極めて近視眼的な考え方

 日本のメディアでは円が下がった、下がったと大騒ぎし、30年来の円安だ、と連日のように報道している。そして日本のメディアでは日米金利差が円安の原因だと報道している。

 円はドルとの金利差で上がったり下がったりするという考え方は極めて近視眼的で、かつ、視野の狭い考え方だ。

 常にユダヤ人の歴史的視点で海外から日本を見ている石角完爾としては、これらの誤った考え方が、実は円安の原因を隠蔽(いんぺい)するものであると考える。

 世界各国の通貨はユダヤ人から見れば単なるコモディティ(商品)の一つにしか過ぎない。財産保全のために何を所有するか。不動産ならばどの国の不動産を所有するか。どの国のどういう不動産に投資をするか。株式ならばどの国のどういう株式に投資をするか、は常にグローバルに物事を歴史的に見るユダヤ人の場合には、投資というのは常に最短でも5年単位、通常は30年単位で投資のスパンを考えるから、短期間で売り買いをするブローカー的な視点はない。

 ある国の通貨で表示される不動産や株、あるいは預貯金、国債というコモディティに投資した場合、5年後にそれを売り払った時に損をするか得をするかを5年スパンで考える。

 この場合、例えばスウェーデンのマンションを買った場合に、そのスウェーデンのマンションが5年後にスウェーデン・クローナでどれぐらい値上がりしているかということと同時に、もっと重要な投資判断のファクター(要素)はスウェーデン・クローナが5年後に世界の通貨の中で、例えば英ポンドやユーロ、USドルとの比較において、上がっているか、下がっているかは極めて重要な投資判断のファクターになる。もし下がる方向だとすれば、いくらスウェーデンの中でそのマンションがスウェーデン・クローナのベースで値上がりしても、売った時にそれを英ポンドやUSドルに替えた時に、スウェーデン・クローナが値下がりしていれば大損をする。

 こういう視点から世界の投資家は物事を考えているから、その国の不動産や株式や国債、預貯金に投資を振り向けた場合に、5年後にその国の通貨が他の国の通貨と比べて下がっていれば損をするので、そのような通貨で取引されるコモディティ、つまり株や不動産や国債や預貯金には長期投資を振り向けない。短期で売り買いする投機家とはこの点が違う。

 このように世界の投資家たちは少なくとも5年後にほかの国の通貨に比べて下がっていると思われる通貨の国の不動産や株式や国債や預貯金には長期投資をしたがらないのである。

その国の通貨の価値を決める要因

 さて、5年後という長期スパンで考えた場合に、その国の通貨が上がっているか下がっているかは、各国金利の動向は参考にならない。なぜならば、各国金利は金融政策当局により恣意的に動かされる可能性があるからである。現にアメリカのFRBも1年で金利を急激に引き締め方向に舵を切ったり、あるいは逆に急激に金利を下げたりすることがある。アメリカ以外の各国もそうである。

 従って、少なくとも5年スパンで見た場合に、その国の通貨が上がるか下るかの要因は、ユダヤ人の視点から見れば金利ではない。金利は通貨の長期的変動の要因にはならない。

 では、どういう要因が5年後(長期的変動)のその国の通貨の価値を決めるか。

①その国の財政状況


 その国が借金を膨大に抱えているかどうか。借金の多い国というのは、個人でも企業でも同じだが、一番信用できない。借金の多い国は、稼ぐ以上に浪費しているから借金するということだから、その通貨は常にその価値を減じていくのである。唯一の例外はその国のGDPや国際収支/貿易収支が極めて健全で、毎年上昇し黒字を出していれば借金が多くてもその国の信用は十分あると見られる。借金を上回る収入があるからである。しかし日本のように借金が収入を上回る国は信用を失い通貨も下落する。

②その国のGDPが日本のように毎年ドルベースで減少しているか、人口が減少しているか、その国の労働生産性(これがその国がどれぐらい人口1人当たりで稼いでいけるかの指標になる)かどうか

 国際競争力は、その国の通貨の強さのファクターの一つになる。我々ユダヤ人はGDPが減少し、人口が減少し、労働生産性が悪い国の通貨のコモディティには投資はしたくないし、しない。日本はそういう国にユダヤ人の目から見ると該当する。

③その国の通貨発行量

 第1の点とコインの表裏の関係にある。借金が多いということはその国の通貨発行量が多いということだ。どんなものでもそうだが、大量にあるものは値段が安くなる。簡単な例で申し上げると、鰯が今年はべらぼうに大漁になるとすると当然、イワシの値段は下がる。通貨もこれと同じであり、通貨はコモディティの一種だから大量に発行されれば値段が下がる、暴落する。
 従って、どの国の政府も通貨発行量は極めて慎重にコントロールしている。どうコントロールするかというと、その国のGDPと労働生産性とを横目で睨(にら)みながら他国からうんと金を稼げそうな国に変身していく傾向が見られるならば、通貨発行量も増やしても大丈夫だ、と賢い政策当局者は判断する。

 ところが日本の政策当局者は極めて愚かで、GDPが伸びない、労働生産性が伸びないのに(つまり国際競争力が減衰しているのに)通貨発行量を国債の大量発行という形で大幅に毎年増やしてきた。たくさんあるものは値段を下げるのである。従って、日本円も値段が下がっていく(ちなみに、通貨発行量を税収以上に国債発行の形で増やすと国民と企業に怠け癖がつき、国際競争力はさらに落ちていく。なぜなら、国債の発行による予算の分配は国際競争力のない企業や分野に振り向けられるからだ)。

④その国の安全保障環境

 地政学的リスクと言い換えても良い。敵から攻められない強固な軍事力を有する国の通貨は世界の投資家から信任を受け、価値を高く維持することができる。
 しかし安全保障環境が悪い国の通貨は、その国が攻められればその国の資源と人命を浪費し、国力が減衰していくから、ウクライナの通貨のように世界的な信任を完全に失ってしまい、下落するのである。

 ウクライナに比して、同じ戦争当事国であるイスラエルの通貨は、その強力な軍事力のゆえにイスラエル・ハマス衝突の最中でもイスラエル通貨のイスラエル・シェケルは値段を下げることはない。

 こういう観点から日本円を見ていくと、日本の安全保障=地政学リスクは、ここ5年間世界でも最も戦争リスクの高い国のグループに日本は編入されており、価値をどんどん下げているのだ。

 日本のまわりは敵だらけである。敵にしなくてもいいロシアを岸田政権のもと完全に敵にしたお陰で、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)という目と鼻の先にロシアの軍事基地が建設され、いつでも北海道侵攻ができる立場にあるロシアをNATOのメンバーでもないのにウクライナに入れ込んだ岸田政権はロシアを完全に敵対国に回してしまった。そのせいで、日本の安全保障リスクは異常に高まった。

 また世界の超軍事大国である中国との関係も岸田政権になってから良好化せず、尖閣/台湾海峡は世界で最も戦争リスクの高い地域になり、そのうえ最も危険な北朝鮮は日本に向かって月に一度ぐらいの頻度でミサイルを発射する。

 そういう立場に置かれている日本という国の通貨の信任が世界の他の通貨の中で極めて低くなっているのは当然のことであり、日本の通貨安は、そもそも前述した①から④から来ており、日米金利差は重要な原因ファクターではない。

6つのファクター

 こういう観点から、日本円とUSドルの5年間のスパンで見たチャート①、日本円と英国ポンドとの5年間のスパンで見た交換レートのチャート②、日本円とユーロとの5年間で見た交換レートのチャート③、日本円とスウェーデン・クローナの5年間で見た交換レートの変化のチャート④、日本円とインド・ルピーの5年間で見た交換レートのチャート⑤、及び石角完爾の母国であるイスラエル・シェケルと日本円とのここ5年間の交換レートのチャート⑥を全て見ると、これらの国の通貨との対比において、日本円は一方的に右肩下がりで価値を減じているのである。
 あらゆる主要通貨に対して日本円は安くなっている。つまり円自体の老衰化、多臓器不全なのだ。

 ここにお示しするチャートは各国通貨が基軸になって縦軸になっているため、日本円が下がっているということは、このチャートが右肩上がりになっているということである。

 結論をまとめて言うと、日本円は対ドルのみならず世界の他の主要通貨に比べても、ここ5年間で一方的にその価値を減じており、その理由は、

①日本の国債の大量発行
②安全保障環境の悪化
③GDPの低下
④労働生産性の低下
⑤国際競争力の低下
⑥人口減少、高齢化


 に起因しているのである。

 日本の金利が低いということは、これら①~⑥のファクターの招いた結果であり、原因ではない。
 日本の金利が安いから日本が国債を大量発行しているのでなければ、日本の金利が安いから安全保障環境が悪化しているのでもなければ、日本の金利が安いからGDPが低下しているのでもなければ、日本の金利が安いから労働生産性が低下しているのでもない。因果関係は全て逆である。

 日本円の国債を大量発行しているから日本の金利は安く、安全保障環境が悪化しているから日本の金利は安く、労働生産性が悪いから日本の金利は安く、そして日本の人口が減少し高齢化しており、GDPが低下しているから日本の金利が安いのである。日本の国際競争力が弱化しているから金利が低い。つまり日本の金利が安いのは、国債を大量発行し、安全保障環境が悪化し、労働生産性が悪化し、GPDが低下し、人口が減少し、国際競争力を失った結果なのである。

 つまり、日本は国債を大量発行し、安全保障環境が悪化し、GPDが低下し、人口が減少し、労働生産性が悪化し、国際競争力を失ったために金利を安くせざるを得ないのである。
 金利が安いから円が安いのではなく、自国通貨が安くなる原因を全て抱えた日本であるからこそ金利が安いのである。
 (13831)

日本円とUSドルの5年間のスパンで見たチャート①
 (13832)

日本円と英国ポンドとの5年間のスパンで見た交換レートのチャート②
 (13833)

日本円とユーロとの5年間で見た交換レートのチャート③
 (13834)

日本円とスウェーデン・クローナの5年間で見た交換レートの変化のチャート④
 (13835)

日本円とインド・ルピーの5年間で見た交換レートのチャート⑤
 (13836)

日本円とイスラエル・シェケルとのここ5年間の交換レートのチャート⑥

7つの緊急対策

 だから日本がいくら金利を上げたところで日本円は高くはならないのである。ましてや円買い介入は全く一時的なその場しのぎにしかならない。
 日本円を高くするためには、①国債の大量発行を止め、②安全保障環境を改善し、③労働生産性を上げ、④GDPを上げ、⑤人口を増やし、⑥国際競争力を高め、⑦国際収支/貿易収支を改善していく必要がある。
 この7つを可及的速やかに実施できなければ、日本円はどんどんと安くなっていく。

 国債を大量発行し、安全保障環境は悪く、GDPが低下し、人口が減少し、労働生産性が低く、国際競争力のない国は金利を安くする以外に生き残る道がないのである。
 日本円の金利が安いことは円安の原因ではなく、結果なのである。

 GDP、労働生産性という、いわば稼ぐ力の悪化、脆弱化、そして国力の基本である人口の減少が相まって、日本円の価値が右肩下がりに低下しているのである。
 石角完爾に言わせれば、日米の金利差は結果であって原因ではない。日本円の信任の低下に抗することの出来ない結果として他に選択肢のない低金利政策が結果であり、日本という国に対する信任の低下が原因なのである。

 分かりやすく言うと、国力が低下し、安全保障環境が悪化し、国際競争力が悪化している日本が、あがいて、もがいて、藁にもすがる唯一のその藁が低金利政策ということであり、ここ何十年の政策担当者、つまり自民党政権の賢明でない国家運営(国債の大量発行による税収以上の予算の肥大化)の帰結が現下の日本円の信任の低下を招いているのである。日米金利差は円安の結果であり、原因ではない。日本のメディアも現岸田政権も原因と結果を取り違えるほど頭が耄碌(もうろく)しているが、そうでなければ真の原因をつつかれたくないために、意図的に日米金利差をスケープゴートに仕立てていると言わざるを得ない。
石角 完爾(いしずみ かんじ)
1947年、京都府出身。通商産業省(現・経済産業省)を経て、ハーバード・ロースクール、ペンシルベニア大学ロースクールを卒業。米国証券取引委員会 General Counsel's Office Trainee、ニューヨークの法律事務所シャーマン・アンド・スターリングを経て、1981年に千代田国際経営法律事務所を開設。現在はイギリスおよびアメリカを中心に教育コンサルタントとして、世界中のボーディングスクールの調査・研究を行っている。著書に『ファイナル・クラッシュ 世界経済は大破局に向かっている!』(朝日新聞出版)、『ファイナル・カウントダウン 円安で日本経済はクラッシュする』(角川書店)等著書多数。

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