トランプ政権からの圧力か

 カジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐり、中国の深圳に拠点を置く「500ドットコム(中国名は500彩票網)」(以下「500」と表記)から300万円の現金を受け取った容疑で、秋元司衆議院議員(自民党を離党)が年末、東京地検特捜部に逮捕され、これを皮切りに、国会議員の名前が次々と報じられた。
「500」から接待を受けた、政治家12人のリストも出回っているという。名前が挙がった衆議院議員は北海道と九州(沖縄)を選挙区としており、習近平政権の「日本乗っ取り」戦略が透けて見える。

 米トランプ政権のみならず、オーストラリアなどファイブアイズの構成国、そして蔡英文総統が圧倒的な得票数で再選を決めた台湾でも、中国共産党による政界や経済界、アカデミーへの〝赤い工作〟とスパイの存在を最高レベルで警戒し、マスメディアで積極的に報じることで警鐘を鳴らし、疑惑の人物のビザ申請却下などの措置を取っている。

 この度、東京地検特捜部が動いたのは、中国マネーによる工作を野放しにしてきた日本に対して、アメリカからの圧力がかかったのではないかと推測する。
 直接間接の中国マネーで操られる〝政治屋〟が、枕を高くして寝られない時代が日本にも到来したのかと密かに期待している。
 中国共産党による工作(マネートラップ・ハニートラップなど)が、あたかも「存在しない」フリをして国民を騙してきたのが政官財、そしてマスメディアだ。

 失礼ながら、この度は超大物とは言い難い政治家があげられたが、永田町の住人のみならず、地方議員、地方自治体の役人まで、少なからず戦々恐々としているはずだ。
 なぜなら、日本でのIR事業を目指す中国系企業の代理人=手足は、紺野昌彦容疑者など「500」の関係者だけではない。明言は避けるが帰化人を含め他にもいるし、別の中国系IR企業も、日本進出を目指している(詳細は後述)。
 その〝手足〟から現金を渡されそうになり、突っ返した地方議員も現実にいるのだから。

カジノで横行する資金洗浄

 近年、アメリカやカナダを訪れる中国人旅行者が、巨額の現金を持ち込み、空港で発覚する事件が度々報じられている。2010年2月のバンクーバー五輪前から、投資移民・技能移民・家族移民などのプログラムで中国系が激増しつつあったカナダについて、カナダ国境サービス庁の資料に基づき、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた7年前の記事を紹介しよう。

 トロント空港とバンクーバー空港で、2011年4月から2012年6月上旬までに、中国国籍者から押収した無申告の所持金が総額1290万カナダドル(約11億円)に上り、両空港で押収された現金全体の59%を占めた、という。
 日本では、カルロス・ゴーン容疑者が楽器箱に入ってプライベートジェット機で密出国という仰天事件が報じられたばかり。
 スキだらけの我が国において、VIPを装い大金を持ち込むことなど朝飯前のはずだ。
 何より、人民元ではなくドルや円などの外貨はどうやって持ち込むのか。その常套手段の一つが、カジノのVIP室などで行うマネーロンダリング(資金洗浄)なのだ。

 カナダのブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府は、リッチモンド市にあるカジノを通して、マネーロンダリングが横行している事実を2018年に報告している。さらに、それらの灰色資金がBC州の不動産に流れ、同州の不動産が高騰する要因となっているとの見解も示された。
 バンクーバー国際空港があるリッチモンド市は、中国系住民が過半数を占める中国の飛び地である。カジノでマネーロンダリングをする主たる客が〝何人〟であるか、多くの市民が思い浮かべるのが中国系であることは間違いない。

 同市には、私が取材をした2008年春の時点で香港系カジノが幾つもあり、中国・香港資本のディーラー養成学校もあった。そして「中国人が、昼間から入り浸っている」と聞いている。新移民の暇な熟年層も熱中している、とのことだった。
 2010年2月のバンクーバー五輪後、スポーツ施設の運営は厳しくなるが、リッチモンド市の地元カジノが売り上げの一部を補填し赤字の埋め合わせをすることで、市民に年間利用パスを廉価で提供する体制で運営が続いているという。

 すなわち、カジノが市に貢献をしている。この点だけを切り取れば素晴らしいと言いたいが、それによって中国共産党によるBC州、同市行政への影響力が強まっていったことは事実なのだ。
 日本では、国の行政機関として事業者の規制・監督を担う「カジノ管理委員会」が1月7日に発足した。果たして、世界で起きている事象、問題をきちんと踏まえ、規制・監督管理する能力が、現場感覚とイマジネーションに欠けたエリートにあるのだろうか、はなはだ疑問である。

北海道の特殊事情と中国マネー

 2018年2月、内閣府のIR担当副大臣だった秋元議員と家族とのプライベートなスキー旅行の旅費、約76万円を負担したということでクローズアップされたのが、ルスツリゾート、十勝サホロリゾートなどのスキーリゾートや観光ホテルを幾つも運営する加森観光(本社・札幌市)である。

 私は、『週刊文春』に「北海道ただ今中国人に売り出し中」(2010年7月15日号)という見出しで、中国マネーによる領土買収のスクープ記事を発表している。
 その際、加森公人社長(当時。現会長。2018年6月より長男の加森久丈氏が社長)は、取材に快く応じてくれた。取材の一カ月ほど前の2010年4月、加森観光はニセコの比羅夫スキー場のゲレンデと一体化する、「リフトまでゼロ分」という最高の立地にある山田温泉ホテル(北海道倶知安町)を、中国人富裕層へ売却していた。
 同ホテルが建つ比羅夫周辺は、ニセコにあるスキー場の中でも、オーストラリア人をはじめとする外国人投資家による売買で地価バブルが最も激しい地域だった。

 ただ、売却価格10億円という噂も飛んだ同ホテルの外観、看板は〝昭和〟そのもの。煙突は錆び、軒下にはクモの巣が張っていた。温泉が自墳しているため、硫黄臭が漂っていた。
「老朽化のため改築するにしても相当な費用がかかりますし、何よりその回収に何年もかかります。とりあえず様子をみようと昨年(2009年)3月に閉鎖したところ、オーストラリア、香港の会社や個人投資家など、あちこちから売ってほしいと声が掛かりましてね。代理人を通じてですが、最もいい条件を出してきたのが、大陸の中国人だったんです」
 加森社長は飄々と語り、そして続けた。
「売却価格、購入者の名前は公にできませんが、中国の大企業のオーナーで、驚くほど素性のしっかりした人物です。土地も狭いですし、温泉が豊富とはいえ、よくもあんな値段で買ってくれたなぁと驚いています。使途については、個人所有の別荘にするそうです。今、中国は国内で派手な接待をすることが難しくなっていますから。国外であれば、治外法権でしょうからね」

 このコメントは、『週刊文春』の拙記事をそのまま転載した。補足すると、個人所有の別荘ではなく、高級分譲コンドミニアム「スカイニセコ」として2018年12月にオープンした。
 バブル絶頂期にリゾート法を制定した日本は、長期滞在型のリゾートをつくろうと大規模な開発案件が各地で動き出した。北海道ではトマム、サホロ、ルスツ、キロロなど。東急系、西武系などが開発に動いたニセコもその一つだった。
 が、バブル崩壊──。長期滞在型リゾートは絵空事に終わった。

 加森観光は取材当時、サホロリゾート部門の損益が、「赤字状況にある」との話だったが、2012年度からは、町からの助成金5000万円/年(2002~2011年度)がなくなるタイミングだった。
 北海道の事情通(元銀行マン)から聞いた話では、北海道においてリゾート事業から撤退したくとも、国有林の原状回復義務を履行しなくてはならず、施設の解体費用や原状回復費用など、十億円以上の除却損が発生する。放置しておいても、毎年、固定資産税は課される、と。
 しかも、希少動物の保護を目的とする「種の保存法」により、開発業者には調査が必要となり、また、販売を目的とした捕獲などの恐れもあるため、一般への売買・譲渡が禁止されていたりする。

 そのため、道内どころか国内において、タダでも買い手を見つけるのは至難の業、というのが北海道の抱える厄介な事情だった。そのような状況の中で、加森観光は「他人(中国など)からの資本投下に期待」をしたのである。
 その際、私が危惧したのは、北海道の買い占めを目論む中国マネーに今後、操られてしまうのではないか──ということだった。
 中国の常套手段だが、相場より高値を支払うことで〝優しいスポンサー〟になる。そして観光客やスキーヤーとして、人民を大量に送り込み、観光業のみならず、地方行政にも深く入り込み、乗っ取りを本格化させていくのではないかという不穏な予感だった。

菅義偉官房長官と電話

 バブル時代の負の遺産を引き継ぎ、リゾート業を黒字で維持することは無理難題、開発を進めるのは博打、やめるも地獄という、この北海道が抱える経済的な〝弱点〟を逆手に取ったのが、中国マネーである。日本の領土が共産党独裁政府につながる資本に売却されないよう、日本政府が法整備を怠った結果なのだ。

 中国マネーに限らず、海外資本にとって撤退は簡単だ。国有林を放置し、施設が廃墟になっても、行政がどうすることもできないことを知っているからだ。結局、かつての持主も販売業者も役人も誰も責任を取らず、後始末には血税が使われることになる。
「500」との関係でこの度、名前が挙がった自民党の船橋利実衆議院議員の札幌事務所は加森ビル内にあり、加森観光が後援会の幹部を務めている。国会議員が国民と道民ファーストの政策を立案することなく、〝中国依存症〟に陥っていたのであれば、目を覚ます時ではないのか。

 また危惧した通り、加森観光の立ち位置も中国企業との橋渡し役になっているように見える。中国系企業に、夕張市そして小樽市の観光施設や歴史建造物も売却している。詳細は省くが、大正時代に小樽に建てられた「北の誉酒造」社長の私邸で宿泊施設としても使われた「和光荘」も、日本の手から離れた。昭和天皇陛下と皇后様がお泊まりになったほど格調高い建物だったのだ。
 さて、北海道はIR事業において、加森観光が推す留寿都、苫小牧、釧路などがIR誘致に手を挙げていた。そういった中で、新千歳空港からのアクセスが良好で、海外IR企業からの人気が圧倒的に高かった苫小牧を候補地にすることを、高橋はるみ知事(当時)が発表。それに伴い、海外IR企業が同地に事業所を設置し始めた。

 ところが、夕張市長から新しく知事となった鈴木直道氏は、昨年11月、IRの申請を見送ることを突如、表明した。
 いきなり梯子を外された苫小牧市の関係者らは、「知事からの説明を事前に受けていない」という。また、鈴木知事は、この発表の直前に菅義偉官房長官と電話で話をしていた、との情報もある。
 時期的には、「500」と国会議員との関係が報じられる前である。憶測が憶測を呼んでいるが、チャイナゲートが暴かれることを、北海道と官邸が回避したいがための防衛策だったのだろうか?
 そのような中、加森公人会長が贈賄罪で在宅起訴された。

「500」は内紛中?

「500」に話を移そう。2001年よりサッカーくじなどをネット上で販売するシステムを運営している同社は、北京五輪の2008年に、国家ハイテク企業に認定されるなど躍進をした。
 さらに、同社はセコイア・キャピタルの出資などを受けて、2013年6月にNY証券取引所に株式を上場し、IPO(新規公開株)で8000万ドルを調達する。そしてFIFAワールドカップ・ブラジル大会があった翌年の2015年は100億円近い売り上げを記録したとされる。

 そのため、習近平政権に目をつけられた可能性がある。同年、政府からの取締りを受け、この数年は利益を上げていなかった。
 ロイター(2019年12月26日)によると、昨年は株主に帰属する4億5170万元(約6450万ドル)の純損失と、1億2600万元(約1800万ドル)の売上げを計上している。
 それなのに、「500」の関係者は日本で鼻息が荒かった。2015年から筆頭株主が紫光集団になったからだろう。「6000万人を超える登録ユーザーを有し、重要なデータのリソース」というのが、紫光集団が1億2400万ドルで「500」の株を約30%取得した理由とされる。

 紫光集団とは、胡錦濤(こきんとう)前国家主席や習国家主席らを輩出した清華大学が全額出資する清華ホールディングスが、1988年に51%を出資して設立したIT系企業である。
 胡前主席の長男で同大学出身の胡海峰が、2008年に清華ホールディングスの共産党委書記(最高責任者)に昇格した際、紫光集団の組織改編があり、彼の知己で同大学卒の工学博士、趙偉国が会長に就いた。

 一方、胡海峰は父親の引退と入れ替わりで2013年から正式に政界入りし、ロケット出世をしている。
 紫光集団は中国政府の支援を受け、世界の半導体技術の〝爆買い〟の急先鋒になるなど、人工知能(AI)、ビッグデータ、監視技術などの開発や買収で内外に知られる。米インテルが最大14億5千万ドルを出資する形で、2014年9月に業務提携を決めたことも報じられた。
 昨年11月には、エルピーダメモリの坂本幸雄元社長を同集団の高級副総裁に迎え、日本子会社の最高経営責任者(CEO)に起用することを発表したばかりだ。
 そんな紫光集団が大株主となった後の「500」は、創業者の羅昭行(Man San Law)会長が降りて以来、頻繁に会長が交代している。羅元会長は大株主で議決権を現在も持っていることから、新旧勢力間で内紛が起き、このたびの日本での贈収賄容疑の発覚へと飛び火したのかもしれない。

 いずれにせよ、「500」自体が、博打そのもの、ジェットコースターのように不安定な企業であるとの認識を、永田町の住人やIRを推進する地方行政は認識していたのだろうか?
 年末年始は、「500」に注目が集まったが、中国系の別の一社にも注目したい。

 昨年8月27日、和歌山県が主催するIRシンポジウムにて、ビデオレターで登壇したのが香港・マカオでこの数年、急成長を遂げてきた「サンシティ・グループ(中国名は太陽城集団)」のアルビン・チャウ(周焯華)会長だった。香港を本拠地に、「世界的なVIPサービスを提供」している同社が、和歌山に特化する方針を明示し、日本開催のイベントに初登場したのだ。
 10月25日には、「IRゲーミングEXPO2019大阪」にて〝ホスト風〟の容姿を披露し、「和歌山県に特化」「投資額は4000億円から5000億円」などと語った。
 海外展開も行っていたサンシティは、オーストラリアでカジノを運営するクラウン・リゾートと、同社とライバル関係にあるザ・スター、この大手2社とパートナー関係にあった。メルボルンとシドニーにある2社のカジノ内にてVIPルームを運営し、主に中国人の富豪を誘致していたという。

習近平のいとこをアテンド

 だが、このチャウ会長について、オーストラリアの「シドニー・モーニング・ヘラルド」紙や、メルボルンの「エイジ(The Age)」紙などが昨年8月1日以来、複数回、仔細に報じた内容から、同国ではすでに〝渦中の人物〟となっていた。
 要約すると、オーストラリア当局は、チャウ会長について、2017年5月に大規模なマネーロンダリングをした容疑、犯罪組織とのつながりについて調査中であること、チャウ会長の、オーストラリアへの入国を禁止したこと、などだった。

 カジノ・オルグというサイトの8月5日の記事では、ギャング風のチャウ会長の写真と共に、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物):豪警察のサンシティに関する2017年の報告書は、世界最大のジャンケット・オペレーター(=VIPのサポート)であり、CEOのアルビン・チャウは秘密結社14Kであり、あるいは14Kだった、と報告している」と説明されている。
 14Kと言えば、香港の黒社会の組織の一つである。
 これら一連の報道に対して、チャウ会長サイドは、「真実ではなく全く法的根拠がない」「明らかな中傷的行為」「チャウ氏に苦痛、羞恥感、屈辱感を与えた、また継続して与え続ける」などと書面で即反撃をした。

 だが、チャウ会長が2018年にオーストラリアの観光ビザを申請し、その申請が承認されなかったことを、最初に報じたシドニー・モーニング・ヘラルド以外にも、「当局に確認した」と断言するメディアもある。
 米「フォーリン・ポリシー」の2018年11月6日のレポート、「What Is Beijing Planning for Hong Kong?(中国政府は香港をどうしようと企図しているのか?)」にも、彼は名指しで登場していた。小見出し「追跡中のものごと」の中で、「愛人を買収」という太字で始まる興味深い内容を訳してみた。

〈愛人を買収──マカオの大物アルビン・チャウは、愛人との関係を終えた後、3800万ドルを支払ったと伝えられている。一夫多妻制は、中国本土や香港では禁止されているが、中国の超富裕層には通用しない。一方、チャウの富には疑わしいルーツがある。彼自身の会社のギャンブル・スキームの関係で、共産党に謝罪を余儀なくされた。彼は犯罪組織とのつながりで、オーストラリアから追放されている〉

 彼の派手な二重生活(現在は前記翻訳の通り、手切れ金を払ったらしい)も中国メディアに写真付きで報じられていたが、私生活はどうでもいいとして、同紙に記された「共産党に謝罪を……」に注目したい。豪クラウンでのカジノ〝VIP〟の一人が、習国家主席の母方のいとこ(オーストラリア国籍所有)だったことが、昨年8月2日の米「ニューヨーク・タイムズ」紙に報じられたことは記憶に新しい。そのアテンドが、このチャウ会長だったのだ。

 サンシティ・グループやチャウ会長にまつわる報道内容が真実か否か、私にはわからない。ただ、オーストラリアのパートナー企業2社が、サンシティが運営するVIPルームを閉鎖したことは、複数のメディアが8月19日から一斉に報じている。
「火のないところに煙は立たぬ」なのか「疑わしきは罰せず」なのか。永田町の住人そして和歌山県は、こういった世界のマスメディアが報じる内容を収集し、精査し、せめてオーストラリア当局に照会くらいはすべきでないだろうか。

河添 恵子(かわそえ けいこ)
1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学を卒業。86年から北京外国語学院、翌87年から遼寧師範大学(大連)へ留学。主に中国や台湾、移民問題、教育関連をテーマに取材・執筆活動を続ける。50カ国以上を取材。著書は『中国人の世界乗っ取り計画』(産経新聞出版)、『世界はこれほど日本が好き─№1親日国·ポーランドが教えてくれた「美しい日本人」』(祥伝社)、共著『米中新冷戦の正体─脱中国で日本再生』(ワニブックス)、『中国・中国人の品性』(ワック)など。

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