白川 司:リニアの夢を砕く~川勝平太静岡県知事は ズブ...

白川 司:リニアの夢を砕く~川勝平太静岡県知事は ズブズブ親中派

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打ち砕かれたリニアの夢

 「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」──これは箱根街道で人や荷を馬で引く馬子が歌う「箱根馬子唄」の冒頭の歌詞である。現在、この歌詞のとおりのことが、「日本人の夢」と呼ぶべきリニア計画に起こっている。

 宮崎県の実験場でリニアモーターカーが時速500キロを突破したのは、今から40年以上前の1979年だった。それ以後、リニア計画は国鉄の分割・民営化による経済状況に翻弄され続け、この世界一の技術は実現しないままに時が過ぎた。それでもJRは、国鉄の技術と魂を引き継ぎ、リニアの安全性を高めることに腐心して、総額9兆円を超える一大プロジェクトは東京・名古屋間の2027年開業予定にこぎつけた。

 ところが、これに待ったをかけた人物がいた。静岡県の川勝平太知事である。トンネル工事によって大井川が減水するという理由で準備工事の着工を認めず、時速500キロを達成してから半世紀近い2027年の開業すら絶望的になっている。

 川勝知事はなぜリニア開業を認めないのか──彼が2020年8月に朝日新聞に寄稿した手記がある。約4千字のその手記に川勝知事は「リニア中央新幹線vs水・南アルプス・流域住民」というタイトルをつけている。

 「○○対××」といった単純な二元論でしか物事をとらえられない浅薄さが、川勝平太という政治家の本質を如実に浮かび上がらせる。手記の内容も予想どおり浅薄なものだった。

 「自分はもともとリニア推進派であり、それが静岡県のために良かれと思った。中国の朱鎔基首相(当時)が来日の際、『リニアの中国移転を提案する』という情報があり、技術者の意見を聞いてそれを拒むように小渕首相(当時)にも提案した。だが、大井川流域の歴史と住人とのつながりを調べて、大井川の『命の水』を守ることにした」などといった「政治家・川勝平太の成長物語」が描かれている。

 興味深いのは、川勝知事に〝葛藤〟がまるで感じられないことだ。川勝知事には県民の利益を守るとともに、日本国民としての立場もあるはずだ。ところが、環境にまつわる感動物語でいとも簡単にリニア推進派の過去を捨て、どれだけの国益を損ねるかわからないリニア反対派に宗旨替えする。いったん環境派になってしまうと、〝環境破壊者〟であるJR東海や国交省を相手にヒーローのように闘う。これまで国に逆らうような首長を輩出してこなかった静岡県民からすれば、胸のすくような〝英雄〟に見えるのも理解できないことはない。

 だが、葛藤がない政治家は危険である。川勝知事はリニア開業に対して「リニア工事凍結を促す」の一点張りなのである。政治はお互いの利益を最大化するために妥協点を探るものであるが、川勝知事には「自分の正義」しかない。そのため、正義に反対するものはすべて「成敗すべき悪」なのである。いまや「工事一時凍結」を平気で口にしているが、一時凍結とは自分が知事である間は絶対に認めないということだろう。
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リニアの夢はこのまま砕かれるのか?
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言いがかりの反対案

 問題となるリニアの静岡県のトンネル工事はわずか11キロメートルであり、そのうち静岡工区の工事は8.9キロメートルである。国鉄やJR東海が半世紀もの時間をかけてつくり上げたものが、このわずかな工区が許可されないために立ち往生している。この工区は大井川の源流部にあたり、地下深くにトンネルを掘ると大井川の水量が減り環境が悪化しかねないというのが反対理由だ。だが、その理由は「最終的に行き着いたもの」であって、あくまで反対ありきだった。

 というのは、2019年6月に「(新駅の建設費用)全体の平均ぐらいは、(県への支援金の)額(約8百億円)の目安になる」「それが無理であれば、新幹線空港駅の新設や、のぞみの静岡駅や浜松駅の停車を求める」と述べて、県民のためのことをやってくれるなら工事を認めることを示唆しているからである。

 ところが、県民の利益より「リニアを認めたくない」という気持ちが強くなったのか、今度は「(工事で減水する毎秒2トンの水量は大井川流域の)静岡県民62万人の命の水である」「(トンネル湧水を)一滴たりとも失うことがあってはならない」などと運動家まがいのことを主張し始めた。

 この「減水する毎秒2トン」については、JR東海が「覆工コンクリート等がない条件で」と出した最大値であるため言いがかりに近い。しかもJR東海はトンネルから出た湧き水はすべて大井川に戻す対策を実施するとしているので、住民が利用する水は失われずに済むと考えられる。そもそも100キロメートル以上離れたトンネル工事が生活に支障を来すほどの影響を与えた例はない。
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川勝知事が問題視する大井川

環境活動家のような知事

 サイエンスライターの河崎貴一氏は、静岡県が大井川上流の田代ダムから毎秒4.99トンの水を山梨県側の発電所に送って、富士川に放流させるのを認めていることを指摘している(ITmediaビジネスオンライン2019年10月1日)。

 トンネル工事で失われる「命の水」は許さず、その2.5倍の水が山梨にいくのは許すというのだ。その水は最終的に富士川に戻されるので、「大井川が減っても富士川が増えてとんとんになるならいい」ということでもないだろう。つまり、大井川の減水も反対のための理由を見つけ、工事を頓挫させたというだけなのだろう。

 前沖縄県知事の翁長雄志氏(故人)は、「辺野古の珊瑚は一本も折らせない」などと言いながら、中国便などを増やすための那覇空港の拡張工事を推進して、那覇沖の珊瑚礁が破壊されることに何も言わなかった。「ゼロリスクでないならやめろ」と言いながら、自分側の矛盾した行動は気にしないという点で、両者は似ている。言い換えると、政治的妥協などせず、己の正義に酔っているだけではないのか。
 
 ただし、沖縄県は反米軍基地運動を続けることで国から果実を得ているが、静岡県は「命の水」という想像上の産物を守っているに過ぎずほとんど利益がない。安全保障に関わるという点を除けば、県民の利益のために働いている点では翁長氏のほうがはるかにマシだろう。

 いや、この問題は「県民の利益」だけみて済む話ではない。というのは、2020年4月に中国の浙江省政府が「上海市から杭州市を経由して寧波市と結ぶリニア建設を総額3兆6千億元(60兆円)もの巨額を投じて2035年の開業を目指す」と発表したからだ。

 ということは、川勝知事のためにすでに2027年の開業が困難になった日本のリニア開発と、中国のリニア開業にわずかの差しかなくなり、川勝知事が6月の静岡県知事選で再選してリニア反対をさらにつきつければ、もしかしたら中国のほうが先に開業することになるかもしれない。

 リニアは単に東京と名古屋・大阪間を短時間で往来するためのものではない。リニア自体が強力な輸出品になる可能性を秘めているのである。中国が先に開業してしまえば、リニア輸出は中国に横取りされて、半世紀以上の国鉄やJRの技術者の夢が砕かれるだけではなく、国益を大きく損なうかもしれないのである。

中国とズブズブの関係

 リニア開業を目指す浙江省の中国共産党委員会書記を2002年から5年間務めたのが、現国家主席の習近平氏である。静岡県前知事である石川嘉延氏は2002年から三度、知事として訪問団を率いて訪中し、習氏と会談している。川勝知事もその石川氏の先導で、当時は国家副主席だった習近平氏と2010年に会談している。川勝知事は石川知事時代にブレーンを務めていたこともあり、ともに〝大の親中派〟である。ちなみに、かつて早稲田大学で教授をしていた川勝知事から学んだ経験のある者は、「当時から、川勝氏は習近平氏を礼賛していた」と証言している。

 その後、川勝知事は浙江省との関係をさらに深めて、静岡の特産物を中国でつくる計画や、大量の中国人観光客を受け入れる宿泊施設の建設計画などを提案。2013年に習主席から「中国友好交流提携賞」を授与されている。静岡県と浙江省は1982年から友好都市関係を結んでおり交流が盛んで、富士山静岡空港は中国便が多く、渡航制限前まで杭州市および寧波市などに中国便を定期就航させている。杭州便は毎日便だった。

 また、中国共産党の機関誌「人民日報」のインタビューでは、20歳のころに『毛沢東選書』全巻を読破し、毛沢東の農民とブルジョアの対立に興味を持ったという。さらに、「日本は『一国二制度』の考えに工夫を加え、さらに発展させて、『一国多制度』をつくることができたらよいと思います」「静岡と浙江省の関係は何があっても揺らがない」とまで述べている。

 日本とは対決姿勢を緩めない川勝知事だが、中国への愛情は比較にならないほど深いもののようだ。久能山東照宮を特集した『静岡人』(改訂第2号)のインタビューで、川勝知事は自分の祖先が中国からの渡来人である秦氏の流れをくんでいると誇らしげに語っている。どうやら、自分の「源流」が中国であることへのプライドが中国愛を深めているのか、中国という水源から自分のもとに流れる「命の水」を一滴たりともおろそかにしたくないのかもしれない。

 川勝知事と中国との関係で気になるのは、早稲田大学の教え子である松島泰勝氏(龍谷大学教授)に、県庁幹部に対して沖縄独立に関する講演を依頼していることである。松島氏は琉球民族独立総合研究学会を設立して、「琉球独立論」をリードする人物である。川勝知事が大の親中派であることとあわせて考えると、沖縄県に関しても中国寄りのスタンスなのだろうか。中国共産党は日本分断工作を仕掛けて、北海道や沖縄などの独立運動を支援しているという説があるが、もしそうであれば、川勝知事は中国共産党の工作を増長する立場にあるといわざるを得ない。

 2019年11月、王毅外相が来日した際には、わざわざ静岡に立ち寄り川勝知事と会談している。川勝知事は習主席の国賓来日にも触れて、習主席の静岡訪問を要請している。また、習主席が提唱する「一帯一路」を評価して、積極的に参加したいと述べている。先述した「一国二制度」への評価もあわせて考えると、中国共産党の政策を理想として日本に当てはめようとしているのではないかと疑いたくなる。
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リニア技術が中国に横取りされる危機だ

リニアを止めるな

 川勝知事は、日本政府とは対決姿勢を続けながらリニア計画を凍結させようと奔走する一方で、浙江省のリニア計画が進む中国との関係を深めることに努力を惜しまないのである。さらには、当事国の利益など考えず「債務の罠」の道具にすらなっている一帯一路には前のめりという知事は、いったいどちら側を向いているのだろう。

 リニアのポテンシャルは東京と名古屋・大阪を短時間で結ぶことだけではない。日本の安全技術を世界に知らしめて、リニアを日本の安全技術とともに輸出することにある。テスラCEOのイーロン・マスク氏がサンフランシスコとロサンゼルス間に高速鉄道「ハイパーループ」を構想したように、大都市間を短時間で結ぶ高速鉄道の需要は膨大であり、もし開業が遅れて中国に先行されたら、そこで失われる国富は計り知れない。

 川勝知事が本当に県民のことを思うなら工事凍結ありきではなく、東海道新幹線という県にとって重要なインフラを十二分に活用するために、JR東海からできるだけ利益を引き出すべく交渉を進めるべきだ。このままリニア工事凍結だけを求め続ければ、川勝平太氏の名前は「国益を大きく損ねた親中派政治家」として記憶されることになりかねない。知事である前に一人の日本人として、本当にそれでいいのか。

 現在、日本では地方分権の声が大きくなっている。だが地方分権がこのまま進み、その地方が中国の「静かなる侵略」を許したとき、私たちに打てる手はあるのか。そうでなくとも、中国の静かなる侵略はすでにいくつもの地域で進んでいる。東京と名古屋を結ぶ重要な位置にある静岡県がその穴になることは、断じて避けなければならない。

 リニア凍結に向けている情熱を、県民の宿願でもある県東部の医学部誘致に邁進したらどうか。己の公約を果たさず、公約でもないリニア凍結に県のリソースを割くことには何の意味もないのである。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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