下あごが落ちるほど愚かな対応

《日本にはない危機対応術(前編)》より

 ユダヤ・キリスト教社会で仮に宝塚、ジャニーズ問題が起こったとすると、具体的にどうするか。

 ジャニーズの被害者は、ジャニー喜多川に性加害を受けたタレントたち。その人たちに多額の現金をいち早く渡すべきだったのだ。記者会見なんかいらない。

 そのためにはどうすればいいのかというと、被害者救済基金を独立の別の預金にしてジャニーズと取引がない無関係の信託銀行に信託預金をする。被害総額はどれくらいか分からないけれども、とりあえず10億円ぐらいを信託基金として被害者救済基金と我々ジャニーズが使えないお金として信託しました、という形で被害者に名乗り出てもらうというウェブサイトをいち早く開設すればよかったのだ。

 ところが、なぜか、あんな記者会見を2度もやり、NGリストまでNHKに暴露され、ますますジャニーズの評判は地に落ち、大企業もジャニーズのタレントを広告に使わなくなってしまった。あの悪評判による営業損の方が10倍、20倍大きいわけだ。なぜ被害者救援基金を直ちに設立しなかったのか、世界的普遍性の高いユダヤ・キリスト教社会の危機対処法を、ジャニーズの経営者はもう少し勉強するべきだった。

 さらに宝塚問題について言えば、どうすればよかったのか。あの飛び降り自殺をされた当日に、トップが高額の見舞金を持って両親宅に行かなれば駄目だった。ゴルフなんかしている場合ではない。トップというのは危機管理職として、その地位にあり、決して偉いわけではない。謝るということも役職の重要な一つなのだ。

 ゴルフを中断し、とにかく両親のお宅に行って現金500万円ぐらいのお見舞い金というか弔慰金を持って、頭を下げて「預かっているお嬢様に至らないことになってしまいました。まだ一部です。宝塚としては3000万円ぐらいはお支払いしたいと思っています」と取りあえず500万円、100万円をテープで包んだやつを5束 持っていき、両親のお宅に行って霊前に額づかないと駄目だ。

 トップはそういう仕事をやる立場にある。それを、何を誤ったのかゴルフを継続して、それをやらなかった。それでは親族はますます怒るに決まっている。怒りから、弁護士を頼もうという話になり、弁護士が記者会見をしてどんどんメディアで話題になり、泥沼に陥ってしまうのだ。

 なぜ記者会見で挑発的な「ハラスメントの証拠を出してもらいたい」などと被害者側に敵対するのか、ユダヤ・キリスト教社会では「下あごが落ちるほど愚かな対応」だと言われる。
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1904年の春、米国北東部の多くの地域で洪水が発生したとき、漫画家 ボブ・サッターフィールドは、さまざまなスキャンダルによる洪水に閉じ込められた政治家や官僚などを描いた。スキャンダルの対処法とは――

ホットスポットを突け!

 謝罪はタイミングが重要で、自殺されたその日の夕方に行かないと駄目だ。しかも500万円は現金で持っていかなくては。

 そういう危機の時に顧問弁護士にアドバイスを聞いても駄目だ。顧問弁護士というのは会社から金をもらっており、会社トップに聞こえの良いことしかアドバイスをしない。厳しいことを言って、「もう顧問お断りだ」と言われる恐れがあるからというので、経営者に耳心地の良いアドバイスしかしない。だから危機管理の時には顧問弁護士の意見を聞いたら駄目だ。

 両親の家に500万円を現金で持っていっても、いくら金を出しても法的責任を認めたことにはならない。それは弔慰金だとか、お見舞金ということであって、賠償金として持っていっているんじゃないんだから、法的責任を認めたことにならない。

 だけど顧問弁護士に聞くと「お金なんか持って行ったら法的責任を認めたことになるから駄目ですよ」と言ってアドバイスする。法的にも危機対応としても間違ったアドバイスである。だから、こういう問題が起こった時は、会社の顧問弁護士の意見を聞いたら駄目だ。

 企業のイメージダウンになりかねない事件が起こった時は、会社の経営者が顧問弁護士に頼らずに自分で考えなければいけないのは「守るべきものは何かということ」と。

 守るべきは企業の信用であり、自分の地位保全ではない。あるいは社内関係者、社内関与者の地位保全を考えてはいけない。中国のことわざにあるように「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」。それこそ企業のトップのやるべきことであって、評判の下落がヒタヒタと押し寄せてきているような事件が起こった時に、企業の信用を第一に考えて問題を起こした社内関係者を切るべきである。
 馬謖が自分だったら、自分の首を差し出す覚悟が必要だ。あのヤコブがやったように鎧兜を脱いで額づく。だからこそドジャースは間髪を入れず一平を解雇した。

 スキャンダルの中心のホットスポットに説明を尽くす。ジャニーズ問題と宝塚問題のスキャンダルのホットスポットとは何か。
 顧問弁護士に聞くと、会社からお金をもらっている弁護士だから、逃げの答弁を顧問弁護士から「こういうふうに聞かれたらどう言いましょう。こういうふうに聞かれたらどう言ったら自分の身の保全になりますか」というようなレクチャーを受けることになる。それで記者会見に臨むから、何百人もの記者からいろいろな質問が出て、結局は逃げの答弁だ、的外れの答弁だと書かれてズタズタになる。

 ユダヤ・キリスト教社会での謝罪の要諦(ようてい)は、一番隠したいことを逆に最初に堂々と認めてしまえ、である。

 では、ジャニーズ問題で一番のホットスポットは何かというと、喜多川さんはすでに亡くなっており、これ以上本人には刑事責任を追及されないけど、まだ刑事責任を追及される可能性のある人々がいる可能性がある。それは共犯者や同調者、模倣者問題。今の社内に共犯者や同調者、または模倣者がいるのではないか。ここが一番スキャンダルのホットスポットだった。

泥沼にはまる構図

 宝塚は何かというと、記者会見でも経営者側が言っていたが、劇団員は雇用か委任かという問題だ。経営者としては「雇用関係がないんです、劇団員とは。委任契約です。委任というのはどういうことかと言うと外部委託なのです。劇団一人ひとりがプロフェッショナルで個別にプロフェッショナルと契約しているんです」と主張したい。

 これも顧問弁護士のアドバイスだ。そうすると、委任関係だと劇団の方の責任がなくなってくる。独立の契約当事者なんだから、自分の就業時間やほかの契約当事者との関係というのは自分の問題として処理しなければいけない。
 それが委任なのだ。雇用となるとそうじゃなくて社員なんだから、会社が全部そのあたりは手を尽くさなければいけないという問題になる。だから宝塚としては委任ということで通したい。これも顧問弁護士が言いそうなことだが、委任でいこうとした。そんな法的なことにこだわっていると、ますます泥沼にはまっていく。委任も雇用もない。人が亡くなっているんだから。

 ジャニーズ問題で、記者会見で会社側が言うべきだったのは、社内に共犯や幇助犯同調者模倣者がいないか警察に捜査してほしい、と言うべきだった。現実に捜査依頼を正式にするべきだった。共犯というと一緒に性加害に及んだ者と思われるかもしれないが、そうじゃない。ジャニー喜多川さんの性加害を見て見ぬふり、そそのかす、付和雷同、けしかける、役が欲しければ我慢せよ、などということを言う社内の人間がいなかったかどうか。

 同調者がいなかったか、真似をする者がいなかったか。そういう人がいれば、それは法的には共犯や独自の犯行になり得る。それを警察に捜査してほしいと、犯罪の全容解明に我々は協力しますから、警視庁よろしくお願いします、という記者会見だったら、話は全然違う。時効になっているかどうかは法的問題で、時効だから謝罪はないとはならない。

 宝塚問題のホットスポットは何か。これは自殺された劇団員がヘアーアイロンで火傷を負わされたという事実があったか、なかったか。もしあったとすれば、これは火傷なので傷害罪という犯罪になる。火傷を負わせた人間が誰だったかという刑事問題になる。その人間を即解雇しなければいけなかった。ドジャースが一平を解雇したように。

 これが雇用関係だと、社員相互間でそういうハラスメント、暴行罪、傷害罪があった時に企業責任が追及される。雇用者責任という。ところが雇用関係じゃなく委任だと、独立のプロフェッショナルの芸能人と個々に契約しているだけだということになれば、宝塚の経営者の問題というのはうんと軽くなってくる。軽くなってくるというかほとんどなくなる。ところが雇用で社員だということになると、企業はそういうことがないように、監視監督防止する義務があるということで企業責任が出てくる。ここが経営側にとって心配の一番ポイントだった。

 いずれにしても記者会見に弁護士を同席させてはいけない。それから、社内に犯罪関与者がいれば、それは民事、刑事を問わず、むしろ会社としては告発することだ。
 宝塚はヘアーアイロンを押し当てた者を即時解雇して刑事告発するべきだった。守るべきは企業のブランドイメージであり、社内関与者を守ってはならない。日本では、世間体を気にして関係者を即時解雇しない。この点がドジャースのユダヤ・アングロサクソン文化との違いだ。

 会社から顧問料をもらっている弁護士のアドバイスを受けてはいけない。こういう時には会社から顧問料をもらっていない全く会社の知らない別の独立した弁護士のアドバイスを受けることだ。これは独立委員会とか何とかという名前の後でそんなものをつくったところで間に合わない。スキャンダルが起こったその直後に、弁護士会にでも頼みにいき「かくかくしかじかで、全く独立の弁護士を紹介してもらいたい」と頼めば紹介してくれる。そういう独立弁護士のアドバイスをスキャンダルの直後から受けるべきである。

 顧問弁護士のアドバイスを受けると「こういう問題もある、ああいう問題もある」と言うので、経営者に恐怖心がつのってしまう。さらに言い逃れの発言を顧問弁護士からレクチャーを受けるので、そのような発言が口をつき記者会見で出てくる。そうすると泥沼にはまっていく。

守るべきもの

 飛び降り自殺があった3カ月前の6月16日、阪急阪神ホールディングスの株主総会で、ものを言う株主から質問が飛んだ。
「劇団の中でハラスメントはないのか」、議長の角さんが「いや、あれはハラスメントとは言わないんだ。教育的指導だと思う」と株主総会で答弁した。

 そうなるとヘアーアイロンで火傷させられるのは、教育指導だということを言わざるを得ないような事態になる。それから3カ月後の9月30日に予想もしない自殺が起こってしまった。だから暴行や傷害まで起こっていれば、教育的指導という弁解はもうはや通用しない、口だけだったらともかくも、社内であれ劇団の中であれ、手を出したら犯罪行為だ。その者を即刻解雇(委任契約解除)し、刑事告発するべきだった。

 現実に宝塚は労基署の調査を2回も受けている。労基署が調査に入るということは雇用関係だという前提で入っている。だから、ますます泥沼にはまってしまう。最初から全然知らない弁護士のアドバイスを受け、記者会見に臨まなければいけなかった。もっと言うなら、ユダヤ・キリスト教社会的危機対処方法を直ちにやっておくべきだったのだ。

 守るべきは企業の評判であり、「ハラスメントの証拠を見せろ」などと発言して具体的な犯罪行為者をかばってはならない
 ここは日本だから日本的にやっていいとはならない。ユダヤ・キリスト教社の教えにはドジャースの一平解雇に見られるように普遍性がある。

 どうしても日本の経営者は「犯罪」はなかったと言いたがる。
 なぜ「犯罪はなかった」と主張したがるのか? それがあると経営陣の責任問題に発展するからだ。だからユダヤ・キリスト教社会の謝罪方法では、逆にまず経営者が責任を認めて十分な賠償金をさっさと支払ってしまえ(アカウンタビリティを尽くせ)となる。そうすれば、マスメディアの追及は終止符が打たれるし、企業の評判を守ることができる。その代わり企業内にある犯罪関与者は刑事責任を負うことになる可能性が高い。

 これから日本の企業で、スキャンダルが起こった時に、くれぐれも弁護士を記者会見に立ち会わせてはいけない。どうしても弁護士のアドバイスがいるなら、弁護士は、幕の後ろに控えさせ、ワイヤレスのイヤホンを通じてアドバイスを受けるべきだ。表に出すな。弁護士は黒子なんだから。弁護士を表に出したらますます泥沼化する。
 だからジャニーズの経営者というのは、基本の基本を知らないのだ。

「謝罪を早くせよ」「早く社内関係者を処分せよ」というのが私の主張だが、それに対して事実確認ができない段階で早々に謝罪するとまずいとか、処分は慎重にという意見もあるが、早く謝ってまずいことは何もない。早く社内関係者を処分してまずいことは何もない。法的責任を認めることになるという心配はない。実際裁判になれば、いくらでもその「謝罪」を覆すことができる「あの時は謝罪や処分をおこなったけれども、何も会社の法的責任を認める意味でしたんじゃありません」と、いくらでも裁判で言える。

 本当に何があったかという事実認定は裁判にならなければ分からない。認定は誰がするのか? 裁判長がやる。それは3年~4年先の話になる。それまで謝罪をしない。それではますます企業の評判が深みにはまっていく。

 事実認定は3年、4年かかる裁判で裁判長が判決内でやる。しかし、評判はそんなことにお構いなく、どんどんと傷が深まるので、事実認定はさておいて被害者に謝罪をする、被害者にお金を渡す、関係者を処分する……これで企業の悪評判の傷口をふさぐことに尽きる。

 日本の経営者の考え方とユダヤ・キリスト教の教える西欧の考え方は全く正反対であり、ユダヤ教ではとにかく間髪を入れず謝罪しろと。関係者を処分せよと。被害者に謝罪しろと、そしてお金を自分の財産の半分は出せと、差し出せと。

 日本企業のトップは謝罪がずるずる遅れて、謝罪をしたら法的責任を認めたことになるという顧問弁護士のアドバイスを受けて謝罪はしないで時間をかける。つまり、被害者にお金を渡さないので、そして、社内関係者を処分しないから、いつまでも問題が後に引きずられてしまう。そして、悪評判が拡大して深刻化するのだ。
石角 完爾(いしずみ かんじ)
1947年、京都府出身。通商産業省(現・経済産業省)を経て、ハーバード・ロースクール、ペンシルベニア大学ロースクールを卒業。米国証券取引委員会 General Counsel's Office Trainee、ニューヨークの法律事務所シャーマン・アンド・スターリングを経て、1981年に千代田国際経営法律事務所を開設。現在はイギリスおよびアメリカを中心に教育コンサルタントとして、世界中のボーディングスクールの調査・研究を行っている。著書に『ファイナル・クラッシュ 世界経済は大破局に向かっている!』(朝日新聞出版)、『ファイナル・カウントダウン 円安で日本経済はクラッシュする』(角川書店)等著書多数。

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