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大谷翔平選手の口座から24億5000万円以上を不正送金したとして訴追された元通訳の水原一平容疑者(YouTubeより)

打ち砕かれた大谷翔平ブランド

長年全く気づかなかったという管理の著しい杜撰(ずさん)さが白日のもとにさらされた。
「大谷は被害者だ」と同情する声と同時に、大谷という男は測り知れない杜撰でだらしがない男だという見方が広まろう。代理人のバレロ事務所が無能だと言っても、結局、代理人のミスは本人のミスだ。

大谷翔平ブランドは恐らく戦後日本が生んだ最大の国際的な属人ブランドである。このリビング・ブランド、生きている人のブランドというのは、過去に「HanaeMori」(森英恵)とか「IsseiMiyake」(三宅一生)とかいろいろあったが、それをはるかに凌駕(りょうが)する国際ブランドが翔平ブランドだ。

ところが、今その翔平ブランドが大幅に価値が棄損(きそん)される大事件が起こってしまった。いつも翔平の傍にいた側近中の側近が、自分の財産を狙っていた大きな犯罪に手を染めていたのに、本人が全く気づかず側近中の側近として使い続けていたという事件であり、大谷本人の任命責任、監督責任が大きく問われる事態に至ってしまったのだ。

この翔平ブランドにとって、水原一平という人物は、翔平ブランドを粉々に砕く命取りにもなりかねない存在になったと言える。今までは翔平ブランドは一平によって助けられた、一体不可分の関係という面があったが、この事件以降は、水原一平が翔平ブランドを引きずり降ろすことになるかもしれない。翔平の常に側にいた人間の犯罪、それも翔平の財産を狙った犯罪を見逃したのだから一平は翔平ブランドの命取りになり得るという見方が出てくる。

翔平は被害者だからブランド価値は傷が付いていないと言う人が多いが、本人の側近中の側近の犯罪だけにそうもいくまい。
日本のメディアではカリフォルニア州の弁護士資格を持つ人が登場して、カリフォルニア州法での窃盗は3年以下の懲役いうことになっていると発言していたが、間違っている。
翔平の財布から一平が札束を抜き取ったと、カリフォルニア州内で。だったら、それはカリフォルニア州法の適用しかないのだ。

刑務所で寿命を迎えることになる?

しかし一平が翔平の金を盗むためインターネットを使ったとなると、話はカリフォルニア州法では済まない。インターネット犯罪というのは全部連邦の犯罪なのだ。

実はボイヤーという男にFBIとIRSと米国土安全保障省という3つの連邦機関が捜査に入っている。
この連邦機関が、仮に一平が脱税やマネーロンダリングにかかわっているとすると、脱税問題とマネーロンダリング(違法海外持出)にまで捜査に入ってくる。そうなるとカリフォルニア州法の問題では済まない。

連邦法18章856条横領。インターネットを使った横領。1014条インターネットを使った虚偽。銀行に対して嘘を言った。1005条、銀行のインターネットで銀行に対して嘘の書き込みをしたと。

例えば送金目的とか何か、そこをどう書いたのか。それで1344条、これが今回の場合は適用になるのだが、銀行からお金を騙し取った罪もある。翔平の口座だけれども銀行が管理している銀行の資産だからだ。銀行詐欺ということになると、最大30年の懲役。一平は、最悪の場合、刑務所で寿命を迎えるということになりかねない。電子詐欺、インターネットでの詐欺は20年。そして、1955条のギャンブル、金融という罪、これが全部引っかかると、全部加算される。

そもそも一平が翔平に全く知らないところで、銀行のウェブサイトから金を送金するということは滅茶滅茶難しい。

まず翔平のPCを立ち上げる時に入力しなければいけないパスワードがある。PC立ち上げのパスワードを一平に教えていたとは考えられない。プライベートなことも全部見られてしまうからだ。

とすれば、銀行のウェブサイトで、翔平のログインIDとパスワードを入力しなければならない。さらに、送金先を登録するためのセキュリティコードを2度入力(送金先の登録で一度、金額の登録でもう一度)しなければならない。初めての送金先の登録はセキュリティのガードが高いので、本人以外には難しい。

次に、銀行から今度は送金の時に送られてくるワンタイムパスコードというのがある。これは翔平のiPhoneに4桁のパスコードが送られてくる。問題はそれだけじゃ済まない。50万ドルの送金ということになると、銀行の担当者から電話がかかってくる。翔平ぐらいになると銀行家(バンカー)が付いている。

少額の預貯金をしている人は、銀行家は付いていないけれども、超高額の預貯金をしている人には、銀行の担当者が割り振られ、常にその人と電話で話しながら、銀行取引をやっていくという、そういう担当者制度になっている。いわゆる百貨店の上得意のお帳場みたいなもので、銀行の銀行家というのがいる。そこから「翔平さん、50万ドルの送金、間違いございませんですね?」という電話が翔平のiPhoneに直接かかってくる。

ワンタイムパスコードを受け取るのもiPhoneだから、iPhoneを立ち上げなければいけない。そのパスコードもいる。iPhoneの立ち上げ、パスコードまで一平に教えているとは考えられない。SNSやLineも全部一平に見られてしまう。その銀行登録のiPhone番号をこっそりと一平のiPhone番号に変更したとすると「なりすまし」詐欺、銀行詐欺にも該当する。連邦法の犯罪だ。

それで50万ドルを送金すると、自動的に銀行のコンピュータから「50万ドル、誰々さんに送金しました」というテキストメッセージかEmailが送られてくる。どこに来るかといったらと、翔平(か代理人のバレロ)のiPhoneに来るわけだ。それを、こっそりと自分のiPhoneにすり替えたというのだから悪質極まりない連邦法の銀行詐欺犯罪になる。

財産管理能力は三流

しかも一平の盗んだ金額は驚くべき巨額で、日本円で24億円にもなる。
その巨額を自身の口座から抜かれていて一平が白状するまで全く気づかなかった翔平には管理能力も監督能力もない。定期的に銀行から送られて来る銀行取引明細書を見ればすぐに気づくはずだが、それすら本人も代理人バレロも見なかったのか?

能力がないことは責められることではないが、翔平自身があまりにも杜撰であったため、一平がのめり込んでしまったと言えなくもなく、拡大犯罪になった環境を提供してしまった翔平自身の道義的責任、ガバナンス不足は否めない。

問題は、一平が罪状認否で罪を認めるかどうかだ。一平の弁護士はマイケル・フリードマンだが、罪状認否で無罪を主張し、翔平に不利な発言をする可能性はある。最長30年と言われる刑期を罪状認否で罪を認めて司法取引し、刑期を短くしてもらう戦略をとっても、一平にはまだ218憶円もの賭博利益の不申告という脱税の罪が待っている。その刑期も非常に長いものになろう。

脱税犯の訴追となると、一平問題は、続いてメディアの報道するところとなり、翔平ブランドは無傷とはいかない。

結論として筆者があえて言うと、一平のような人物を重用した翔平のブランド管理の脇が甘かったのだ。自身の財産管理能力の欠如、犯罪者を登用して重宝がり使い続けたその任命責任と監督責任、ガバナンスの欠如の代価は高くつくことになるかもしれない。

翔平は以前も仮想通貨交換所FTXの広告塔をやっていて、そこが破綻して自身のブランド価値を落としている。野球とルックス、立ち居振る舞いは一流だが、ブランド管理の能力、財産管理能力は三流かもしれない。

さらなる罪状がある?

古くから世話になっているアシックスを切り、報酬の大きい同業他社のニューバランスに乗り換えたのは、自身のブランド価値の背景にある「信」(Trust)とか「徳」(Virtue)に配慮していないとも言われかねない。

アメリカのギャンブル課税は1回の賭け事で1200ドル以上の利益を取得した場合には、その都度IRSに申告書を提出しなければいけない。次の賭けで損をしたからといって、損益通算ができないのである。

もし一平がその都度賭けの1回ごとに儲かったものが1200ドル以上だったら、申告していなければ何百回、何千回という申告漏れの可能性がある。つまり、賭けの儲けの総額と言われている218億円の完全な大型脱税になるかもしれないのだ。

問題は、その儲けをどこに隠しているかということで、アメリカの銀行口座だけでなく日本の口座にも隠しているとなると、日本の脱税の訴追も待っている。資産の海外逃避となるとマネーロンダリングの訴追も待っているとなる。IRSの追徴ですべて差押えされるから、翔平に弁償する金もなくなる。そこまで犯罪が拡大し、かつ民事の賠償責任も履行できないとすると、一平の弁護士としては司法取引という選択を取らずに争うかもしれない。

一平にとっては銀行詐欺の罪状認否で罪を認めて刑期を短くしてもらっても、仮に脱税やマネーロンダリングつまり違法な金銭の海外逃避の嫌疑もかけられ、民事の賠償もできないとなると、司法取引でもあまり刑期は短くならないかも知れない。一平は仮定の話だが米国土安全保障省の連邦捜査の対象になる可能性がある。

仮に一平はプライベートジェットで日本に来るたびに、金銭の国外持ち出しをしていたとすると、明らかな連邦法違反となり、日本でも外為法違反、そして所得税法違反ということになってくる可能性があるので、国際的な犯罪となり、日米両国の刑事問題となろう。

このように一平問題は次から次へと波が襲ってきて、そのたびごとに翔平ブランドが棄損されていく。

さて以上申し述べたことは、全て石角完爾の想像と推測であり、証拠に基づくものではない。また犯罪の見通しに渡るところは、全て石角完爾の「根拠なき憶測」に基づくものであり、あくまでも、もしそうだとしたらという仮定の話の上での単なる可能性に言及しているだけ、ということをはっきりと断っておく。
石角 完爾(いしずみ かんじ)
1947年、京都府出身。通商産業省(現・経済産業省)を経て、ハーバード・ロースクール、ペンシルベニア大学ロースクールを卒業。米国証券取引委員会 General Counsel's Office Trainee、ニューヨークの法律事務所シャーマン・アンド・スターリングを経て、1981年に千代田国際経営法律事務所を開設。現在はイギリスおよびアメリカを中心に教育コンサルタントとして、世界中のボーディングスクールの調査・研究を行っている。著書に『ファイナル・クラッシュ 世界経済は大破局に向かっている!』(朝日新聞出版)、『ファイナル・カウントダウン 円安で日本経済はクラッシュする』(角川書店)等著書多数。

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