≪米中新冷戦の行方≫

但馬 新著の『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する』(かや書房)。なんとも刺激的なタイトルですが、米中新冷戦時代と日本経済浮上の因果関係を簡単に教えてください。

エミン 2018年10月、ハドソン研究所で行われた、いわゆる「ペンス演説」の中でマイク・ペンス米副大統領が、米中貿易戦争が本当は「冷戦」であることを宣言しました。実は、私はそれ以前の2016年ごろから、頻繁に「米中関係は新しい冷戦構造に入った」と発言してきたのです。「冷戦」とは単に2国間の問題ではなく、世界を2分する勢力の睨(にら)み合いを意味しています。かつてのソ連を中心とした社会主義勢力と自由主義勢力による地球の分断のように。トランプ大統領は今後、「アメリカにつくのか、中国につくのか」、各国に踏み絵を迫ることになるでしょう。

但馬 ベルリンの壁が崩壊しソ連邦が解体したのが、80年代末から90年代初頭。以後、「グローバリズム」という言葉がもてはやされてきました。結局、それは幻想に過ぎなかった?

エミン そもそも、世界をひとつにしなければならないという発想は共産主義のものです。グローバリズム自体が形を変えた共産主義というべきものです。死滅を迎えた共産主義者が21世紀社会に仕掛けた復讐の罠だったと私は見ています。

但馬 グローバル幻想の終焉とともに登場したのが自国第一主義のトランプ大統領ですね。一方、習近平の中国は、共産主義の残党というより、遅れてきた帝国主義という印象を受けます。どちらにしろ、このふたつはぶつかる運命にある。

エミン そのとおりです。一般に貿易戦争を仕掛けたのはトランプ大統領の方だと思われていますが、それは真逆で、知的財産権の侵害、貿易不均衡、さらにはグーグルやフェイスブックといったネット企業の中国国内からの締め出しなどで、まずケンカを売ったのは中国の方です。それから中国がユーラシア大陸に展開しようとしている「一帯一路」ですが、これはアメリカからすれば、自分たちの覇権に対する真っ向からの挑戦にほかならず、これを許せるはずがない。この冷戦は、30年から40年は続くと見ています。米ソ冷戦も40年以上続いたのですから。今の陛下がお元気なうち、つまり令和時代は米中冷戦が続くということです。
 その中で、米中という2大勢力に挟まれる日本の価値はますます高くなるでしょう。日本を取り込んだ方が、最終的に冷戦の勝利者になるわけですから。日本が中国の味方をすることはないと思いますが、アメリカにべったりでもダメです。

但馬 ポパイとブルートの間にいる美女が日本だということですね。

エミン 日経平均を時間軸で見てみると、日本経済は約40年の上昇期と23年の下降期というサイクルを繰り返していることがわかります。日本は過去、このサイクルを二度経験してきました。たとえば、先の上昇サイクルは1949年からの40年7カ月。敗戦の焼け野原から高度成長期を迎え、そしてバブルへ。この間で日経平均株価は220倍になりました。そして下降期に入って「失われた20年」と言われたのが平成の時代。2013年、ようやくそれが終わり再び上昇期に入ったのです。
 その前年末、第2次安倍内閣が本格始動しています。安倍長期政権はなかなかの外交巧者(こうしゃ)で、日本の存在感は勢いよく増しました。消費増税など、安倍首相の政策のいくつかに疑問符が残るとしても、それは認める人がほとんどでしょう。さらに、2017年に「アメリカ・ファースト」のトランプ大統領が登場──これは前述のとおり、〝グローバル幻想の終焉〟を意味しています。EUに目を向ければ、ブレグジットで地殻変動が起こりつつある。それらが惑星直列的に揃ったのが現在の日本を取り巻く状況です。これは奇跡と言っても過言ではありません。いずれも、日本の経済浮上にとっては好材料です。

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米中新冷戦の勝者は日本!

トランプの対中包囲網

但馬 アメリカで香港人権民主法が成立しましたね。ウイグル人権政策法も下院を通りました。人権問題という中国のアキレス腱に手を伸ばしたトランプ大統領は、本気で中国封じ込めを狙ってきているようにも見えます。

エミン 香港のデモでは、星条旗や英国国旗を振る参加者もいました。我々は「中国人」ではない、少なくとも「中華人民共和国に帰属意識はない」という意思表示であって、習近平にとっては実に苦々しい光景だったと思います。香港の区議会選挙も民主派の圧勝に終わり、これは1月の台湾総統選で再選を果たした蔡英文氏にとっても追い風になったことでしょう。
 注視したいのは、香港で起こっている若者を中心とした民衆の爆発が、中国本土にいつ飛び火するかわからないということです。すでにその兆候はあります。10万人規模の反政府デモが頻発するようになれば、中国政府は国民の不満をそらすためにナショナリズムを煽る方向に行くはずです。一番考えられるのは台湾海峡に再び手を出すこと。アメリカにとって台湾は絶対防衛線ですから、当然乗り込んでくる。ただちに戦争ということはないと思いますが、偶発的な衝突の可能性は充分あり得る。むしろ台湾総統選後の今こそ、緊張は一気に高まると見ています。

但馬 そういえば、トランプは台湾旅行法も制定し、米台関係をより密にしました。着々と対中包囲網をつくり上げている。

エミン 現在の香港情勢はこれからも続くと世界の投資家は見ています。香港はアジアの金融ハブであり、中国企業にとってはドルの調達先でもある。あるいは世界経済の情報基地でもあるわけですが、その香港市場が機能不全に陥ってしまった。そうなれば、これまで香港に集まっていた世界のマネーはどこへ行くのか。一時的にはシンガポールなどに移るでしょうが、そのシンガポールも広義では中華圏です。完全なリスク回避にはなりません。そうなると、もう東京しかないわけです。アジアでは日本が金融のハブになる。当然、人や情報も集まってくるようになります。国際規模の商談や重要な会議も東京で行われるようになる。

「カジノ=悪」か

但馬 まさに国際金融都市ですね。それは安全保障上も重要です。スイスがなぜ永世中立国でいられるかといえば、国民皆兵の国防意識の高さもさることながら、スイス銀行があるからです。誰も自分のお金を預けた銀行に火をつけるバカはいない。

エミン その上で、私は日本のカジノ解禁に関して、反対の声ばかり聞くので多少の戸惑いを覚えています。なぜ、カジノができることのメリットも同時に論じないのかと思うのです。カジノと金融ハブ化はワンセットで見なければいけません。
 つまり、先ほど述べた人や情報が集まるための場所としてカジノがあるということです。旧冷戦時代につくられたスパイ映画『007ロシアより愛をこめて』(1963年)は、私の母国であるトルコのイスタンブールが舞台でした。トルコはイスラム教徒の国ですが、中東の金融の中心地であるイスタンブールにはかつてカジノがあった。カジノを中心に東西のスパイが情報収集のために暗躍している、それが『007』の中で描かれたイメージです。

但馬 確かに、ボンド映画にはカジノシーンがつきものでしたね。

エミン 旧冷戦時代、香港が発展したのも同じ土壌があったからです。実は2022年にマカオのカジノのライセンスがすべて終了します。マカオのカジノ市場は4兆円規模で、その70%がアメリカのカジノ会社が占めており、現在の米中冷戦の行方次第では、中国政府は契約の更新をしない可能性もある。もちろん、トランプ政権は代替え地を約束しているわけで、それが日本ということになります。日本にとっても、カジノにおける経済効果は計り知れません。カジノだけではなく、その周辺にはホテルや劇場、レストランなどの関連施設も建設されるわけですから。当然、大規模な警備が必要になり、警備会社の株価も上がる。これらも新冷戦で考えられる日本の恩恵のごく一部です。

但馬 「カジノ=博打場」という発想で、治安や風紀の悪化を危惧する人もいますが、おしなべてどこの国もカジノのある都市は治安がよく明るいですね。モナコのようなカジノ立国さえあります。

エミン 現在、海外からの日本への観光客は年間3000万人ほどといわれています。世界一の観光立国はフランスで年間9000万人ほどが訪れている。私は最終的に、日本への観光客は8000万人ほどになるだろうと予測しています。それだけのポテンシャルを、この国は持っている。南北に長く、いろいろな季節と風景が楽しめ、食べ物がおいしい。観光もできて遊べる国といえば、アジアでは日本くらいしか思いつきません。香港やマカオは、もうすでに中国共産党の監視下に入ってしまいました。他を見ると、たとえばシンガポールはとても人工的な都市で旅行者の目的は買い物やショー、カジノといった「遊び」に特化しています。マレーシアやインドネシアは、どちらかといえば観光地といった感じ。つまり、両極端なんです。日本の場合、国土がほどよくコンパクトでインフラが整っているのも強みでしょう。1週間の日程で、東北と沖縄の両方を見て回ることだってできます。
 それから、コンテンツ産業も活気がある。漫画、アニメ、ゲーム……2018年末のコミケ(コミックマーケット)の来場者数が4日間でのべ75万人を超えたと聞きましたが、そのうちの10%くらいが外国人で、その数は年々増えているそうです。最近では、外国人による出展ブースも珍しくないと聞きます。イスラム圏でも日本のゲームやアニメは大人気。ドバイでは毎年コスプレ大会が開かれて、イスラムのスカーフをした女の子が、日本のゲームキャラクターのコスプレを楽しんでいます。
 旧冷戦時代、日本は自動車や家電などの製造業で世界に冠たる地位を築きましたが、新冷戦の時代により重要度を増してくるのはコンテンツ、いわば「カルチャー産業」です。「スーパーマリオブラザーズ」が誕生してはや35年。35年といえば、ゆうに親子孫3代の時間的レンジがあるわけです。しかも、それは国内に限ったことではなく、プレイヤーは世界規模。もはや、日本のゲームは世界言語と言ってもいいレベルです。

米中新冷戦の恩恵

但馬 再び中国の話題になりますが、ペンス発言を待つまでもなく「世界の工場」としての役目は終焉した感じがありますね。人件費の高騰、技術流出などのカントリーリスクから、外国企業が中国脱出を始めています。

エミン 新冷戦の恩恵を受けるのは日本だけではないということです。中国から逃げ出した企業の受け皿になるインドやベトナム、バングラデシュといったアジア諸国にも発展のチャンスが巡ってきました。面白いのは、当の中国企業さえ「made in China」では商品が売れないと思ったのか、あるいは関税の問題を回避するためか、工場を国外に移していることです。なんちゃって「made in Vietnam」として出荷している(笑)。その辺り、中国人は思い切りが早い。
 軽工業や衣類などはそれらのアジア諸国へ、そしてエンジン製造など重工業の基幹部分やハイテク産業などは日本に戻ってくる可能性が高いです。確かに日本は人件費が高いですが、トータルコストを考えれば、中国で生産するのと大差はありません。いや、運送費を考えれば安いくらいです。トータルコストというのは、今列挙したようなさまざまなカントリーリスク──中国の場合、工場に電気を引くにも役人に賄賂がいりますから──、あるいはエラー(不良品)率の問題や無断コピーの問題など諸々を合わせてのコストです。ようやく日本の企業もそれに気が付き始めた。アメリカの半導体メーカー、マイクロン社は、広島工場を拡充して一大生産基地化する計画を立てています。同社はもともと日本のメーカー、エルピーダメモリですから、これも形を変えた日本回帰と言える。

但馬 新冷戦で恩恵を受ける国もあれば、アメリカと中国の間でもがき苦しんでいる国もある。ズバリ、韓国です。

エミン アジアを中心とした、この大きなパラダイムシフトにまったく気が付いていないというのが韓国の悲劇です。気が付いていたら、これほどナンセンスな反日政策をやれるはずがありません。現在の日本は、もはや韓国の反日につき合うような国ではないということを彼らは知るべきです。それは思想の右傾化などとは一切関係なく、新冷戦時代に世界の中心になろうとしている日本の責任でもあります。あの中国でさえ、反日を引っ込めたではありませんか。
 戦後に韓国経済を支えてきたのは日本ですし、それは現在も同じです。日本がこのまま手を引けば、確実に韓国は経済崩壊の道を歩むことになる。現在の韓国株の急速な暴落は、日本があの国を見限ったと世界の投資家が判断したからに他なりません。

但馬 ズバリ南北統一の可能性をどうみますか? 

エミン それはないでしょう。特に、赤化統一はアメリカが許さないはずです。私は中国とアメリカの間に陸の緩衝器(バッファ)が必要と考えています。在韓米軍の完全撤退もないと思います。もし、米軍が撤退したら朝鮮半島は混沌とした状態になりますよ。
 ただ統一の可能性があるとすれば、北朝鮮にクーデターが起こって現在の体制が崩れるときですが、そうなると人民解放軍が北から入ってくることになるでしょう。あの地域が38度線で分断されている状態が、近い将来に変わるとは到底考えられません。朝鮮戦争を見ればわかります。マッカーサーは38度線まで北朝鮮を押し込めればそれでよかったのに、「半島を統一できるかもしれない」と欲を出したために中国の介入を招いてしまった。

足踏みする改憲議論

但馬 台湾海峡、それに朝鮮半島と、周囲には大きな火種が絶えないのに、日本は改憲論議も足踏み状態ですね。

エミン 旧冷戦時代、力と力が衝突するラインは大西洋にありましたが、新冷戦ではそれが太平洋になりました。その中心に位置するのが日本です。日本が世界の中心に躍り出る、これは日本人も経験する初めてのこと。その反面、もし戦争が起これば日本の国土は戦闘の最前線ということになる。それを避けるためにも、最低限、自国を守れるだけの防衛力を持たなければ。やはり、必要なのは海上自衛隊(海軍力)の増強です。日本は中国大陸に兵を送る必要もないので、陸上自衛隊(陸軍)は現状維持でも構いません。大東亜戦争はあの広い大陸に出て行って泥沼にハマったわけです。おそらく、大陸戦争ならば米軍も人民解放軍には勝てないと思います。人的犠牲を気にしない国と陸上で戦うのはナンセンスです。
 自主防衛の意思と努力を強く示すことで、世界の資産も安心して日本に集まってくることができる。そうなれば、日本は無敵です。トランプ大統領は韓国同様、日本にも米軍駐留費の増額を要求してきましたが、これはむしろ憲法改正も含めて、国防について考え直す絶好の機会だと思います。

但馬 ここへ来てアメリカとイランの衝突がまた本格化しています。日本経済への影響も懸念されるのですが。

エミン 短期的に見れば、原油価格の高騰が響くでしょう。ただ、今回イランが「我々に戦争の意思はない」というメッセージを日本を通じて米国に送ったことの意味は重要です。今後、中東地域における日本の存在感が増すということです。
 実はイランも内政は矛盾をはらんでいます。革命から40年、シーア派原理主義体制も限界が見えてきました。米国の最終的な狙いはイランに世俗的政府を樹立させることかもしれません。

天皇をいただく日本

但馬 最後に改めてお伺いします。エミンさんから見て、令和の御代は明るい時代であると言い切ってよいのですね。

エミン 「即位礼正殿の義」の直前、土砂降りだった雨が止み、東京の空に虹がかかりました。あれはまるで、平成の経済低迷期が終わり、新しい希望の時代が来たことを天が告げているかのような光景でした。
 天皇、皇后両陛下はお2人とも英語がご堪能で各国要人とも通訳なしでお話しされた。まさにインターナショナルな感覚をお持ちの天皇陛下です。思えば、歴代天皇ご一家はその時々の国民の家族の理想像であったように思います。威厳のある家父長としての昭和天皇、ご子息をお手元でお育てになられ理想的な核家族のモデルとなられた上皇、上皇后両陛下、そして天皇、皇后両陛下は女性キャリアの時代を象徴した知的なご夫婦です。トランプ大統領には任期があります。習近平は終身主席になることが可能となりましたが、あの国のことですから、いつ権力闘争に巻き込まれ失脚するかも分かりません。中国共産党も5000年の歴史の中で生まれ、そして消えていく歴代王朝のひとつに過ぎないのです。
 しかし、天皇をいただく限り日本はこれからも日本であり続けます。そして天皇をいただく限り、この国の経済は何度でも再生するのです。

エミン ユルマズ
トルコ・イスタンブール出身。1996年、国際生物学オリンピックで優勝。97年に日本に留学。翌年、東京大学理科一類合格。東京大学工学部卒業。同大学院で生命工学修士を取得。2006年、野村證券に入社。投資銀行部門、機関投資家営業部門に携わり、16年から複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。日経マネー、ザイFX!、会社四季報オンラインで連載を持つ。近著に『それでも強い日本経済!』(ビジネス社)などがある。

但馬 オサム(たじま おさむ)
1962年、東京生まれ。文筆人・出版プロデューサー・国策映画研究会会長。10代のころより、自動販売機用成人雑誌界隈に出入りし、雑文を生業にするようになる。得意分野は、映画、犯罪、フェティシズム、猫と多岐にわたる。著書に『ゴジラと御真影』(オークラ出版)、『韓国呪術と反日』(青林堂)など多数。

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