【竹中平蔵・高橋洋一】日本学術会議-大震災後に「復興税...

【竹中平蔵・高橋洋一】日本学術会議-大震災後に「復興税」を説いたバカ

わがまま学術会議

竹中 髙橋さん、内閣官房参与(経済・財政政策)ご就任、期待していますよ。

髙橋 いやいや、竹中さんも「成長戦略のブレーン」じゃないですか。閣僚就任まで噂されていた(笑)。

竹中 そもそも、菅総理は特定のブレーンを持たない方だと思います。朝食の時間を使ったりして多くの人に会い、いろんな話を聞いている。そこでストンと腹に落ちたことを、とてつもない政治腕力でやっていくタイプです。

髙橋 総理には何を提言されたんですか。

竹中 早い時期に、小さくても成果を上げる=〝アーリー・スモール・サクセス〟を達成すれば政権への期待が広がり、支持も長続きすると申し上げました。
 ちなみに、私が総務大臣、菅総理が総務副大臣を務めた小泉政権は就任後、すぐにハンセン病の政府敗訴を認め、国民の支持が広がりました。菅政権では携帯料金の値下げかと思ったんですが、日本学術会議でしたね。
 一部のマスコミは、「この問題に政治的なパワーを使ってもったいない」と言いますが、菅総理はあえてやったと思う。「国民の皆さん、これはおかしいですよね」と。〝サクセス〟ではなく、〝アーリー・スモール・サプライズ〟でした。

髙橋 日本学術会議の〝悪行〟がどんどん出てきて面白いですね。思い出すのは東日本大震災後、民主党政権に採用された「復興税」。不況時に増税など古今東西、聞いたことがありません。当時、誰がこんなバカなことを言っているのかと思ったら、日本学術会議だった(笑)。
 国際リニアコライダー(ILC)計画の国際研究施設誘致にも反対していて驚いた。ILCは国際協力で開発が進んでいる物理系の実験装置。電子と陽電子を、電気や磁気の力を使って光速で正面衝突させる。これによって、宇宙の始まりである「ビッグバン」直後の状態を再現できるらしい。
 ところが、日本学術会議は核技術だと勘違いしたみたい(笑)。マトモな研究者にとっては大迷惑だよ。
 ほかにも、北海道大学が安全保障技術研究推進制度に応募したら圧力をかけて辞退させたとか、レジ袋の有料化の火付け役だったとか……。

竹中 私も学者の端くれですが、学界のボスのようなお年寄りの集まりに十億円の税金が使われているとは、意識していなかった。しかも会員は特別職の国家公務員。それにもかかわらず「国の介入は許さない」だなんて、笑ってしまいます(笑)。

髙橋 「国の機関でいたい、国に全額費用負担してほしい、国家公務員のままでいたい、でも人事は自分たちで勝手にやらせてほしい」ってわけ。こんな虫がいい話、あるわけないでしょ。
 実は2000年代のはじめ、日本学術会議を行政改革の対象にするという議論があった。つまり国の機関のままにするか、民営化させるか。
 政府に批判的な提言をするためには後者のほうが望ましいという意見もあったけど、日本学術会議は前者を望んだ。私は内閣府にいたので、「国の機関のままにしてください」と日本学術会議の幹部からかなりの陳情を受けた。政府への提言は民間のシンクタンクだってできる。実際に欧米のアカデミーは非政府組織。「国の機関ではない、国に全額費用負担はさせない、国家公務員でもない、だから人事は自分たちで勝手にやる」と自立している。

竹中 多くの国民は「こんなもの要らない」「税金のムダ使い」と思ったことでしょう。菅総理はこんなふうに「国民がおかしいと思うものを正していく」と、自分がやろうとしている1つの例を示したのではないですか。

「自助=弱者切り捨て」ではない

髙橋 話は変わるけど竹中さん、最近〝炎上〟していましたね(笑)。9月23日のBS-TBS「報道1930」で、ベーシックインカムの持論を述べたあとだった。ベーシックインカムとは、さまざまな社会保障制度の代わりに一定の現金を定期的に支給する制度のこと。
「ベーシックインカムの平均は7万円」という主張だったから、「1人毎月7万円では、とても生活できない」「社会保障の削減だ」と盛り上がって、ツイッターでは「#竹中平蔵は月7万円で暮らしてみろ」というハッシュタグ(#=投稿を検索しやすくするマーク)までできた。

竹中 「1人7万円で生活できる」なんて、一言も言ってないんですよ。もしベーシックインカムをやる場合、平均で7万円レベルなら財政的に大きな負担にならない、と言いたかったんです。たとえば、4人家族で28万円は必要ないかもしれないので3、4人目はもっと安くする、単身世帯は少し多めにするという話です。
 それに社会保障の削減になるかは、制度設計次第でしょう。生活保護制度だけは現状のまま残して…ということもあり得るわけで。
 ちなみに菅総理に会ったとき、ベーシックインカムの話はしていません。今はまだベーシックインカムの導入は難しい。あとでお話ししますが、コロナショックを乗り越える経済対策やデジタル化の推進など、ベーシックインカムの前にやるべきことが山積しています。
 でも「やる」「やらない」は別として、5~10年後には各国がベーシックインカムについて真剣に議論しているはず──その議論の先取りです。

髙橋 ベーシックインカムについては、保険の原理で運営されている社会保障制度を整理しないと、現実の制度設計は難しい。
 いずれにしてもこの炎上、総裁選のときから「自助」という言葉が独り歩きしていたことに関係していますね。
 菅総理は目指す社会像として、「自助・共助・公助、そして絆」と言っていた。まずは自分で生計を立て、家族で支え合う。やむを得ない理由で生活できなくなったときのために、生活保護などの「公助」を準備しておく──当たり前の話じゃないですか。
 でも野党の政治家から、「政治家が『自助』と言ってはいけない。政治の責任放棄だ」(立憲民主党・枝野幸男代表)、「『自助』や『共助』は、政治が押し付けるものではありません」(日本共産党・志位和夫委員長)と的外れな批判が起こった。竹中さんのベーシックインカム発言は、この文脈に結びつけられたんです。「やっぱり菅政権は共助をなくすんだ」と。

竹中 野党は自助=「弱者切り捨て」といいますが、論理の飛躍には啞然(あぜん)とします。まったく逆ですよ。
 小泉元総理がいつも言っていましたが、自ら助くる者がたくさんいればいるほど、本当に助けが必要な人を助けられる。これはどんな社会にも共通の原理です。こういう意味でも、菅政権は「当たり前の社会」をつくろうとしているといえるでしょう。

髙橋 ホント筋違いな批判が多くて困る。竹中さんと私は、小泉政権で郵政民営化に力を注いだ。そのときも、さんざん「売国奴だ」と批判されました。竹中さんはいまでも「新自由主義の象徴」みたいに批判され続けているけど、気の毒だ。

「レッテル貼り」をする人たち

竹中 人を批判するなら、もう少し頭を使って批判してほしい(笑)。私は新自由主義を意識したことはありません。小泉元総理と議論するときも、「新自由主義でいきましょう」なんて言ったことはない。
 でもね、私はわかったんです。批判には3つのタイプがあると。

髙橋 ほぉ、何ですか。

竹中 
 ①反対のことを言う。
決めるのが遅ければ「早くしろ」、早ければ「拙速だ」。金利が上がれば「中小企業が困る」、下がれば「年金生活者が困る」と。

 ②「永遠の真理」を言う。
「政策を決定するには、長期的な視点に立って考えなければならない」「諸外国を見て戦略的に政策を立てなければならない」というやつです。こんなことを言われたら、誰も否定できないですよ。国際基準に合わせるのが正しい時もあれば、日本独自のやり方が正しい時もあるんですから。

 ③レッテル貼り。
「売国奴」「新自由主義者」がコレ。レッテル貼りをする人たちは、問題を解決するために何をすべきか、ということをまったく考えていない「思考停止」です。

髙橋 郵政民営化のときも、「民営化=外資に乗っ取られる」という批判が多かった。でも、ちゃんと国際基準の外資規制を盛り込んでいるんですよ。
 たとえば、日本の大手銀行は民間経営だけど外資に買収されていない。金融機関には5%、20%、50%の外資規制があるからで、郵政も同じ。
 2018年の水道法改正でも、外資に乗っ取られて水道の質が落ち、料金が上がると言われ続けた。でも所有権は国や自治体のままで運営権を民間に任せる「経営委託」にすぎず、「民有民営」の民営化ではない。だから、外資の乗っ取り云々という話じゃない。ここらへんを理解しないで批判する人が多すぎるね。

竹中 本当ですね。先ほどの3パターンの共通点は、「対案がない」ということ。「人を批判するためだけだったら、この3パターンを使えばいい」と学生に言ってあります(笑)。

髙橋 アハハ(笑)。

竹中 「政策」とは「問題解決」です。問題を解決するためにどんな手段を取るべきか、さまざまな観点から現実的に考える。その時々の状態に応じて、民間に任せるか、別の手段を使うかという選択肢が出てくる。私は民間でできる部分は、民間に任せたほうがいいと思っています。なぜなら、民間のほうがさまざまなガバナンスが優れている場合が多いから。
 たとえば2016年、仙台空港が民営化されました。見学に行ったんですが、ラウンジはガラス張りで眺めがよく最高だった。実はこの部屋、国が管理しているときは所長室だったそうです(笑)。やはり公務員の発想は、お客様のためにならないことが多い。

〝財務省ウイルス〟を倒す

竹中 さぁ菅政権の話に戻りましょう。見逃すことができないのは、政策決定のプロセスです。安倍政権は大きな功績を残しましたが、3本目の矢「成長戦略」についてはモリ・カケ問題以降、総理が表に出られなくなり、とくに経産省など官僚の影響力が強くなってしまいました。
 菅総理は内閣府のもとに置かれた経済財政諮問会議と規制改革推進会議を軸にして、真の官邸主導を取り戻そうとしています。しかも、これまでは会議のメンバーが1人2分半ほど持論を述べるだけで、「議論」できていたかというと疑問符がついていた。そこでメンバーを減らし少数精鋭にして、真の議論ができる整備づくりを進めています。

髙橋 ただ、こういう会議も財務省の影響力が強いんだな。

竹中 ええ。経済財政諮問会議の所管は内閣府とはいえ、財務省が影響力を持っています。そして規制改革推進会議の事務局は財務省です。さらにデジタル庁を管轄するIT戦略本部の事務局も財務省。
 規制改革に力を入れるスガノミクスを実行するうえで、財務省が〝規制側〟として立ちはだかるというわけです。そして髙橋さんは対財務省の〝ストッパー〟として、内閣官房参与に任命されたんじゃないですか。

髙橋 財務省は、それこそ〝ウイルス〟のようなもの。放っておくと、どんどん強くなる。いろんな会議に〝財務省推薦〟の人がいるからね。

竹中 経済財政諮問会議は「骨太の方針」を決めて、マクロ経済政策の全体像を提示します。こうして予算の「大枠」が決まり、予算の割り当てに進んでいく。
 でも財務省からすれば、各省が積み上げた予算を自分たちで査定したい、裁量権を手放したくない。でも経済財政諮問会議で予算の大枠が決まるという仕組みは、もう変えられない──そこで財務省は経済財政諮問会議に自分たちの息がかかった人を送り込み、影響力を強めていく戦略を取ったんです。
 経済財政諮問会議のメンバーには財界人が多いですが、財界はすっかり籠絡されました。その証拠として、財界人は一般国民から見れば信じられないほど、消費増税に賛成しているでしょう。

髙橋 そんな〝財務省支配〟を打ち破りたいんですけどね。とくに消費税について、強調しておくことがある。
 財務省は消費税を「社会保障の目的税」と言っているけど、こんなのは世界の非常識。ふつう、社会保障は社会保険料で賄うに決まっている。財務省は増税したいがために、ムリやり前代未聞のシステムをつくり上げたってわけ。
 でも財務省に言いくるめられた財界人は、「社会保障のためなら仕方ない」と納得してしまう。社会保険料が増えなければ企業も喜ぶし、オマケに法人減税もつけてもらって万々歳。財務省としては〝してやったり〟だ。

竹中 改革を実現するために、規制改革推進会議ではメンバーが規制側である省庁と徹底的に議論し、官僚を論破しなければなりません。ところが昨年、メンバーが大幅に入れ替わった。
 八田達夫さんや八代尚宏さんといった凄腕がいなくなり、官僚と論戦できる知識を持った人があまりいなくなってしまいました。規制改革は話し合いではなく〝バトル〟=1種の〝ケンカ〟なんです。規制改革推進会議でどれだけ官僚に勝利できるかが、スガノミクス成功のカギといえるでしょう。

「ハンコ廃止」の先に見えるもの

竹中 デジタル庁の創設も規制改革の一環です。ハンコを廃止して終わり、という単純なものではありません。行政の業務のやり方そのものを徹底的に変えるんです。だから菅総理は組閣の翌日、河野太郎行政改革担当大臣と平井卓也デジタル改革担当大臣を呼んで、毎週2人で議論しながら進めるように伝えた。

髙橋 竹中さんが大臣をしているとき、「行政のオンライン化」を言ってたでしょう。私はそのとき、「もうそういう時代になったんだな」と思ってe-Tax(国税電子申告・納税システム)に参画した。
 e-Taxは「本人確認」と「カネの管理」という2つのシステムから成り立っている。本人確認は当時、住基ネットを活用したけど、いまはマイナンバー。それに新しいシステムをつくると「個人情報の流出」とか制度不安が出てくるけど、e-Taxはそういうミスがほとんどない。もちろん、税金だけじゃなくて社会保険料にも使える。

竹中 税と保険料の徴収を一元化する「歳入庁」構想につながりますね。

髙橋 地方にも浸透させれば、国民は自分が納めたカネが、どの部署で処理されているかわからない。究極の縦割り行政の打破ですよ。
 それにe-Taxは納税システムだから、カネの流れは「国民→財務省」。でも矢印の向きを逆にすると、現金給付システムになる。いま持続化給付金の不正受給が問題になっているけど、もし歳入庁ができて全国民の確定申告のデータがあり、マイナンバーと銀行口座のひも付けができていれば、不正受給は防げた。

竹中 デジタル庁を創設するための法案(設置法)は、来年の通常国会での提出を目指しているとか。

髙橋 まずは創設に向けた手順や日程を規定した「プログラム法」を成立させてしまえばいい。デジタル庁が創設されなければ法律違反になるから、何が何でもやるしかなくなる。

竹中 それがムリなら、「デジタル庁創設の基本方針」をつくるのも手です。郵政民営化のとき、髙橋さんと一緒に「郵政民営化の基本方針」をつくって閣議決定させました。これで郵政民営化を軌道に乗せることができた。
 ただ基本方針をつくるうえで、注意点があります。それは官僚主導でつくらせないこと。総理出席の経済財政諮問会議で議論して、民間議員の提案に基づいて進めなければなりません。真の改革を行うには、制度づくりから民間の専門家が入る必要がある。
 それにデジタル庁設置のための準備室もつくられましたが、室長にはデジタル庁長官になる人の意を酌める人が就任してほしい。

髙橋 私と同じく内閣官房参与(デジタル政策)に就任した村井純慶應大学教授に期待ですね。

竹中 ただデジタル庁をつくったからといって、改革が簡単に進むわけではなりません。デジタル庁が規制改革の権限をどれくらい持つことができるかが重要になってくる。
 たとえば、デジタル庁がリモート教育を推進しても、文科省が「規制で小学生にリモート教育は認められない」と言い出す。
 こういう場合、デジタル庁に文科省の規制を打ち破る権限を与えられるかどうか。これも設置法で明記する必要があるんです。

髙橋 いまの日本には、省庁ごとに設置法が設けられているけど、これは世界に例がない。それを1つに束ねれば、政令で簡単に業務の移管ができるんですけどね。

3次補正・40兆円までよろしく

竹中 政治的なエネルギーが限られているなか、政策は優先順位をつけなければなりません。小泉政権のときは、最初に不良債権問題を片づけて経済を安定させました。だから郵政民営化を実現できた。菅政権の場合、まずは新型コロナ対策です。
 新型コロナで1,000人以上の犠牲者が出たことは残念ですが、1,000人程度で収まったという見方もできます。バブルが崩壊したあと、1997年から98年にかけて、自殺者は1万人近く増えている。コロナショックがバブル崩壊の二の舞にならないようにしなければ。
 おそらく11月16日に発表される第3四半期の経済統計を見て追加の経済対策が判断されると思いますが、髙橋さんは経済対策についてどうお考えですか。

髙橋 3次補正しかありません。額は約40兆円までいける。
 コロナ禍が始まったときから、需給ギャップ──つまり総供給に対してどれくらい総需要が不足しているか、そして国内総生産(GDP)の落ち込みは計算できた。
 これがわからないと、どれくらいの規模の経済対策を打てばいいか想像がつかない。でも計算した人はいなかったみたい。
 計算の結果、経済政策で必要なのは「100兆円」の財政出動だとわかった。でも財務省が「財政再建ガー」と言い出すのは目に見えているから、「日銀と財務省の連合軍をつくれ」と各方面に言った。
 つまり100兆円の国債をすべて日銀が買い受けるということ。この仕組みならインフレ目標の範囲内で、財政的には何も問題がない。欧米の中銀も同じようにやっている。そうしたら5月22日、麻生財務大臣と黒田日銀総裁が合同記者会見を開いて協調姿勢を示した。

竹中 あれは髙橋さんの入れ知恵ですか。

髙橋 各方面に言ったので、安倍さんの耳にも入ったんでしょう。当然、菅総理も知っているはず。
 1次補正、2次補正は合わせて約60兆円だから、3次補正ではまだ約40兆円残っているってわけ。需給ギャップさえ埋められれば、マクロ政策的にはオッケー。そうしないと失業者が増えるから、これだけは防がないといけない。

竹中 昨年の平均失業率は2.4%。最新の失業率(8月)は3.0%で踏みとどまっています。

髙橋 それは緊急経済対策で需給ギャップをある程度、埋めることができたから。先進国と比較しても、予想される需給ギャップへの対応は日本がトップクラスですよ。

コロナはチャンスだ

竹中 新型コロナの人口比の死者数を見ても、日本はアメリカの約40分の1、欧州主要国の約80分の1。私は感染症について素人ですが、欧米とアジアではウイルスの型が違うとか、免疫の基本条件が違うと考えるのが妥当でしょう。

髙橋 だからいま、ロックダウンして感染者をゼロにしようとは思わないね。

竹中 アジア諸国で基準をつくり、渡航制限を緩和していく動きが出てきたのはいいことです。アジア経済は世界の約四割を占めるので、世界経済の落ち込みを防ぐことにもつながります。

竹中 もう1つ、コロナショック克服のために必要なのは産業再生です。菅政権の官邸主導で経産省の官僚の力が弱くなるなか、経産省の役割が重くなるというアイロニー(皮肉)が生じる。
 小泉政権のとき、金融再生プログラムの一環として産業再生機構をつくりました。2003〜07年にかけて、ダイエーなど41件を約1兆円を投じて再生させたんです。コロナを理由に、同じようなものを時限的につくればいい。
 今年5月、ドイツ政府が同国航空大手のルフトハンザに90億ユーロ(約1兆560億円)を出資しました。もちろん、平時にこんなことをしたら、フランスのエールフランスやイギリスのブリティッシュエアウェイズが怒るにきまっている。でも新型コロナという大義名分があったからできたんです。
 世界的に、非常事態には政府の権限が強いほうがいいという流れができているなか、日本もスケールの大きい政策を行うべきではないですか。

髙橋 リーマンショックのとき欧米の銀行や保険会社が国有化されたけど、新型コロナでもそれはアリ。

竹中 現実問題として、これから日本航空(JAL)や全日空(ANA)に公的資金を注入することになるかもしれない。そのとき、ダメージを受けた部分を回復させるだけでなく、アジアのほかの航空会社を買収できるくらい積極的な支援をすべきです。
 あとは中小企業の再編ですね。とくに地方は企業再生の人材も不足しているし、地銀が大金を投入することもできない。

髙橋 ただデービッド・アトキンソン氏がいう、早急に中小企業の統廃合を進めるべきだという意見には私は慎重です。
 東京の大手と違って地方の中小企業は1度、潰してしまうと再生させるのが大変。当面の間は地銀の援助や行政からの補助金で倒産する企業を減らすしかない。

竹中 何はともあれ、コロナショックは日本が飛躍するチャンスです。日本人は大きな変化が苦手といわれますが、黒船来航後の明治維新、敗戦後の戦後民主主義など、強い外圧がある度にそれを力に変えてきた。コロナショックも力に変えなければならないし、菅総理はそんな時機にふさわしいリーダーだと思います。
竹中 平蔵(たけなか へいぞう)
1951年、和歌山県生まれ。73年、一橋大学経済学部卒業。2001年、小泉政権で経済財政政策担当大臣に就任。以後、金融担当大臣、総務大臣などを歴任する。世界経済フォーラム(ダボス会議)理事。東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授。菅義偉政権で新たに立ち上がった成長戦略会議の委員に就任。
髙橋 洋一(たかはし よういち)
1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。80年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)等を歴任。現在、株式会社政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授。2008年、『さらば財務省!』で第17回山本七平賞受賞。ほかに『「文系バカ」が、日本をダメにする』など著書多数。

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