東大出身合格者が「過去最少」
「役人としては、ものすごい危機感を感じている。何十年もの間、〝官僚の斜陽〟が話題になっていたけど、もうそういうレベルでもなくなった。高級官僚という存在はなくなって、官僚のイメージは、県庁や区役所の公務員ぐらいまでレベルが下がってもおかしくない」
私と同世代(平成ひと桁台入省)の〝官僚〟は、今年度の国家公務員総合職で、東大出身の合格者が過去最少だったと聞き、眉間にしわを寄せてこう話した後、付け加えた。
「私大卒が悪いとか、そういうことを言っているわけではない。我が国の最高学府から霞ヶ関を目指す学生が減少したことは、仕事に魅力を感じていないからだ。東大卒の若手キャリアを見ていても、人材難しか感じない。今の時代に滅私奉公的な僕らの感覚は合わないだろうが、仕事に対する意識があまりに低すぎる」
と言って、長いため息をついた。
人事院が発表した2020年度の国家公務員総合職試験の合格者数は、前年度比で81人少ない1717人。東大の合格者数は2.6ポイント減の249人だった。
筆者が大学生だった20数年前を思い出した。霞ヶ関のキャリア官僚になれるのは、東大法学部しか無理なのだと、真剣に思い込んでいたのが嘘のようだ。京大や早稲田はその頃もいたが圧倒的少数派で、今回6位の中央大(60名)、9位の名古屋大(51名)卒のキャリアなんて、聞いたことがなかった。名古屋大は、前年度から合格者数を大きく伸ばし21人増となっている。
私と同世代(平成ひと桁台入省)の〝官僚〟は、今年度の国家公務員総合職で、東大出身の合格者が過去最少だったと聞き、眉間にしわを寄せてこう話した後、付け加えた。
「私大卒が悪いとか、そういうことを言っているわけではない。我が国の最高学府から霞ヶ関を目指す学生が減少したことは、仕事に魅力を感じていないからだ。東大卒の若手キャリアを見ていても、人材難しか感じない。今の時代に滅私奉公的な僕らの感覚は合わないだろうが、仕事に対する意識があまりに低すぎる」
と言って、長いため息をついた。
人事院が発表した2020年度の国家公務員総合職試験の合格者数は、前年度比で81人少ない1717人。東大の合格者数は2.6ポイント減の249人だった。
筆者が大学生だった20数年前を思い出した。霞ヶ関のキャリア官僚になれるのは、東大法学部しか無理なのだと、真剣に思い込んでいたのが嘘のようだ。京大や早稲田はその頃もいたが圧倒的少数派で、今回6位の中央大(60名)、9位の名古屋大(51名)卒のキャリアなんて、聞いたことがなかった。名古屋大は、前年度から合格者数を大きく伸ばし21人増となっている。
官僚の衰退は国家の衰退
「東大法学部に非ずんば、人に非ず」
「財務省に非ずんば、人に非ず」
さまざまな「非ず」言葉が、霞ヶ関の掟には存在していて、その掟は、霞ヶ関の強固なピラミッド社会を支える役目も果たしていたが、20年ほど前から起きていた小さな地殻変動は、気づいたら、大変動となっていたということなのだろう。
一ツ橋大卒初の財務次官を目前に控えた矢野康治主計局長や、文科省でナンバーツーにのぼりつめた初のノンキャリア官僚、丸山洋司審議官(大分県立大分上野丘高卒、後に法政大大学院修了)は、今何を思うのだろう。彼らが必死でもがき苦しんできたガラスの天井が割れた瞬間、天井どころか、家全体がガラガラと壊れたような印象を私は受ける。
私が初めて出した本のテーマは、若くして霞ヶ関を去り、政界やITベンチャー、外資系金融などに転職していく不思議を解明するというものだった。2007年のことだ。その頃には。まだ〝高級キャリア信仰〟が薄れてはいても、残っていたことになる。
その後、2度の政権交代を経て、ごく普通の人が政治家になるように、ごく普通の学生が官僚になり始め、ここ数年は、幹部世代の不祥事が続出した。魅力の感じられない仕事、安い給与、過剰労働、不祥事による社会的地位の低下――マイナス面を言えばきりがない。確かに、優秀な学生が行きたいと願う場所ではとうになくなっている。今、霞ヶ関の優位性を挙げるとしたら、「安定」しかないだろう。
しかし、その他の面で民間企業に劣っていても、今回のコロナ禍のような未曾有の事態に陥っても、
「我が国最大のシンクタンクである霞ヶ関官僚の質が落ちれば、国家の衰退につながりかねない」
と、警鐘を鳴らしてきた。
「財務省に非ずんば、人に非ず」
さまざまな「非ず」言葉が、霞ヶ関の掟には存在していて、その掟は、霞ヶ関の強固なピラミッド社会を支える役目も果たしていたが、20年ほど前から起きていた小さな地殻変動は、気づいたら、大変動となっていたということなのだろう。
一ツ橋大卒初の財務次官を目前に控えた矢野康治主計局長や、文科省でナンバーツーにのぼりつめた初のノンキャリア官僚、丸山洋司審議官(大分県立大分上野丘高卒、後に法政大大学院修了)は、今何を思うのだろう。彼らが必死でもがき苦しんできたガラスの天井が割れた瞬間、天井どころか、家全体がガラガラと壊れたような印象を私は受ける。
私が初めて出した本のテーマは、若くして霞ヶ関を去り、政界やITベンチャー、外資系金融などに転職していく不思議を解明するというものだった。2007年のことだ。その頃には。まだ〝高級キャリア信仰〟が薄れてはいても、残っていたことになる。
その後、2度の政権交代を経て、ごく普通の人が政治家になるように、ごく普通の学生が官僚になり始め、ここ数年は、幹部世代の不祥事が続出した。魅力の感じられない仕事、安い給与、過剰労働、不祥事による社会的地位の低下――マイナス面を言えばきりがない。確かに、優秀な学生が行きたいと願う場所ではとうになくなっている。今、霞ヶ関の優位性を挙げるとしたら、「安定」しかないだろう。
しかし、その他の面で民間企業に劣っていても、今回のコロナ禍のような未曾有の事態に陥っても、
「我が国最大のシンクタンクである霞ヶ関官僚の質が落ちれば、国家の衰退につながりかねない」
と、警鐘を鳴らしてきた。
令和時代の官僚のあり方
私たちより、ひと世代前のそれこそ昭和の高級官僚たちは、民間企業から夜な夜な接待を受け、高額な退職金を貰い、天下りを繰り返すことで退職金を何度も手にするなど、美味しい思いをしてきた。しかし平成官僚は、入省時こそ、官僚の黄金時代末期を垣間見るも、そうした特権の数々が批判の中で消滅していくのを目の当たりにし、実感するのは国民からの強い非難だけという中で、国家のために身を尽くして働く志の高さとのジレンマに悩みながら、それでも馬車馬のように働いてきた。
では、令和時代の官僚は――?
働き方改革を霞ヶ関でも進めようという、新しい価値観を当たり前のように持って入省してきた人たちであり、時代の潮流により、仕事はテレワークが当然、ということも考えられる。三密を避けなくてはならない中、面倒な国会対策や他省への根回しなどができなくなる一方、政治に関与する機会もなくなっていくだろう。
今後、経済の停滞は疑いようもなく、外交的に厳しい近未来も予想される。この国を託す政治家と彼らを支える官僚の劣化が進めば進むほど、国力低下は免れない。
「東大神話」の良しあしではなく、日本の最高学府の卒業生が興味を持てない「政と官とのあり方」が根本から問われている。
では、令和時代の官僚は――?
働き方改革を霞ヶ関でも進めようという、新しい価値観を当たり前のように持って入省してきた人たちであり、時代の潮流により、仕事はテレワークが当然、ということも考えられる。三密を避けなくてはならない中、面倒な国会対策や他省への根回しなどができなくなる一方、政治に関与する機会もなくなっていくだろう。
今後、経済の停滞は疑いようもなく、外交的に厳しい近未来も予想される。この国を託す政治家と彼らを支える官僚の劣化が進めば進むほど、国力低下は免れない。
「東大神話」の良しあしではなく、日本の最高学府の卒業生が興味を持てない「政と官とのあり方」が根本から問われている。
埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。