K防疫とは何か?

 K防疫とは、韓国の防疫システムが新型コロナウイルスに対して高い感染抑制効果を示したことで、みずからを誇って保健福祉部(日本の厚労省にあたる)が名付けたものである。

 K-POPの成功に気をよくしたのか、韓国が誇るものには何でもKを付けるのがトレンドのようだ。もちろん、K防疫は国際的にも評価されており、WikipediaにはK防疫の英語にあたるK-Quarantineの項目がある

 K防疫では、感染者の個人データからその接触者を割り出して、PCR検査を徹底化して感染の可能性がある者を洗い出す。防疫当局は、国民の行動をスマホのGPSと監視カメラで追跡して、重要な個人データであるクレジットカードの利用履歴や公共交通の利用履歴なども捕捉に利用する。

 国民のプライバシーを丸裸にして感染経路を洗い出すわけである。
白川司:ご自慢の「K防疫」が崩壊した韓国・文政権

白川司:ご自慢の「K防疫」が崩壊した韓国・文政権

どこで誤算が生じたのか―
 日本では保健所が国民をGPSで管理して、クレジットカードの使用履歴まで見られるようにすることなど考えられないだろうが、韓国は政府に対する信頼度が高いのか、大きな反発もなく導入できたようである。

 その結果、日本と韓国では検査態勢が正反対だったと言っていいだろう。

 日本はあくまで自覚症状などで感染が疑われるときのみの検査、韓国は感染者と接触する可能性があれば検査するという態勢になったのである。よく使われている和製英語で言えば、日本が「ウィズコロナ」政策、韓国が「ゼロコロナ」政策ということになる。

 日本政府の検査体勢については、リベラルメディアからの批判が多く、「韓国を見習え」という報道も相次いだ。特にテレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』のレギュラーコメンテーターである玉川徹氏など、毎日のように「検査体勢を拡大しろ」とうそぶき政権批判を繰り返していた。

 ただし、韓国ほどの徹底した検査体制を敷いても、感染経路をつかめるのは全体の6-7割だと考えられている。そして、その体制が本当に効果を発揮していたのかには疑問符をつけざるを得ない。

日本に対する対抗意識

 日韓で共通する防疫政策もあった。それがワクチン接種を拡げることであった。

 菅義偉首相は河野太郎氏をワクチン担当大臣に任命して、ワクチンの確保と接種に邁進した。ワクチン接種が始まってから摂取率の伸びは驚異的だった。

 もともと感染者が欧米に比べて少ないことが影響して、接種のスタートが遅れたにもかかわらず、数ヶ月で欧米に追いつき、各国が接種率6割あたりで伸び悩んでいるのを尻目に、主要国ではカナダに続いて2回接種率7割を達成した。菅政権の快挙と言っていい成果だ。

 それに対してワクチン接種のスタートが日本より早かった韓国は、あっという間に日本に抜かれたことで焦りを覚えたようだ。そもそも菅首相がファイザーCEOとのトップ外交で十分なワクチンを確保したのと比べると、韓国はスタートこそ早かったものの、政府によるワクチンの確保は遅れていたのである。ほとんど無策だったと言ってよい。
白川司:ご自慢の「K防疫」が崩壊した韓国・文政権

白川司:ご自慢の「K防疫」が崩壊した韓国・文政権

批判されることの多かった菅政権だが、振り返ってみれば適確なコロナ対策を取っていたことが分かる―
 韓国のワクチンが確保できたのは、政府の力というというよりサムスンなどの財閥が尽力したことのほうが大きいだろう。だが、その分、いざ政府が力を振るわなければならないという時に腰砕けになったのだと考えられる。

 結局、韓国政府は効き目が高く免疫も長く続くとされるファイザーとモデルナを確保できずに、アストラゼネカ製ワクチンを韓国国内でライセンス製造することにした。

 アストラゼネカ製ワクチンそのものであれば問題はなかっただろうが(ただし、若い人には血栓ができやすいという報告があって、日本では接種されず、他国への寄付に回された)、ライセンス製造というのはまた別の問題がある。

 ライセンス製造だと、自国の政府機関が作らせて、自国政府機関がチェックするということなので、チェックが甘くなる可能性がある。これがもし「日本に対抗するために急いだ」ということであるのなら、認可自体を焦っていた可能性も考えなければならないだろう。

 実際にライセンス製造で性能の高いワクチンが作れたかどうかはわからないが、いずれにせよ韓国は78%という驚異的なワクチン接種率をたたき出して、ついに日本を追い抜いてしまった。韓国国民の高揚感は想像に難くない。

 いずれにせよ、ワクチンの質より接種率を重んじるのもK防疫の特徴ということになる。

K防疫・成功のはずが「第4波」

 韓国政府は11月からゼロコロナからウィズコロナに政策をシフトさせることを発表した。行動制限の緩和は6週間を1つのセットとして、3段階で実行することになった。

 第1段階は飲食店などの規制を緩和するものであったが、なんとこの第1段階で、感染が広がり始めて、前回の「第3波」を上回る「第4波」を起こすことになったしまった。ワクチン接種者が感染する「ブレークスルー感染」が頻発してしまったのである。

 文政権は感染が危機的状況を見せていたにもかかわらず、ウィズコロナ政策を進めて、緩和の解除をおこなわなかった。一時的な感染爆発と見たのか、一度出した政策は引っ込めたくなかったのか、とにかく日本と違うことをやりたかったのかはわからない。

 だが、さすがに感染者が1日7千人を超えると(韓国と日本の人口比は1:2.5程度)、国民からの批判が相次ぎ、ついにウィズコロナ政策の撤回を余儀なくされてしまった。健康福祉部の下部組織である疾病管理庁の試算によれば、1月は新規感染者数が最大で1日2万人に到達する可能性もあるという。

 その一方で、韓国国内では「日本がこれほど感染を抑えられているのはおかしい」と疑問の声が上がっていると言う。「日本ではPCR検査するのに2万円を払わなければならないので、ほとんどまともに検査されていない」というデマを信じている人も少なくないという。

 安倍政権や菅政権のウイズコロナ政策を批判して「検査こそすべて」と主張していたメディアはこれをどう評価するだろうか。安倍・菅政権を批判しまくったときのようにとまでは言わないが、韓国の現状についても多少は辛口に評価してもらいたいものだ。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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