フタをされる「選挙不正疑惑」
「1900年1月1日生まれ、120歳の『有権者』数万人がバイデン候補に投票した」
投票日から半月が過ぎてもなお、アメリカ大統領選挙を巡って、様々な情報が飛び交っている。ソースのはっきりとした確実な報道もあれば、耳を疑うようなもの、明らかにフェイクと思われるものもある。
しかし、こうした玉石混交(ぎょくせきこんこう)の多様な情報の中には、日本人が知っておくべき、意味のあるニュースも少なくない。
そして、ポスト・エレクション(投票日後)のアメリカの混乱と分断を知るためには、
・トランプ大統領だけでなく、共和党が大統領選挙が「終わっていない」「選挙不正を追及する」という立場を堅持していること
・選挙不正を告発する宣誓供述書を提出した人が、激戦州を中心に、全米各地で数百人に及んでいる
ということなどを、「基礎知識」として押さえておく必要がある。
宣誓供述書とは、本名や住所を明らかにした上で、目撃した不正の内容を詳述する法的な書類で、故意に事実でない告発をすると偽証罪に問われる。相応の覚悟がなければ出せるものではない。
「自粛強要」の2020年
さらに、ツイッターやフェイスブックなどSNSでも、特定の情報にフタをするような但し書きが添えられるようになった。
私が確認した複数の執筆者は、運営側から「選挙不正に関する客観的証拠がないので、現段階では踏み込んだ報道はさし控えたい」という弁明が伝えられたという。
ところが、これらの原稿は「選挙不正があった」と断定する記事ではなく、「トランプ陣営が選挙不正を主張している」「弁護士が集票ソフト不正の可能性を具体的に示した」というような、事実関係を正確に記述したものばかりだ。
現職のアメリカ大統領の主張を「客観的証拠がない」という理由で報道しないというなら、その報道機関は、世界中のあらゆる首脳の発言について、二重三重に裏どりしているとでもいうのだろうか?
しかも「大統領の言っていることは正しい」と断定するのではなく、「大統領はこう主張している」という記事に、何の問題があるというのか。すでに一般国民の投票は終了した。間違った主張によって有権者が投票先を誘導されるリスクは、もはや全くない。
ましてや、我々は日本人である。日本にいて日本語でニュースを見ている日本人は、アメリカ大統領選挙に投票する権利も、選挙不正を摘発するチャンスも、宣誓供述書を提出する機会もない。所詮「ヤジ馬」である。
トランプ大統領の主張、バイデン候補の主張。そして選挙不正疑惑とそれを否定するカウンター情報。こうした多様な情報を全て伝えてこそ、「アメリカで何が起きているのか」「アメリカとはどんな国か」「情報戦争とメディア」「選挙の公正はどう守られるべきか」といった、非常に重要な視点を日本人に提供し、意義のある議論を喚起することができる。
「過熱報道」の2000年
ブッシュ・ジュニアとゴア元副大統領が争ったこの年の大統領選では、最後に残ったフロリダ州を巡って、投票日後1カ月以上にわたって「泥試合」が続いた。
大統領の大混乱は、アメリカ社会の分断を加速した。ゴアの敗北宣言後も、共和党支持者と民主党支持者の憎悪と罵倒は収まらなかった。大統領就任式では「悪あがきゴア」「泥棒大統領」と互いに罵(ののし)り合った。この埋め難き亀裂と溝こそ、20年後の今年の混乱と分断の序章だった。
今年と違っていたのは、2000年にはアメリカでも日本でも「報道自粛」はなく、タブーなき報道が連日各メディアのトップを飾ったという点だ。民主主義の先達だったはずのアメリカの、最高峰の政治イベントである大統領選のリアルタイム情報は、日本人にとってこれ以上ない「他山の石」となった。
集票方法、選挙監視員の重要性、郵便投票を巡る問題など、アメリカでの大混乱は、平素あまり語られることのない、公平公正な選挙のあり方を、日本で真剣に議論する絶好の機会となった。
この2000年の「レッスン」は、今年も全く色褪せていない。現代民主主義の根本的アジェンダなのだ。
またフロリダ州知事を務めていたブッシュ・ジュニアの弟が注目を集めたり、相互に仕掛ける訴訟が大統領を決める決定打となったりして、アメリカ政治の生々しい内情も赤裸々に暴かれた。この年、日本人はアメリカという国と政治の特殊性も存分に堪能した。
そして、アメリカ社会をその後深く蝕(むしば)んでいく「分断」の広がりと深刻さをリアルタイムに実感する、絶好の機会でもあった。
こうした「アメリカからの薫陶(くんとう)」は、双方の主張をタブーなく報道し、展開を刻一刻と伝えた「過熱報道」によってもたらされた果実だ。
当事者でない日本人だからこそ、アメリカの混乱を「観客」として見つめ、その結果「選挙と民主主義」のあるべき姿を俯瞰する、充実した議論ができた。全ての礎となったのが、タブーなき、自粛なき、事前選別なき「玉石混交の大量報道」だったことは言うまでもない。
日本人に伝えるべきこと、日本人が考えるべきこと
これに対して共和党側の上院議員は、
「SNS企業が権力を利用して、国民の情報アクセスを制限するべきではない」「選挙不正に関する情報が次々と消されている」と、激しくザッカーバーグ氏を糾弾した。
これに対して民主党のベテラン、ダイアン・ファインスタイン上院議員は、トランプ支持勢力が暴力を誘発する可能性を重ねて示唆し、フェイスブックを擁護した。
しかしファインスタインは、バイデン支持勢力が今年の夏、全米各地で掠奪や放火、無差別暴力を引き起こしたことには触れなかった。
過激な反トランプデモを仕掛けたのは、「黒人の命を尊重しろ」という「BLM運動」の共同提唱者、アリシア・ガーザとパトリッセ・カラーズだ。2人は自他ともに認める共産主義者で、中国系の資金で2017年に設立された「黒人自由研究所」の幹部だ。彼女らが他の過激な左翼デモ集団と連携して、反トランプデモを扇動し、各地の社会騒擾を指揮したことは、前回投稿で説明した通りである。
ガーザやカラーズ同様、ファインスタイン自身も中国との関係が極めて深いことで知られている。「チャイナ・クイーン」と呼ばれるファインスタインは2018年夏、驚くべき声明を発表した。
「私の補佐官の一人が、中国諜報機関にひそかに情報を提供し、対米秘密工作に協力していると通告を受け、独自にも調査した結果、すぐに解雇した。機密漏れの実害はなかった」
問題の補佐官は、ラッセル・ロウという中国系アメリカ人で、全米各地で慰安婦像の建立や、数々の反日運動を指揮してきた人物だ。
その一方で、リチャード・ブラムは、トランプ陣営が選挙不正の本丸と位置付けている集票ソフト制作会社「ドミニオン社」の主要株主でもある。
ドミニオン社は、民主党のナンシー・ペロシ下院議長の顧問、ナデアム・エルシャミが経営幹部を務めるなど、民主党との深い関係が明らかになっている。
さらに、ドミニオン社は大統領引退後にクリントン夫妻が設立したクリントン財団への寄付をテコに、フィリピンやベネズエラへの参入に成功したが、肝心のソフトを巡っては、民主党内からもその脆弱性を懸念する声が出ていた。
これらは陰謀論でもフェイクでもない、当事者自身が認めている「ファクト」である。だからこそ、共和党側は「民主党」「ドミニオン」「中国共産党」というトライアングルこそ、選挙不正の中核とみなしているのである。
上院委員会のニュース一つをとっても、その意味と価値を知るためには、
①トランプ陣営と共和党が、数々の選挙不正を指摘していること
②バイデン当選を既成事実化したい民主党サイドには集票ソフト会社との深いつながりがあること
③フェイスブックやツイッターの、今回の大統領選挙への関わりが、アメリカ議会で議論されていること
という基礎知識が必要不可欠である。
逆に、基礎知識さえあれば「アメリカの論点」が浮き彫りになり、登場人物の顔が見えてくる。そこで初めて、アメリカと中国とのかかわりや、反日運動の力学も浮き彫りになる。
まず、タブーなき報道があり、それを分析する「目」を持つことによって、雑多な情報が像を結び、日本人にとって価値ある「ニュース」へと昇華されていく。
ところが、投票日後のアメリカで何が起きているのか、双方の主張や論争が余さず伝えられていないと、ニュースの全体像がぼやけてしまう。
日本では今、トランプサイドの情報だけが極端に圧縮され、その結果「アメリカの今」が十分に伝わらないという極めて歪(いびつ)な状態が続いている。
日本人が関わることができない、他の国の、しかも投票日を過ぎている選挙について、無駄に報道を自粛する日本の「報道機関」こそ、報道以外の「隠された狙い」を持っているのではないかと、疑われてもやむを得まい。
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)がある。