血も涙もない極悪人

 WWUK氏の『韓国人のボクが「反日洗脳」から解放された理由(ワケ)』(ワック)が話題となっている。ネット書店アマゾンでは、発売前にもかかわらず「本」の総合ランキング4位。処女作としては、異例の事前予約を記録した。その時の1位は、日韓両国でベストセラーとなった『反日種族主義』(李栄薫編著、文藝春秋)。日韓関係への関心の高さがうかがえる。

 WWUK氏について紹介したい。
 氏が初めて「生の日本」に触れたのは、留学先のオーストラリアだった。白人が大多数を占める中学校で、少数派のアジア人同士が仲を深めるのは自然なことだ。日本人の友達ができるのに、さほど時間はかからなかった。以来、彼らを通じて知ったマンガ・アニメなどのサブカルチャーに魅了されることになる。
 類に違わず、氏は渡豪前、日本に良い印象は抱いていなかったという。無理もない。韓国では、幼少期から「日本=悪」と徹底教育されるからだ。だが、母国で教えられる〝極悪非道〟の日本像と、じかに触れる人間や文化の温かみのギャップはあまりにも大きい。どちらが本当の日本なのか──好奇心にも似た感情に駆られ、日本の高校へ進学することを決めた。

 実際に日本で生活してみて、韓国国内でいわれるような「血も涙もない極悪人」に遭遇することはなかった。むしろ、心優しい国民性に胸を打たれることが多かった。オーストラリアで体験した日本が本物で、韓国で教わった「日本」は偽物だったのだ。
 そして氏は、素顔で日本への思いを発信することにした。媒体はユーチューブ番組「WWUK TV」。流暢(りゅうちょう)な日本語で社会や文化、政治まで時事問題を語る。

 文在寅政権が反日姿勢を強めるなか、韓国人青年の主張はたちまち話題となり、チャンネル登録者数は約39万人。「徴用工」判決、旭日旗、レーダー照射……2019年で起きた事件の数々に、日本人は首を傾げるほかなかった。一般の日本人の感覚では韓国の暴挙を理解できないからこそ、韓国人の若者が何を思っているのか知りたくなるのだ。
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WWUK氏の『韓国人のボクが「反日洗脳」から解放された理由(ワケ)』(ワック)

反日を煽る道具

 WWUK氏が日本で話題になればなるほど、韓国の反日勢力によるWWUK氏への批判はエスカレートする。日本語で配信される動画には、ハングルで大量の批判コメントが寄せられた。本人への殺害予告は日常茶飯事、韓国在住の親族への危害をほのめかすコメントも珍しくない。

 韓国メディアまで氏を槍玉にあげた。
 11月30日、JTBC放送局が発売前の『韓国人のボクが「反日洗脳」から解放された理由(ワケ)』の表紙を映し、歴史を歪曲(わいきょく)する「嫌韓本」として紹介したのだ。さらに、「WWUK  TV」の映像を無断で流し、モザイク処理を施すことなくWWUK氏の素顔を視聴者に晒(さら)した。

 日本以上の学歴主義、血統主義が横行する韓国社会は、異様に自殺が多い国でもある。閉鎖的なネット空間で増長した匿名によるバッシングを受け、自ら命を絶った有名人も多い。日本でも人気を博した「KARA」元メンバーのハラさんも、その1人といわれている。日本に活躍の場を広げたことに「親日」とレッテルを貼られ心を病んでしまった、という報道も目にする。

 芸能人でもないWWUK氏の映像を公共の電波に乗せ、反日感情を煽る道具に利用した放送局の倫理観が問われる。いま韓国で行われる「親日狩り」は、中世ヨーロッパの魔女狩り、公開処刑に似ている。権力監視の役割を担うべき報道機関が反体制派を糾弾している状況では、一般人が政治を語ることさえままならない。韓国に表現の自由はないのか。

表現の自由を阻害する者たち

 2019年は、表現の自由が話題になった。あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」で、昭和天皇を侮辱する作品が展示され、批判が殺到したのは記憶に新しい。芸術祭の監督を務めた津田大介氏をはじめ、リベラルと呼ばれる人たちが都合よく使い分ける「表現の自由」の二重基準が白日の下に晒された。
『韓国人のボクが「反日洗脳」から解放された理由(ワケ)』の帯も、「日本を悪く言うのは表現の自由、韓国を悪く言うのはヘイト」とリベラルの欺瞞(ぎまん)に触れている。

 そんななか、二重基準を地で行く本が出版された。元編集者でライターの永江朗氏による、「私は本屋が好きでした──あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏」(太郎次郎社エディタス)だ。
 頁をめくると、「女性が『WiLL』を買うのを見たことがない」といった見出しで書店員の雑談が掲載されている。数字的根拠なき主観が暴走するさまに、思わず失笑を禁じ得なかった。『WiLL』編集部によると、読者の3割以上が女性だという。
 ほかにも、『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社)が50万部ベストセラーとなったケント・ギルバート氏の著作や、産経新聞『正論』、『WiLL』などを十把一絡(じっぱひとから)げに「ヘイト本」とみなしている。「右派論壇は炎上商法で数千万円稼げる」と摩訶(まか)不思議な持論を展開する古谷経衡氏などのインタビューも掲載。「舞台裏」と銘打った割には、具体的な取材や分析はほぼゼロだ。

 永江氏は、「嫌韓ヘイト」について考えるきっかけを提供するためにこの本を書いたという。だが、自らの「嫌日」イデオロギーを晒す、凡庸な「ヘイト本」批判の域を脱していない。
 自らが「表現の自由」の敵と化し、その行動がいつか自分の首を絞める。この期に及んで韓国に身を寄せる「リベラル」は、そのことに気づかないのだろうか。
真藤 弘介(まふじ こうすけ)
ブックジャーナリスト。出版社に勤務するかたわら出版業界の出来事を雑誌『WiLL』誌上に寄稿している。2014年頃から激化した書店店頭の保守系書物を排除する活動を批判。「種々雑多世に出る本はすべからく内容を評価するのは読者」が信条。

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