金融の現場から見た「MMT(現代貨幣理論)」

金融の現場から見た「MMT(現代貨幣理論)」

 はじめまして。アヴァトレード・ジャパン社長の丹羽広と申します。
 これより1カ月に1回「Daily WiLL Online」の読者の皆様に金融会社の社長の視点から見た「お金と経済」のつれづれをお伝えさせていただきます。

 第1回の今回は、主に昨年来話題の経済理論・MMTについて、実務家の視点からその考えをお伝えさせていただきます。
 極力わかりやすくお伝えできればと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

バカボンのパパはやはり天才だった!?

 わたくしはFX会社の社長なので、外国為替が変動相場制でないとすぐに失業してしまいます。この変動相場制、世界で大きく幅を利かせるきっかけは、1971年のニクソンショック(米国のドル・金交換停止)です。変動相場制以外の通貨制度を金(銀)本位制とまとめてしまうことは正確ではないのですが、長い人類史のなかでも、変動相場制とその礎である管理通貨制度というのは歴史が非常に浅いように見えます。

 ところで、わたくしは故・赤塚不二夫さんという漫画家が好きで、中でも「天才バカボン」がお気に入りです。アニメにしかない話で「チョキンチョキンと儲けるのだ」というエピソードがあり、ここでのバカボンパパの奇行はギャクの域を超越して切れ味抜群なのです。

 その回では、美人でやさしくて常識人のママから銀行へのお遣いを頼まれて、パパはバカボン名義の(1970年代、銀行はKYC〈顧客確認〉にうるさくなく、マル優というのがあって……)定期預金(1年満期)の引き出しに行きます。キャッシュトレイには、壱万円札と利息550円が差し出されましたが、パパとバカボンは、壱万円札だけを受け取り、利息はトレイに残したまま銀行を出ようとします。
 頑なに利息の受け取りを拒否するパパに、支店長と副支店長が夜まで(出前のラーメンをごちそうしながら)利息とは何かを説明するのですが……支店長が「利息というのはおカネが産んだ子供のようなものです」というとパパは「すると、オカネは女なのか? お札に描かれているのは皆、男なのだ!」と反駁。

 読者の皆さんが銀行の支店長だったら、バカボンパパを説得して、利息を受け取ってもらえるでしょうか??? ゼロ金利、マイナス金利の時代だから、というのでは言い訳にもなりませんよ。
 このアニメが放映されたのは、ニクソンショック直後でブレトンウッズ体制が段階的に瓦解し、ドル円などの変動相場への移行だったのです。

 なお、年利5.5%という設定には実感があり、郵便局の定額貯金を10年複利で回すと、ほぼ倍になりました。
 利息をようやく理解(?)したパパは、翌日、小銭を握りしめて銀行に預金しに来ます。そして3時間後に再訪して、利息は付いたかと支店長を問いただします。

 このエピソードに限らず、バカボンパパを非常識な無知蒙昧キャラと見るのは愚かしいことです。この3時間利息というアジェンダは、瞬間利息、瞬間複利、ネイピア数(e=lim(1+1/n)^n)と銀行実務の現実とのギャップに関連してきます。

 で、ここからが本題でして。粗品で手帳をもらったパパは、あることをきっかけにそれが小切手帳だと勘違いし、レレレのおじさんや本官さんに小切手を乱発。愚弄されたと感じた本官さんは(お約束の)拳銃を乱発します。自身が金持ちになったと誤解したパパは、ママとバカボンとハジメちゃんを高級すき焼き店に招き、偽小切手で支払いを済まそうとして……。

MMT(現代貨幣理論)って最近よく聞きますよね⁉

 10分ほどのエピソードに、金融論のエッセンスが詰まっていると言っても過言ではない名作だとおわかりいただけますね。

 バカボンパパがしでかしたことは、管理通貨制度下の政府・中央銀行が白昼堂々やっていることと同じです。「徴税権に担保されているではないか?」「赤字国債だろうと借金の証文は記録されているではないか?」とすぐさま突っ込まれるところでしょうが、このあたりはいずれMMT(現代通貨理論)という最近やたらバズっている経済理論(?)検証で改めましょう。

 わたくしの立場をほんのちょっと予告しておくと、MMTだけが断トツにデタラメのポピュリズムだとは思っておらず、およそ経済学説の決定版などはこれまでもこれからもなく、マルクスもケインズも新古典派も欠点だらけ。MMTを(マルクスとケインズのあいだのどこかに)加えてあげても良くて、いずれも限られた前提では成り立つことがある程度のものだということです。
 経済学者という商売が因果なものなのは、宗教のように、何らかの宗旨に属していないと、教員としても、文筆家としても、生存しづらい宿命にあるのだと考えられます。つまり、思いっきりフォローされたり、逆にディスられたりすることが必要(悪)なのです。

 宗教に譬えたついでに言わせてもらえば、

・宗教家(例:イエス・キリスト、親鸞聖人、麻原彰晃)
 と
・宗教学者(例:マックス・ヴェーバー、ジークムント・フロイト)

 とはまったく異なるレイヤーですが、これが経済だと経済学者(のほとんど)が宗教家レイヤーになっていて、学説史専門の経済学者ですら宗教学者レイヤーでやってくれているひとはなかなか見つけられないものです。わたくしは退職後そこを目指したいです。

 とは言え、なんとなくわたくしがMMTは人気取りの似非科学だと言わんとしているように思われるでしょう。現実は、新型コロナウィルスのパンデミックで、多くの国で、外食関連など接客業界、旅客業や運輸業(含む自動車産業)を皮切りに、世界恐慌並みの失業が広がっていて、各国の財政政策は、未検証のままなし崩し的に、MMTの方角へと舵取りされています。出し惜しみでもしようものなら、政権を揺るがしかねないほどの熱狂に潰されると、財政均衡論者ですら観念しているようです。
 (1949)

 (1950)

アメリカの《売国奴》経済学者マイケル・ハドソン教授が凄い!

 アメリカに、知る人ぞ知るマイケル・ハドソンという自称マルクス経済学者がいます。もはや賢明な読者の皆さんは、今日のアメリカ(フォロワーの日本政府)が右で、中国が左だなんて単細胞的に考えておられないと思います。片や資本主義で片や共産主義ということは全然なくて、どちらも重商主義から帝国主義です。
 でも、どちらかと言えば、マイケル・ハドソンのような異端な学者に自国批判を好きなだけ言わせているアメリカのほうが中国より懐が深いと思います。

 マイケル・ハドソンの近著は、日本語訳がされていなくて、たぶん今後もされることがなさそうな読みづらい本です。非常に長い書物ですが、まとめると、古代メソポタミアでは50年に一度、農民が溜め込んでしまった返済不能の借金を棒引きするという習慣があったという記録の発見と、そこからもうひとつ読み取れる事実として、おカネの起源は、貴金属や宝飾品ではなくて、借金(厳密には貸し借りの記録)であったという話です。

 わたくしは、このハドソン教授の後段の仮説(デビッド・グレーバー、ハイマン・ミンスキー)が、「誰かが借金をしないことにはおカネは供給されない」と曲解されて、MMTがでっちあげられたと疑っていて、目下研究中です。この連載期間中にその成果は共有させてもらます。

 ハドソン教授の真骨頂は、過去の著作やYouTubeで、世界史上の覇権国家のなかで、唯一アメリカだけが、(断トツに酷い)対外純債務国であること、それはブレトンウッズ体制(なんちゃって金本位制度)の残滓に過ぎない米ドル=基軸通貨という既成事実に周辺国(中国やロシアなど敵対国をも含む)が呪縛されているからであり、「非ドル化」を進めるべきだとまで言っています。
マイケル・ハドソン氏

マイケル・ハドソン氏

via youtube
 ここで言う「非ドル化」というのは、自国のハイパーインフレーションに対処するためなどの目的で、自国通貨として米ドルを採用してしまったパナマ、エクアドル、エルサルバドル(国名の末尾がドルなのと、自国通貨がドルなのとは関係ありませんから、念のため)、ジンバブエ、カンボジア(セントは導入していません)の「ドル化」の反対概念ではありません。貿易の決済を米ドル建てで行うとか、喜んで米国債を買うとか、そういうことをもう辞めたらどうですかという意味です。

 中国で、一帯一路の国々に対して、たぶん同様にバカボンパパのなんちゃって小切手状態の人民元の使用に警告を促す反体制派経済学者が出てきても可笑しくはないのですが、たぶんすぐに消されることでしょう。やはりアメリカは良い国なのです。

パックス・ジャポニカって誰が言ったのか?

 覇権国家の変遷は、まさに、驕れるものも久しからず、です。ローマ帝国(ローマの平和)やその前後のマケドニア王国(アレクサンドロス大王)やアケメネス朝ペルシャ(ダレイオス大王)までさかのぼると、戦争の記録はあっても経済活動の記録がよくわからないので、良く知られた、日本史にも食い込んでくる海洋国家だけに焦点を当てることとします。

 すると、思いっきり単純化を許されればですが、15世紀はポルトガル、16世紀・スペイン、17世紀・オランダ、18~19世紀・イギリス、20世紀・アメリカ、となります。ポルトガルからイギリスまでは、航海技術と武力によって奴隷や貿易上の利益を確保し対外純債権(銀など)を溜め込んだが、版図が伸び切り武力対立による国力の消耗は次なる覇権国家に漁夫の利を与えてきた……何百ページにも及ぶ世界史の教科書を数行にまとめるとこういうことになるでしょうか。

 とにもかくにも、アメリカが現在の覇権を手にするまでは、覇権は圧倒的な対外純資産を意味していたわけで、アメリカですら、第2次世界大戦直後まではそうであったのですが、朝鮮戦争でかなりの部分を使い切り、ベトナム戦争でマイナスに陥り、後は野となれ山となれという状態です。

 このような国で、MMTみたいな似非科学が「ぽっと出」したことは皮肉です。日本は対外純債権国なのでMMTは成り立つ必要条件のいくつかは満たしていますが、あとは乞うご期待です。

 いまからおよそ30年前、あとから見ればバブル期だった日本では、ジャパン・アズ・ナンバーワンだとか、パックス・アメリカーナ(米国覇権)の次はパックス・ジャポニカだなんて嘯(うそぶ)く似非知識人もいたりしました。そんなことにはなりっこないのですが、アメリカがまたは米ドルがいよいよ安定性を失うのではないかと危惧された局面は度々あったことは事実です。
 
 今日の新型コロナの衝撃と、米中対立も乗り切れるのでしょうか。ちょっと書きましたように、中国共産党のエリートは、天才バカボンから学んだのか、覇権国家の歴史から学んだのか、管理通貨政策については似たり寄ったりのところまで来ています。これにデジタル人民元が加わろうものなら、気に入らない奴のウォレットを任意で凍結、没収できるわけですから、これぞMMTの担保です。

 このような視座を踏まえて、多くの読者の皆さまが期待している、これから為替相場はどうなるのか、世界人類はどこに向かうのか、来月以降も分析して参りたいと思います。
丹羽 広(にわ ひろし) アヴァトレード・ジャパン株式会社・代表取締役社長
三重県生まれ。京都大学経済学部卒。同年、株式会社日本興業銀行へ入社。総合企画部、ロンドン興銀、興銀証券などを経て、2000年モルガンスタンレー証券会社東京支店入社、公社債の引受営業に従事。2002年からはBNPパリバ証券会社東京支店にて株式引受やM&A助言等の業務に携わる。
2005年、BNPパリバ証券時代の取引先であったフェニックス証券の社長に就任。
2013年2月より現職。

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