「上級国民」のために

上念 我々の「反対キャンペーン」も空しく、ついに消費税が10%に上がります。これで、また一歩デフレ脱却が遠のきました。

田中 ポイント還元など政府の対策は、短期的な効果しか期待できません。その一方、税率はずっと国民生活に重くのしかかったまま。景気対策の効き目がなくなると、景気が良いのか悪いのかわからないグズグズの状態が続くと思います。時期としては、東京五輪後でしょうか。米中貿易戦争などの国際情勢次第では、すぐに日本経済が深刻な打撃を受ける可能性も否定できない。

上念 財務省は、本当に財政再建したいわけじゃない。「税率を上げた分だけ歳入が増える」という予算編成上の慣行があるから、増税して予算をバラまき、各省庁に恩を売り、優良な天下り先を確保する……というカラクリで動いているだけ。自分たちの既得権益を守り、強化するために増税するんです。

田中 消費増税が自己目的化している財務省は、増税のためなら国民にどんな不条理でも押し付けてきます。消費税は逆進性が高い。つまり税率が上がれば、低所得層ほど大きな負担を強いられる。増税分は社会保障や教育無償化などに回されますが、貧困層から金を巻き上げ、富裕層を含めた社会全体に還元するとは本末転倒。さらなる格差拡大につながるでしょう。

上念 限られたごく一部の「上級国民」が良い思いをするために、一般国民の生活が犠牲になっている。増税は財務省と、既得権に甘える業界団体にしかメリットをもたらしません。 特に経団連は、国内最大にして最悪の既得権益集団です。増税したら消費が冷え込むのはわかっているんだから、財界こそ真っ先に反対すべき。でも、財務省とズブズブだから文句を言えない。

曲学阿世(きょがくあせい)の徒

田中 日本の経済学者の99%は、増税を支持しています。そのなかでも、最高権威の「日本経済学会」からして、財政再建主義者、緊縮主義者しかいません。大阪大学の大竹文雄さんは、「格差が開いてしまう」と軽減税率への反対を呼び掛けていました。でも、それなら消費増税自体を止めれば済む話。増税ありきの頭になっているんです。

上念 一橋大学の齊藤誠さんも、「ザ・財務省」みたいな学者ですね。あるイベントで「金融緩和の出口政策にはリスクがある」と発言した齊藤さんに、「デフレにリスクはないんですか」と質問したことがあります。すると、「日本はデフレだと思いません」と返ってきた。一橋大学が左翼活動家の巣窟(そうくつ)というのは耳にしていましたが、経済学までアッチ側にいってしまったかと。 齊藤さんも特権階級側の人間ですね。高級フレンチ食べながら、「なんで世の中は不平等なんだろう」と言っていたらお金をもらえるんですから。

田中 大学教授って、そういうところあるんですよ。自分は終身ポストにいながら、「大学教員は任期制にすべきだ」なんて言ったりする。卑怯このうえない。

上念 その点、田中先生はアカデミズムの「異端児」です。サラリーマン出身で、しかも吹けば飛ぶような中小出版社に勤めていた。いつ経営が傾くか、いつクビになるかわからないまま仕事をしていた……んですよね(笑)。

田中 まあ、そんな感じ(笑)。しかも不動産屋の息子だから、バブルの恩恵とバブル崩壊の悲惨な状況を両方すぐ近くでみてきた。景気ひとつで、ここまで人生は変わるものかと。

上念 だからこそ、弱者に寄り添うことができる。かくいう私も経営者です。どうすれば従業員を食べさせていけるか、お客さんがサービスに満足してくれるかを考えなければならない。責任と義務を負っているので、現実的にならざるを得ません。大学の場合、営業しなくても学生はやってくる。「弱者のため」と言いながら机上の空論をこねるのが仕事です。しかも財務省に阿れば、マスコミから声がかかって名誉も金も手に入る。こんな楽な商売ないですよ。

田中 まさに曲学阿世の徒。それに、軽減税率が格差是正するというのはフェイクです。星岳雄さんが、軽減税率の導入は実質的に高所得者により大きい金額を配るようなもので、所得の不公平感はむしろ増すと述べていました。

もう銀行はいらない

田中 失われた20年、日本の経済学者は「ゾンビ企業を淘汰(とうた)しなければならない」と口にしていました。業績が悪い企業は市場から消えればいい、という考えです。非効率な企業や産業を税金で延命させることには賛成しかねます。しかし実際は、多くの産業や地域はデフレによって疲弊していた。消費者の財布の紐が締まっていたら、いくら良い製品をつくっても売れません。 マトモな金融政策、財政政策を打たなかった結果、開業率は低下し、廃業率が上昇しました。起業しようという機運も盛り上がらないし、たとえ起業してもすぐに倒産してしまったんです。

上念 要するに、「弱者は死ね」と言っているに等しい。『経済で読み解く日本史』(飛鳥新社)でも書きましたが、1930年代に同じ議論がありましたね。

田中 デフレでもしぶとく生き残るのは、既得権に支えられた大企業です。その典型が銀行で、合併を繰り返して焼け太りしてきた。上念さんの『もう銀行はいらない』(ダイヤモンド社)を読んで改めて、銀行がなくなった方が社会は良くなるんじゃないかと思いましたよ。国債を買って経営を維持している銀行としては、日銀に大量の国債を買ってほしくない。銀行に遠慮して、日銀は大胆な金融政策に踏み切れないんです。

上念 まさに既得権益。実質的に補助金をもらっているようなものです。特権階級の中で利権を回し合う構造になって、大多数の国民は蚊帳の外に置かれる。疎外された国民は、ヤケを起こして危険思想にハマってしまうことが多い。

田中 あと、金融政策を理解していない人たちが過激に走ってしまう傾向もあります。政策で勝負するのを諦めて、思想に頼ってしまう。

「危ない人たち」の登場

上念 れいわ新選組が参院選で思いのほか健闘したのは、その実例といえます。山本太郎氏は「金持ちから奪って貧乏人に配ればいい」という共産党みたいな発想ですね。N国も「危ない人たち」に分類されるかもしれませんが、既存政党、特に立憲民主党に見切りをつけた人たちの受け皿になった。立憲民主党は、参院選で22議席くらい獲得するんじゃないかと予想されていた。ところがフタを開けると、5議席少ない17議席。れいわ新選組に2議席、N国に1議席、維新に2議席が流れたイメージです。

田中 れいわ新選組は10代後半から20代の支持者が多く、立憲民主党は高齢者向け政党に成り下がってしまいました。選挙の1カ月前、土壇場になってから野党共闘・消費増税反対なんて言い出しましたが、とっくの昔に言っとけよと。とはいえ、れいわ新選組が政権を脅かすほどの勢力にはなっていない。

上念 景気がハッキリとは悪くなっていないから、まだ大丈夫でしょう。それにMMT(注)が下火になりました。野口旭さんが『ニューズウィーク』に寄稿したMMT批判で、教養ある大人はMMTに見切りをつけましたね。

田中 詳しくは野口さんの記事を読んでもらいたいんですが、MMTは理論として破綻している。雇用というものを考えていないから、そもそも真っ当な経済政策にもなり得ない。それに最近、MMT提唱者のケルトン教授が、日本のMMT論者を「破門」した事件がありました。精神衛生上、なるべく触らない方が身のためですね(笑)。

上念 でも、この状況に甘えて自民党が経済を軽視していると、もっとタチの悪い政党が出てくるかもしれない。政府の税務調査会でも「10%がゴールではない」と議論されていますし……。

田中 20年ほど前、財務省は将来的に15%と言っていました。ところが最近、どんどん要求がインフレしている。財務省がよく使う手口は、IMF(国際通貨基金)をはじめとする国際機関に職員を出向させ、ウソを吹き込むというもの。今年4月、OECD(経済協力開発機構)事務総長が来日し、「将来的に消費税を26%まで上げる必要がある」と記者会見した。あたかも増税が世界標準かのように演出するわけです。でも、財務省が裏で糸を引いているだけ。じきに30%と言い出すでしょうね。

(注)原題貨幣理論。「政府が膨大な借金を抱えても問題ない」と説き、バーニー・サンダースら米民主党左派に支持されている。

進次郎の「炭素税」

田中 2021年、安倍首相が総裁任期を迎えます。東京五輪後、景気が後退している可能性は高く、ポスト安倍の経済政策がますます重要になる。

上念 石破茂氏の芽はなくなったと考えれば、あとは岸田文雄氏、小泉進次郎氏が有力でしょうか。

田中 メディアは、石破氏と進次郎氏に期待しているみたいですけどね。でも、石破氏は相変わらず野党政治家みたいなことばかり言ってますし、初入閣した進次郎氏は注目こそ浴びるでしょうが、じきに化けの皮が剝(は)がれるでしょう。

上念 いずれにせよ、見事に財務省のポチしかいません。菅官房長官はアベノミクスを引き継いでくれるかもしれませんが。

田中 あとは、内閣改造で外務大臣から防衛大臣にスライドした河野太郎氏。外務大臣として株を上げた彼を、ポスト安倍に期待する向きもあります。でも、肝心の経済観がダメ。ガチガチの緊縮派ですから。

上念 田中先生は、かつて河野氏に直接レクしたことがあるそうで。

田中 ずいぶん昔の話ですけどね。河野氏が、「サービス産業は生産性が低くて問題だ」と言っていたのは印象的です。でも、サービス産業はもともと生産性が低いのが当たり前で、問題はそこじゃない。景気を良くすれば人手不足になり、機械化するとなれば投資も活発化する。とにかく景気が第一なんだと説明しても、なかなか理解してくれませんでした。「もしかして、河野さんの周りには官僚的な発想の人しかいないんじゃないですか」と尋ねると、彼は正直に「そう言われればそうかも」と認めてくれました(笑)。いまだに、財務省的な考えからは脱していないでしょうね。

上念 進次郎氏が環境大臣になりましたが、当初、進次郎氏は環境政策のムダを削減する環境緊縮をするかと思った。でも最近、どうも違うなと。というのも、環境をネタに増税するんじゃないでしょうか。可能性が高いのは炭素税。でも、ガソリン価格が値上がりすれば、車社会の地方に住む人たちにとって大きな負担となる。地方創生が重要だと言いながら、平気で矛盾したことをやりそうです。「持続可能な世の中をつくるために」とかナントカ言っておけば、通ってしまうでしょう。

田中 進次郎氏も河野氏も、彼らのお父さん世代の財政再建主義、構造改革主義から何も進歩していない。世代を超えて財務省の洗脳が続いています。

上念 父親の純一郎氏は財務省ベッタリでしたが、息子も同じです。このまま財務省のポチを続ける限り、財務省も全面バックアップしてくれるからお互いにウィンウィン。こういうビジネスモデルの政治家は大勢います。彼らが構造改革的なアプローチが好きなのは、補助金が出るから。わざと解決不可能な問題を設定して、あとは頑張ってる〝アピール〟するだけで補助金ゲット。左翼の訴訟ビジネスもそうですが、火のない場所に煙を立てるビジネスモデルが横行しています。
 例えば環境問題。最近アマゾンの森林火災が話題になりました。ツイッターをみていると、「地球上の酸素の20%はアマゾンで生まれているから大変だ」みたいな投稿が流れてきた。でも、酸素の20%を消費しているのもアマゾンだからプラスマイナスゼロ。昼間は光合成する植物も呼吸はしているし、微生物も大量にいますから……って、こんなの中学レベルの理科です(笑)。おそらく、寄附金で飯を食っている連中がいるんじゃないかな。

黄信号から赤信号に

田中 今年に入り、従業員判断指数(従業員の不足から過剰を引いた値)が全産業で低下しました。つまり、新規採用に慎重になっている。これはアベノミクス始動以来、初めてです。長期化するとマズいですね。

上念 今の大学1年生、2年生は厳しい就職活動を強いられるかもしれません。

田中
 また賃金動向で気がかりなのが、派遣スタッフの時給が去年春がピークで、現在は低下傾向だということ。アベノミクスは、主に反安倍の人たちから「トリクルダウン」と批判されることがある。株価が上がり、富裕層が投資で儲けて景気がよくなったと思っているんです。しかし、それは一面にすぎません。実際は新卒やアルバイト、派遣といった社会的立場の弱い人たちの雇用が真っ先に改善した。つまり、実はボトムアップなんです。それだけに、新卒採用の鈍化や派遣の賃金低下が懸念されます。

上念 消費増税が雇用にまで影響を及ぼすと、アベノミクスも黄色信号から赤信号に変わってしまう。

田中 安倍政権が発足したとき、失業率は4.4%。それが2013年の終わりには3.5%に低下している。ところが前回の消費増税後、同じ0.9%を下げるのに約3年かかっています。

上念 増税が消費を減退させて雇用を鈍らせると、賃金もなかなか上がらない。何度、同じ失敗を繰り返せば気が済むんでしょうか。

田中 まったくです。いま消費者態度指数が、11カ月連続で低下しています。前回、消費増税が実施されたのが2014年4月。そのとき、消費者態度指数は37.1でした。そして現在、なんと同じ37.1。増税前にもかかわらず、すでに前回の増税後の水準なんです。1997年の増税で消費が落ち込んだとき、財務省はアジア通貨危機に罪をなすり付けていました。今回も、米中貿易戦争があるから、天候が悪くて野菜不足だったから、台風が来たから……とテキトーな理屈をつけるんでしょうね。

大胆に発想せよ

田中 景気が良いと緩やかなインフレとなり、不況だとデフレになる。今後の期待インフレ率を示すブレーク・イーブン・インフレ率をみても、ここ数年横ばい。予想インフレ率が変化していないのは、金融政策はほとんど効果ナシと市場に判断されているからです。

上念 どんどん金融緩和すればいいんですけどね。日銀は国債を大量に買って、資金を市場に流しています。つまり、国債の流通量が緩和の上限になってしまう。新規発行してボリュームを増やせばいいのに増やせないのは、財政再建を叫ぶ連中がいるから。オペレーションの対象を国債以外にも多様化しなければ、日銀は手足を縛られたままです。
 そこで提案したいのが、日銀発行の電子マネー。電車に乗るとき使うスイカみたいなICカードを国民全員に配って、インフレ目標を達成するまで毎月1万円入金されるようにすればいい。

田中 10万円くらいバラまいてもいいでしょうね。絶対使いますよ。

上念 ICカードの読み取りシステムは、ソニーが考えた「フェリカ」という技術によるものです。日本全国に普及させた後は、各国の中央銀行にも電子マネーを導入してもらうよう働きかければいい。銀行の在り方も変わって、日本が金融立国になるチャンスがやってきます。

田中 成田空港に到着した外国人観光客全員に、ICカードを配ってもよさそうですね。日本国内でしか使えないから、確実に消費が増えるでしょう。

上念 それくらい大胆な発想を期待したいんですが、頭の固い官僚にはムリでしょうね。リスクをとらずに天下りして、「上級国民」として穏やかに一生を終えることしか考えてませんから。お金の使い方を知らないから、せっかく税金を集めてもムダなものしかつくれない。それなら、みんなに金を渡して好きなことに使わせた方がいいんです。

上念総裁、田中副総裁

田中 米中貿易戦争だけでなく、アメリカのマネー不足が世界経済に影響を及ぼすんじゃないかと心配しています。というのも、FRBのパウエル議長が無能なんです。トランプがツイッターでパウエル批判を展開し、それが中央銀行の独立性を侵していると批判されている。でも個人的には、トランプに頑張ってほしい。

上念 ボルトンじゃなくて、パウエルが辞任すればよかった。ただ歴史上、FRB議長を任期途中でクビにした例はない。法律上はできるみたいですが、期待しない方がいい。

田中 パウエル就任以来、マネタリーベースの対前年比はマイナスのままで、バランスシートが収縮している。ECB(欧州中央銀行)も、中国人民銀行も、日本銀行ですらバランスシートは拡大基調。アメリカがコケると、世界経済が危うくなってしまう。

上念 好景気がトランプ政権を支えているので、不況になったらトランプ再選も危うくなる。

田中 その点、韓国の中央銀行はうまくやってます。リーマンショックやITバブル崩壊で世界経済が減速すると、金融緩和でウォン安に誘導してきた。ウォン安になると資本は流出するものの、輸出が潤って成長率は維持される。韓国銀行は、日本の輸出管理を待ち望んでいたんじゃないかと思います。7月中旬に利下げしたとき、米中貿易戦争と日本の輸出管理を並べて、「韓国経済の懸念材料」に挙げていた。まだ経済にどう影響するかはわからない状態にもかかわらず、金融緩和の口実に使ったわけです。

上念 その点だけは、日銀が韓国銀行を見習ってほしい。

田中 消費増税後、日銀は〝ご祝儀〟で金融緩和すると思いますが、それほど大規模な緩和じゃないから期待できないでしょうね。いま失業率は2.2%ですが、2.0%か1.9%まで下がる余地はある。そうなれば賃金も上昇して懐が温まるのに、緩和しないのはもったいない。

上念 安倍政権は、私を日銀総裁にしてくれませんかね。発表された瞬間に1ドル=170円にさせる自信はあります。

田中 で、僕が副総裁になると。そうすれば、一瞬でデフレ脱却できるでしょう(笑)。
田中 秀臣(たなか ひでとみ)
1961年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。現在、上武大学ビジネス情報学部教授。専門は経済思想史・日本経済論。サブカルチャーやアイドルにも造詣が深い。『AKB48の経済学』、『デフレ不況』(共に朝日新聞出版)、『ご当地アイドルの経済学』(イースト・プレス)等、著書多数。近著に『増税亡者を名指しで糺す!』(悟空出版)。文化放送『おはよう寺ちゃん活動中』火曜コメンテーター。『iRONNA』等、ネット連載多数。
上念 司(じょうねん つかさ)
1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。著書に『TOEICじゃない、必要なのは経済常識を身につけることだ!』(ワック)、『習近平が隠す本当は世界3位の中国経済』(講談社+α新書)、『誰も書けなかった日本の経済損失』(宝島社)など多数。

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