【横田由美子】学術会議問題が浮き彫りにする「政府系会議...

【横田由美子】学術会議問題が浮き彫りにする「政府系会議」構成員の馴れ合い

菅総理の問題提起

 政府が、日本学術会議が推薦した新会員候補105人のうち、6人を任命しなかったことから、「学問の自由への侵害ではないか」という議論が巻き起こっている。
 菅義偉首相は、報道機関などのインタビューなどで、同会議の経費や会員への手当には、国の予算が10億円ついていることから、

「会員の身分は特別国家公務員にあたる」と指摘した上で、同会議の現状は、「会員が後任を指名可能な仕組みになっている」と、批判的なコメントを述べた。

 研究者の頂点とされる同会議は、閉鎖的であり、選任方法などに見直しの必要があると問題を提起したことになる。

 研究者らからは、当然、異論が噴出。
「政権に批判的な研究者を狙い撃ちにするもの」
「研究者の業績と実績を調べて推薦しており、学問の自由に対する国家権力の介入だ」
 などと、激しく反発している。

 仕方ない一面もある。なぜなら、菅総理も加藤勝信官房長官も、なぜ6名の学者が任命されなかったのか、理由を明確にしていないからだ。
 
 一方で、菅総理の問題定義自体は、もっともだと思う。学術会議の会員は、後任指名だけでなく、文科省の機関である日本学士院の会員を推薦できるという特権も持つ。これは、立派な「利権」と言えると思う。学士院は終身会員であるだけでなく、文科省予算には、彼らに支給される年金も入っている。

 学者の中には、「指名」をめぐる思惑から、媚びへつらう人が出てきてもおかしくないし、馴れ合いが生まれて
不思議ではない。

会議メンバー「固定化」の不思議

 筆者は、以前から各省庁に多数ある審議会や検討会議等のメンバーが固定化されていることに深い疑問を抱いていた。

 各メンバーの経歴を見てみると、省庁OBの学者が多いだけでなく、民間人などは同じ人間が何度も任命されていた。今や必須の女性メンバーには、特にその傾向が強かった。各省の審議・検討会を「渡り」のように転々としている人も少なくなかった。例えば、現在は厚労省の審議会のメンバーだが、その前は財務省の検討会や文科省の研究会等のメンバーといった具合だ。

 役所に付随する審議会等のメンバーになるといいことはたくさんある。各省の予算(=国費)から出ている日当や交通費自体は大した額ではないが、経歴に箔がつくため、講演などの仕事が増える。省庁相手に話がしやすいため、企業コンサルや社外取締役、顧問などのオファーが入ってくる。名前も売れ、信用が信用を呼ぶ。


 一度、選ぶ側の官僚に選定方法やメンバーの固定化について聞いたことがある。すると、
「メンバーを選ぶ際、〝経験者〟であると楽なことは確かです。他省で身体検査は済んでいるわけですし、経験者やOBだと、我々の考えを汲んだ結論を出してもらいやすいという利点もある。会議は何度か開かれるので、だいたい一回は反対意見を述べる識者を呼んで議論したという体をつくり、外部から(諮問会議は)独立性を保っているように見せる工夫などもしている。
 基本的に新参者には入りにくい世界ですしもたれあいもある。しかし、我々としては省庁の予算から諮問会議の経費が出ているので、我々の方針を曲げるような結論が出るのは困る。新しい人を入れるために、イチから身体検査する余力もあまりないというのもありますね」
 と、あまりにも率直に、メンバーと役所のなれ合いやもたれあいを認める答えが返ってきたので驚いたことがある。

 筆者は以前、ある省庁の検討会に呼ばれたことがある。その際感じたのは、前出の官僚が説明したように、検討会の方針は決まっているが、国民からの関心が高い案件を扱っていたので、いわばガス抜き的に、「反論を言わせていただいている」ということだった。

 せっかく学術会議の選定方法が議論になっているのだから、この際政府には、選定の可否の過程について十分説明してほしい。同時に、各省庁の審議会や検討会メンバーの選定についても俎上(そじょう)にあげて議論を進めてほしいと願う。
 (2981)

横田由美子(よこた・ゆみこ) 

埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。

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