系の意義を特に意識してきませんでした。男系というのは「父系」のことですね。そういう点で、旧宮家でも戦後生まれの方々のほうが、より自覚的に「いざとなったら男系を護ろう」という決意を固められているのではないでしょうか。それともう一つ興味深い証言があります。朝日の皇室担当記者だった岩井克己氏が執筆した『選択』(2019年8月号)の記事によると、10数回の有識者会議(平成17年)を経て最終的な意見集約に入ろうとしたタイミングで、天皇陛下(当時は皇太子)が「ちょっと待ってもらえませんか」という意向を示されたというのです。

竹内 女性天皇、女系天皇について懐疑的でいらっしゃると。

百地 この記事を見ると、そのように思われます。天皇陛下は安倍総理とも関係が良好だと聞いていますので、よくお話し合いいただきたいですね。

国民の半分は理解していない

竹内 一方で、旧宮家復帰に関して懐疑的な人たちが一部にいることも確かです。たとえば、国民が、そういった方々を皇族として認められるのか、とか。

百地 ええ、そういう声があるのも確かです。

竹内 もう一つ言えば、女系天皇を誕生させたら、悠仁親王殿下は事実上、廃嫡となります。これは門田隆将さんが本誌1月特大号で指摘されています。

百地 女性天皇、女系天皇賛成派は、旧宮家復帰という選択肢を最初から排除しています。要するに旧宮家はないものとして話を進めようとしている。いわば「旧宮家隠し」ですね。そうすると今の皇室には、若い世代は女性と悠仁親王殿下しかいない、これでは大変だと。

竹内 意図的な誘導ですよね。

百地 旧宮家という選択肢があることを、俎上に載せるべきです。ただ年配の方々が復帰されるのは抵抗感があるでしょう。皇室の将来を考えた上での復帰ですから、当然、未婚の若い方々が望ましい。そこを見誤ってはいけません。

竹内 誰もかれもというわけではない、と。

百地 それと旧宮家の方々が不利なのは、そのお顔や存在が目に見えないからということもあります。眞子内親王殿下や佳子内親王殿下のように国民の前に立っておられるわけではない。

竹内 竹田恒泰さんは積極的に発言されていますが、それ以外の方となると、よくわからないところはあります。

百地 ですが、上皇后陛下や皇后陛下を見ればおわかりのように、民間から皇室に入られても立派な皇族となり、皇后になられている。そうであれば、600年の歴史と伝統を持つ旧宮家の方々が皇籍を取得されれば、年月が経つにつれ、多くの国民は「さすがだ」と感嘆の声をあげるに違いありません。

竹内 私も、きっとそうだと思います。竹田恒泰さんはわざと暴れん坊ぶりを発揮しておられますが、どうしても隠し切れない、育ちの良さや長く続いた家柄の方に特有の、「個」よりも「家」を尊重するような雰囲気をお持ちです。ところで旧宮家復帰によって、日本の財政に負荷をかけるという批判もあります。でも、別に新しい宮家をつくる必要はありません。竹田さんは廃絶の危機にある常陸宮家や高円宮家に夫婦・養子として迎え入れれば、問題ないことを主張されている。

百地 おっしゃる通りです。

竹内 世論調査の結果を見ても、国民の多くは女性天皇、女系天皇に対してその本質を理解していないように思います。

百地 具体的な数字をあげてみましょう。2019年10月21日に発表されたNHKの世論調査では、女性が天皇になるのを認めることについて賛否を尋ねたところ、「賛成」と答えた人が74%、「反対」が12%という結果でした。ところが、女系天皇の意味を知っているかどうか尋ねたところ、「よく知っている」と「ある程度知っている」を合わせた「知っている」は42%にとどまり、「あまり知らない」と「全く知らない」を合わせた「知らない」が52%で上回っています。
 さらに、2019年11月18日に発表された産経新聞・FNN合同世論調査でも、「女性天皇と女系天皇の違いを理解していますか」という問いに対して、「よく理解している」が9.7%、「ある程度理解している」が33.2%。他方、「あまり理解していない」が34.4%、「まったく理解していない」が20.6%と過半数を占めていました。

竹内 総じて国民の半数はその意味を理解できていません。

百地 もう一つ大事なのが、「理解している」ということの意味です。女性天皇や女系天皇が誕生したら、皇室が皇室でなくなることまで理解しているとは思えません。

竹内 過去には女性天皇が8人、そしてお2人は2度天皇になられているので10代、存在しています。それは次の天皇が決まらないか、次の天皇となるべき方が幼少のために中継ぎとして即位されただけ。どの方も未亡人か生涯独身を通され、天皇となってから子を産むことはありませんでした。だから、女系天皇は現れていません。
 ですが、すでに言いましたように、今の時代に女性天皇に子を産むことを禁ずることなどできません。そこで女性天皇を認めれば、自ずと男女関係なく女系天皇が現れます。その場合、女系天皇は女性天皇の夫の側の子として認識され、これがすなわち、皇室が変わるという意味を持ってしまう。

百地 こういった悩みは明治時代にもありました。旧皇室典範を起草する際、直系男子は大正天皇しかおられなかった。もし男子がおられなくなったら、どうするべきかを考え、一度は「女統(女系)天皇」の存在を認めようとしたのです。ですが、当時、法制局長官だった井上毅が女系は認められない、男系に限るべきだと。その理由として、井上は「女系天皇の誕生によって別の王朝に移行し、易姓革命が起こってしまう」と述べています。

竹内 つまり、前王朝の失政によって天下が乱れた結果、誰かが反乱を起こして前王朝を潰し、新しい王朝を立てる、ことですね。

百地 イギリスの王朝を見てもそうです。古くはノルマン朝に始まり、プランタジネット朝、ランカスター朝、ヨーク朝、テューダー朝、ステュアート朝、ハノーヴァー朝、ウィンザー朝と変化しています。王室に女性しかいなくなり、結婚して女系の王が誕生するたびに、王朝の名前が変化していったのです。

竹内 藤原家が男子を送り込んで、皇室の女性と結婚し天皇となったら、藤原王朝が誕生したかもしれません。

百地 それこそが易姓革命と同じで、絶対にあってはならないと井上は考えたのです。たとえば、愛子内親王殿下が山本家の男性と結婚したら、その時点で、愛子内親王殿下は山本家の家系の方とみられます。

竹内 それで愛子内親王殿下が天皇になられたら、山本朝という新しい皇室が始まってしまう。

百地 「皇室に入ったら姓がなくなるから大丈夫だ」と言う人もいます。それはヘリクツですよ。考えてもみてください、旧宮家の方々もまだいらっしゃいます。その一方で新しい血の入った別の皇室が誕生したらどうなりますか。正統性を巡って必ず争いが起きることでしょう。

竹内 それこそ令和の大乱が起こってしまいます。

百地 一方で、興味深い現象なのですが、これまで女性天皇、女系天皇、女性宮家に肯定的だった週刊誌や女性週刊誌の論調が、少しずつ変化の兆しを見せているように思います。

竹内 そうなんですか。わざとだと思っていたので意外です。

少しずつの変化

百地 たとえば『週刊新潮』(2019年10月3日号)では、「急浮上する『旧皇族』!『女性天皇』vs.『東久邇宮』という暗闘」と題して、皇位継承問題についての記事が掲載されています。私の談話と共に、東久邇眞彦氏と壬生氏のご長男のお2人に取材したそうですが、どちらも断られてしまったことが書かれています。そして、記者の結論として「自ら売り込みはできずとも、制度さえ整えばその〝覚悟〟を示すであろう男子がいることは、先の百地教授の言の通り」と。

竹内 へえ、期待が持てる内容ですね。

百地 これは大きな変化だと思います。それから『週刊女性』も変化が見られるようになりました。これがずっと続くかはわかりませんが……。2019年12月17日号に「核心レポート『愛子天皇』実現への高いハードル!」と題して、私のインタビューが掲載されており、その後で、愛子天皇は理論的に容認されたとして、現実問題として高いハードルがあると結論づけています。
 そのいくつかのハードルの一つは、平成29年に制定された「退位特例法」です。国会が全会一致で秋篠宮親王殿下、次は悠仁親王殿下という継承順位を決めたことです。それをわずか二年で覆すなんて、あってはならないことでしょう。

竹内 明快な理論です。

百地 『女性自身』が「皇室SPECIAL 即位記念号」(2019年10月15日号)と題して皇室特集号を出しました。そこで女性天皇、女系天皇に触れており、男系男子派は竹田恒泰さんと私、吉木誉絵さん。一方で女性天皇、女系天皇賛成派は小田部雄次氏、三浦瑠麗氏だけです。ここでも明らかに賛成派のほうが押され気味です。

竹内 いやあ、驚きます。女性週刊誌は愛子天皇支持だと思っていましたから。

百地 理詰めでやっていけば、女性天皇、女系天皇の危うさが周知徹底されていくはずです。賛成派はムードだけですし、旧宮家復帰の選択肢を隠している。

竹内 あとは国会議員の間でも意識を高めてほしいと思います。甘利議員や二階議員のような発言は控えてほしいですね。

百地 『週刊朝日』が皇位継承問題について、全国会議員にアンケートを取りました。2019年11月1日号に掲載されましたが、女系天皇賛成が29%、愛子天皇賛成は28%、女性宮家創設賛成は29%です。朝日系列の雑誌ですから、結果はより高い数字を期待していたのでしょうが、当てが外れた感じです。

竹内 このアンケートについて、山田宏議員が本誌(2019年12月号)で、恣意的で誘導的だと憤りを示されていました。結果を見る限りでは、国会議員の見識が示されていると言えます。

百地 散々な結果に終わって、『週刊朝日』も地団駄踏んでいるんじゃないですか(笑)。

竹内 国会議員侮るなかれ、ですね。衛藤晟一議員や稲田朋美議員らに実際お目にかかったことがありますが、知力や体力、気力、胆力など、さまざまな要素を備えられている方たちだと瞬時に気づきました。外目から見ると、とかく誤解されがちですが、まったく違いますよ。

百地 2020年4月には「立皇嗣の礼」(秋篠宮親王殿下が、自らの立皇嗣を国の内外に宣明する一連の国事行為)が行われる予定です。これによって正式に秋篠宮親王殿下が皇嗣となられる。そして次は悠仁親王殿下と決まります。

竹内 とすると、そのタイミングで女性天皇、女系天皇の議論は下火になっていくことが期待されます。

百地 我々も精力的に発言し続けることが大事だと思いますね。

百地 章(ももち あきら)
1946年、静岡県生まれ。国士舘大学特任教授。日本大学名誉教授。1971年、京都大学大学院修了。愛媛大学教授を経て、1994年より日本大学教授。法学博士。専門は憲法学。元比較憲法学会理事長、憲法学会理事、「民間憲法臨調」事務局長、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」幹事長。『憲法の常識 常識の憲法』(文春新書)、『憲法と日本の再生』『靖国と憲法』『憲法と政教分離』(以上、成文堂)、『「憲法9条と自衛隊明記」Q&A』『御代替り』『緊急事態条項Q&A』(以上、明成社)など著書多数。

竹内 久美子(たけうち くみこ)
1956年、愛知県生まれ。1979年、京都大学理学部卒。同大学大学院博士課程にて動物行動学を専攻する。1992年、『そんなバカな! 遺伝子と神について』(文春文庫)で第8回講談社出版文化賞「科学出版賞」受賞。ほかに、『フレディ・マーキュリーの恋』など多数。共著に『「浮気」を「不倫」と呼ぶな』(川村二郎氏との共著/ワック)がある。

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