ナメられた日本の司法

髙山 渡辺さんとは下田を旅したり、お酒を飲んだりしたことはありましたが、改めて対談というのは初めてですね。

渡辺 こちらこそ、よろしくお願いします。

髙山 まずはゴーンが日本を脱出しましたね(※)。米国の元グリーンベレーを雇って管理の薄い関西空港からプライベートジェット機でトルコ経由レバノンに逃げ込んだ。関空ではエックス線検査に入らない大型の楽器用ボックスに身を潜めて検査をパスしたらしい。何ともいじましい出国の仕方だ。須田慎一郎が『夕刊フジ』(2020年1月7日付)に書いていたが、関空の管理はフランス航空管理会社「ヴァージン・エアポート」が仕切っていた。その親会社は仏建設大手「ヴァンシ」で、ゴーンとは親密な関係にあった。
 それに日本人はプライベートジェットで行き来するような外国人VIPは悪さをしないという性善説に立つ。トロイ発掘で知られるハインリッヒ・シュリーマンが横浜の検疫で手荷物を調べられた。時間もかかるし、で、それなりのカネを役人に渡そうとしたら賄賂とは失礼な、と激怒されて吃驚した話がある。支那やその他の国では当たり前の賄賂が日本では効かなかった。ただ荷物の調べはあっさりしたもので、シュリーマンは日本人の節度ある対応にもう一度驚いたと。そういう日本人を知悉して初めて実行に移された脱出劇だったようだ。
 ただ問題は担当の弘中惇一郎弁護士だ。本人は寝耳に水とか驚いてみせているが、ゴーンを無理やり保釈させたり、パスポートを返還させたり、挙句に国外脱出がしやすくなるように日産が付けていた尾行班を訴えると脅して外させた。その日にゴーンは逃げている。無罪請負人とか言いながら、やっていることは逃亡請負人だ。逃亡に関しては共犯ではないか。もし本当にゴーンの逃亡を知らなかったとすれば、単に無能なバカ弁護士でしかない。結局、辞任したけど。
※本記事は雑誌発売時の2020年1月26日の状況に基づいております。

渡辺 ゴーンの妻、キャロル・ナハスに逮捕状が出ました。ゴーンはレバノンでの会見で、「根拠がなく、検察官は記者に偽りの情報を流し、証拠を隠した」「(逃亡した理由は)自身と家族を守るために日本を離れるしかなかった」と自身の正当性ばかりを主張して、肝心の逃走劇の裏話にはまったく触れずに終わりました。

髙山 逃げ出しておいて日本の司法の悪口しか言わない。もしこれがアメリカやカナダだったらファーウェイの孟晩舟(もうばんしゅう)のように保釈中はGPSを装着するとか、犬猫だったら皮膚の下にチップを埋め込むこともある。日本はそこまで人を疑わない。そんな司法制度を最低の人権も守られないレバノンあたりで非難する。
 ゴーンの記者会見では、日本のメディアは大方が締め出され、噓ばかり書く朝日新聞、テレビ東京、小学館だけが入れた。入った以上日本を代表してきっちりその辺を糺すべきだが、声もなかった。「公正に報道してくれるところを選んだ」とゴーンは言ったが、どれも日ごろから外人大好きを振りまいてきたメディアだ。その辺が見込まれたのだろう。

渡辺 ゴーンのもらっていた給与は、欧米の自動車会社の幹部のそれに比べたら確かに少ないことは事実です。中国市場への過剰シフトで危ういGMのCEO、メアリー・バーラは年収2200万ドル(約24億2000万円)ですよ。ゴーンには、「俺もそのくらいもらって当然だ」という気持ちがあったのでしょう。
 日本の司法もナメられたものです。ゴーンだからいいものの、これがテロリストだったらどうなるのでしょうか。知らぬ間に出入国できる自由な国だったことが判明したわけでしょう。移民を受け入れる以前の問題ではないでしょうか。

トランプ弾劾の茶番

髙山 確かに。例えば90年代は指紋押捺が外国人の人権にかかわるとか、在日が言い出し、驚いたことに海部俊樹が韓国の大統領に迫られて日本に出入りする在日や韓国人の指紋押捺を全廃させた。その途端、世田谷で一家4人殺しが起きた。指紋も遺留品も山とあるのに捜査は行き詰まったままだ。
 不幸中の幸いというか、21世紀の入り口で9.11が起きた。日本も大手を振って出入国管理を厳しくでき、一旦やめた指紋取りから今や顔認証までできるようになったけれど、さすがの朝日新聞もその手代の東京新聞も、それには何も言えなかった。浅薄で根っこの浅い、口先だけの人権屋だったことがバレた。
 日本の新聞のだらしなさが剥(む)き出されたけれど、渡辺さんは『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』(PHP)を上梓し、ここ20年のアメリカの政界の動きもあちらの新聞のだらしなさも実に克明に描かれている。とくにトランプ大統領がなぜこの時代に誕生し得たかは目からうろこの思いでした。

渡辺 民主党の動きと切っても切り離せません。

髙山 そんな中、トランプの弾劾条項が下院本会議で採決された。この弾劾を受けて、日本の大手メディアは「トランプはもうダメだ。この弾劾で失脚するだろう」と騒ぎ立てている。ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)は、可決後の記者会見で「下院民主党の道徳的勇気をこの上なく誇りに思い、心を揺さぶられた」と胸を張っていた。
 次は上院に送られるわけだけど、米国での弾劾裁判は18世紀以降、連邦判事らも含めると計18回開かれ、11人が職を追われている。大統領としては陸軍長官の解任を巡る法令違反などでアンドリュー・ジョンソン(17代)、不倫スキャンダルで偽証したと言われるビル・クリントン(42代)、そして今回のトランプの3人だ。この流れを受けて、トランプ再選は圧倒的に不利だと。

渡辺 そんなバカな(苦笑)。

髙山 ニューヨーク・タイムズ(国際版)も似たような論調だし、日本のメディアはそのまま引用している。さらに「(トランプは)再選されるべき」が42%で、「ほかの誰かが大統領になるべき」が55%という結果(米国ニュージャージー州・モンマス大学/2019年11月6日、2020年大統領選挙に関する世論調査)を受けて、トランプ再選は危ういと予測している。

渡辺 2016年の大統領選を思い返してみてください。日米の多くのメディアは、ヒラリー・クリントンが圧倒的有利で、当選するだろうと報じていました。ヒラリー当選の予定稿まで入れていた新聞社や出版社もあったとか(笑)。ところが、いざフタを開けてみたら、トランプが当選、一気にひっくり返ってしまった。日米のメディアは同じ失敗をくり返すのではありませんか。今回の弾劾決議はパフォーマンスに過ぎません。たとえて言えば、立憲民主党が内閣不信任案を出したようなもの。
 民主党は上院で過半数を取れていない。上院での弾劾決議には3分の2が必要ですから、上院で可決する可能性はゼロに等しい。通常、弾劾に至るには与党側からも疑問の声があがって、弾劾を是とする動きが出るものです。ところが今回、そのような動きが見られない。

髙山 民主党の意思はどこにあるんだろう。

渡辺 2020年の大統領選に勝利できる見込みがないので、少しでもトランプの足を引っ張りたいだけですよ(笑)。

バイデン問題

髙山 今回の弾劾に至る経緯を整理する必要がある。「ウクライナ疑惑」と言われているけど、トランプがウクライナのゼレンスキー大統領に「ジョー・バイデン前副大統領と、その息子のハンター・バイデンの問題について調査してほしい」と電話で要請した。そのことを民主党は権力の乱用だと弾劾決議したわけだけど、バイデンの問題とは一体何だったのか。

渡辺 民主党は「トランプ大統領はゼレンスキー大統領に圧力をかけた」と主張していますが、実はバイデン前副大統領が同じことをしていたのです。息子のハンターは、いわば〝ドラ息子〟。もともと海軍にいましたが、薬物問題で解雇されています。

髙山 要するに〝不名誉除隊〟だ(笑)。

渡辺 バイデンは、ハンターの糊口の資を得るために、ウクライナに目をつけたのです。実はウクライナは、世界一腐敗した国家です。プーチン大統領でさえ、匙を投げるほど。たとえば、ロシアは破格の安値で天然ガスをウクライナに提供していますが、支払遅延を当然のようにするし、ガスの中抜きも平然とやる。

髙山 でも、西側諸国は、旧東欧諸国をすべてNATO加盟国にしたい意思を持っていた。背景にはカソリックと東方正教会という宗教対立があると思うのだけれど、ともかくセルビアを倒し、その他東欧諸国も抱き込んで、今はロシアの軒先のウクライナを取り込もうとしている。

渡辺 オバマ政権はロシア封じ込めにウクライナを利用すると決めていました。だから湯水の如く、軍事・経済援助した。バイデンはそれにつけ込んで息子のハンターを、ウクライナ最大の天然ガス会社「ブリスマ・ホールディングス」の役員にはめ込んだ。月給5万ドルという破格の待遇です。年数回ヨーロッパで開催されるエネルギーフォーラムへの参加と役員会出席だけが彼の仕事です。彼にはエネルギー産業の知見はまるでない。
 ゼレンスキー大統領が就任する前から、ウクライナの検察当局はブリスマとバイデンの癒着を調査していました。ところが、ジョー・バイデンは、ウクライナ政権に「検察官を辞任させなければ、アメリカの援助をやめる」と圧力をかけたのです。結局、検事総長は解雇の憂き目にあいました。バイデンはそのことをスピーチで自慢していました。

髙山 そういう経緯を踏まえて、トランプがゼレンスキーに「大統領としてすべきことをしてほしい」と伝えたことを、民主党は嚙みついてきたわけだ。

渡辺 CIAから内部リークがあったのです。トランプ大統領が「ハンター・バイデンの調査をしなければ、ウクライナの援助をやめる」と言ったと。民主党大好きの官僚はそこら中にいて、トランプの足を引っ張りたくて仕方がないのです。

髙山 そういうストーリーをでっち上げ、トランプ非難が始まった。

渡辺 ところが、下院の調査委員会を見ると、不公平極まりない。

髙山 共和党側の証人には一切しゃべらせなかった。

渡辺 トランプ大統領の電話会談を直接聞いた人間が誰かもわかっていますが、公表を一切していません。

髙山 前駐ウクライナ大使は?

渡辺 証人として呼ばれましたが、その証言も「そう聞いた」という伝聞証言ばかり。証拠、犯罪、被害者……これらすべてがまったく存在していない。なのに、弾劾が決議されるという、とんでもない状況です。

中国とも仲良し

髙山 ギャラップ社の米国・全国世論調査(調査期間は2019年12月2~15日)では、トランプ政権の支持率は任期中最高水準の45%に達した。一方、同調査でトランプの弾劾訴追と罷免の是非を聞いた質問に対し、「訴追・罷免すべきでない」との回答は51%で、10月の調査から5ポイントも上昇したけど、「訴追・罷免すべきだ」は10月調査比6ポイント減の46%にとどまった。世論は見事に逆転している。

渡辺 共和党支持者の中でトランプ弾劾に同意しているのは、5%前後ですよ。一方、米民主党支持者は、九割以上が「トランプ大統領、許すまじ」だった。ところが、下院の調査が進めば進むほど、「弾劾すべき理由がない」ことがわかり、トランプ弾劾反対に移る人も出てきたのです。

髙山 米国民の間で、バイデン親子の悪行は知られているのかな。

渡辺 ええ。このバイデン親子は本当にどうしようもなくて、中国とも癒着関係にあります。2013年、中国の東・南シナ海における横暴が目立ち始め、ついには、尖閣諸島をあたかも中国の領土のような形で含む「東シナ海防空識別区」を勝手に設定しました。

髙山 「ここはオレの空だ、よそ者が来たら撃ち落とす」と、中国の戦闘機がパトロールも始めた。でも、もとを正せば、防空識別区(ADIZ)は民間機の飛行情報区(FIR)を兼ねてきた。そこを飛ぶ民間機はADIZ設定国にどこの国の飛行機でどこに飛んでいくのか通告する義務がある。尖閣諸島の上空はずっと日本の領空で、日本のFIRだった。
 でも、日本政府のメンツを立てて、中国に通告しなかったら撃墜される恐れが出てしまった。実際に、習近平は無通告機を撃てという「防御的緊急措置」も発令していた。日航を含む各国民間航空機は仕方なく、中国のゴリ押しに従わざるを得なかった。そんな横暴をオバマは知らぬふりもできない。バイデンが中国と交渉を始めた。

渡辺 バイデンはエアフォース・ツー(副大統領専用機)を使ったのですが、そのとき、なぜかハンターと孫娘も同乗させて来日。安倍首相と協議した後、北京に行き、習近平と5時間半にわたり会談しました。アメリカの高官は「あらゆる案件」を協議できたと自慢したほどです。日本側も結果に期待していたら、「アメリカは民間航空機については、中国の規制に従うことを容認した」と(笑)。これには日本も当然、落胆しました。

髙山 中国の言い分がすべて通ってしまった。まるで尖閣は中国のものだと言われたみたいなものだ。日本側は本当にびっくりした。一体何が起きたのかと。

渡辺 バイデンがアメリカに帰国した10日後、投資ファンド会社のローズモント・セネカ・パートナーズと中国銀行が共同で新ファンド会社「ボハイ・ハーベスト(渤海華美)」を設立することが判明しました。しかも、中国側は運用資金15億ドルも拠出しています。母体企業のローズモント・セネカ・パートナーズは、ハンターが経営する投資ファンド会社だった。

髙山 中国は15億ドルを拠出し、その見返りとして中国の言い分を通した。外交を使った汚職じゃないか。

渡辺 クリス・ハインツも新ファンド会社の役員に入りました。彼はジョン・ケリー元国務長官の娘婿。要するに中国政府にすれば一石二鳥ですよ。副大統領と国務長官の親族を養うことで、要望を通しやすくなったわけですから。

モリ・カケ問題とそっくり

髙山 要するに「ウクライナ疑惑」は「バイデン疑惑」というわけだ。弾劾は上院に行くけど、上院の公聴会や審問では、バイデンやハンターを呼び出す場合もあるだろう。かえって民主党が不利な状況に追い込まれないか。

渡辺 大統領選が始まるタイミングで、民主党側はインパクトのある証人を呼ぶ可能性が無きにしも非ずですが、そんな人物がいるとは思えません。そもそもトランプが大統領として存在していることが、民主党は信じられないし、許せない。だから、トランプ政権が始まった時点で「弾劾する」と言っていたのです。その理由は何でもよい。

髙山 その時は「ロシアゲート」だったな。

渡辺 調査結果が2019年3月に出ましたが、まったくのシロでした。これで米民主党は絶望に陥ったわけですが、次に「ウクライナ疑惑」を持ち出してくる。本当にしつこい政党です(笑)。

髙山 でも日本では、米国のリベラルメディア、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、CNNが報じることを縦書きにして報じるだけ。反トランプニュースばかりだから、多くの日本人はトランプが危ない、再選どころじゃないと本当に思っている。

渡辺 CNNはアメリカのゴールデンタイムに放映されていますが、視聴率は全米で14位です。人数でいっても70万人台。一方で、トランプ支持のFOXニュースは大人気で、250万人前後が視聴していると言われ、全米1位。第2位のMSNBC(ニュース専門放送局)は約150万人ですからね。FOXニュースはバイデン元副大統領の問題を取り上げ、説明しているので、アメリカ国民は真実を知っています。CNNの人気が料理番組以下なんて日本では誰も知りません。
 ところがFOXニュースを紹介する日本の媒体がとても少ない。言及するのは木村太郎さんくらい。だから、トランプ当選も多くのメディアが見誤ってしまったのです。予想が的中したのは木村さん、藤井厳喜さん、そして私くらいじゃありませんか(笑)。

髙山 向こうの民主党が持ち出す一連のトランプ疑惑は、日本の「モリ・カケ問題」とそっくりに見える。まず安倍憎しがあって、証拠もないのに無理矢理疑惑をつくり出して、大騒ぎする。ただ、それでも肝心の中国たたきなど外交はしっかりやる。日米貿易摩擦や中国のウイグル問題など、重要案件には振り向きもせずに「桜を見る会」で国会を潰す悪夢の立憲と民主よりまだ少しはマシに見える(笑)。

渡辺 アメリカの民主党はもともと人種差別的政党でした。「南部民主党」と言われ、奴隷制度を支持していた。南北戦争に敗北し、奴隷解放に応じたものの、南部では黒人隔離政策を続けていたのです。これらの諸法律はジム・クロウ法(1964年廃止)と呼ばれ、州の独自の権限に基づく州法であったため、連邦政府も口出しができませんでした。ところが、戦後になって突然、「弱者のための政党」へとカメレオン的変身を遂げます。
 南部白人層が黒人を差別したのは、相対的に北部白人層に比べ貧しいことに要因があった。ところが戦後、南部白人層の生活水準が上がってくると、結果として黒人への差別意識が希釈されます。支持基盤の喪失を怖れた民主党は、黒人差別について、当時は国全体が人種差別的であったと誤魔化し、社会的立場の弱い女性層やネイティブ・アメリカン(いわゆるインディアン)、アジア系・ラテン系・東欧系移民、ユダヤ系移民、そしてLGBTに目をつけたのです。

髙山 いわゆる「ポリティカル・コレクトネス」というヤツですね。

民主党の干渉主義

渡辺 それと、もう一つ、民主党の特徴は「干渉主義」にあります。常に他国の問題に首を突っ込んで、戦争を仕掛けてきました。第1次世界大戦への参戦を決めたウィルソン、日本を締め上げ第2次世界大戦に参戦したフランクリン・デノラ・ルーズベルト、ベトナム戦争を本格化させたケネディ、北爆を決めたジョンソン……。アフガン侵攻、イラク侵攻を決めたブッシュ(子)は共和党ですが、実は政権中枢には民主党の息がかかった干渉主義者が多数存在していました。

髙山 共和党は伝統的にモンロー主義で、不干渉を貫いてきた。米国の外交は、民主党と共和党が振り子になっていたと思っていたら、ヘンな共和党もあったんだ。

渡辺 フーバー大統領は「アメリカができることは手本になることだ」と。世界に手本を示し、援助を求めた国には手を差し伸べる。それが共和党の伝統的な考え方なのです。一方で、民主党は「アメリカはいかなる国とも違う。神から野蛮国を啓蒙する義務を与えられた特別な国である」という思想が強い。だから、レジームチェンジを平気でやります。

髙山 モデルをつくり、ロクでもない主張をする国が存在するなら、トップを挿げ替えてしまう。いわば斬首作戦だ。

渡辺 「例外主義」とも言われます。これがポスト冷戦におけるアメリカの外交政策でした。しかも民主党の場合は「弱者の味方」という仮面を被(かぶ)っているので、厄介です。

アメリカの悪知恵

髙山 ところが、その化けの皮が剥がれた。前に渡辺さんから窺った「ベンガジ事件」(2012年9月11日に発生した米領事館襲撃事件)です。実は〝アラブの春〟という名の民主化運動が実はヒラリーの謀略だったと聞かされた時は本当に驚きました。その陰謀がバレたのが、ベンガジ事件だった。民主党の凋落(ちょうらく)はあのあたりからですか。

渡辺 民主党は7つの国(イラク、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、イラン、スーダン)の政治体制変換を画策していました。

髙山 それを〝アラブの春〟と呼んだ。命名もうまい。

渡辺 民主党は他国を見るとき、西洋型の民主主義体制にあるか否かで単純に善悪を決めます。そうでなければ、トップが悪いと断じる。7つの国を見てもわかるように、エジプトは当初含まれていなかったのですが、2つの理由で体制変換を容認しました。
 1つはアラブ諸国全体が民主化を求めているという「空気」の醸成、もう一つはエジプトからリビアの反政府勢力への武器供給ルートを確保するためです。

髙山 米国が中東にこだわる理由はもろ石油だ。でもそれも非産油国を含めることで本当の目的を隠そうとした。すごい悪知恵だ。

渡辺 アラブ地域を治める方法が2つあって、1つはイラン型。イスラム原理主義で国家全体を統治する。もう1つはイラクやリビア、シリアのように原理主義を排除し、世俗化して宗教の自由も認める。アメリカの中でもサダム・フセイン時代のイラク、カダフィ時代のリビア、あるいはシリアと提携し、原理主義のイランを囲い込みながら変革を求めるべきだと考える勢力もありました。

髙山 アラブの春は結局、カダフィやベン・アリ、ムバラクなど中東、アラブ圏の名君をみな取り除いた。アラブの春の前にはイラクでもやっている。標的はサダム・フセイン。アメリカは極悪人のように描くが、欧米に取られていたイラク石油を取り戻し、その金で教育を普及させた。とくにイスラムによって封じ込められていた女性を解放し、女子教育を実行してユネスコからも表彰されている。イスラムを嫌い、自身もワインを飲みスペアリブを好んだ。それに反発したのがシーア派で、サダム暗殺とその報復が続いた。アメリカはそれを利用してスンニ対シーアの低次元宗教戦争を装ってサダムを抹殺した。
 その前にはイランのパーレビ皇帝を潰した。パーレビはイスラムを廃し、世俗化した政治を行い、OPEC(石油輸出国機構。設立当初は、イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5カ国を加盟国としていたが、後に加盟国は増加し、現在では14カ国が加盟)の設立に加わった。彼がOPECを仕切ったら欧米メジャーが困る。それで米CIAがイスラム原理主義者のホメイニを利用して潰した(イラン革命)。その後は、イラン・イラク戦争で消耗させた。
 イラン・イラク戦争のときは、米国側から武器が入っていた。テヘラン支局長時代、戦場で撮影した写真を各国の武官に配っていた。武官たちは写真を見て「え? イランに米国の地対地ミサイルがあるのか」と驚いていた。

渡辺 イラン・コントラ事件(イランと裏取引をした上、同国への武器売却代金をニカラグアの反共ゲリラ「コントラ」の援助に流用していた事件)ですね。

髙山 その一方で、イラクには西ドイツを使って毒ガス工場をつくらせていた。ブッシュ(子)が「イラクには生物化学兵器がある」と言ってイラクを攻めたけど、それは間違いじゃない。自分たちでイラクに工場をつくっていたんだから(笑)。フセインは工場を口実にして米国が攻めてくるとわかっていたから、すべて廃棄し、手持ちのものは穴に埋めていた。米国は絶対にあるはずだと探しまくり、土から掘り出したが、マスタードガスを浴びてしまう。そうやって負傷すればパープルハート章(名誉負傷章)と年金をもらえる。
 ところが、80数名の負傷者には勲章も年金も何もなかった。そこでニューヨーク・タイムズに垂れ込んだ。ニューヨーク・タイムズは2回掲載したが、あまり盛り上がらずに終わってしまった。
 アメリカの意識の根底には中東産油国は混乱させておけばいい、石油だけ出していればいいという考え方があった。その結果、サダム・フセインは殺され、イランは宗教政権を押し付けられ、アラーの名のもとに国民は酒も飲めない、不倫は死刑みたいな宗教強権政治に加え、長い戦争を押し付けられて国は疲弊した。もううんざりしていた。トランプが先日、革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のスレイマニ司令官を殺害した。あれは宗教恐怖政権の要にあった男で、彼がいなくなればイスラム坊主だけではやっていけない。時代錯誤の宗教政権は崩れていく。トランプはアメリカが過去にやった悪さの償いをやっているように見える。大した政治家だと思う。

カダフィの先見

渡辺 米民主党は独裁的な国家を見つけたら、徹底的に潰すことをしてきました。ただ、アラブ世界ではそういった統治のやり方は必要悪です。ですが、アメリカの政府組織が外国の政権を覆すことは禁じられている。じゃあ、どうやって政治的介入をするか。アルカイダやIS(イスラム国)などの原理主義者、そしてNGO(非政府組織)を利用して、潰す方法をとってきたのです。リビアがまさにそうです。
 リビアは中東・北アフリカ諸国の中でも安定した国家でした。人口は約640万人で部族社会。エジプトの人口約9800万人に比べたら、はるかに少ない。しかも国土はエジプトの2倍近く広く、世界第10位(アフリカ第1位)の原油埋蔵量を誇っていました。

髙山 しかも良質だった。

渡辺 リビア国民は石油収入を基盤にして豊かな生活を享受していたのです。

髙山 イスラム国家とは思えないほど、女子教育も進み、服装も自由だった。カダフィが養女にした子供は医者になっている。4人妻制だけど、第1妻の承認がなければ、第2、第3の妻とは結婚できない。カダフィですらそうだった(笑)。カダフィは〝英君〟と呼んでも過言じゃない。

渡辺 そのカダフィを排除するため、米CIAはリビア北東部の港湾都市、ベンガジとその周辺に集結していた原理主義者たちを動かしました。CIAが直接手を下すことはできないので、NGO団体「民主主義のための国家基金」を仲介役に利用しています。カダフィ政権は反政府運動に容赦なく、新鋭戦闘機を使って反政府組織の軍事基地を叩いた。そしたら、いきなりフランス(当時はサルコジ大統領)を中心としたNATO軍がリビアを空爆したのです。

髙山 NATOのギヨー司令官がニューヨーク・タイムズのインタビューで「空爆のための出動回数は五千回ほど」と答えていた。カダフィからすると逃げざるを得ない。NATOが攻撃した理由は、良質な石油を取り込みたい一心だったんじゃないか。NATOは強盗集団だよ。

渡辺 攻撃の理由としては「自国民の虐殺を許さない」というのが公の説明でした。実はNATOの空爆が始まる数週間前、ブレア元首相とカダフィが電話会談しています。ブレアは首相時代、カダフィと「砂漠の密約」を交わしていたのです。リビアにテロ活動を止めさせる見返りに、英国製防空ミサイルの売却を認めるというものです。ブレアはその誼もあり、またアメリカの意思を把握していたので、「命の危険があるから逃げろ」と助言した。
 だけど、カダフィはベンガジ周辺の原理主義者はアルカイダ系だと把握しており、「(アルカイダのような)テロリストグループがアフリカや中東に跋扈したらどうなるか。原理主義を信じない人々は、一斉にヨーロッパに向けてエクソダス(難民化)するだろう」と言ったのです。

髙山 実際にそうなってしまった。

渡辺 ただ、カダフィはNATOが本気になって空爆してくるとは思っていなかったようです。2人の会話を報じたデイリーメール紙は「西側の政策決定者よりも、カダフィのほうが先見の明があった。リビアへの介入はリビア国民を不幸にするだけでなく、西側の権益をも毀損するとはっきり見通していた」と評しています。カダフィは結局亡命を拒否した。死を覚悟していたと思います。彼が愛国者だったことは間違いないでしょう。

髙山 カダフィのことを「砂漠の狂犬」と、米国のメディアは報じ続けていた。そして、そのまま日本のメディアも、鵜呑みにしていた。カダフィやフセインは、ただ悪者として処分されたと。でも、それはまったく違う。

渡辺 あれだけ意気盛んだったISがトランプ政権になったら一気に下火になったのはなぜか。4万5000人もの兵士がいたのに、今や1000人を切るほどです。

髙山 事実上、消滅したと言っていい。要するにISの背後にいたのが、民主党だった。

渡辺 カダフィの軍から接収した武器がシリアの反アサド勢力に運ばれ、最終的にISに渡っている可能性が高いと分析されています。

髙山 そしてオバマ政権の中枢は、ISのようなイスラム過激派を利用していた。そのカラクリを見ないといけない。

米民主党の没落

渡辺 カダフィをなぶり殺しにした後、普通選挙が実施されました。60%以上の投票があって、リビアで初めて民主的制度が機能したと、ヒラリーは欣喜雀躍(きんきじゃくやく)した。2012年のオバマ再選に弾みをつける流れでした。ところが、同年9月11日、ベンガジのアメリカ領事館が武装勢力に襲われ、クリストファー・スチーブンス駐リビア大使(当時)が殺害される事件が発生しました。先ほど話題になった「ベンガジ事件」です。
 特別調査委員会がいくつも設置され、原因究明を始めますが、国務省は一切協力しません。ISへの武器供与疑惑もありましたが、その証人を呼ぶことすらできなかった。ところが、調査中、ヒラリーのメールが、個人サーバーを介して大量に出されていたことが明らかになったのです。

髙山 国務長官という立場であれば、当然、国務省サーバーを経由し、すべて暗号化されて送信する。他国への情報漏洩を防ぐためだ。

渡辺 ところが、ヒラリーは自宅の地下に設置したサーバーを通じて仕事をしていた。この問題を取り上げたのがニューヨーク・タイムズで、2015年3月2日付で「ヒラリー・クリントン、国務長官時代に個人サーバー利用、規則違反の疑い」と報じ、メディアも注目するようになったのです。

髙山 ここから民主党の没落が始まった。

渡辺 しかも大統領と国務長官の交わしているメールの内容がリアルタイムで中国やロシアほか、5カ国の情報機関に漏れていたことも判明しました。ウォーターゲートを超えるスキャンダルであるにもかかわらず、民主党と民主党寄りのメディアはダンマリを決め込んでしまった。
 ヒラリーが個人サーバー利用にこだわった最大の理由は、クリントン財団の運営資金にかかわるからです。クリントン財団には外国の企業や要人から巨額の寄附がありました。国務長官(あるいはその前の上院議員)としての外交方針が、彼らの利益に適っていたからです。その流れが国務省のサーバーの利用によって、すべて白日の下に曝されてしまうことを怖れたのです。

髙山 チェイニーやラムズフェルドをはじめ「ネオコン」の連中は、同じく外交方針を利用して自分たちの懐を潤していた。この実態が知れわたった結果、民主党側の大統領候補にロクでもない連中しか出せなくなってしまった。

渡辺 その一方で、アメリカの政界には、職業のための政治家ではなく、国への恩返しの気持ちで政治家になる人物がいます。鉱山ビジネスで巨富を築いたフーバー元大統領や、IT実業家でありながら、改革党を組織したロス・ペロー、そしてトランプ大統領がそうです。

髙山 リチャード・リオーダン元ロス市長もそうだ。報酬はたったの一ドルだった。カーメル市長を務めたクリント・イーストウッドも同じだ。

渡辺 トランプ大統領は自身の給与をすべて寄附に回しているように、金で動くことがない。民主党はそういう政治家に対して、強い恐怖心を抱きます。自分たちが金に弱いですからね(笑)。中国も民主党と同じ気持ちです。チャイナマネーがまったく通じないトランプ大統領は目の上のタンコブでしかない。

髙山 民主党が消滅・分裂する可能性は高そうですね。

渡辺 大統領選が一つの試金石になるでしょう。僅差(きんさ)か、圧倒的敗北かで、その後の動きは変わる。民主党の下院議員の中には共和党に移る動きも出ています。2020年で改選される、民主党の若手議員が迷いを見せています。支援者の会合で弾劾の理由を説明できませんから。支援者の中には「弾劾をやめろ」というプラカードを掲げる人もいます(笑)。

髙山 もう末期症状だろう(笑)。

渡辺 過激左派の連中についていけない、という若手議員が潜在的に数多く存在しています。民主党がこのまま溶解、崩壊するのは確実です。では、どのように崩壊するのか、そこを注視するべきでしょう。

髙山 そうね。それと、とにかく渡辺さんの本を読んでもらいたい。特に日本の特派員や新聞記者は読むべきだ。米国の実態、トランプの本質、そして民主党の悪逆ぶりがわかる。いつまでたっても、日本に歪んだ情報ばかりを垂れ流し続けても困る。

髙山 正之(たかやま まさゆき)
1942年、東京生まれ。東京都立大学卒業後、産経新聞社に入社。社会部デスクを経て、テヘラン、ロサンゼルス各支局長。80年代のイラン革命やイラン・イラク戦争を現地で取材。98年より3年間、産経新聞の時事コラム「異見自在」を担当。辛口のコラムで定評がある。2001~07年、帝京大学教授。著書に、『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』『白い人が仕掛けた黒い罠─アジアを解放した日本兵は偉かった』、共著に『こんなメディアや政党はもういらない』(和田政宗)(以上ワック)などがある。

渡辺 惣樹(わたなべ そうき)
1954年、静岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。日米近現代史研究家。30年にわたり、米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作が高く評価される。『日米衝突の萌芽1898-1918』(草思社)で第22回山本七平賞奨励賞受賞。著書・訳書多数。

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