大阪からベストセラーを

 出版不況が叫ばれて久しいですが、全国の書店では地元から盛り上げようと、さまざまなご当地本を薦めたり、ご当地本大賞が創設されたりしています(広島県の「広島本! 大賞」や静岡県の「静岡書店大賞」など)。

 私たち大阪の書店・販売会社も「大阪からベストセラー、ミリオンセラーを出したい」という思いから、2013年、「大阪ほんま本大賞」(大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本)をスタートさせました。
「大阪からベストセラーを」ということですが、協力してくれる書店は近畿2府4県(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・和歌山県・奈良県)にまたがり、現在、約980店舗の書店が、店頭販売のキャンペーンを実施しています。
「大阪ほんま本大賞」は今年で第五回目を迎え、受賞作は有栖川有栖(ありすがわありす)先生の『幻坂(まぼろしざか)』(角川文庫)。この作品は大阪の町にある「天王寺七坂」を舞台に、その地の歴史を絡めながら、さまざまな人間模様を描く小説です。

 毎年7月25日に大賞作品を発表、その日から書店の店頭に大きく並べられます。期間は7月25日~翌年1月31日までの約半年間。お店の規模や立地も様々で大変なところもありますが、たくさんの書店が力を合わせてくれて、本当にありがたい話だと思っています。
 ちなみに「大阪ほんま本大賞」は「OsakaBookOneProject」(以下、OBOP)が運営しています。
「OBOP」は、NPO法人のような名称ですが、紀伊國屋書店の百々(どど)典孝氏と、日本出版販売株式会社の奥村景二氏(現在、MPD代表取締役)が中心となり、大阪の書店と販売会社の有志が集まって結成された任意団体です。

 名称の由来は「本当に読んで欲しい1冊を選んで売る」=「Book One」と、大阪全域に広めたいということで「Osaka」。この2つを組み合わせてつけましたが、会議のとき、勢いで決まったところもありましたね(笑)。
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ほんま本大賞受賞作品

3つの条件

「大阪ほんま本大賞」の対象作品になるためには、3つの条件があります。
 まずは文庫本であること。次に、大阪に関係した内容であること。3つ目は、著者が存命であること。

 小さな文庫本であれば、街の本屋さんも大規模キャンペーンがしやすいという配慮からです。また、作品がエントリーされるためには、出版社と書店からの推薦を受けなければなりません。
 選考は、当初は「OBOP」の中核メンバー(約40名の実行委員)だけが集まり、大賞を決めていましたが、3回目から近畿2府4県の書店員も投票できるシステムをつくりました。まず販売会社から書店に「大阪ほんま本大賞」について告知し、投票を呼びかけます。最初は膨大な作品数になります。
 その中から投票で選ばれた上位、3~5作品を、実行委員全員で1カ月間ほどかけて読み込む。その後、再び実行委員全員が集まって決選投票し、大賞作品が決まります。
 ちなみに、過去の大賞作品を紹介すると、

•第1回(平成25年/2013年度)高田郁著『銀二貫』(幻冬舎時代小説文庫)
•第2回(平成26年/2014年度)三浦しをん著『仏果を得ず』(双葉文庫)
•第3回(平成27年/2015年度)朝井まかて著『すかたん』(講談社文庫)
•第4回(平成28年/2016年度)増山実著『勇者たちへの伝言──いつの日か来た道』(ハルキ文庫)

 当初、我々の目標部数は「10万部」でした。ところが実際にやってみると、その数字はハードルが高く第1回こそ5万部を越えましたが、2回目以降は約2万5000部の売上です。「大阪ほんま本大賞」の認知度が、まだまだ低いということも、その原因の一つにあげられます。

 ただ、考えてもみれば、毎回多くのマスメディアでも紹介され、全国規模の「本屋大賞」と比べ、関西エリアだけで2万5000部以上を売っていることは、誇っていい実績だとも言えます。この数字を上積みすることが目下の課題ですが、キープし続けたい数字でもあります。
 実は第5回目まで、授賞式もなければ、副賞もなし。実行委員のメンバーと受賞された作家さんと共に、「本が売れますように」と大阪天満宮に祈願参りをし、その後、懇親会をかねた決起大会を開いていました。

 今年は賞の話題性を高めるために、授賞式を開催することになりました。
 さらに過去に受賞された先生方のサインとコメントを書き込んだ皮表紙のノートを、記念に有栖川先生に渡すことも決定しました。このノートは1年間持ち続けてもらい、一1年後の受賞者に、また新たに書き加えられたサインとコメントの入ったノートを渡す。
 甲子園の優勝旗のようなイメージだと思ってもらえればわかりやすいでしょうか(笑)。
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「OsakaBookOneProject」(OBOP)のバッジ

「本が欲しいねん」

 もう一つ、「大阪ほんま本大賞」について、重要な活動があります。それは受賞作品の売上から、そのうち5%を、児童養護施設を中心に本を寄贈していることです。もちろん、売上の5%に関しては、出版社の協力が必要不可欠ですけれども。

 確かに「大阪ほんま本大賞」は、「1冊でも多く本を売りたい」ことが一つの目標で生れました。しかし、その目標だけでは、なかなか続けることは難しいし、何か物足りない。
 実行委員のみんなで一所懸命考えて、出した結論が「何か社会に貢献しようではないか」ということだったのです。
 最初は、寄贈する案として車イスや盲導犬、図書カードなどが出たのですが、どこか違和感がありました。そこで施設の子供たちに直接聞いてみようとなり、返って来た答えが「本が欲しいねん」と。まさに目から鱗(うろこ)が落ちるような感じでした。
 よくよく考えてみると、我々「OBOP」は本にかかわっている人間の集まりなのだから、本を寄贈するのは至極当り前のことだったわけです。

 ただし、寄贈といっても「OBOP」が勝手に選んだ本を贈るわけではありません。
 年明け1月に売上予測を立て、74施設ある児童養護施設などに「今回は○○万円でお願いします」と伝え、子供たちの欲しい本を取りまとめてもらいます。
 ある児童養護施設を訪問したとき、共有スペースに寄贈した本が置かれている棚がありました。さまざまな事情を抱えた子供たちは簡単に本を買うことができない。我々が寄贈した本を手に取ってもらい、少しでも本の面白さ、楽しさに触れてもらう……。それが如実に、その本棚の存在によって感じられましたね。
 本は毎年3月、実行委員が直接施設に行き、お届けしています。
 子供たちが選ぶ本に関して、制約は一切ないんです。マンガや絵本、教育書、辞書、学習マンガセット……など、多岐に渡ります。そう言えば、大学受験対策の「赤本」のときもありました。その本が切実に欲しいという事情を想像すると、胸が詰まる思いがしますね。

 直接、本を渡しに行くとき、子供たちが顔を出してくれて、お礼を言ってくれることもしばしば。子供たちからの手紙も毎年何十通と届いています。「大阪ほんま本大賞」を続けていて、「ほんま良かったなぁ」と実感する瞬間です。
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読売新聞に紹介された記事

井上副店長の心意気

 本の寄贈によって、我々の活動に賛同してくれる人たちも徐々に増えてきています。その1人が大垣書店高槻店の副店長、井上哲也さんです。
 井上さんは出版界の元気が失われていく中、若い世代の人たちに少しでも働く喜びを感じてほしい、そのために自分は何ができるのか、日々、自問自答したそうです。その中で得た結論が、若い読者をもっと増やすことだと。そして、出会ったのが「大阪ほんま本大賞」でした。

 さらに児童養護施設に本を寄贈していることを知った井上さん、子供たちとも直接会って話をしました。
 子供たちは遠慮がちに、

「ボク、辞書が欲しいねん。施設にも辞書はあんねんけどな、それはみんなで使うてる辞書やろ。ボクは一人で自由に使える辞書が欲しいねん。これってわがままかなぁ?」
「ソフトボールが大好きやねんけど、まわりには好きな子がおらんし、ルールを教えてくれる人もおらん。だから、ルールブックが欲しいねんけど、ダメ?」


 と訴えてくる。本を純粋に楽しんでくれる子供たちが、たくさんいる──井上さんは感激して、もっとこの「大阪ほんま本大賞」を知ってほしいと、いろいろな人に教え伝え、広めてくれています。
「大阪ほんま本大賞」に対して、井上さんのような情熱を持っている書店員は数え切れないほど。
 さらに今後も、もっともっと増えていくと思います。

大阪から全国へ

 毎年、店頭陳列コンクールもしています。選ぶのは作家さんと出版社で、コンクールに入賞した書店には、出版社から記念品を送付していただいています。書店の頑張りに感動される作家さんも多く、選ばれた書店員も非常に名誉に感じてもらっています。
 また、去年から新しい試みとして、10月1日から翌年の1月31日の期間まで、特別賞をスタートさせました。選定条件は文庫本・新書、大阪に関連する内容、そしてノンフィクションです。

 第1回目から5年、紆余曲折(うよきょくせつ)がありながら「大阪ほんま本大賞」を続けてこられました。
 いつの間にか、子供たちに本を贈ることが我々にとって大きな励みになっています。多くの子供たちに1冊でも多く本を届けたい──。しかし、この活動を続けるためには、本が売れなければならない。売れるには、作品選びも重要だし、パブリシティも展開しなければいけません。

 現在、残念なことに「大阪ほんま本大賞」が、新聞・テレビなどのメディアで取り上げられることは、ほとんどありません。一部の新聞や、関西の番組、『ちちんぷいぷい』(MBSテレビ/平日13時55分~17時50分まで放送)の一コーナーで取り上げられましたが、まだまだ認知度が足りていない状況です。
 一人でも多くの方々に「大阪ほんま本大賞」の存在と取り組みを知ってほしい。その一環として、「OBOP」のホームページをようやく開設しました。ツイッターやフェイスブックでも情報発信をしています。

「大阪ほんま本大賞」を受賞した作品を読んで、大阪が好きになったという感想もいただき始めています。
 もう一度、本を読む楽しさや喜びを関西中に、いや、さらには全国へと広めていきたい──「大阪ほんま本大賞」を温かく見守り、応援してもらえたら、これほどうれしいことはありません。
「OsakaBookOneProject」とは
2013年より、大阪の書店・販売会社の有志を中心に結成。「大阪ほんま本大賞」(2015年から名称を使用)を毎年発表、関西の書店を中心に大規模なキャンペーンを展開。今年で第5回目を迎える。URL:https://osakabookoneprojec2.wixsite.com/obop?fbclid=IwAR3CvB8SkdNUZFreho1Gwh8pyFIIaKORoHb6gDSnlv9qOK55bTi5ZxaJnkc。またツイッター(@OsakabookoneP)やフェイスブック(OsakaBookOneProject)でも情報発信中。

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