山口敬之:"コロナ起源"の嘘を「徹底追求」するアメリカ...

山口敬之:"コロナ起源"の嘘を「徹底追求」するアメリカ、「頰被り」する日本

「疑惑の本丸」ファウチ博士

高まるメディアへの追及

新型コロナウイルスの起源に関する情報が1年半にわたって歪められていた事について、アメリカの連邦議会では今、厳しい追及が続いている。

 きっかけは5/26、バイデン大統領が武漢ウイルス研究所からの流出説を含めて、ウイルスの起源についての徹底調査を指示した事だ。

 これまで大手メディアやネットメディアでは、武漢研究所流出説は「トンデモ説」として排除され、これを唱える者は陰謀論者として非難され、軽蔑され、人格まで否定された。(これらの経緯は連載3638を参照)
 しかし、5/26にバイデン大統領が態度を一変させ研究所流出説の信憑性が一気に高まると、逆にこれまで研究所流出説を否定する側にいた全ての研究者、研究機関、マスメディアやインターネット関連企業が、「情報隠蔽」「言論弾圧」の主犯・従犯として厳しい批判に晒されているのだ。

 中でも「国民を救う英雄」から一転、「疑惑の人」に転落したのが、アメリカ政府のコロナ対策をリードしてきた国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長だ。

 ファウチは昨年5月、「研究所から流出した可能性はほとんど考えられない」と述べ、世界的に研究所流出説が封印されるキッカケを作った。

 しかしその後、武漢ウイルス研究所への巨額の資金提供を主導していた事が暴露されると、ファウチは今や「人造ウイルスの製造犯人だったのではないか」とすら疑われ、連日連邦議会に呼び出されて厳しい質問を浴びせられている。
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「徹底調査」を命じたものの、バイデンも情報圧殺の容疑者であることには変わりはない―

追及の論点

 前代未聞の巨大スキャンダルを、連邦議会で様々な切り口で追及しているのが、野党共和党だ。

 6/10には、共和党の5人の上院議員が連邦議会内で記者会見を行い、「武漢ウイルス研究所からのウイルス流出説が、なぜ必要な検証がなされないまま葬り去られたのか」という今回のスキャンダルの根幹部分を徹底追求する方針を示した。

 1週間後の6/18には、上院の本会議でサウスダコタ州選出の共和党ジョン・ソーン議員が質問に立ち、大手メディアがいかに情報を隠蔽し、ソーシャルメディアがいかに自由な発信を阻害し一方的に情報を検閲してきたか、厳しく追及した。
 共和党が重点的に指摘している論点は、大きく分けて3つある。
 
 (1)ウイルスの起源について、
 (2)ウイルスの兵器化へのアメリカの関与、
 (3)大手メディアとSNS企業による情報隠蔽と検閲、

 例えば(1)については、
 ▷新型コロナウイルスは、中国が武漢ウイルス研究所で人工的に兵器化したものなのではないか
 ▷それが誤って外部に漏れたか、
 ▷もしくは悪意を持ってアメリカなど世界にばら撒かれたのではないか
 という「疑惑」について、アメリカは総力を挙げて真相を究明しなければならないと訴えている。
 
 これらの疑惑は、一つでも事実であると証明されれば、世界がひっくり返るような巨大スキャンダルだ。

 ところが、これだけの重大な問題提起にもかかわらず、日本の大手メディアでは、全くと言っていいほどこうしたニュースが扱われなかったのはなぜなのだろうか。
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日本のメディアでは本件についてはほとんど聞かれず―

日本のメディアは報道を「放棄」

 そもそも、日本メディアのワシントン支局は長い間「横のもの(英文)を縦(日本語)にするだけ」、すなわちアメリカ政府の記者会見や、ワシントンポストなど主要メディアの発信を日本語に訳すだけの「エセ報道機関」と揶揄されてきた。

 しかも、インターネット時代の今は、アメリカ政府の発表や、テレビや新聞の報道は、日本にいても簡単に入手できるようになった。

 だからこそ日本の新聞・通信・テレビのワシントン支局長は、アメリカ政界の動きの中で日本に伝えるべき情報をいち早くキャッチして、ネットに負けないスピードでわかりやすく伝えるために、各所に網を張っている。

 具体的には、ホワイトハウス、国務省、国防総省といった主要組織の記者会見をリアルタイムでカバーする他、連邦議会を担当する記者も置いて、主要な委員会の動きや議員の記者会見などもフォローする。

 だから、6/10の共和党上院議員の記者会見も、6/18のソーン議員の質問も、まともなワシントン支局なら何らかの形でカバーしていたはずだ。それなのに、コロナ禍の本質に迫る重要な会見が日本でなぜ全く報道されなかったのか。
 もし各社の現役のワシントン支局長に「なぜ報道しないのか?」と質問をぶつけたら、どう言い訳するだろうか。

 私はオバマ政権下の2013年からTBSでワシントン支局長を務めたので、彼らの弁明は容易に予想がつく。

 「議員の記者会見や質疑は日々たくさんあり、全てをカバーし切れない」
 「この会見は、バイデン政権を揺さぶる目的で行われた党派的なもの」
 「彼らの主張は仮説ばかりで、客観的に証明できるものはない」
 この、一見「なるほど」「まぁそんなものかもしれない」と納得してしまいそうな弁明だが、実は言い訳として全く成立していない。

 そもそも、世界の報道機関が置かれている立場は、少なくともウイルスの起源の報道については、「真実を追及して報道する第三者機関」ではなく、「1年半もの長期にわたる情報圧殺の容疑者」である。

 そしてその容疑は「不正確な事を伝えた」というような過失の類ではなく、「検証すべき研究所流出説を十分に検証しないまま、悪意を持って圧殺したのではないか」という、より悪質な疑惑である。

 実際、昨年1月末にいち早く研究所流出説の検証の必要性を訴えていた共和党のトム・コットン上院議員の主張は大手メディアによって悉く無視され、コットン議員は人格まで激しく誹謗された。

 しかし、今ではコットン議員は「勇気を持って一番早く真相究明を訴えた国士」として称揚されている。

 メディアとしては一度理不尽な攻撃を浴びせてしまった前科があるからこそ、今の段階では「研究所流出説」を取る共和党の主張は、好むと好まざるにかかわらず「出来るだけ扱っておく方が利口」なのだ。
 
 また、今回の会見を報道するとすれば「検証不足だった研究所流出説を改めて再検証する」という内容になるわけで、視聴者に対しても、これまでの誤った報道のベクトルを是正する絶好のチャンスだったのだ。

 しかし日本メディアはこの会見を黙殺した。伝える価値がないと判断して伝えなかったのではなく、伝える事が出来なかったのだ。

 その理由は、会見内容を精査すればすぐにわかる。
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いまでは「勇気ある議員」という評価のトム・コットン上院議員

「メディア」が最も厳しく追及されている

 今回の5人の議員の取りまとめ役で、会見を取り仕切ったのは、テネシー州出身の共和党の女性上院議員、マーシャ・ブラックバーン議員(Marsha Blackburn)だ。

 そして、ブラックバーン氏が最も強く非難したのがメディアだ。

 ・新型コロナウイルスはどこから来たのか
 ・どのようにパンデミックに移行したのか
 というコロナ禍の根源的情報について、ツイッターやフェイスブック、ユーチューブといったソーシャルメディアが、勝手に情報を操作し、検閲し、隠蔽し続けたと指摘。

 そして今や、ソーシャルメディアと大手メディアが「国民に何を伝えるか」「何を伝えないか」を勝手に選別し、伝えるべき情報を伝えてこなかったと厳しく批判した。
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会見の仕切り役、ブラックバーン上院議員
via 著者提供
 例えば

 ▷フェイスブックは、有無を言わさず武漢ウイルス研究所流出説を封印し、
 ▷YouTube はロックダウンの効果に疑問を呈したり、子供の教育や成長にとってロックダウンがいかに悪い影響を与えるかについて指摘たりする動画を削除し、
 ▷Twitterは「武漢ウイルス研究所でコロナウイルスの兵器化研究が行われていた」という発信を削除した

 と具体例を挙げ、「ソーシャルメディアは超えてはならない一線を超えた」と強く糾弾した。

 3番目に登壇したのは中西部カンザス州のロジャー・マーシャル上院議員だ。生物化学の学位と薬学博士の資格をもつマーシャル上院議員は、ウイルスの起源に関するこれまでのアメリカ政府の真相究明は全く科学的ではなかったとして、まずはファウチ氏を厳しく糾弾した。

 その上で、
 ・2020年1月段階で「ヒトヒト感染はない」と主張した中国の発表を、政府もメディアも鵜呑みにした。
 ・武漢ウイルス研究所から流出した可能性について、多くの医療関係者や研究者が十分な根拠も示さず全否定した
 →彼らの殆どが、ファウチと関係の深い国立衛生研究所から何らかの資金援助を受けていた
 ・全米のジャーナリストとSNSは、研究所流出説を、客観的に検証する事なく頭ごなしに否定し、研究所流出説を検証すべきと主張する人々を誹謗中傷した。
 と述べた。
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ファウチ氏を厳しく糾弾したマーシャル上院議員
via 著者提供

報道機関の責務を放棄した日本のメディア

 この会見がアメリカ国内で注目を集めたのは、「武漢ウイルス研究所からの流出説を含めて、90日以内に報告書をまとめよ」というバイデン大統領の5/26の指示と関係がある。

 90日という事は、8月下旬までに、研究所流出説が証拠を持って立証される可能性があるという事になる。

 そういう中での共和党の一連の発信は、日本メディアにとって、実は千載一遇のチャンスだった。

 これまで「研究所流出説」「中国の兵器ウイルス説」をまともに検証もせず圧殺し、全く報道してこなかった日本の新聞やテレビとしては、この日の会見を報道する事で、真実を追及する「報道機関のフリ」をする事ができたのだ。
 アメリカ情報機関の報告書がまとまるまであと1か月。軌道修正を図るまたとないチャンスを、なぜ全ての日本メディアはスルーしたのか。

 それは、会見での痛烈なアメリカメディア批判が、実は日本メディアにもピッタリと当てはまる指摘ばかりだったからだ。

 例えばブラックバーン氏の
 「ソーシャルメディアと大手メディアが『国民に何を伝えるか』『何を伝えないか』を勝手に選別し、伝えるべき情報を伝えてこなかった」という指摘、

 あるいはマーシャル氏の「ジャーナリストとSNSは、研究所流出説を、客観的に検証する事なく頭ごなしに否定し、研究所流出説を検証すべきと主張する人々を誹謗中傷した」という部分は、そのまま日本メディアにも当てはまる。

 この会見は、昨年から1年半に及ぶ、日本メディアの不作為と怠慢もはっきりと浮き彫りにしてしまうからこそ、日本メディアは黙殺を決め込んだのだ。
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もはや「価値ナシ」か―
 アメリカでは、これまで研究所流出説を圧殺してきた大手メディアが、姑息な軌道修正と醜い自己弁護のステージに入っている(連載38 参照)。

 ところが、同じく研究所流出説を報道も検証もしてこなかった日本メディアのほとんどは、未だに「軌道修正」も「自己弁護」すらせず、ひたすら「頰被り」を決め込んでいる。

 恐らく、日本の新聞とテレビの多くは「日本人はバカだ」と思っているのだろう。大手メディアが集団で「報道しない権利」を行使すれば、日本国民をウイルスの真実から遠ざけ、ツンボ桟敷に放置できると思い上がっているのだ。

 ウイルスの真実追求という全世界共通の至上命題を、大統領選挙という国内事情で隠蔽し歪曲したアメリカ政府とアメリカメディアの罪は果てしなく重い。

 しかし、自らが現在「容疑者」の立場に置かれていると自覚した上で、曲がりなりにも軌道修正を図ろうとしていることは間違いない。

 それに引き換え、日本の大手メディアはどうか。未だに反省の色は全くなく、問題の所在すら明らかにしようとしていない。

 「コロナウイルスに関する非常に危険な研究を行っていた研究所が武漢にあり」、「その武漢が世界最初のパンデミックの舞台となった」という事実は、問題発生の当初から世界の報道機関が平等に共有した「ファクト」である。

 そしてその後も次々と研究所からの流出を補強する情報や証言が出続けたのに、最低限の検証すら放棄して全てを無視して研究所流出説を無視し続けた。この事について、日本メディアも
 ・報道機関としての「義務放棄」と「罪」を認め、
 ・それぞれの社内でどのような判断がなされてきたのか検証し、
 ・再発防止策を発表するのが、
 誠意ある報道機関の姿だろう。
 
 しかし、アメリカでそうした動きが始まっているにもかかわらず、自分が容疑者である事という厳然たる事実にすら背を向け、全ての疑惑を今なお黙殺しようとしている。

 そんな日本の大手メディアは、もはや報道機関である事を放棄しただけでなく、「横のものを縦にする」事すら止めてしまった、日本人にとって無用無益かつ有害な集団と言わざるをえまい。
山口 敬之(やまぐち のりゆき)
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)、新著に『中国に侵略されたアメリカ』(ワック、2021年7月下旬発売)。

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この記事へのコメント

宏昌 2021/7/30 11:07

山口敬之氏の論評は爽やかで明快です。今回の論評では、「日本の大手メディアは、・・・・・日本人にとって無用無益かつ有害な集団と言わざるをえまい」と勇気ある発言をしておられます。Will誌にお願いを申し上げます。①山口氏の論評には出来る限り「筆者自身の語り動画」を添えていただけませんか。
②動画では読者からの素朴な質問に答えていただけるコーナーもお願いします。

 山口氏の論説の影響力が高まることを願っております。いつも価値ある解説を展開していただきありがとうございます。

ホッとした人 2021/7/28 12:07

口先だけで生きている左翼の綺麗事を読まされているようで、腹が立っている。
以前、批判的な事を書いたら掲載拒否された。
今度も同じなら、所詮、このメディアも同じ穴のむじな。

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